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暁の黄泉鴉  作者: マサイのゴリラ
東饗──『偽りの太陽』編
35/50

34.誕生の秘密

「この辺りなら、きっと大丈夫……。それにしても、さっきの暴風は……!?」


「……あれは謎だったが、すぐに止んだ。おそらく妖のものだろう……。警戒は続けるとしよう」


 パトカーを降りて周りを見渡す加山と覚。

 暴風の正体が瑞子が巻き起こしたものだということを彼らが知ることは不可能だが、妖怪の仕業だというのは理解していた。


 鬼童丸と鴉も含めた四人は、目指していた練魔区に到着。

 時刻は二十時を回っている。住宅街の中にひっそりと佇んでいる暗い公園にパトカーを停め、三人はまだ目を覚さない鴉を降ろしてベンチに横たわらせた。


「覚、これからどうしましょう」


「何にせよ、鴉が目覚めるのを待つしかない。俺は彼よりも弱いし、それまでの間ひとまず四大財閥から身を隠す必要がある。が、その前に……」


 そう言いながら、覚はジロリと鬼童丸を見る。

 猫背の覚は身長の高い鬼童丸を下から見上げ、睨みつけるが、鬼童丸は彼と目が合ってもどこ吹く風。

 鬼に対し憎しみを抱く彼をどうでも良さげに無視できることが、鬼童丸と覚の実力差を表している。


「覚?」


「この鬼に色々尋ねてみようじゃないか。俺の力があれば、喋らぬこの鬼の心の内も白日の下に引きずり出せる。鬼の秘密も、四大財閥の目的も」


「……!」


 覚が威圧するように妖力を放っても、鬼童丸からすればそよ風程度。

 覚の態度と言葉に、加山は思わず固唾を飲む。

 鬼の秘密を簡単にバラすわけがない。たとえ心を読む力を前にしても、鬼童丸は()()()()それを防いでくる可能性もあり得る。

 今現在、彼が何の抵抗もしようとしていないとしても。


「逃げなくていいのか? あるいは……心を読む瞬間に殺すつもりでいるのか?」


「……」


 覚の質問には当然のごとく答えない。

 鬼童丸はしばらく彼と目を合わせていると、鴉が寝かされているベンチの隣にドスンと腰掛ける。

 

 彼の答えはこうだ。

 好きなようにしろ。


「覚……大丈夫なの?」


 鬼童丸の態度は加山の予想に反していた。

 彼の逃げも隠れも抵抗もしないという様子が、むしろ罠のようにも見えていた。

 だがそれは覚の力によって筒抜けである。

 つまり、鬼童丸は本当に何でも教えてやると言っているのだ。


 加山の問いに覚は答えず、暗闇の中街灯に照らされる鬼童丸へさっそく疑問を投げかけた。


「まず最初の質問だ。なぜ鬼はこのタイミングで瑞子に攻撃を仕掛けた? 今日以外にも機会はあったはずだ。『一目連龍(はじめれんりゅう)』の本社が普通に中継されていたが、玉藻にも何かしていたのか?」


「…………」


「……なに? 玉藻が不在?」


「え、そうなの?」


 鬼童丸は心の中でその情報を打ち明けた。

 何も知らない加山は驚き、覚は自身の予想が当たっていたことを思い出す。

 マスコミの情報統制を行う玉藻の影響が及んでいないことから、覚は夕方の時点でそう考えていた。

 ただの予想に過ぎなかったが、的中していた。


「玉藻がいない理由は……それは知らないか。どうやらここ四日ほど東饗(とうきょう)から姿を消しているそうだ」


「玉藻がいないから襲撃した……って、彼がいたら横槍を入れられるからとかそういう理由なのかしら」


「……おおよそ当たりらしい」


「四日もいないとなると、動きやすくもありいつ戻ってくるやらっていう怖さもあるわね。私たちも、動き方を考えないといけないわ」


「そうだな」


 赫津鬼会(あかつきかい)の構成員は数千人にのぼる。

 その中で種族としての鬼はたった数十ほどであり、残りは全て人間であるのだ。

 茨木童子率いる鬼たちは人間の構成員に厳しい訓練を設け、東饗各地に散らばらせている。赫津鬼会の持つ情報は、彼らが集めたものである。


 公共交通機関による移動を行えば確実に赫津鬼会の耳に入るほどの情報網を作り上げており、玉藻の不在がこれによって明らかになったと同時に、何故不在なのか、どのようにして東饗から姿を消したのかは謎となっている。

 鬼は、おそらく妖怪絡みの理由だろうと推測していた。


「次の質問だ……。四大財閥の目的を答えろ。お前たちのところだけではなく、他の財閥の妖どもの目的もだ。この東饗で何を企んでいる」


「……」


 覚の質問を聞いた後、鬼童丸はチラリと加山の方へ目をやった。


「え、な、何?」


「……加山さん、携帯を出してくれないか」


「携帯?」


 覚は鬼童丸の心を読んだらしい。

 加山にスマホを出してロック画面を解除するように頼み、彼女がそれに従うと、スマホを鬼童丸に渡させる。

 すると、彼は電話を起動して番号を入力。どこかへと電話をかけ始めた。


『……もしもし?』


「……」


 電話の相手が喋ると、鬼童丸はマイクの辺りを指で三回トントンと叩く。

 

