第30話 空中戦
ーーーーーーーーーーー操縦席ーーーーーーーーーー
私、天蓋葵は決死のフライトをしつつ、あらかじめ設置していた監視カメラで楼羅君とおそらく極雪喜夏の一員との戦闘を見ていた。
正直なところ言って、ややこちら側が不利である。
さて、どうしたものでしょうか……
私は行きたくても今この操縦管を離した瞬間この飛行機は墜落を免れなくなり、目的の無治島までは辿り着けなくなりますし、かといってそのままフライトを続けても楼羅君が勝てなかったらすぐに敵に乗り込まれる。
というか、無茶な頼みに了承してくれたとは言え、楼羅君を見殺しにすると恋歌ちゃんに怒られる。
だったらもう……
楼羅君が負けた場合はこの飛行機を捨てて、ここから自力で無治島に向かうしかない、ですね……
この飛行機は高かったですが、まぁ、仕方ないか……
生憎、私たちが向かうのは最強の医師がいる無治島だ。
最悪楼羅君が死んでいたとしても、半日以内なのであれば蘇生してくれるだろう。
そう決意すると、私は早急に外に出る準備を始めた。
「じゃあ、発動準備だけしておくか……。【身体改造】の。」
ーーーーーーーーー空中ーーーーーーーーーー
俺はこの飛翔とかいうやつに対しての対抗策を考えていた。
「ほらほら、どうした?きてみろよ?」
「今どうやってお前を倒すか、考えてんだよ。」
こいつ、どう動くかが一切わからねぇ……。
もちろん機動性、俊敏性あたりはあちらの方が何枚も上手だろう。
だけれど、ここは何も障害物がない空中。
俺だって思い切り風の能力を使えるはずだ。
だったら、思いついたことをやってみるしか、ない!
それに、療養期間のうちに考えた技、どこまで通じるのか、お前で試させてもらうぜ‼︎
「【突風】‼︎」
「‼︎」
俺は自分後方に向かって右手から瞬発的な風を放出した。
その勢いで飛翔に突進する。
だが、
「危ねぇ……よっ‼︎」
飛翔はものの一瞬で高度を上げ、俺の攻撃をかわし、さらに追加で俺の頭を上から殴ってきたのだ。
「ガッ‼︎」
「考えた結果がそれか?しかも軽い応用のようだし。」
「うるせぇな。応用がこれで悪いかよ‼︎」
「あのなぁ……、応用ってもんは、こうやってするんだよ。【形状変化:刃】‼︎」
すると、飛翔に生えていた翼が、みるみるうちに変化していく。
そして、飛翔の翼は、あっという間に刀へと変わっていた。
右左に一本ずつである。
「…………は?」
そう、刀が翼がわりになっているのだ。
かなりシュールな光景である。
「ま、驚くのも無理ないわな。刀で空が飛べるわけねーんだし。だが、俺は翼に形状が似てるものなら、なんでも翼替わりにできちまうのよ。しかもこの刀はよ……切れ味抜群だぜ‼︎」
刀に見入っていた俺に向かって、飛翔はそういうと、突撃を仕掛けてきた。
俺の突進なんか比にならないほどの、頭のおかしいスピードで。
「まずい‼︎」
咄嗟に状況を判断した俺は、即座に左手から突風を出し、回避を試みる。
しかし、それでも飛翔の動きは早く、俺の脇腹を掠めたのだ。
「‼︎」
感覚でわかる。掠っただけとは言え、今の俺の脇腹からは、かなりの血が噴出しているだろうことが。
こんなんどうやって耐えろっていうんだよ‼︎
だが飛翔は、これでは飽き足りず、
「手応えありぃ!じゃあ、もういっちょ行っときますか‼︎」
急旋回したのち、再度俺を襲ってきた。
「うっそだろ!?」
さっきの突風でも交わしきれなかったのに、どうやってかわせっていうんだよ⁉︎
どうしようどうしようどうしよう⁉︎
そんなことを考えている間にも、飛翔の刀が俺に急接近する。
「まずは1人!」
「‼︎‼︎」
俺は死を覚悟した。
だがしかし、次に起こったことは飛翔に腹を切り裂かれることではなかったのだ。
「!?!?」
俺に起こったことは、浮遊感だった。
そう、俺の背負っているジェットパックが停止したのだ。
「は?」
そして俺は一時的に落下する。
なんだよ次は一体⁉︎
なんの冗談だっていうんだよ‼︎
だがすぐに(といってもまぁまぁ落下した。よく空気圧で気絶しなかったと思う。)ジェットパックは起動した。
まるで切り裂かれることだけを避けるかのような挙動で。
「ウッソだろ?お前、俺の攻撃から避けるため、自由落下なんて手を選んだのかよ?」
上にいる飛翔は驚いている。
「あ、そうか……‼︎」
俺は思い出した。
この背負っているジェットパックが、決して俺の判断以外でも操縦、起動、そして停止ができることを。
そう、ランだ。
こいつが俺を守ってくれたらしい。
「助かったぜ、ラン。」
「ワン‼︎」
俺はランに礼を言うと、頭を活性化させ、目の前のことに集中する。
俺はあいつに空中戦で何もかも劣っている。
しかもあいつが行った応用……。
刀を翼に見立てるなんて、イカれた想像力をしていないとそんなことは思いつかない。
普通だったら飛べるイメージが掴めなくて自分から地上へと真っ逆さまだ。
つまり、それほど能力の解釈をしないと、俺はこいつに勝つどころか、襲ってくる敵から恋歌を守ることすらもできないってことだ。
けど、俺にいきなりそんな解釈をしろって言われても、絶対に出来っこないし……!
