第4話 ルービッカーのルール
恋歌が体育教師をロープでぐるぐるにしたあと、俺たちはオカルト部の部室に戻った。
「それじゃあ、先輩は平先生を掃除用ロッカーにしまっておいてください。誰かが来たら困るので。」
「お、おう...了解....」
まじかよ!ガチでこの人体育教師をロープで包みやがったよ!
センセー!犯人はこいつでーす!
そんな俺をよそに、恋歌はランの治療にあたっていた。
「ちょっと痛いけど我慢してね...ラン……」
まるでそこだけを切り取ると、恋歌が聖人に見える。
まぁその正体は体育教師をぐるぐるにする奴だけど....
俺は言われたとおり体育教師をロッカーに入れると、恋歌の方に向き直った。
「なあ恋歌。さっきも言ったようにいくつか質問したいことがあるんだけど、いい?」
「いいですよ。元からそのつもりでしたし。」
「じゃあひとつ目の質問だ。お前の能力って、結局何なの?」
「そこからついてきましたか……。まぁ先輩に強制認識をつけ忘れた私の責任なんですが...」
恋歌は悔しいような表情になると、話を続ける。
「本当は先輩すらも騙したかったんですけどね...」
うんやめて?さらっと騙すとかいうのやめて?
「まぁいいでしょう。私の能力を教えます。私の能力は、【嘘】です。」
「え?嘘?」
心の声が漏れた。
だってそうじゃん。
嘘とさっきの筋肉、どういう関係があるんだ?
だが、流石に恋歌はそれを予知していたようで、
「まぁ、これだけじゃわからないですよね....じゃあ、まずはルービックの基本情報を先輩に教えます。」
恋歌は、俺にルービックのことを教えてくれた。
簡潔にいうと、
・能力はある程度の応用が効く。
・能力を使いすぎたり強力な能力、またはその能力の強力な応用をした場合、体力が切れたり、気絶したり、最悪死亡したりする。
・ルービックは機密事項なので、なるべく一般の人に知られてはならない。
ということらしい。
ん?てことは俺がルービッカーだと知らないであろう体育教師は違反行為に近いことをしたんじゃ……
だからこのことを恋歌に聞いてみたのだけれど、「あくまでなるべくってだけなので、この場合はセーフらしいですよ?あと、こんなルールを言った後でこのことを言うのはなんですが、ある程度ルービックの存在を知ってる一般人はいるんですよね....」
と言ってきた。
いやこのルールの意味って一体⁉︎
そんなことを考えている間、俺が考えている間、恋歌は話を進める。
「それで、私がさっき筋力が上がっていたのは....」
「能力の応用ってわけだな。」
「はい。そうです。私の嘘の能力の基本は、相手が言った嘘が直感的にわかることと、自分が嘘をついても相手にバレにくくなることですが、応用することによって、私が解除するまでの間、私のついた嘘が本当になります。もちろん、さっき見せたように、強制認識をかけた人と自分だけにしかその本当になった具象は見えませんがね。」
「へぇ〜。だったら相手と勝負する時に【自分がこの勝負に勝った】って嘘つきゃいいじゃん。」
こわ。これ使いようによってはチート能力なんじゃ...
そんな俺の考えは一瞬で否定される。
「先輩。さっき言いましたよね?能力や能力の応用が強力すぎたり使いすぎたりしたら代償があるって。この場合、私は強制認識ととてつもない大きい嘘、それと強制認識を持続されるという三つのことに体力をもってかれるんですよ?過去に2回それは使ったことがありますが、その時は2回とも3日間ほど気絶していたらしいです。」
ま、まじかよ……能力も使いようだな....
ていうか、過去2回使ったって、どんなピンチだったんだ?
