可能性を測ってもそれは幻だ
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私は恵まれてきた
才能、知識、愛情、金銭、食事、運
そういった、人が求めるものを持っていた
機能的家族、会話、自由、安息、健全性
そういった、人が要らないと言うものを欠いていた
人は持っているのに、何も持っていないと言う
足りないという事を、何も持っていないと言う
考え込むのは止そう
きっと私は敵を作らないための言葉を連ねる
考え込むのは止そう
きっと私はマイナスな方向に顔を向けて隠れる
考え込むのは止そう
考えても答えが出ない問いのベクトルを真逆にするのも
体に盾を突き刺して自分を守るみたいな
そんな馬鹿らしいことだ
「君が考え込むと碌なことにならない」
君は私が黙るとそう言った
本当にその通りだよ
人に羨まれる嫌悪感に苛まれたって
人に蔑まれる恐怖感に苛まれたって
人に妬まれる罪悪感に苛まれたって
持っているものは持っているけれど
持っていないものは持っていないという話だ
「世間とは君じゃないか」
太宰治はそう書いた
本当にその通りだ
私の脳裏で地獄を成すファントムは
確かにいつか耳にした言葉から生まれたものだけど
顔がなければ名前もない
あの時触れられた私が作った神経の束
持っているものも、持っていないものも
そうであったと記された肉を見て言っているだけで
恵まれていたのか、欠いていたのか
そんなのは本当のところ
もう何処にもない過去のこと
私が私を地獄に引き摺り込んでいるだけのこと
幸福がほしいなら、天国をつくりたいなら
また神経の束を壊して、束ねて、作り直せば良い
幸福を成す世間を、ファントムを、探せばいい
「地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに」
伊藤計劃はそう書いた
アレックスはそう言った
私もそう思った
私は、かつて目の前にあった風景を脳に刻んで
そのフィルター越しに今を見て
日常の有様を歪めている
君がいる、生活がある、会話がある、自由がある
もう好きでもない人に触れなくていいし
痛みを恐れて痛みで掻き消すなんてしなくていい
幻がなくたってこの世界は痛みに満ちている
本物を見ながら幻まで見なくてもいいんだ
一度に感じられる痛みに限界があるように
細胞にヘイフリック限界があるように
この日常なら
本物だけでバランスがとれる
ファントムや人の目に報いるために堕ちなくていい
もうとっくに落ちているのに
これ以上めり込んでどうする
可能性は幻だ、なら幸福である方が都合が良い
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