第31話 無治島
今回ちょっと用語が多いです....。
プライベートジェットの中。
「....!!そうだ、俺、空中で気を失って……」
俺は思い出した。
そうだ。
あの時俺は、気絶してしまったのだ。
「ええ。そうだ。だからそこのランが自力でプライベートジェットまで運んでくれたんですよ。」
「ワン!!」
ランはまるで自分の手柄かのように尻尾を振る。
「そうなのか……。ありがとな、ラン。」
「ワン!!」
そして俺はそんなランの頭を撫でながら、葵さんに質問をした。
「そういえば、ギリギリ持ったんですね。プライベートジェット。」
俺はそう言いながらプライベートジェットを見渡す。
もうボロボロになっていて、ここにあるのが奇跡なほどだ。
「ええ。そうですね。ですが、あと一回飛行できるかどうか、だろうがな。まぁ修理すれば可能性はありますが、ここにはそんな技師なんかもいないからな。」
「まぁ、そうっすね...。」
つまりはこのプライベートジェットを見ることができるのは多くとも次で最後ということだ。
「すみません。俺が不甲斐ないばかりに……」
「いやいや、そんなことはないですよ。私だってルービッカーになりたての佐座見君にはかなりの負担を負わせてしまいましたから。逆にあの【極雪喜夏】の一員に勝てただけでもえらいことだ。喜べ。」
「は、はぁ……。」
つーか極雪喜夏って一介の戦闘員であれなのかよ……
「まぁ詳細は、この無治島にある【ラボ】に入ってから話しましょう。あと、事前に言ったように、今ここでは一切の外部受信方法がないので、気をつけておけ。」
「了解です。」
ーーーーーーーーーラボ付近ーーーーーーーーーーー
俺たちが乗ってきたプライベートジェットはラボのすぐ右隣にある砂浜に不時着したらしく、思いの外早い時間で着くことができた。
そして今はラボの入り口だ。
……ラボの入り口なんだけど……
何ここ!?
完全に廃墟っぽい家しか目の前に立ってないんだけど!?
嘘でしょそんなに古い施設なの!?
「確かここ、ですよね……」
なんか葵さんも戸惑ってない!?大丈夫!?
「大丈夫ですかここで本当にあってるんですか!?」
「あぁ。おそらく心配ない。だってほら。」
葵さんはその廃墟のドアを開けながらこう言った。
「秘密のラボっていうものは、大体地下にあるものだろう?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこからはなんの不安もなかった。
廃墟に侵入するとすぐに、地下室に続いているであろう金属製のハシゴが固定されていたからだ。
ちなみにその周りだけ近未来感が漂っていた。
他はガッタガタの廃墟のくせに……。
そして俺とラン、そして葵さんは地下へと降りていく。
「そういえば葵さん。」
「ん?どうしました?」
「ここ一回来たことあるんですよね?だったらなんであんな不安そうにしてたんですか?」
「あぁ、それはですね、ここに住んでいる医者、【Dr.YB】は心配性で、たまに表向きの廃墟の外観を変えるんだ。まぁそれで軽いカモフラージュにはつながっているわけだがな。」
「へぇ……。」
そこからめちゃくちゃ長いハシゴ(30mはあったと思う)を降ったのち、俺たちはラボの入り口についたのだった。
が、何やら侵入者対策の装置らしきものがあったので、今は葵さんが対応をしてくれているのだ。
「はい。今つきました。……え?招待人を教えろ?やだなぁ、私ですよ私。【テン・ルービック】の内の1人、天蓋 葵ですよ。私なら顔パス対象だったと思いますが?」
なんか今知らない単語が出てきた気がするど……。
まぁいいや。
あとで恋歌やら葵さんやらに聞けばいいだろう。
「え?同行者はいるかって?もちろんいるに決まっているだろう?佐座見 楼羅と犬のランだ。え?知らない名前?……面倒くさいですね……あとは恋歌ちゃんに聞いてください。」
ガチャリ。
と、ここで通話が切れた。
「すまない。佐座見君。悪いが、もう少しここにいることになりそうです……。」
バツの悪い顔で葵さんがこちらを見てくる。
「いや、全然いいですよ。むしろ少し葵さんに聞きたいことがありましたし。」
すると葵さんは首を傾げる。
「……?なんだ?」
「えーと……【テン・ルービック】ってなんですか?」
「……お前、そんなことも知らないんですか?」
一瞬の沈黙の後に、葵さんがため息をつきながら呆れたような表情でこっちを見てきた。
いやいやだって知らないんだって!!
