卵黄
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卵の話をしよう
命は火に似ている
体は蝋燭に似ている
風に揺らめくのを見ていたら
寿命がただの時間だと分かる
燭台に垂れた過去を見ていた
火に潤んだ今を見ていた
卵の話をしよう
吸殻は小さな死体だ
踏み潰されてぼろぼろになってた
子供の頃の私から手紙が届いた
血を塗りつけた便箋に
「なぜまだ生きているのですか」と書き殴っていた
悪魔に縋ったこともあった
神や仏より健全な気がしたから
この火や蝋燭を代償に出来たら
生きた意味を得られると思ったから
卵の話をしよう
幼い頃の夢を見た
死んだ成犬を見つめてた
季節外れの紫陽花が敷き詰められた段ボールの中
こんこんと死に続ける成犬を見つめていた
六月の名前がついていた
一月の名前がついていた成犬は
同じ齢で同じ病で同じように死んでいった
卵の話をしよう
人生には生活がある
世界には昼夜がある
人生という一日に明日はない
翌る日には死んでいるから
世界という概念に習慣はない
形造るそれは無数にあるから
ありふれていて埋もれてる
石化して風化して同化する
今日は時間で出来ている
世界は死体で出来ている
君の話をしよう
繰り返す日々の外へ歩まないのは
変わってしまうのが怖いから
身の程を知っているらしい
可能性を悟っているらしい
学習性無気力に陥っている
アルブミンに微睡む方が楽だから
満足しているなら良いんだ
幸せを感じていて欲しいだけだから
卵の話をしよう
劣化コピーを繰り返す日常は
何れありもしない限界を定義する殻になる
年を重ねるにつれて夢は収束する
しかし人が測った可能性は幻だ
限界は他人が決めたレールのことだ
卵の話をしよう
「生まれようと欲するものは
一つの世界を破壊しなければならない」
ヘルマン・ヘッセはそう書いた
卵の話をしよう
産まれ落ちた身で再び生まれる義務はない
フィロソフィの廃人はつまらない
デミアンは「卵は世界だ」と言った
時間は有限だ、生き物はやがて死ぬ
やがて死に続ける明日が来る
やがて世界という概念になる
燃料か、チュンヴィロンか
いつか全ては世界になる
卵の話をしよう
今日の話をしよう
緩やかに眠りへ向かう旅路の話をしよう
君の話をしよう




