第27話 修了式
さぁさぁ、第2章、スタートです!
俺は今、制服を着て体育館で校長の長い話を聞いていた。
といいつつも、周りでは他の生徒の話し声がが滞りない。
「〜であるから、皆さんの健康を第一に〜.....」
そう、今日は1学期の終了式なのだ。
あの決死の戦闘から大体3週間が経つ。
俺はあの日から、戦闘を有利に戦うため、肉体改造に励んでいるようにしている。
腹筋、腕立て伏せ、後ウォーキングや短距離走。
昔にも肉体改造をしていた時期はあったのだが、久々の肉体改造なだけあって初めのうちはとても疲れた。
だが今はスタミナは他より低いものの、筋力などは以前より比べ物にならないくらいに増している。
ちなみに恋歌からの連絡は一切来ておらず、恋歌の伝言でもあったように北海道に明後日にでも行こうと考えているのだ。
まぁ、金がないんだけどね……
「〜そのために、私はこの日に残念な思いをしないよう〜……」
まぁ金の問題に関してはこの前絵口先生と相談した結果、「じゃあ佐座見君が将来返してくれるのなら貸してあげてもいいですよ?」と言われたので、いけないことはない。
未来の自分には負担かかっちゃうけど……
「〜それにおいて私は、こう考えるわけです。未来は壮大で不確定だと‼︎それについては〜」
……さっきから校長の話長くない?
というか会話に脈絡がない気がするんだけど⁉︎
というわけで俺は、真横にいるリュウビに小声で聞いてみる。
「おい、リュウビ?」
「なんだ?」
「校長って今、なんの話してんの?」
「えーと、確か夏休みの話から始まり、校長の過去話になったのち、未来視ができると楽しいかどうか、という話になったあと、今宝くじを外した話になったとこだ。」
「……未来視から宝くじの話の落差凄くね?」
「俺にいうんじゃねえよ。文句なら今壇上に立ってる人に言うんだな。」
「無理だろそんなもん。」
というか俺の場合は物理的に消されそうで怖い。
その後、校長の話は30分にもわたって続いたのだった。
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「それでは、以上を持ちまして、ホームルームを終わります。みなさん、良い夏休みを。」
担任の声が教室中に響く。
直後、静かだった教室は、まるで猿を投入したかのような騒がしさとなった。
「うっひょー!やっと夏休みだ!」
「今から部活かよー。だる〜。」
「今からショッピング行こう!」
いかんせん、俺もリュウビと夏休みが来たことについて喜びの音をあげている。
「やっと夏休みだぜ!……と言っても俺は明日からサッカーの練習あるんだけどな……。その点お前はいいよな。夏休み中ゆっくり過ごせて。」
「いやそれがな?恋歌がまだ帰って来てないだろ?だから見舞いにでも行こうと思ってな。」
「あ、そうか。嬢ちゃんってまだ入院中か。……にしてもお前然り嬢ちゃん然り、お前らどんなドジ踏んでんだよ?」
「うるさい……」
俺と恋歌がルービッカー同士の戦闘で負傷したことは公には別の理由で通しておく、と言っていた校長だが、いざ学校へ行ってみると、俺は階段で転げ落ちて酷い捻挫、恋歌は体育倉庫の整理をしている時に器材に押しつぶされ重度の骨折で恋歌が希望した北海道の病院へ入院、ということになっており、俺は同級生から慰めの言葉と共に、盛大に話のネタにされたのだ。
その時はもうちょっとマシな建前があったんじゃないかと俺は生徒会長に校長室に連れて行かれた時よりも校長を憎んだものだ。
「まぁ、そっちいくんだとしたら嬢ちゃんにはよろしく言っておいてくれ。」
「はいはい。わかったよ。」
そうしてリュウビは荷物をまとめ、
「それじゃあ、俺は欲しいスポーツシューズがあるから急いで行くわ。じゃあな。」
と言って去っていった。
「俺も帰るか。」
