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善の心は簡単でも、悪の決心は躊躇を余儀なくされるようです

「ヤバいって、ほんとに……出る、っから……!」

「うんいいよ。すっきりしちゃいな?」

「あぁぁぁっ、出るっっっ!!」



 ポワン、と。

 仰向けで横たわるガルドの下腹部から禍々しい火の玉(オーブ)のようなものが飛び出した。



「あ~~~、めっちゃすっきりした~~~! マジで視界不良治ってるし、良好過ぎて今なら透視も出来そうだぜ! サンキューな、えっと……」

「ウチはフェローテ・フェイルノート。フェロちょって呼んでね~。ほら見える? これが呪巣(じゅそう)。呪具を使った人の代償で、これが蓄積するといずれ使用者の命を蝕むヤバいやつ。摘出手術はウチも初めてだったから上手くいくかわかんなかったけど、満足してもらえたみたいで良かったよ~」



 桃色のサイドテールに精美な肢体を持つ薄着のフェローテ・フェイルノートは、ぷかぷかと宙に浮かぶ呪巣をつつく。

 完全に焦点が合っているガルド――有効視野の喪失が解消されたガルドを見ながらフェローテは微笑み、やがて手の平に乗せた呪巣をパクリと口に放り込んだ。



「お、おい!? 喰って大丈夫なのかよ!?」

「んーーー……おえーっ、マッズ……ガルりゅが出したこれ苦いし、ネバッとしてるし、なんかこう生臭い……残念だけど癖にはならないかな」

「何か語弊が生まれそうな言い方しないでくれない!? つうか俺が心配してるのはフェロちょが喰って呪われないのかってことだっつの!」

「どうだろね? ま、呪われたとしてもウチの『吸収』の能力なら何とかなるっしょ~」

「吸収? 俺の呪巣を抜いてくれたのもその吸収の能力だったのか?」

「そ。正確に言えば『吸収の能力によって奪った別の能力』なんだけど~」



 奪った。根がまだ悪人になり切れていないガルドはおおっぴろげに悪行を公言するフェローテにややの警戒心を抱く。



「奪ったって……」

「言葉通りだよ? ウチは【円卓の悪騎士】の一員だけど、全国を飛び回ることを許可された一人なの。その目的は呪具探しが名目になってるんだけど……実際ウチとしては『能力の収集』が目的の大半を占めてる。能力を集めて――ウチは今度こそ、呪巣に蝕まれて自ら断った団長代理の腕を治すんだ」

「……団長代理の腕――はああああああああああああ!?」

「ひゃあっ!? うるっさ……なにぃ~?」



 フェローテからの思わぬ情報の放出にガルドは大絶叫を迸らせる。



「団長代理!? 腕ってもしかしてギンの事言ってる!? アイツそんな偉かったの!?」

「え。ガルりゅ知らなかったの? ウケる~。まぁ団長代理地位に興味ないし、自分から言わなさそうだもんね~」

「何か上の方なんだろうなくらいには思ってたけど、実質組織のナンバーツーだったとは……いやっ、つうか治すったってギンの腕はもう無いだろ?」

「復元魔法、修復魔法、蘇生魔法。この世を探せばきっとどこかに使い手はいると思うんだよね~。だからウチはその使い手を探して、殺して能力を奪おうって訳」


「何物騒な事言ってんだ殺すつもりなの!? 連れてくりゃいいだけだろ!?」

「あっと、ごめんごめん、何か誤解させちゃってるみたいだね。勿論善良な市民なら連れて来るけど、ウチが殺して能力を奪うのは、一般人から甘い蜜をしゃぶり続ける上層部や裏のクズ人間達の能力だけだよ。そんな奴を連れて来られると思う?」

「……だとしても殺すのは違うだろ」

「うんうん、ユキたんから聞いてたように、ガルりゅはまだまだ悪の組織としての自覚が薄いみたいだね~」



 勇者のために尽くし、勇者のために身を粉にする。悪の組織としての自覚はそれなりに養ってきたつもりだった。

 しかし【円卓の悪騎士】の先輩であるフェローテは、そんなガルドの心構えを一蹴した。



「ウチ等の至上命題は何? 魔王を討つ勇者を作り出すことでしょ? この世のクズを殺して史上最悪の『悪名』を得られるなら、ウチ等の倫理観や名誉なんて不必要なものなんだよ」

「っ……」

「悪名ってのは勇者にとって熟れた果実。何十人と殺した悪人を倒した、凶悪なら凶悪なだけ勇者が得られる経験値と名誉は大きい。ウチは八十二人、団長代理は三十六人、ユキたんは七人。人数に違いはあれどガルりゅが知る皆、人を殺してる」

