第34話 逸れもの
俺はラボの一室で目を覚ました。
初めてこの部屋に入った時にほぼ何も装飾という装飾がなかったからびっくりしたんだけどね……。
しかし何もないってのも考えようによってはいいものなのかもしれない。
実際何も考えることなく寝られたんだから。
「んじゃ、裏切り者、探しに行きますか〜。」
俺は葵さんの元へ向かった。
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「成程……。つまり恋歌ちゃんから話を聞くと、特に怪しいのは小桜兄妹と逸れものってことでいいんだな?」
俺は葵さんの部屋で、葵さんに恋歌の話を教えていた。
「はい、そうっす。」
「では誰から探りましょうか?」
葵さんは首を傾げながら話す。
「俺は一旦、逸れものから話を聞いてみるつもりですよ?なんせ1番と言っていいほど怪しいですし。」
「じゃあ私も一緒に行こう。もし逸れものが本物だとしたら襲われる可能性が高い。」
「了解です。」
「それで、その逸れものの家はどこにあるんですか?」
「えーと……、あ。」
まずい。小桜兄に聞くの忘れた。
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ラボのエントランス。
「何?逸れものの家を教えて欲しい?」
「えーっと、それ、どこだったっけ……?」
俺と葵さんがそこについた時にいたのは、小桜兄妹だった。
「えーと、確かこのラボを出て南に行ったところだな。えぇと……。ここだ。」
小桜兄はマップを見ながら逸れものの家に指を刺す。
それを見た俺はほどほどに驚いた。
「いやここジャングルど真ん中じゃん。」
普通そんな利便性悪いところに住む?ねぇ?
来る人のことも考えた立地に家建てよう?
しかし葵さんには好印象だったようで、
「いいですね。早く行きましょうよここ!どんなに警戒心強い人がすんでいるのだろうか……。」
と、何か奇っ怪なことを漏らし、笑みを浮かべながら。
いや怖いよ!?
この世界には戦闘狂のやつしかいないの!?
それとも戦闘のしすぎで頭狂ってるの!?
そんなことを俺は考えながら、しかし顔には出さず、葵さんに話しかける。
「それじゃあ、行きましょうか。」
「ん……?あ、あぁそうだな。行きましょうか。」
そんな俺たちを、小桜兄が呼び止める。
「お前達、行くのはいいけど、地図も何もなくてそこまで辿り着けるのか?」
「え?……いやぁ……、確かに行けないかもな。」
戸惑う俺に、小桜兄がすぐさま話してきた。
「じゃあ、ヨシノを連れてけよ。こいつは島のことに詳しいからな。」
「え!?嘘でしょ!?ちょっとお兄ちゃん!?」
「仕事の一環だと思ったらいいだろ。それに俺よりこの島に詳しいのは事実だし。」
「う……。了解、わかったよ……。」
小桜妹―改めヨシノさんは渋々了承する。」
「じゃあ改めて、出発しましょうか。」
「あぁ。そうですね。」
「ちょっと怖いんだけど……。」
「頑張れよ〜!」
こうして俺たちは、小桜兄に応援されながら、逸れものの元へ向かったのだった。
……そういえば、せっかく会ったんだからヨシノさんは行く途中に聞くとして、小桜兄にも聞き込みをしとけばよかったぜ……。
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そして10時のこと。
俺たちはジャングルをただひたすらに、黙々と歩いていた。
実際にヨシノさんに対する聞き込みは済ませたのだけれど、それ以外に話すことが特に3人にはなかったので、こうして無言で歩いているのだ。
ちなみにヨシノさんは俺と同い年で、それでいて話し方からしてかなりツッコミ気質だということがわかった。
昨日は強い人たちに囲まれていて、いつもの調子を出せなかったようだけど。
「そういえば、楼羅君ってなんの能力なのー?私は【桜】だけど。」
唐突に口を開き、ヨシノさんが俺に聞いてくる。
というかいきなりこの人個人情報バラしてきたんですけど!?