俺まともな情勢とか全然知らないし!!
ルービッカーになってまだ2ヶ月くらいだし!!
「自主的な情報収集は?」
「……してないです。」
「普段からの能力の行使は?」
「学校近くの誰も見ていないだろう山で毎日3時間の特訓くらいは……」
すると、葵さんはさらにため息をついたのだった。
そして怒った。
「佐座見君?よくそれで軍にバレなかったものですよ。いいですか?よく聞いてくださいね!?」
「は、はぁ……」
「君たちの住んでいる西町と隣町の芽晴町はですね、なぜかウヨウヨとルービックが沸くことで有名なスポットとしてルービッカー界隈では超が着くほどの有名スポットだ。だがな、それゆえに芽晴学校軍や君の知っている西高校学校軍などの大量の軍ができ、常に新人ルービッカーを狙っている状態なんですよ。そんな状態なのにあなたは……」
なるほど。
つまりかなり危ない状態だったぽいな……。
いやそれならそれで恋歌の野郎、教えといてくれよ!!
「まぁいいだろう。そんな状況で残った佐座見君の豪運を私はむしろ褒めるべきです。」
「は、はぁ……。」
俺は後退り気味になる。
だが葵さんの話は本題へと入った。
「そして、【テン・ルービック】、ですね。これは、軍に入っている、入っていないを問わず、ルービッカーたちが勝手に最強のルービッカー10人を選んだものです。まぁこの制定に関しては国は一切関わってなく、最強の軍である【RPG】が2年に1回開かれる、【ルービックサバイバル】の結果を用いて制作しているんですが。あ、そうそう、今の【テン・ルービック】には、無所属が私を含め3人はいるんですよ?」
「……………………」
俺は脳みそがパンッパンになって、思考停止にまで陥った。
いやだってしょうがないじゃん!?
ここにきて何かわからない単語がバンッバン出てくるんだよ?
確か最強の軍のことに関しては恋歌から聞いたことがあるからまだいいとして、何ルービックサバイバルって!!
怖すぎるんだけど!?
というか葵さんってそんなすごい人だったの?
それにつながってる恋歌さんって一体!?
そんな俺の様子を見たのか、葵さんが俺に聞いてきた。
「えーと?もしかして佐座見君、ルービックサバイバルも……....」
「ええもちろん知らないです!!」
すると、葵さんは再度ため息をつく。
いや、だって何も俺知らないし……。
「もうちょっと恋歌ちゃんも教えてあげといてもいいのに....。まぁいいや。じゃあ説明しますね佐座見君。【ルービックサバイバル】というものは……。」
その時だった。
今までなんの変哲もなかったラボへの扉が、開いたのだ。
そしてその扉の前には1人の青年が立っていた。
言わずもがなこいつが扉を開けたのだろう。
その青年は、俺と同い年か少し上くらいだが、髪色は暗い赤で、おしゃれなコートを羽織っており、それでいて何故かズボンはジャージ、とかなり印象的な姿をしている。
と、その青年が、
「すまない。お前たち。Drの作った通話型人工知能は頭が堅苦しくてな。」
と軽い謝罪を言ってきた。
「あ、まぁ俺は何とも……」
それに受け答えをしようとした俺だが、それは葵さんの大きな声によって潰される。
「なんだ。いつにも増して遅かったじゃないですか。」
「まぁな。今は恋歌のことを除いても珍客が来てるもんで。」
「へぇ。一体誰がいるんですか?」
「それは言ってからのお楽しみ、ってやつだよ。」
2人は顔見知りのようだ。
と、ここで思い出したかのように葵さんが俺たちのことを紹介する。
「……あぁ、そうでした。【染】。こちらは佐座見 楼羅君と、恋歌のペットのランです。」
「あ、よろしくお願いします。楼羅って言います。」
「ワン!!」
「ほう。そうか。ランはまぁともかく、楼羅っつったっけ。お前は確かに初耳だな。俺の名前は【小桜 染】っていうんだ。よろしくな?」