『! カシラですか!? 少々お待ちを、ただいま会長にお繋ぎします!』


「まさか、赫津鬼会に連絡を!?」


 鬼童丸がかけた番号とは、赫津鬼会に繋がるものだった。

 直接茨木童子に繋がりはしないため、まずは組織の人間に適当に電話をかけたのだ。

 若頭・鬼童丸からの電話を待っていたのか、出た人間はホッとしたような声色で急いで茨木童子へ繋ごうとする。


 そんな様子を見て身構える加山を、覚が手で制止した。

 鬼童丸が考えていることをわかっているからだ。

 しばらくして、いよいよ茨木童子が電話口に出る。


『倅殿か?』


 ──トントン。


『今の状況を教えろ。鴉は無事か? 他に生存者は?』


 ──トントン。トントントン。


『そうか。だが、鴉と倅殿がいるならばいくらでも立て直せる。()()()()()()()


 肯定の場合は二回。否定は三回。

 YESかNOで答えられる質問だけを行うことで、鬼童丸とのコミュニケーションを成り立たせている。


 茨木童子と鬼童丸のやりとりを見ている覚と加山。

 どうして今鬼童丸が電話を欲しがったのか、加山にはわからなかった。だが、その理由はこの先にある。

 鬼童丸は茨木童子への報告がひと段落つくと、再び覚へ視線を移した。


「茨木童子、今鬼童丸に電話を貸している者だ。アンタに今聞きたいことがあるんだが、構わないか?」


『……何者だ』


「以前まで世話になっていた、覚だ。鬼童丸には許可を貰っている」


『ああ、心が読めるとかいう……。そういえばいたな、そんなのが。まあいいだろう。だが、あまり時間はやれないぞ』


 茨木童子は覚のことをかろうじて覚えていた。

 組織の末端で奴隷のように働かされていた彼のことはほとんど意に介していなかったらしく、「そういえばいた」程度にしか思っていなかったようである。

 覚は同胞たちも同じくその程度に思われていないということを感じ取り、湧き上がりそうになる怒りを堪えながら茨木童子に問う。


「今、鬼童丸から四大財閥やアンタたちのことについて聞き出していてな。各財閥の妖、その目的を質問したらアンタに聞けと答えられたんだ。お前たちの目的を……この日本でしでかそうとしていることを教えろ、茨木童子」


『……目的、ね』


 電話越しとはいえ、茨木童子と覚の糸を張り詰めたような雰囲気を前に、加山はまたも息を呑む。

 自分が今追っている、この東饗に潜む闇が明らかになる。その重大な場面に立ち会おうという瞬間なのだ。

 四大財閥の目的、それが今判明しようとしている。


『お前のような木っ端程度の存在にも、何となくわかっているだろう。四大財閥の目的は、日本……いや、世界の掌握だ』


「!! 世界の……」


「それは、四つの財閥の頂点全ての目的か? お前も同じだというのか」


『……いいや。これは、あくまでも表向きの話さ。いや、正確に言えば玉藻の目的といったところかな』


「玉藻の?」


『どうして妖がわざわざ人間の社会を支配せねばならない? 力で踏み潰せるものをわざわざ……。四大財閥は確かに、四つの財閥が睨み合いを続け拮抗(きっこう)しているその状態を指しているが、実際には四つとも玉藻によって生み出されたものだ』


「「なっ、何……!?」」


 覚と加山は驚愕する。

 茨木童子から語られたことは、それまでの二人の認識を根底から覆す事柄であった。

 四体の妖の経済的な戦争ではなく、玉藻によるマッチポンプだと、茨木童子は語った。


「それなら……玉藻はどうしてそんなことを?」


『奴は享楽主義者でな。四大財閥が出来上がる前、我々、瑞子、月兎、玉藻の四勢力は日本の中で最も強力な妖として存在していた。そんな中、玉藻は俺たちにこう提案してきた』




『このまま戦えば、私の勝利は確実だ。そこで、どうだろう? 我々も人間社会に入り込み、()()()()()世界を奪い合わないか?』




『ハッキリ言って、俺と瑞子は心の中では頷いてはいなかった。だが、あのままでは玉藻の言う通り奴の一人勝ちは免れない。どんな企みがあったとしても、俺たちは呑まざるを得なかった』


「その結果が……日本以外の国々の滅亡と、四大財閥の誕生か」


『その通りだ』


 これが、現在2040年の歴史。

 玉藻が鬼、瑞子、月兎と張り合える戦いをしたいという()()()()によって、日本以外の国は滅ぼされ、日本の社会も乗っ取られた。

 他三体の妖怪が玉藻の提案を呑まざるを得ないという状況から言えるのは、やはり彼こそが現在の日本否、世界の支配者に最も近いということだ。


 夜の闇によって見づらいものの、加山は顔を青くしている。覚の頬も、冷や汗が伝って流れ落ちていた。


『四大財閥は最初から、争ってなどいない。玉藻だけが真の支配者だからだ。奴の目的はただ一つ。人間も妖も(ひざまず)かせ、世界の王になること』


「世界の……王に……」


 加山が思わず口にする。

 あまりにもスケールが大きく、自分たちの敵が強大すぎる。その絶望感から。


『瑞子と月兎は知らないが……俺は、それを許しはしない。人間社会も、玉藻の支配も終わらせて、我々鬼は真の王を(いただ)く。そして、鬼の世を開闢(かいびゃく)するのだ』

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