本物の悪役令嬢はその時に微笑むーー
「ワルキューレ・トリスは800年の時を経て文明を持つにあたった。その時の話になる。マリアちゃん、ラベルスって名を聞いたことはあるかい?」
「うん! 悪い人だって聞いた! 神の天敵だって!」
「そうだね。でも全てのラベルスがそうだって訳じゃないの。昔々メシアという令嬢がいた。彼女は一人の青年に誘拐されて射殺された」
「えぇ~かわいそう~」
「でもその青年と彼女は恋に堕ちていたのさ」
「えっ?」
「これはそういうおはなしだよ」
世に伝えられ続ける『本物の悪役令嬢はその時に微笑む』とはこんな話だ。
西域領国王バートン・ラベルスの長女、メシア・ラベルスはデュオン家アルマ王子との婚約を申し渡されていた。
「来月にはお別れですね。メシア様」
「ジャッカル、心配をしているの?」
メシアは城下町をたびたび訪ねては下々の民へ支援活動をしていた。ある日、飢餓で苦しんでいた少年をみかけて救った。
彼はジャッカルと言った。名字はない。それでは可哀想だと言う事で使用人のビダンの名を頂く事となった。彼はその大いなる恩に応えるべくメシアの執事として日々精進をしていた。
その執務も彼女がデュオン公国に嫁ぐ事となればどうなるものか分からない。
「大丈夫よ。私が国を出てもこの城に残れるよう父には話すわ」
「お世話になります。でも、私への心配は御無用でございます」
「ねぇ」
「はい」
「寂しい?」
「寂しくないと言ったら嘘になりますかね? ははは」
幼少時代からジャッカルはラベルス家に仕える事で生き甲斐を見いだしてきた。
メシアとどれだけの時間を共に過ごしただろうか。思いだせば思いだすほど、感情的になる自分がいる。それでも彼はそれを顔にだす事は控えた。
だが現実は甘くない。それはジャッカルを崖へ突き落とすように通告された。
「――そういうワケだ。メシアがなき今、私たちにお前は必要ない。来月までに身支度を整えろ。忘れている訳でないと思うがお前は下々の民だ。軍隊に入るも寺院に入って出家するもお前の判断。だが忘れるな。今までが運の良かった事を」
メシアがいなければお役御免。そういうことだろう。
使用人で仲の良かったビル・ビダンもそれを告げられた。彼はそれを不服とし、城内常務に訴えた。しかしそれが仇となって消されてしまった。元々慈善事業に精をだすメシアのことをバートンたちは快く思っていなかったのだ。
さらには現世界の覇権国であるデュオンに対し反乱の意思を大体的に持つバラグーンと内々で繋がっているという噂もジャッカルは耳にした。メシアを公国へ差しだすのはまさに膿をだす目的であったということか。
いずれ公国と戦争をする事になるだろう。
人知れず城を離れるのも悪くないだろう。
彼はそう思っていた。それでいいとすら思っていた。
しかしその日、全てがひっくり返ったのだ。
ジャッカルが身支度を進めていた時にメシアとでくわした。
「メシアさま!? どうしてここに!?」
「あなたこそどうして!? お父様には執事として残すよう話したのに!?」
「私は……メシア様にいらぬ心配をかけまいと何も話してない筈なのですが」
「そんなことはどうでもいい! あなたを不憫に扱う父が私は許せないわ!」
「メシア様、どうかお鎮まりください。私一人の問題ですから」
ジャッカルとメシアが口論をするなかでバートンがやってきた。
「何を騒いでいる? どうした?」
「どうしたじゃありません! ジャッカルは城に残すように話した筈!」
「部屋の片づけをしているだけだぞ? 誰が城をでていかすと言った?」
「そうです……メシア様……私は……部屋の移動をしているだけですよ」
メシアは鼻息を荒く立てて立ち去った。
「国王様、どうしてメシア様がここに?」
「どうもアルマ様のお気に召されない事をお見合いの場でしたみたいでな。婚約破棄を申し渡されて帰ってきたらしい」
「ええっ!?」
しかしジャッカルはさらに息を呑むことになる。
目の前に猟銃を持ったメシアが立っているのだ。
「何の真似だ? メシア?」
それがバートン・ラベルスの最後の言葉となった。
彼は娘の手によって射殺された。
メシアはジャッカルの手をひいて、すぐさまにバートン城をでた。バートンの訃報は間もなく城内ひいては国内へと広がった。
