ヴォーパルブリス
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こんなに幸福で私は死ぬんじゃないか
払いきれないほどのそれを、利子付きで
いつか形を保てないほど取り立てられて
絶望しながら地面に叩きつけられるのではないか
恐ろしいほど欠点のない温もりだ
痛みもなければ裏もない、他意もない
無償の愛でもない、ただそうなっているだけであると
これほどまでに非の打ち所がないとなると
私はどこで穴に突き落とされるんだ
それとも、もうここは穴の中で
酩酊しすぎて落下している事に気づけていないのか
一人の世界が罅割れる、鏡の私が砕け散る
ジャバウォックは戦慄しタキサイキアに逃げ込んだ
まるで普通みたいな、物語染みた光景
そう、あまりにも出来すぎた幸福だ
とろけそうな多幸感が永遠のような安定感を孕んでいる
母体に成り果て、私を忘れて、生み堕とすとして
この致死量の幸福はどれほどの憎悪に転じるのか
夢の中、蜘蛛の巣に囲まれた唯一の私は
延長線上に発現するかもしれない可能性の芽を見つめた
いつかの私が最も恐れ最も嫌悪していた姿を見つめた
私は、母親になれない
どうして、私は母親になれない
穴の中、夢の中、夜の中、堕ちながら問いかける
飛躍した妄想を切り捨てるにも時間がなかった
砂時計は刻一刻と降り積もって貴方を窒息させる
死ぬために生きている私も同様に砂を食んでいる
時間は有限、条件を絞れば尚更時間がない
焦らずにはいられない、しかし、母親にはなれない
なれないんだ、「子ども」を殺す私では
地続きの世界には降り立てない
首が落ちても、折れた羽でも、血塗れでも
それでも羽ばたいて夢を見たい
何も叶えていないんだ、まだ何も果たせていないんだ
勝ってないんだ、あの日殺した「子ども」に
まだ何も報えていない
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