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君が好き  作者: わたあめ
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春華の高校受験

夏の大会が終わり、受験モードに突入した。

道場には気分転換もかねて時々行っている。あの一件以来、私の颯太兄ちゃんに対する気持ちはより強くなったが、それゆえに会うのが少し怖いと感じるようになった。


このいま何もできない状態のうちに颯太兄ちゃんが結婚してしまったらと考えるとつらかった。

彼女と一緒にいるところを見ないで済んでいることが私の精神を安定させていた。


久しぶりに道場に来ると、颯太兄ちゃんが来ていた。

会うのはあの日以来だから三か月ぶりだった。


「受験勉強の調子どう?」

颯太兄ちゃんはいつものように気さくに声をかけてくれる。

「まぁまぁ、かな。」

「桜咲女子受けるんだっけ?」

「うん、第一志望はそこ。今からラストスパートだから、たぶんしばらく道場来ないと思う」

「そうか。じゃあ、今日会えてよかった」

こっちの気も知らないでこういうことさらっという。

「これ」

颯太兄ちゃんが神社の名前の入った紙袋を私に渡す。

「お守りだ。合格祈願って書いてある」

薄いピンク色のかわいいお守りだった。

「ありがとう」

私はすごくうれしくて颯太兄ちゃんを見上げる。

「合格しますようにって願掛けといた」

いつもの笑顔で私を見ている。


「合格したら、お祝いにケーキ食べに連れてってほしいな」

突然の私の言葉に一瞬驚いた顔をしたが、そのあとゆっくり笑って「いいよ」と言った。

「彼女に怒られない?」

聞いてから後悔する。

颯太兄ちゃんから彼女の話なんて聞きたくないし、相手にもされないような返答だったら悲しくなるのに。


「それは大丈夫。別れたから」


颯太兄ちゃんが悲しそうに笑うので、うれしいことのはずなのに私も悲しくなってくる。

「どうして別れたの?」

「んー、いろいろ理由はあるけど、仕事忙しくて寂しい思いさせたんだと思う」

申し訳なさそうに颯太兄ちゃんは言った。

「そっか。」

こういう時、颯太兄ちゃんは相手を絶対悪く言わない。


そういうところも、私は大好きだ。

だけど、それはつまり彼女が颯太兄ちゃんにとって大事な人であったということでもある。

そのことに気が付いた私は涙が出そうになる。


「もし、約束の時までに彼女できたら、断っていいよ」

私はうつむいて言う。

きっと、彼女ができたらそうすると思ったから、自分から言っておこうと思った。

そうすれば、それを理由に断られても少しは精神的に楽だからという精いっぱいの自己防衛だった。


「安心しろよ、できないから」

「そんなの分からないじゃん」

私が拗ねたように言う。

「春華の合格祝いしたいから待ってるよ」

そう言って穏やかに笑う。

知らないって残酷だ。

こうやって、無意識に、私に期待させる。


それでも今は喜んでおこう。

私が勉強をがんばる理由くらいにはなる。


お守りを通学カバンに着けて毎日持ち歩いた。

それを見るたびに幸せな気持ちになる。

勉強をがんばろうと思える。

私は颯太兄ちゃんのことになると恐ろしいほどに単純だ。


その後は道場にもいかず、時々気分転換に素振りをする程度で、とにかく勉強を頑張った。


そして、私は第一志望に合格した。


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