怖い怖い!!
「いやいやそんなこと言われても、急には個人情報なんか教えられませんって。……というかよくヨシノさんは言えますね。裏切り者がいるっていうこの状況で。」
そんな俺に向かって、ヨシノさんはこう言い返した。
「あー、そっか。ごめんね。今そんな騒動だったよね。私はあなた達2人が完全に安全だから言えたけど……、そっか、私も裏切り者かもしれないって思われなきゃいけないのか……。」
うっ……。
これはかなり心にくるな……。
俺はヨシノさんの落ち込んだ表情を見て気を悪くする。
さっきまでの聞き込みの感じ、ヨシノさんが裏切り者ではないってのはほぼ確定している。
嘘である可能性はゼロではないけども。
そのため、バツの悪い顔になってしまうのだ。
しかし葵さんは違った。
「いやまぁ、そうでしょう。誰でも心の中で少しでも疑わなければいけないのがこういった役回りの人物のする仕事だ。ヨシノちゃん。別に楼羅君はあなたを疑っているのではなくて、全員に対してこうした敷居を構えているだけなんです。多めに見てくれ。」
俺の考えていることを文章化し、さらにヨシノさんの気に触らない程度に返答を話す。
「は、はい……。わかりました。」
改めてこの人物のことを羨望の眼差しで見つめる俺なのだった。
「それにしても……、こんな奥地に住んでいるなんてどれだけの強者なんでしょうか……!?」
あ、やっぱ前言撤回で。
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こうして俺たち3人はどうにか逸れものの家に辿り着くことができたのだった。
その家は、山の中にある窓がないだけの文字通りの小屋で、よくこんなところで生活できるな……、と言ったほど周りの足場が不安定だったのだ。
家の玄関の真正面の土地は気味が悪いほどに真っ平だけど。
「やっと……、ついた……。」
俺は棒になりかけている足を必死に押さえて、平地の真正面にある木の幹に腰掛ける。
ふとみると、ヨシノさんはその上のツルにぶら下がっていて、葵さんはにんまりした表情で小屋の方をじっと見ていた。
「本当にあるものだな……。けどこれって、本当に人はいるんですか?」
「うーん、どうだろう……。この前訪れた時も2〜3時間くらいは待たされたことあったし……。」
じっと中に人がいるか検討する2人。
そんな2人に対して、俺は当たり前のことをごく普通に言い放つ。
「そんなもん、ドア開いてるか閉まってるかとか、中に人いるかいないかとかでわかるでしょう?俺行ってきますよ?」
「あ、ちょっと……」
俺は葵さんの生死も聞かず、ダッシュして平地に足を踏み入れた。
その時だ。
俺の足の地面が崩壊し出し、俺は地面の中へと吸い込まれていく。
要は落とし穴にかかったのだ。
「!?」
俺は咄嗟に受け身をとってダメージを軽減する。
が、落とし穴はかなり深く、不意打ちということもあり、背中に悲鳴が走る。
「ぐ、うぅ……。」
なんだってんだいきなり……。
ここのやつはどんだけ警戒心強いんだよ……。
「!!大丈夫!?」
「大丈夫か!?」
心配してくれたのか、ヨシノさんと葵さんが、穴の上から俺を見下ろしている。
「ん、あぁ、大丈夫……です。」
俺は痛めた背中をさすりながら立ち上がり、2人にまで手を伸ばす。
大きさ的には高さが俺2.5人分、縦横が3m3mの正方形って感じか……。
正方形の落とし穴って、普通に作ろうと思ったらかなり難しくないか?
これがこの家のやつの能力なのか……?
そんな考察をしながら、俺は2人の手を掴むことに成功し、落とし穴から脱出することができたのだった。
その時だ。
「あ、人間がかかっちゃったか。すまないねぇ。」
俺たちがやってきた森の奥から、貞子のように濃い紫色の前髪を伸ばし、かといって後ろ髪はちゃんと切っている、茶色のコートを着た男性(?)が現れたのだ。




