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逃避行
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鼓膜が脳にめり込んで
目の端で何か不吉な物が閃く
根拠のない煩わしさを垂れ流すように
母音長音が意識の外で響いてる
縒れたシーツを握り締めて
外側だけ誰かに明け渡してしまって
けれど縋れるほど素直じゃないから
涙の匂いも、少しの苦さも、誤魔化してしまう
鈍い痛みと快楽の狭間で
まるで何も感じていない気分で
ただ人いきれとギラつく目を観察して
内側に潜んだ私は叫び出しそうになっていた
貧血に似た倦怠感と吐き気
ウイスキーと唾液の匂いに酔って
張り付いた他人に鳥肌が立って
目の奥が点滅する
窒息しながら覆い被さる誰かに乞う
遠ざかる外側と内側の間
透明な感覚の中に救いを探している




