擬似餌の真似事
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丑三つ時に青年は自転車で山道を走った
山奥に引き篭もる偏屈爺さんの所へ
とある荷物を届けるために
ハンドルに掛けたライトが揺れて
平衡感覚が危うくなる
歪んだガードレール、剥き出しの道路
トタン壁の廃屋を通り過ぎて
溜池の方へ来た時に
黒尽くめの影が目端を過る
怪しく思いブレーキをかけて
スタンドを下ろして声をかけた
懐中電灯で照らせば、眉を顰めた黒い影
パーカーを着た少年は、池に生肉を撒いていた
獲れたて新鮮なのだけど、見た目以上に骨ばかり
これでは明日には足りなくなると
ため息混じりに呟いて、
肉を千切千切、池に投げる
指を肌色にめり込ませ、ブチブチ音が鳴り響く
少年の爪は痣色で、肉を断つ度、色を変える
居た堪れない青年は、何のためにと、ふと問うた
この溜池のピラニアは、いつも腹を空かせてる
肉を食わせてやらないと近づくもの皆食らうだろう
水面を弾く音の中、少年の声が奇妙に響く
それにしてもなんだってこんな夜更けに餌をやる
得体の知れない闇の中、獣が潜む山の奥
好奇心に身を任せ、その青年は問うていた
先無い祖父では足りないが、これで数日困らない
嘗て遺棄されたピラニアは
突き落とされたデザートを
少年の歌を聴きながら心ゆくまで味わった
水面を弾く音の中、少年の声が奇妙に響く
ピラニアが住まう池の側
少年は歌う、ボブディラン
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