第32話 3人の見知らぬ人物
俺はラン、葵さん、それと小桜ってやつと一緒にラボへ続く廊下を歩いていた。
ちなみに少し話しててわかったのだが、小桜は近所の兄ちゃんって感じがするタイプの冷静さ、落ち着きを持っているようだ。
「今日は関東の方からはるばるどうも。っても全然歓迎できる準備はできていないけどな。」
「あぁ、それに関しては大丈夫です。何たって、私と楼羅君は恋歌ちゃんに呼ばれてやってきたんだからな。」
「へぇ。そうかい。……それにしても意外だな。天蓋さんはともかく、あの恋歌がまた信用できる人間を作るなんて。」
小桜は俺の方を向いて口を出す。
それに対して俺は反論する。
「いや、どうってことはないでしょうよ。あんたが思ってる以上に、俺と恋歌の仲は深いです。」
「深い、ねぇ。」
小桜は少し物思いに耽ったのち、こういった。
「あいつは【嘘の王女】の二つ名を持っていたんだぞ?今はその称号を捨てているらしいが、人を騙すことならあいつは躊躇しない。……もしあいつがお前を騙していたとしても、お前は恋歌を許すのか?」
「もちろん、許しますよ。大体、恋歌が裏切るタイミングなんていくらでもあったのに、あいつはしなかった。それで証明は完了してます。」
俺がその返答を返すと、小桜は笑った。
「ハハっ。そうか。安心した。……まぁ俺もそういったことを考えたくはねぇよ。これはお前が信用できるかどうかを値踏みする、というよりかは、ある一種の心理テストだ。もちろん返答は人によって変わるけどな。」
「……なぜ心理テストを今するんです?」
「それを答える前に一旦敬語を外してもらおうか。俺はあまり……というかここにいる無所属はDr.YB以外は年齢差によって生じる敬語をあまり好まない傾向にある。もちろん、したいのならしてもらっても構わないが。」
「……了解した。俺もお前とは対等に話したい。」
「そうか。……それでさっきの話に戻るんだが、さっきの『相棒が裏切った際どうするか』、というものには、ここにくるやつ全員に答えてもらってんだ。ここは無治島、無所属の集まる医療機関、だからな。もし今回のように襲われた際、無所属同士じゃ連携の取れない場合も多いし。」
ちなみに天蓋さんは事情を聞いたのちその事情によって気絶させるかどうか決めるっていってたな。と小桜。
「まぁそうだな。残念なことに私は堪忍袋の緒が細いのでな。楼羅くんのようにはいかないんですよ。」
「まぁそれはそれでいいと思うぜ。悪しきは罰する。社会の常識だ。」
と、そんな話も終局に向かっていると、大きな扉が見えてきた。
「ついたぜ。ここがラボだ。」
――――――――――――ラボ―――――――――
ラボに入ってきた俺が真っ先に思ったことは、
ラボってもっと近未来的な感じじゃねぇの?
といったことだ。
いやだってここ雰囲気がただの病院の待機所だよ!?
何!?ルービックってこんな質素なものだったっけ!?
そしてその待機所には恋歌どころか誰もいない。
まるでもぬけの殻だ。
ちなみに小桜は準備があるといって裏へいってしまった。
「うん。全然昔と変わりませんね。埃の一つも落ちていない。とてつもない科学力だ。」
葵さんは感心している。
いやどんなところに感心してんだよ!!
「というか他の人はどこにいるんです?この奥とか?」
「まぁ、そんな感じだな。私も数回しか来たことがないですが、初見だと驚くこと間違いなしだ。」
「???」
俺が首を傾げたその時、
部屋が動き始めた。
「え!?」
部屋はどんどん下へと降りていく。
「まだ下るのかよ!!というか心なしか体浮き始めてない!?」
「そうだ。おそらく敵に潜入されにくくするためだぞ!!」
と反応したのはいつのまにか戻ってきていた小桜だった。
「さぁ、もうすぐ奴らとご対面だぜ!!」
――――――――――――――――――――――
待機所、もといエレベーターが止まった。
「よし、じゃあいきましょうか。私も久しぶりに彼らに会いたいしな。」
「あぁ。そうしよう。……ところで楼羅。お前大丈夫か?」
「あぇあ……。だいひょうふれふ……。」
俺は待機所の床に突っ伏していた。
いや流石に怖すぎるわ!!
落ちる瞬間なんか体全部浮いてたぞ!!
どうにかルービッカーの耐久力でどうにかなったからいいけども!!