何の偶然か。デュオン公国から軍事参謀も担う国家参謀イザベル・ラベルスが国内に入っていた。彼女と面していたのは国防騎士団団長アイザック・レスリーだった。
「国王が殺害されまして!? 何を貴方たちはしていらっしゃるの!?」
「それが私どもも訳が分からなく。メシア様は執事のジャッカルという男と城を離れたようです」
「すぐさま国内の総部隊にお伝えなさい! 至急で2人の捜索と保護を! その執事の男は最悪殺してもいいですわ! 王女様の救出に急ぎまし!」
「は……は! ただちに!」
まさの事態がまさかの事態を招いた。
国はジャッカルが国王を殺害し、メシアを誘拐したとみた。
メシアは馬車のなかで無線を盗聴した。そしてその事実を知る。
馬車を操縦するのはジャッカルだ。彼はもう頭が真っ白になっていた。
「大事になったわね。ごめんなさい。あなたを犯罪者にして」
「引き返して私が投降をしましょう。私が国王を殺害したという事でこの事態は収まります。私がそもそもの悪因ですから」
「馬鹿を言わないでよ! 悪いのは父よ!」
「どれだけ悪くても国王だったのですよ!」
「だから何!? 私はそれでも!!」
メシアはジャッカルと唇を合わせた。
そうだったのだ。
ずっとお互いに踏み越えてはいけない一線だと思っていた。
メシアもジャッカルも涙を零していた。
愛し合わない訳がない2人だったのだ。
だが現実は甘くない。2人は国防騎士団に包囲された。
『ジャッカル・ビダン! お前は包囲されている! ただちに投降しろ! 場合により命は保障する! メシア王女を解放するのだ! さもなければ、命はその場で無くなるものだと思え!!!』
アイザックの大声があがる。騎士団の団長で大きな図体をした彼だが、普段は穏やかで優しい性格をしている。メシアやジャッカルの慈善事業への協力もその身を惜しまず尽くしてくれた。しかし今、目のまえにいるのは鬼の顏をした彼だ。
アイザックの警告に応じゆっくりとメシアとジャッカルが馬車から降りる。
メシアのこめかみには銃口が突きつけられている。
「撃って」
彼女が小さな声でそう囁いた時に彼はその引き金を引いた。
アイザックは顔を歪めて首を横に振る。
「撃てえええええええええ!!!」
何百もの銃弾を浴びて間もなくジャッカルもメシアの後を追った――
「彼女はその死の間際に微笑んでいたっていうおはなしさ」
「哀しいおはなしだね」
「マリアちゃんはそう思うかもしれないね?」
「うん。だって2人は愛し合っていたのでしょ?」
「そうだけど、真実はいつの時代でも隠されてしまうものさ。アタシが今話した全てが全て本当だとは限らない。イザベル・ラベルスが女神様のまえで微笑んで自害したっていう話もね。昔話は時を経て伝わり続ける。それが嘘か真かマリアちゃんもその眼と耳を研ぎ澄ませて歴史を学ぶのだよ? さぁ魔法の特訓再開といこうか」
「は~い」
幼子と老婆の魔女は森の奥深くで魔法の特訓をはじめる。
彼女達の生きる世界もまた理不尽に包まれている。
彼女達の生きる世界でメシアとは救世主の意味を持てば堕天使の意味も持つ。
メシア・ラベルスが本当に笑って最後を迎えたのであれば、それは彼女の本望なのかもしれない。しかしこの伝記は『本物の悪役令嬢はその時に微笑む――』と謳われるだけあり、その本意がどこを向いているのか。誰も知る由はない。彼女たちが散った、その砂漠地帯は「悲恋の逃避行」と今尚も人々に呼ばれ続けている――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪じつは柴野いずみ様の企画に応募しようと思ってカキカキしていたおはなしでした(笑)間に合わなかったのと「ざまぁ」っていうのとちょっと逸れているのとがあったので、企画応募は避ける形にしました。でもずっと残すのもどうかなぁ~と思ってパッと投稿(笑)
∀・)自分なりに「悪役令嬢」というのを吟味し消化して書いた作品にもなります。多分みんなの想像するそれと全然違うと思うんですけど、僕はこういうふうに考えてます。「悪も主人公になりえる」「誰だって悪になりえる」とね。
∀・)本作に登場したイザベル・ラベルスですが拙作『嗚呼!なんて素敵な女神様!』に登場します。もしご興味があれば是非とも読んでみてください↓↓
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