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魔王のすゝめ!  作者: 糸緒菓子
3/10

森の守護者(笑)

 庭に寝転がりながら、空を見上げる。辺りの芝生は荒らされていて、激しい戦闘の後が見てとれた。


 ......くそぉ。あの暴君め。訓練ったってあんなにボコボコに殴る必要ある!?こっちは非力な凡人を演じてるから殴られなきゃいけないんだよ!


 許せないよ、姉さんのこと。てか父さんも止めろよ。息子がボッコボコにされてるんだぞ。マジで許せん。全然痛くないけど許せん。


 魔法では少し出来る子。運動面では普通の子として生活しているので、ここでムキになっても仕方がない。もし姉さんと渡り合おうものなら、面倒なことになるのは目に見えている。


 我慢だ。我慢。まあ、僕は大人だしこれくらい耐えられる。


「おいおい、何やってんだアレス。お姉ちゃんに負けるなんてそれでも男の子かー?」


 寝っ転がる僕を見下ろすようにしてケラケラと笑う父さん。前言撤回、僕はまだ子供だ。身体も子供だし。


「ふん!」

「ぐはぁ!」


 憎たらしい笑みを浮かべている父さんの股間に魔力弾を飛ばし、僕は走り出す。へっざまあみろ!なーにが「男の子か?」だ!こっちは手加減してやってんだよ!


 後ろを振り返れば、アソコを抑えて父さんは蹲っている。......よし、僕も鍛錬しようっと。


 あんな物は見なかったことにして、僕は夕暮れの山へと入っていった。







 

 僕はこの世界にきて、自分を強くするために鍛錬した。それも生半可なものではなく、大人すらも片手で捻り潰せるような訓練をだ。


 それは(ひとえ)に僕の夢を叶えるため。幼い頃に憧れた、「魔王」という存在に至るためである。


 僕の望む魔王像は、強く、強く、強く、自らの信念を貫く者——それが魔王だ。少なくとも、僕の憧れた魔王はそうだった。傲岸不遜にして傍若無人。圧倒的な力を持ち、智略と謀略を持ってして世界を支配する。


 それが、それこそが魔王なのだ!


 というわけで、やってきたのは村の北側にある裏山だ。ちゃんとした山なので、子供が1人で入るのは禁止されている。獣の類が多いので、大人同伴でなければ入っちゃいけないよ、と村長が言っていた。


 そんなことは我関せず。見張りがいるわけでもないので、すたこらさっさと山の奥に入っていく。というか、獣程度なら目を閉じていても倒せるので問題はない。


 こんな山の中に入ってまで、何をするのか。言わずもがな、魔力の特訓だ。

 村の人からも魔力量が多い子として認識されているが、それでも抑えている方である。他の人に僕の実力を悟られないためにも、人目につかない場所での訓練を余儀なくされているというわけ。


 抑え込んでいた魔力を解放し、魔力操作のトレーニングを開始した。身体の中心から指の先まで魔力を行き渡らせ、続いてそれを体外に放出させる。


 魔力が存在する以上、この世界には魔法が存在するのは自明の理。炎を出したり水を飛ばしたり雷を落としたりと、超常的なことができるに違いない!


 そう、思っていた時期が僕にもありました。

 確かに魔法は存在する。そうでなければ魔力の存在理由が分からなくなってしまう。


 しかし、しかしだ。それは誰にでも使えるような普遍的なものではなかった。魔法を使うには、完全に先天性の才能が必要になるのだ。努力で何とかなるなら僕だってここまで嘆いていない。


 どれだけやっても、僕に魔法は発動できなった。母さんの才能を僕は受け継いでいなかったらしい。代わりに、妹のエレナは魔法が使える。僕よりも年下だが、すでにその片鱗を見せていた。


 そう考えると、姉や妹と比べて僕には才能が無いな。剣術も、魔法も、何一つ秀でたものはない。だが、強さと才能には一ミリの関係性もないと言い切れる。現に僕がそうだから。


 例えこれから妹や姉が成長し、世界を代表するような強さを持つようになったとして。それでも、僕が負けることはないと断言できる。


 そう言えるだけのことをやってきた。


 っと、危ない危ない。少しテンションが上がりすぎて魔力の制御が乱れてしまった。もし暴発させればここ一帯が吹き飛んでしまう。


 今は魔力の訓練ばかりしているが、体術や剣術の訓練も欠かしたことはない。最初は我流で修めようとしていた僕だけれど、途中で良い見本を見つけた。


 剣術なら父さんや姉さんのを見て改良すれば良かったが、僕は体術もできるようになりたかった。そこで目をつけたのが村の外れに住んでいるジジイだ。本当に住めるのかというボロ小屋に居た、ヨボヨボの爺さん。


