現場では純粋な狂気が必要になるので必ずお持ちください
「ガルド・エクスカリバー……聞かない名だ。所詮その程度の知名度だろう?」
「あぁ、今のコイツじゃ、能力半減値の委員長にも及ばねぇだろうよ」
「あれ? 俺ってば信用皆無?」
「信用なんてある訳ねぇだろ自惚れんな見習い小僧」
眼前に立ち塞がるガルドに対し、モモ・フトイデと味方の筈のギン・アロンダイトは妥当な評価を下す。
「ならば何故? まだ幾多もの能力を扱えるフェローテ・フェイルノートの方が勝機はあるかと思うが」
「経験だよ経験。テメェ等委員会には何度も追われる羽目になるからな。小僧がテメェを学習する時間だってこった」
「……つまり貴様等組織はこの状況からでも逃げ果せる、と?」
「さあな。そりゃテメェの働きと、小僧の覚醒次第だ」
「…………」
ギンの言葉には迷いも焦燥も含まれていない。
それはまるでガルドが負けるとは思ってもいないかのように。
「フェローテ、モブはテメェが全部相手しろ。それと小僧、テメェは余計なことはごちゃごちゃ考えんな。常にいいイメージだけを持って戦え」
「あん? 意味が分かるように説明してくれ」
「そのままの意味だよ。テメェは自分のテンションで身体能力が勝手にアガってくタイプだ。あれこれ考えずに自分が圧倒するイメージだけを持って負のイメージは持つな」
「自分のテンションでアガってく、ねぇ……なるほどポジティブタイムって訳だ」
「圧倒的戦力差において、プラス思考など力の足しにもならないことを教えてやろう」
開戦。
「幾千の鞭爪――『新爪』」
モモが腕を交差させると屑を結束させた触手が空中から現れガルドを狙う。
しかしそんな安直な攻撃はガルドも警戒済み、低姿勢で躱しながらモモへと肉薄する。
「どこからでも攻撃を繰り出せるってのは厄介だが、そんなつよつよ能力は操作にかまけて近距離は弱いって相場が決まってんだよッ!」
「そうか? ならば近付けさせないようにするだけだ」
「下から串刺しにしようってか!? チッ、マジでどこからでも――って多い多いッ!? 触手多いって!?」
ガルドの行く手を遮るかのように何本もの触手が地で蠢き、ガルドを串刺しにしようと照準する。
「痛っ……! だが甘ぇぜフト・モモコ。俺の同調はお前をも蝕むぜ?」
「痛……同調――? なるほど、自らの力によって自らの首を絞めると言う訳か……【円卓の悪騎士】に拾われるだけのことはある。思った以上に厄介だ」
右眼を開眼したガルドの同調によってモモの腕にも切創が走る。
動揺によって怯んだ触手の間を駆け抜けたガルドはモモの眼前に飛び出し、長い右脚を繰り出した。
「ほら近寄ったぜ――俺の勝ちだ!」
「この程度で勝利宣言とは戦闘初心者か? 『流渦』」
「んがっ、攻撃が流されて――うぐっ!?」
直撃必至だったガルドの蹴撃は繊細な屑の操作によってモモの上方へと誘導された。
盛大に空振った無防備のガルドを強引に地へと叩き付けると、モモは背後からガルドの首を自慢のふとももで締め上げる。
「貴様の同調は目に見えている者限定だろう? ならば貴様の見えない位置から意識を落とせば問題ない。接近が弱い? そう勘違いしてくれるのならば好都合だ」
『あ、あれはふ――モモ委員長伝説の首四の字固め! 人を殺せる太さのふとももで首をキメられる脱出不可の一手だ! これは決まったぁ! 羨ましい!!』
『そうだ羨ましいぞ! 代われ悪者!』
「太い言うな! 後で覚えとけよ貴様等!?」
ガルドの弱点が一発で見極められるほどの洞察眼。
羨望の声が戦場で上がり、よそ見をした者に容赦のない攻撃を与えるフェローテによって、途端に悲鳴に早変わりする混沌な場。
「う、ぐっ……!? ぐ、ぐ……!?」
「貴様を絞め落とせば後はフェローテ・フェイルノートを全員で仕留めるだけ。勝負は決した。落ちろガルド・エクスカリバー!」
「ぐぅ……すー、すー……」
「落ち――寝たぁぁぁぁ!?」
ガルドがモモのもも枕によって寝落ちた。
『膝枕……いや、モモ委員長のもも枕は一説によると、広大な宇宙に包まれているような解放感と、草原で風を浴びながら日光浴をしている気持ちよさを両立しているらしい! 子供の頃、母の腕に抱かれて安心したかのように、ちっぽけな個を抱擁する偉大なるふとももは極上ベッドをも遥かに凌駕する! あのふとももは宇宙規模で世界を救うんだ! それをふ――モモ委員長は締め技として誤認しているらしく――』
「おおい!? 誰だそんな噂を流した奴は!? というか締め技として機能してないんなら言えよぉ!?」
赤面しながら首四の字固めを解くと、ガルドの意識は一瞬にて覚醒し、その場を跳び退いた。
「あ、あっぶねぇ……体感したことのねぇ快感に包まれて危うく戦闘中に寝るところだったぜ……」
「まずそのヨダレを拭けぇ!? どいつもこいつも私のことバカにしてぇ……!」
ギリギリと歯を噛んだモモは――しかし怒りをコントロールし戦意を、ただただガルドを葬るための殺意を瞳に宿す。
「怒りは時に勝機を見逃す感情……落ち着けモモ……ふぅー、馴れ合いは終わりだ。貴様が望む肉弾戦でケリをつけてやる。身体値強化――『王兎』」
「っ!? 後――がっ!?」
瞬きにも満たない瞬間移動。ガルドは背部から蹴撃を貰い吹き飛んだ。
次々と多角的に襲い来る打撃にガルドは眼でモモを捉えられない。
(攻撃自体は半減の影響か致命的ダメージじゃないけど速過ぎるっ!? 迎撃どころか体勢を整えさせてもくれねぇし、このままじゃジリ貧だ……!)