「あ、じゃあ、何でさっき筋肉増強をしたのに剣で切れなかったんだ?」
「あ〜、それはですね、実はあの筋肉強化……もとい私の能力で具現化したものは、実際には実体のある幻を出してるんです。だからそれが出てない顔は、ダメージを喰らったんです。」
何だその実体なのか幻なのかわからない矛盾は。
まぁ顔だけはダメージをくらった理由がわかったからいいけど……
「へぇ〜。それじゃ、二つめの質問。何となくわかるけどランクって何?」
「あ。それは簡単にいうと能力のレアリティのことで、最低ランクから、緑(その能力は10人に1人くらい)、黄(その能力は500人に1人くらい)、赤(その能力は1万人に1人くらい)、紫(その能力は10万人に1人くらい)です。」
うん。緑と黄色の差すごいね⁉︎
体育教師不憫すぎ‼︎
ていうか紫は10万人に1人⁉︎
他と比べてレベチ過ぎだろ‼︎
「ちなみに恋歌さんの能力のランクは何なの?」
「あー、自慢になって悪いんですが、私は紫です。ちなみにランの能力探知は黄です。」
で・す・よ・ね!
だってその能力チート級だもん!
世の中に普及させちゃダメなレベルの能力だもん!
そして俺は、ある重要なことに気づいた。
「なぁ恋歌!俺の能力のランクは何だ!」
すると恋歌は後ずさる。
「すみません……まだ査定中です……」
「く.....仕方ない……だったら、三つめの質問.....」
俺は少々脱力しながらも3つ目の質問に入る。
「体育教師が入ってるっぽい、西高校なんとか軍って何?」
「西高校学校軍ですね。先輩ってスマホゲーで軍団とかに入ったりとかしてます?」
「ん?まぁ...」
「簡単にいうとそれの現実バージョンです。西高校学校軍以外にも、隣町にある【芽晴学校軍】や、他の軍団から任務を受けて行動する【傭兵隊】、日本の軍の中では最強と呼ばれている【RPG】なんかがありますね。」
「いくつかツッコミたいところがあるけどちょっと黙っておくよ……」
具体的にいうと、日本最強の軍団名がRPGってところと、隣町の学校にも軍団があるということだ。
だがしかし、恋歌はそんな俺には構わず、話を続ける。
「あ、はい……話、戻しますね。こちらの軍団、というものががゲームのそれと違う点は、【強制統合】機能があることです。」
「強制統合機能?」
「はい。他の軍団のリーダーを倒すと、その軍団を自分の軍団に統合できるんです。」
「へぇ〜。ちなみに恋歌はどっかの軍団入ってるの?」
すると、恋歌から返ってきたのは、意外な答えだった。
「いえ。私は【無所属】ですよ?」
「え?けど軍団に入っていた方が、何かとお得なんじゃ...」
「まぁ、そうなんですけど、私は、入りたくないんです....」
恋歌が感傷に浸っていることがどうにか俺にもわかった。
この話からはそれよう。
「じゃあ、無所属ってルービッカーの何割なんだ?」
「えーとですね。1割もいかないと思います……しかも軍団に一回でも負けたらそこの軍団に入らなきゃいけない鬼畜仕様です。」
だから恋歌は狙われてたのか……
「じゃあその軍団に勝ったらどうなるんだ?」
「特に何もないです。」
うん!理不尽だね!
「しかも人員をあげれば上げるだけ援助金というものを国からもらえるので寄ってたかって軍の連中は襲ってきます。」
もう無所属の利点が見つからないんだけど⁉︎
というか国もルービックのこと知ってるの⁉︎
そんな俺に、恋歌はあることを聞いてきた。
「先輩はどうしますか?軍団に入るんですか?」
「ん〜。俺はな〜」
流石に悩むな……こういうのは入った方がいいんだけど、恋歌は入ってないし……
その時、オカルト部の入り口で、誰かが叫んだ。
「え?え?何でここのドア木っ端微塵になってんの⁉︎」
あー、この声は......
「まぁいいや!お〜い!ロウラ〜!ビックニュースだぞ〜!」
俺の同級生であり、親友のリュウビがそんなことを言いながら中に入ってきた。