「じゃあ、いくぞ。」
と言いながら小桜は俺の肩を支える。
「あぁ……すまねぇ……。」
「よくあることだし、大丈夫だ。礼には及ばねぇ。……さ、いくぞ。」
そして3人はエレベーターの入り口の扉を開けた。
すると、目の前には3人、人がいた。
1人は俺と年代の近そうな赤髪の女の子。
1人はロングな金髪を漂わせているいかにもギャルしてそうな女性。
そしてもう1人は20代後半〜30代前半くらいの、かなり強そうな黒髪の男性だ。
だがおかしなことに、この中に恋歌はいなかった。
「どうした?全員揃って。なんかあったのか?」
「あ、えっと……」
「ヨシノちゃんは黙ってて。ウチが話すから。……染。あるも何も、あの極雪喜夏が襲ってくるんだよ?しかもスマホも何も使えない。そりゃウチらここに集まるっしょ。つーか質問したいのはこっち。葵さんとランはともかく、その男誰?」
赤髪の女の子を制して話し始めたのは金髪の女性だ。
「あぁ。こいつは佐座見 楼羅。言ってただろう?恋歌の先輩が来るって。」
「ふーん。頼りなさそ。というか雑魚がこんな場所来るのやめてくれない?そんなヒョロヒョロで努力も何もしてないで恋歌ちゃんのおかげで過大評価されてるやつなんて、虫唾が走る。」
……はぁ!?!?!?
この金髪女……。こっちは全部聞こえてんだぞ!?
何思ったこと全部口に出してんだよ!!
「ふざけんなよお前!!」
つい声が漏れ出てしまった。
「はぁ?何よ。努力も何もしてない分際が、いい気になってんじゃ……」
「まぁ落ち着け柚木。」
俺と金髪女性の口論に割って入ったのは黒髪の男性だった。
「確かにあいつじゃあ恋歌を守るのには力足らずだ。そこは恋歌は損している。いや、将来投資か?どちらでもいいが。だが、あの2人にはおそらく確固たる信頼関係があるぜ。それに関しては得だろう?この昨今、信頼関係なくして無所属なんぞ務まらねぇからな。それに、あれを見ろ。」
かなりこいつも辛辣だが、しかし、この男が指さしたのは俺の足腰の筋肉だった。
「見ろ。あのふくらはぎ。かなりの筋トレをしている。どうやらこいつも恋歌が右手を失った時の戦いを経て成長しているようだ。」
「…………確かに。」
そう納得した金髪は、俺に向かってこう言った。
「悪かったわ。努力してないなんて言って。」
「あぁ。別にいいよ。」
おそらく状況から察するに、というか自分から言っていたが、金髪の女性は努力せず才能だけで生きてきたか、ただ怠けているだけの人間が嫌いなのだろう。
確かに傭兵隊襲来以前の俺は能力行使の練習こそしていたが、肉体強化はしていなかったので仕方がない。
そんな俺をよそに、金髪の女性は自己紹介をしてきた。
「私の名前は【彫岸 柚木】。さっきはあんたの前評判がウチの嫌いな努力してない人間だったからちょっと毒舌になっちゃったわ。ごめんね。あとウチは敬語なんていらないし、柚木って呼んでくれて構わないから。……瞬。自己紹介くらいはあんたもしなさいよね。」
金髪女性――もとい彫岸さんが肩を突きながら催促したので、隣の男も自己紹介を始める。
「俺は【大出 瞬】。すまんな。俺の仲間が。それと俺も敬語は使わなくてもいいぜ。よろしく。」
「了解しま……了解。」
「そうか。それはよかった。じゃあ先ほどの話題に戻ろうか……」
「え?それだけ?」
と大出の話を遮ったのは彫岸だった。
「あぁ。これ以上は自分自身の特にならねぇ。」
「そんなのいいから長めのをしたら?」
「ポリシーに反する。」
「はぁ……。あんたって毎回そうよね……。」
そんな大出に頭を抱えた彫岸は、代わりに大出のことについて説明し出した。
「こいつは損得しか重視しない頭デッカチ野郎よ。まぁそのおかげで冷静な観察力を持ってるんだけどね。」
「おい柚木。前半を改善しろ。それじゃあ俺の評価がプラマイゼロだ。」
「いーのよあんたにはそんくらいが。」
「んで……?話は終わったか?」
2人の会話にいい加減飽きてきた小桜が話し出す。
「一体全員集まって……。何があったんだよ。」
「その前にヨシノちゃんの紹介もしないとでしょ?」
と、赤髪の女の子を彫岸は指さす。
「いや、私はいいんですよ?」
「あー、そうか。……まぁ、紹介くらいはしとかないとだな。」
「お兄ちゃん!?」
へ!?
お兄ちゃん!?
この女の子と、小桜が!?
俺はたじろぐが、すぐに心の持ちようを立て直す。
そしてこの小桜妹のことについて、小桜兄が話し始めた。
「こいつは【小桜 ヨシノ】。俺の妹で、ここの事務を担当している。」
「よろしくお願いしますっ!!」
小桜兄からヨシノさんのことを紹介され、ヨシノさんは緊張しながらも返事する。
「あぁ。よろしく。……そういえば俺も自己紹介をしておかないと……」
「「「いやそれは大丈夫です。」」」
「なぜ!?」
「「「恋歌が何度もあなたのことを言ってたんで。」」」
あいつどんだけ俺の噂流してんだよ!!
と、話がひと段落したところで、
「ええと?これで一通りの自己紹介はすみましたね?では柚木ちゃん。何があったか、言ってくれ。」
「そうだった。何があったんだ。」
葵さん、小桜兄が質問する。
それに対する柚木さんの回答はかなりシンプルかつ、重大な内容だった。
「あー、それがね。このラボの中に、極雪喜夏に情報を売ってる【裏切り者】がいるらしいんだよ。」




