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君が好き  作者: わたあめ
9/18

高校生

刑事課に配属になってから、颯太兄ちゃんは仕事がかなり忙しいらしく、道場にはほとんど来なくなった。

颯太兄ちゃんの誕生日と、お正月と剣道の大きな大会と剣道の段級審査で段を取った時にはLINEで報告した。

そうするといつも時間のある時に電話をしてくれた。

五分程度の短い通話だったが、私はそれがとても幸せな時間だった。


高校に入っても私は剣道を続けた。女子高なので当たり前だが女子しかおらず、その環境で剣道をするのはとても新鮮だった。


相変わらず道場にはちゃんと通っている。

高校の部活も楽しいけれど、長年通っている道場はやっぱり居心地がいい。休憩時間にはみんなで雑談をする。


「春華、女子高の剣道部どう?」

警察官の林さんが聞く。

「すごく新鮮です。部室が全然臭くないんですよ。すごくないですか?」

そう言うとその場にいた全員が笑う。

「臭くない剣道部の部室とかありえないだろ。どうしてんの?」

「防具にファブリーズとか、換気するとか。あとみんな道着は毎日持ち帰って洗濯してます」

「いいなぁ、俺も女子高で稽古したい」

普段はふざけているけど仕事は真面目なことで有名な田中さんが言うと再び笑いが起きる。稽古は厳しいけれど、こういう時間は楽しくて、この道場のいいところはメリハリがあることだと思う。


部活で剣道は続けているけれど、私は大学受験のためにこの高校を選んだので中学時代ほどは力を入れてはいなかった。

行きたい大学は今の私のレベルではかなり頑張らないと入れないため、悩んだ末に高校二年生の夏ごろからは部活を辞めて、本格的に受験勉強を始めた。予備校にも通ったし、平日はもちろん土日も毎日欠かさず勉強した。


師範は息抜きに見学だけでもいいし、素振りだけでもいいからおいで、と言ってくれたので、時々行っては小さい子たちの相手をしたり、準備や掃除を手伝ったりした。

道場の顔見知りのメンバーで話すのは楽しいし、それはとてもいい気分転換になった。


道場に行く機会が私も颯太兄ちゃんも減ったために高校生の間は一度も会わなかった。


寂しい気持ちもあったけれど、勉強に集中して取り組めたことでネガティブな気持ちに飲み込まれることはなかった。

勉強に行き詰まると落ち込みもしたが、そういう時に限って颯太兄ちゃんと電話で話す機会があったりするので不思議なものだなと思った。


会えなくても、離れていても、勉強に集中していても、私の気持ちは薄まることはなく変わらない。


受験を間近に控えた十一月。

「これ、颯太が春華にって」

そう言って父が私に神社の紙袋を渡す。


中を見てみると、それは合格祈願でとても有名な神社のお守りだった。

私はすごくうれしくてLINEでお礼を伝える。

“御守り、ありがとう。受験がんばる”

次の日に既読が付いていた。仕事、忙しいんだろうな、と思う。


2日後の夜に電話がかかってくる。


携帯の画面に“結城颯太”と表示されるのがとてもうれしい。


「もしもし?」

「春華、返事遅くなってごめん。今大丈夫?」

「うん、大丈夫。御守り、ありがとう。すごくうれしい」

「それなら、良かった。合格祈願で有名な神社だって聞いたから買ってきた。受験もうすぐだな。調子はどう?」

「うん。できる限りのことはやってきたし、あとはラストスパートかけてがんばる。」

「そうか。春華はやると決めたら集中力すごいから、きっとたくさん勉強したんだな。身体に気をつけてな。全力が出せるように祈ってる」

「ありがとう。颯太兄ちゃんも身体に気を付けてね」

「うん、ありがとう。じゃあ、またな」

「うん、また」


短い時間だけれど、私は幸せな気持ちに包まれる。

いつも颯太兄ちゃんは大事な局面で私に力をくれる。


共通テストの時も、二次試験も、私は颯太兄ちゃんのお守りを身につけて行った。

お守りを見ると緊張も和らいで心穏やかに試験に臨むことができた。


そして、私は第一志望の大学に合格した。


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