「マジ、かよ……」

「勿論一般人やただの戦人を手にかける事はないよ? 殺すのはあくまで一般人を苦にたらしめる極悪人だけ。それが【円卓の悪騎士】のルール」



 飄々と毎日を過ごしている仲間達が、実は屍の上に立っていたことがガルドにとって衝撃だった。

 しかしフェローテが言う事も理解は出来て、善と悪の心の葛藤にガルドは挟まれる。



(確かに人を殺している【円卓の悪騎士(おれたち)】が生きて、人々のために身体を張っている勇者が死ぬなんて間違ってる……だからギンは「勇者候補を死なせたら首を跳ばす」って言ったわけだ……てめえの身体を張ってでも勇者は生かせってことか……)


「誤解しないで欲しいのはウチ等の行為を正当化するつもりは一切無い。あくまで殺しは殺しだから、魔王を倒した暁には相応の報いを受けなくちゃいけない。地獄程度じゃ生温いよね~。そんな覚悟が君にはある? 悪名と心中して、勇者の糧になる覚悟がある?」

「踏み込んじまってる以上、後には退けねぇ……けど……」



 覚悟が足らない。

 これまで善の世界しか見てこなかったガルドには。



「うんうん、そんな簡単に踏ん切りつくものでもないし、大いに悩むと良いよ~。ユキたんなんて決断するのに半年以上かかったからね~」

「雪豹が半年……!? っていうかフェロちょ、雪豹よりも古株なの!?」

「そうそ~、ユキたんは幹部の地位貰ってから決心ついたみたいだし、何ならガルりゅも地位貰ってみる? そうだなぁ~『乳揉み執行()』とかどう?」

「あれは不可抗力だろぉありがとうございますううううううう!!」



 互いに右手をワキワキとさせ、鈍重とした場の空気が霧散した。

 その瞬間、ズズン……と、本拠が微動に晒される。



『けーほー、けーほー。どうやら【呪具安全対策委員会】の奴等にこのアジトが突き止められたようだよ。私が転移の準備をするから迎撃で時間を稼いでー』



 宙に無数のモニターが浮かび上がり、ゲーミングサングラスをかけた雪豹の顔と音声が流れた。



「チッ、委員会の奴等もしかしてフェローテのこと尾けてやがったか? 仕方ねぇ。おい小僧、目が見えるようになったんなら馬車馬のように働けや」

「うわお!? ギンてめぇいたのかよ!? つうかここフェロちょの私室だろ!? なんでいんだよ!? 変な現場見られた気分だぞクソ!」

「てめぇが勝手に喘いでただけだろうが。きっしょ。引くわー。フェローテに主導権握られてスッキリするとか引くわー」

「うがあぁぁぁああっ!? やましいことはしてない筈なのになんだこの恥辱は!?」



 頭を抱えて悶え苦しむガルドを無視し、ギンはフェローテの前へと。



「フェローテ、急に呼び出して悪かったな。だが助かった、礼を言う」

「なーに、団長代理のためならお安い御用~。デートで手を打とうじゃないか~」

「断る」

「あっは! 相変わらず淡白~」



 二人のやり取りを耳に、ガルドはどうしてこのタイミングでフェローテが本拠へと現れ、そして自身を治療し、敵勢力がアジトを突き止めたのか全てが繋がった。



「まさかギン俺の眼を治すために……?」

「ふん、こちとら戦力にもならねぇ荷物を置いとく場所もねーんでな。言っただろ、働け」

「……うす!」

「ユキ、敵勢力の現在地、総数は?」


『現在地は入口を突破されたところ。総数はおよそ二十だけど、問題はその中に委員長のモモ・フトイデがいることね』


「委員長のフト・モモコ直々にお出ましたぁ、相変わらず懲りねぇ奴だこった。アジトを嗅ぎ回られるのも面倒だ。フェローテ、【迷い子の分岐路(ロスト・ラビリンス)】で通路を操作して敵戦力をまとめて俺達の前に」

「あいあーいっ」


『十分でいい。時間稼ぎよろしく~』


「小僧、覚えとけ。今から戦う奴等が、俺達【円卓の悪騎士】の正反対に位置する正義の味方【呪具安全対策委員会】だ」

「さーあ今回も気張ってこーーーっ! 【迷い子の分岐路(ロスト・ラビリンス)】レッツ、パーティー!」



【円卓の悪騎士】と【呪具安全対策委員会】の衝突が幕を置けた。


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