「俺をじっくりみているようだが、俺を倒す目算でもついたか?」
俺が対抗策を考えていると、いかにも余裕そうに飛翔が近づいてくる。
「いいや?全然つかねぇ。むしろ考えるだけ俺が負ける未来しか見えないね。」
「なんだ。思ったより潔いいじゃないか。だったら、一思いにやってやろう。」
冗談抜きでこれはまずい。
俺の体術は圧倒的機動力の差で当てることすら叶わないだろうし、俺の切り札である人間隕石を使おうとしても飛翔の能力では俺を追ってくることが可能だ。
必然的に威力は落ちる……と言うより下降しようとした瞬間に切り刻まれるのが関の山だろう。
一応療養期間中に考えた技はいくつかあるのだけれど、おそらくこいつのスピードでかわされてしまう。
どうする……? どうする……?
「じゃあな。【突撃】!」
飛翔は俺に対し、翼を向けた。
まずいまずいまずい‼︎
俺は思考をフル回転させ、どうにか対抗策を見つけ出そうと奮闘する。
その時だ。
俺の頭の中に、咄嗟にあるアイデアが思いついたのだ。
そうか、風を生み出せるなら、風を消すこともできるんじゃ……‼︎
そうとなったら行動はひとつだ‼︎
「くらえ飛翔‼︎【凪】‼︎」
俺は即座にその能力を発動させ、飛翔を見た。
すると、俺に向かってきていた飛翔の動きが俺の目の前で止まったのだ。
そして、
「なん……だ……?体……いや翼が、思ったように、動かせねぇ‼︎あァァァァァァァァ!?」
と言いつつ、飛翔は落下していき、見えなくなっていった。
それを確認した俺は、凪をとく。
すると、解いた瞬間、
「………ガハッ‼︎」
俺は吐血した。
よくみると鼻血も出ている。
「……危なかった……。死ぬかと思った……。はぁ……はぁ……。」
かなり応用を使っちまったっぽいな……。
俺が放ったこの凪は、自分の視野の中での風の出る動きを俺の視界から外れるまで封じる、と言うもの……だと思う。
詳しいことは俺だってわからないけど、咄嗟に想像したのがそれだったので、それが具現化されたっぽい。
…………すごいなルービック。
まぁつまり、俺が装着しているジェットパックの風や俺の視界外だったプライベートジェットには影響がない、と言うことだ。
かなり局所的な技になっちまったけど、今回は効いたようで助かったぜ……。
まぁ、見えなくなったら発動しなくなるから、追ってくることも考え……ら…れるけ……ど……。
あれ……?なん……だ……?能力……使いすぎた……か……?
そうして俺は、意識が途絶えた。
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「……きて。楼羅君。起きて。」
「ワン!ワン‼︎」
「………………‼︎」
俺は目が覚めた。
「ここは……」
俺が寝ているのがプライベートジェットなのは分かったが、窓の外に見えるのは雄大な空ではなくなっていた。
おそらく砂地に着陸しているようだ。
目の前にはジャングルらしきものが見える。
「ってことは……」
「あぁ。つきましたよ。恋歌ちゃんもいる、無治島に。」
ーーーーーーーーーーー海上ーーーーーーーーーーー
「ったく、ブラックアウトの訓練受けてなかったら死ぬところだったってーの。」
俺、小豆口 飛翔は低空飛行を続けていた。
「まぁ、結果的に生きていたからいいものの、翼が動かせるようになったのが海まであと50mってとこだったからなぁ…。あの野郎の凪って技、おそらく咄嗟に出たものだろうが、俺にとっちゃあ相性悪すぎだっつーの。」
そんなことを言いながら、俺は飛行を続ける。
「まぁいいや。今回は俺だって途中から知能を捨てすぎてた。次からはもっと慎重に行動しねーとな。……それよりも問題はあいつらが方角からして無治島に向かっていただろうって点だ。他に誰がいたかは知んねーが、プライベートジェットって時点でまず大物だろうなぁ。……急いでボスに報告案件だぜ、こりゃあ。」