拳を振っても脚を振り払ってもひたすらに空を切る。
遠距離どころか近距離の戦術も持ち合わせ、もし半減していなかったならば即座に敗北していたであろうと、ガルドの心は負に呑まれ始める。
「おーい小僧、俺が戦闘前に言ったこと覚えてますかー?」
「いいことだけ考えろってやつだろ!? わかってんよ! わかってんだけど――ぁがっ、ゲホッ!?」
モモは遠慮のない打撃を次々に撃ち込み、内臓にダメージを受けたガルドは遂に血を吐き出す。
「そうだ、戦闘ってのは上手くいかねぇことの連続だ。それでもテメェは自分を高め続けなくちゃいけねぇ。絶対防御を有するアーサー嬢とテメェが渡り合うためにはな」
(そうだ……俺がルトラちゃんと戦う時はいずれ来る……絶対防御に何もかもが通用しなくて、悲観的になれば上手くいくわけじゃない……全部、自分の力で何とかしないといけないんだ……)
「馬鹿でいいんだよ。テメェは」
ここはまだ通過点。
早過ぎる連撃を辛くも受け続けながら決意を燃やす。
「シルフィ・ランスロットを超えるんだろ」
(ルトラちゃんを偉大な英雄にするために。ルトラちゃんが輝けるために。俺の中の眠った狂気を――)
自分のやりたいこと。夢。勇者に憧れ、勇者のために身を捧げる誓いを、今一度。
(――――呼び覚ませ!!)
ガルドの左眼に聖剣の印が刻まれ、一瞬――その一瞬、ガルドはモモの動きを確実に捉えた。
伸びる手。掴む首。
「っっっ⁉ こいつ空気が――っ!?」
ゾクッと。
モモは自傷も厭わず、渾身の蹴り墜としでガルドを叩き潰した。
「~~~っ! 頭痛っあぁぁ~~っ……」
うつ伏せで動かないガルドを前に、頭部に強烈な衝撃を自ら浴びたモモは涙目で頭を擦る。
「ははっ! 所詮ルーキーにビビったか? ざまぁねぇなフト・モモコ!」
「チィ……だが勝負は結果が全てだ。後はフェローテ・フェイルノートを捕えるだけで貴様達は――」
「甘ぇ。だからテメェはいつも俺等に逃げられんだよ」
ギンのあくどい笑みに地獄の底のような気配が脊髄を舐め、モモは『束屑』でも回避でもなく、咄嗟に防御の構えで反転した瞬間。
「おご――――っっっ……!?」
視界が揺れるほどの衝撃を防御の上から貰い受け、モモは盛大に吹き飛んだ。
「がは……っ、何が起きた……!?」
「へへへっ、楽しもうぜ、もっとよぉ」
血を垂れ流しながら幽鬼の如く笑うガルド・エクスカリバー。
狂気が滲み出る少年の姿に、モモは更なる悪寒と途轍もない予感を強いられる。
(コイツはここで処理しておかねば後々危険な存在になる……!)
宙で集めた屑を凝固させ、モモは両手に二本の長剣を握る。
しかしガルド、フェローテ、そして収監されているギンの体がまるで映像のようにデータ化が始まった。
「小僧、時間稼ぎご苦労。時間だ」
「雪豹! 俺を残せ!」
「馬鹿言うな小僧。上出来過ぎだよ」
狂気に触れたガルドはモモとの決着をつける為に声を張るが、ギンに一蹴される。
しかしバツンッと。
「……? 転移が中断された? おいユキ、何が起こった?」
『やられたね。コロシアムで朧と遊んだ時に毒が僅かに紛れ込んでたみたい』
雪豹の声が場に響き、モモはガルドへと襲い掛かる。
モモの得物を携えた神速の攻撃を――ガルドは確実に見切り、短刀で防ぎ切った。
「言っただろう? 勝機があるって。今回ばかりは逃がさん!」
「くははは、まんまと嵌められたってことか。だがこっちには覚醒ホヤホヤの馬鹿が一人、そして雪豹はデータ処理に関しちゃ天才だぜ? ユキ、ウイルス除去に何分だ?」
『一分あれば充分』
「だ、そうだ。小僧、残り一分の延長戦を精々楽しめや」
「ごっつぁんです!!」