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俺はそのあと、自分の家に帰り、日課のランの散歩へと出ていた。
恋歌にランを預けられて最初の方はかなり気まずい空気だったが、今ではランともまともな信頼関係になりつつある。
どのくらいかというと、俺との散歩の時は元の犬の姿に戻ってくれるほどだ。(これは最近俺が、「目立つから散歩の時だけは犬の姿でいてくれない?」と頼んだのが始まりだ。)
今日もそんな風にランと散歩を楽しんでいたのだが……
「……あ、あんた。久しぶりね。」
「雪!」
「あんたのそのお家芸にはもう反応しないわよ。」
意外なことに雹に出会ったのだ。
今日の雹は珍しく、いつもの茶髪をポニーテールに結んでいる。
ジャージ姿なのが謎だけど……
と、その時、ランが雹に向かって吠え始めた。
「ワン!ワン!」
「え?何……?」
「俺だってよくわかんねぇよ!ちょっと〜?ラン〜?落ち着こうか?」
俺は必死にランをなだめる。
するとどうにかランの咆哮はおさまった。
「ふう……びっくりした……」
「というか、あんた犬飼ってたんだ。」
唐突に雹が疑問をぶつける。
「ん?……あー、これは恋歌の犬だよ。」
「恋歌っていうと、あの厄芽山の時の子?」
「ああ。」
「ふーん。あの子、犬なんか飼ってたんだ……。」
珍しく雹が関心を寄せた。
「……散歩、続けたいし歩きながら話していいか?」
「あ、悪かったわね。どうぞどうぞ。」
そう言われたのを安心して、俺は歩みを進めた。
「なんで雹はここら辺に?」
「見ての通り、ランニングよ。スイーツばっかり食べてたら、すぐ肥えちゃうから。」
「お前にも苦労の2文字ってあるんだな……」
「そりゃああるわよ。限りない金銭で何を買うかとか、1kg増えた体重をどうやって減らすかとかね。」
前者はさておき、後者はそこまで気にしなくても良いのでは……?
俺はそう思ったが、これは禁句だと直感的に思い、口をつぐんだ。
そして思い出したことを雹に聞く。
「そういや雹。厄芽山では色々とありがとうな。」
「あぁ。その件ね。まぁあんなのどうってことないわよ。」
ここまではいいんだが、ここからが本番だ。
「ところでお前、厄芽山でどうやってあの筋肉マッチョマンに勝ったんだ?というか勝てたのか?あの巨体相手に……」
俺はルービックのことは限りなく避けながら雹に聞く。
「もちろん勝ったわよ。」
「マジで勝ったの⁉︎」
マジかよ.....あのヤクザだってルービッカーっぽかったし、なんかの軍入ってそうだったのに....
「まぁ辛勝ではあったけどね。あの時ナイフを相当持ってて正解だったわ。やっぱりいつでも護身用は持っておくべきね。」
「マジかよ……トリックとかもなしで勝ったっていうのか?」
「もちのろん。あんまり私を舐めてもらっちゃあ困るわよ。それよりも、私はあんたがあいつに負けたことの方が驚きね。昔はあんなだったのに……」
「だからその話を持ってくんなって……。」
その後も他愛無い話を雹と続け、俺の家の近くにまでやって来たのだった。
「それじゃあ、私はここで。」
「おう。今日はありがとな。」
「こちらこそよ。」
俺は雹と別れ、ランを連れ、自分の家へと戻る。
だが、俺の家の前には見知らぬ女性が立っていたのだ。
「?」
年齢はぱっと見10代後半から20代前半で、髪は水色のサイドテール。白いカーディガンにこれまた白いズボンを履いている。
それでいて恋歌レベルでかなり顔が整っているのだ。
なんだ?こんな人が俺の家の前で……
その時、俺とその人の目が合った。
そしてその人は、俺の方向に向かって歩いてくる。
え⁉︎俺なんかした?新手の詐欺師か何か⁉︎
そして彼女は、俺の目の前で止まると、物理的な意味で少し見下ろしながら俺にこう尋ねて来た。
「貴方、佐座見 楼羅君ですか?」
「……は?」
なんで俺の名前知ってるんこの人……
というか本当に俺なんかやったんですか!?