 村を走り回っていた頃、好奇心で見に行き僕は戦慄した。なんせ、立ち振る舞いに隙がない。他の村人は気がついていないようだったが、ジジイはジジイと思えないほどに強かった。


 酒を持っていくことで稽古をつけて貰うようになり、そこでも僕はボコボコにされるという不遇。寸止めなどという概念はなく、前世の武道に関する知識もあり僕はぐんぐんと実力をつけていった。


 今ではジジイを片手であしらえるほどだ。魔力も使えば触れる必要すらない。稽古と称して家の掃除をさせられた恨みは晴らした。


 子供には余るほど時間がある。そしてあり得ないくらいに伸び代も存在する。僕がここまで強くなれたのはその二つの影響がほとんどだと言っていいだろう。


 もちろん、ここまで育ててくれた両親のお陰でもある。だからよく山で動物を狩っていくのだが......おかしいな。全然気配がない。そろそろ狩りすぎたかな?僕にビビって出てこなくなったのかも。うんうん、こういう小さな一歩から魔王へと——そういうわけでもないか。


「こんなさびれた村に何の用やら」


 魔力を円状に放出し、周囲を探る。気配を隠蔽しているようだが、僕の感知網を掻い潜ることなどできはしない。









 大陸、魔人族の領地の端。もはや人族の領域と言ってもいい場所の山の中に、馬車の一団がいた。


 馬車を取り囲むようにして黒ずくめの男達が周囲を警戒して歩いている。馬車にはこれまた黒い布が被されており、中身を見ることはできない。この山に魔獣はいないとされているが、それが確実であるという保証はないがゆえの警戒体制だ。


 比較的開けた場所に到着し、馬車が止まろうとした時。

 がさり、と近くの茂みから音が鳴った。一団を率いているらしき人物が、部下にハンドジェスチャーを送る。


 それを従い、部下は剣を抜き茂みの中を確認し——そこにいた兎を切り捨てた。死体となった兎を引っ掴み、ボスに見せる。


「ぐあぁぁぁっ!!」


 敵ではないことを確認したことで空気が弛緩した瞬間、馬車の後方から叫び声が上がった。全員が剣を抜き、暗がりから歩いてくる襲撃者を警戒する——。


 その場に張り詰めた緊張感に反し、ゆっくりと歩いて現れたのは小さな子供だった。その身体には不釣り合いな剣を持ち、頬に付着した血を拭っている。


「ここは一応不可侵領域なわけだし.....殺されても文句は言えないよね?」


 魔人族の特徴である尖った耳を見て、一番近くにいた男が容赦なく剣を振るう。が、撥ねられたのは男の首だった。小さな子供に、大の大人が瞬殺される。あり得ない事態に、全員の動きが一瞬停止した。


「不味い、お前ら.....!」

「遅すぎ」


 その明らかな隙を見逃すほど、アレスは甘くない。正面にいた者は魔力弾によって頭を吹き飛ばされ、左右にいた者は瞬時に首を斬られて絶命する。数名の男が遅れて動き出すも、まるで無意味と言わんばかりに斬り殺された。


 充分な訓練を施された戦士でも、これまで異常な鍛え方をしてきたアレスに取っては赤子に等しい。魔力の使い方。剣の技術。その全てが拙いと言っていい、とアレスは考える。


 そうして残ったのは集団のリーダーと見られる男のみ。剣を振り上げ、殺そうとしたところで手を止める。


「ま、待て!なぜお前は我々を攻撃する!?」

「なんで...って、ここ魔人族の領地だよ?侵入者なわけだし、攻撃されても仕方なくない?」


 人族の領地と、魔人族の領地には明確な線引きがなされている。それを無許可で超えた以上、どんな扱いを受けようが文句を言うことはできない。それが常識といってもいいルールであり、この男達は明らかに人間族だ。


「あ、それと....強〜い死臭」


 そう言った瞬間、男はアレスに斬りかかった。剣速は先程の部下達とは比べものにならないほど速い。仮にもリーダーということか、会話の最中にも密かに自分の唯一使える風魔法を行使していた。


 剣を振る中で、男は奇妙な感覚に襲われる。自分の剣筋が、全て眼で追われているような、そんな感覚。刹那、悪寒を感じ—— 天と地がひっくり返る。


「馬...鹿な....」


 男が最後に目にしたのは、両断された自分の身体と。その奥で背中を向ける、小さな子供の姿だった。

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