第29話 空飛ぶ敵
俺が後部座席に着くと、それはもうひどい有様だった。
まずとにかく風がやばい!
俺は一応能力使って中和ができている(一応応用の範疇に入るためちょっと疲れるけど……)ので大丈夫なんだけど、他の人が入ったらこの穴のせいでできた気流によって、この穴に吸い込まれていってしまうだろう。
なんか、風呂で栓を抜いた時の水のになった気分だ。
そんでもって敵がいない。
穴開けたのなら敵が入ってきそうなものなのだが、そこには敵という敵がいなかったのだ。
まさか、自分で開けた穴に吸い込まれて、自殺したんじゃないだろうな?
ちなみに今でもプライベートジェットはぐらついている。
まぁこの穴俺が入れるくらいには大きいし、この状況で耐えている方がおかしいのかもしれないんだけど……。
その時だ。
『楼羅君、聞こえていますか?』
アナウンスが聞こえてきた。
「あ、はい。聞こえて……」
『監視カメラから見ると、何か言っているようですが、私には何も聞こえないので返事はしなくてもいい。』
自分から聞いておいてなんだよそれ⁉︎
『あと、外につけてあった監視カメラからうっすら見えたが、敵はおそらく空を飛ぶ能力を持っています。ですので楼羅君。空を飛べ。』
「は……?」
『君だって風のルービッカーだ。気流を操作して空を飛ぶことくらいできるでしょう?』
………………
…………
……
「できるわけねぇでしょうそんなの‼︎」
なんだ一体この人は。
まだルービッカーになって2ヶ月位の俺にそんな高度なテクニックができるとでも思ってんのか⁉︎
生憎ですができません‼︎
というかそれがもし仮にできたとしても練習もしてないのにやるわけないと思わないの⁉︎
だがそんな時だ。
ボキボキボキッ。
再度この後部座席に穴が空いた。
と同時に俺はその敵と、目が合った。
合ってしまった。
「「‼︎」」
俺もその敵も急に出現した敵に対し、驚愕し、相手を観察する。
だがそれも一瞬で、敵はすぐに俺の視界から外れた。
「……びっくりした……。」
勿論、敵が壊していった後部座席の穴は、さらに深くなっていて、元々そこに大きめの窓があったと言っても多分このことを知らない相手なら騙せそうなレベルである。
こんなことできる相手と俺、戦うのかよ……。
とりあえず敵の情報を整理しよう。
さっき俺が見た感じだと敵は、白ベースの茶色混じりの髪に、いかにも特殊部隊が着てそうなサイバー色のタイツを上半身、下半身に着用していた。
さらに特筆すべきことに、その敵、
背中に翼が生えたいたのだ。
「あんなルービッカーもいるんだな……。」
さてここからは、俺がどのようにしたらあいつと互角にやり合えるか、だ。
素人の勘だけど、見た目上、あと一発後部座席に穴をあけられたら、あの葵さんの運転技術でも即座に墜落すること間違いなしだろう。
なので、次奴が来た時にしがみついて滅多打ちにする、という案はとりあえず却下。
というかこの案、敵にしがみついた時にこの機内に持ってこないと敵を倒したところで俺もお陀仏ルートだからね……。
次に自分の能力で空を飛ぶ、という葵さんの案だけど、これは俺の身の保証なんてないも同然なので即座に却下。
あと考えられるとするなら……
あの方法しかないよな。
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前の座席。
「起きろ‼︎ラン‼︎」
「クゥ……クゥ……」
俺はランを起こしていた。
そう、俺の考えた案とは、ランに何かしらの安全な飛行装置に変化してもらい、それに俺が乗るか装備するかしてあの天使野郎(翼が生えていたので適当に俺がつけたヤツのあだ名である。)と戦う、というものだ。
だからこいつに起きてもらわないと案そのものが破綻するんだけど……
よくもまぁこの非常事態に寝ていられるもんだなぁこの犬は‼︎
揺れてるよ?ゆりかごなんて洒落にならないほど揺れてるよ?
比喩するとジェットコースター並みにはね‼︎
なのにこんなに安眠って、どんだけ寝つきいいんだよこの犬‼︎
某あやとりと射撃が得意な国民的アニメキャラなの?ねぇ⁉︎
「クゥ〜ン?」
そんなことを思いつつ、一心不乱にランの体をグワングワンとゆすっていると、どうにかランは起きた。
そんなランに俺は早急に要件を伝える。
「ラン!空飛んでる敵を倒すために、なんか空飛べるものに変化してくれ‼︎」
「ワン。」
吠えられた。
そういやランって寝起きは機嫌悪かったんだったっけ……?
「お願いだから!今ピンチなんだって‼︎」
「ガルルルル……」
威嚇された。
これやらなきゃあお前も死ぬんだぞ?状況くらい把握して⁉︎
こうなったら物で釣るしかねぇ‼︎
「今度美味しいドッグフードあげるから‼︎」
「ワン。」
するとランは一瞬で変化を使用した。
どんだけ現金なヤツなんだよこの犬は‼︎
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「さて、これで勝てるのかどうかはわかんないけど、やらなきゃな。」
後部座席。
俺はランが変化したジェットパックらしきものを背中につけ、穴の前に立っていた。
ボタンが一個もないのが疑惑だが、おそらくランが自動で動かしてくれるのか俺の意識に連動して動くのだろう。
さすがはラン。あの奇想天外な恋歌と一緒に暮らしてきたことはある。
俺はランに身を任せ、大空へと身を投げた。
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大空。
俺は葵さんのプライベートジェットを横目に、
奮闘していた。
実際のところ、ランのジェットパックは俺の意思で動くタイプのものだったんだけど、
俺は一切合切そういった体験をしたことがない。
なので方向転換、速度調整さえも難しいのだ。
「うおァァァァ⁉︎」
今は速度調整をミスって加速しすぎている。
こんなんであの天使野郎に勝てるのか?
というかあの野郎、俺が空へ出てからくまなく探してるのに、全然いない。
俺に見られたから焦っている、とかなのか?
いやいやそんなはずはない。
ここはもっと慎重に……
そう思い、俺が上を見ようとした、その瞬間だった。
「油断・大敵‼︎」
あの天使野郎が俺の背中、すなわちランが変化中のジェットパックに向かって、はるか上空から一気にこちらまで近づき、拳を叩きつけたのだ。
「⁉︎」
「クゥ……」
あまりにも突然の出来事だったので、俺は反応ができず、ただただ衝撃がジェットパックを背負っている肩の骨に響き、ランにはかなりのダメージが入っている模様だ。
それに対して、天使野郎は、再び驚いていた。
「ウッソだろ……このジェットパック、こんな威力の攻撃しても壊せないのかよ...。なんだ?耐久力特化の特注品か?」
そして、その発言を聞いて、俺も遅ばせながら気づいた。
そう、あいつが狙ったのはジェットパック本体にあって、必ずしも俺は標的に入っていないことに。
だってこれを壊せば、俺はなすすべなく落ちてしまうのだから。
今の攻撃だって、これがランが変化したジェットパックでなければ、確実に破壊されていただろう。
「テメェ……」
しかもこいつ、今まで俺が戦ってきた相手と違って、かなり冷静で、かつあの上空からあのスピードでジェットパックに寸分狂わずダメージを与えるほどの正確性を持っている。
つまりは……選択を間違えれば俺はおそらく、死ぬ。
「いやはや。失礼失礼。できれば一思いで墜落させてやりたかったんだけどな。……俺は北海道唯一の軍、極雪喜夏に所属している【翼】のルービッカー、小豆口 飛翔だ。……さぁ、かかってこい。」




