魔法が使えずに家族からも虐げられていた伯爵令嬢は光の精霊に祝福され、真の力に目覚めました〜嫁ぎ先の不幸を呼ぶ次期公爵様に溺愛されています〜
連載候補の短編です!
レティシア・エグザードは伯爵家の長女として生まれる。
しかし、レティシアは魔法が使えなかった。
この世界は魔法が全ての世界である。
貴族の家に生まれる者は皆、魔法が使える。
伯爵家の長女でありながら、魔法が使えないレティシアは異端者として扱われ、家族からも虐げられていた。
「そんな所に突っ立てたら邪魔ですわ」
「ごめんなさい……」
妹からももはや家族としては扱われて居なかった。
妹は侯爵家の令息と婚約が決まったらしい。
無論、レティシアに婚約者などは居ないし、申し出もない。
これも、レティシアが魔法を使えないということが原因である。
置き物のような存在。
それが伯爵家でのレティシアの立ち位置である。
「掃除は終わったのかしら?」
母がレティシアの元へやって来て見下すような視線を浮かべている。
「もう少しで、終わりますから」
「まあ、呆れた。魔法も使えなければ掃除もロクにできないのね」
「すみません……」
レティシアはひたすらに謝ることしかできなかった。
一つでも反抗したら、もっとひどい仕打ちが待っているに違いない。
今はただ耐えるしか出来ないのである。
「ちゃんと綺麗に掃除するのね。埃が一つでも落ちていたらやり直しさせますからね」
そう言って母は去って行く。
この国では16歳で成人とされる。
成人までに魔法が使えなければそれは落第者である。
大抵の者は10歳で女神の祝福を受け、魔法を使えるようになるのだ。
しかし、レティシアは女神に祝福され無かった。
「レティシア、お前はこのジェラルド様と婚約しなさい」
16歳の誕生日、父から告げられた。
ジェラルド・アメラルド。
アメラルド公爵家の長男だ。
それだけ見たらいい婚約に聞こえるかもしれない。
しかし、この婚約には裏がある。
ジェラルド様は“不幸を呼ぶ次期公爵“と呼ばれていた。
この世界で紫色は不吉な色とされている。
よって、紫色の目をしたジェラルドは不幸を呼ぶと言われていた。
これは、貴族の間では有名な話である。
「お前はもう成人だ。それなのに魔法の一つも使えないなんて、伯爵家の恥だ。ジェラルド様の元に行って一緒に暮らせ。もう、戻ってこなくて構わんからな」
これが父の本心なのだろう。
レティシアを伯爵家から追い出す為の口実を作ったに過ぎないのだ。
「わかりました」
当然、レティシアに断ることなどは許されない。
レティシアはそれを受け入れた。
♢
翌日、父から渡されたメモと最低限の荷物を詰めて家を出た。
メモに書かれた場所へと向かう。
そこは、王都の外れだった。
次期公爵でありながらも、不幸を呼ぶとされているジェラルドは、公爵家ではない別邸で暮らしているらしい。
「すごい広い……」
腐っても公爵家ということだろう。
勝手に中に入っていいとのことだったので、遠慮なくお邪魔する。
こんなに警備が手薄で大丈夫なのだろうかと心配になってします。
それでも大丈夫なのは、きっとジェラルドが不幸を呼ぶと言われているからだろう。
「ジェラルド様、あなたの婚約者になりましたレティシアです」
そう言うと、ジェラルドは部屋から顔を出す。
「帰ってくれ!」
仏頂面でそう告げられる。
確かに、その目は紫色であった。
「俺に婚約者など必要ない!」
「帰りません! 私は、そんな噂など信じていませんから!」
まあ、帰ろうにも追い出されているので帰れないのだ。
「しかし、事実俺の周りでは不幸が続いているんだ! いいから帰れ!」
それだけ言うと、バタンと扉を閉める。
「私、帰りませんからー!」
それだけ言うと、レティシアはリビングのソファーに座る。
あれから、1時間くらいは本当に何も無かった。
「お前、まだ居たのか」
ジェラルドがレティシアに機嫌が悪そうに視線を向ける。
「ええ、婚約者ですから」
こうしてみると、すごく綺麗な顔立ちをしている。
綺麗な銀髪に紫色の瞳。
イケメンという言葉がそのまま当てはまるような姿である。
「私の周りにいたら君まで不幸になるぞ」
「なりませんので、こ心配なく」
「もう、勝手にしろ」
それだけ言い残してジェラルドは再び去って行く。
「勝手にさせてもらいます」
たとえ、魔法が使えなくても誰かの力になることはできるかもしれない。
魔法じゃなくても、人の支えになることはできるのではないか。
レティシアはそう考えていた。
翌日もまた、レティシアはジェラルドに無視をし続けられた。
話しかけたとて、帰れとしか言われないのだ。
「簡単にはいきませんね……」
そして、夜は耽って行く。
辺りが完全に暗くなっている時間。
ふと、窓の外を眺める。
そこには、テラスの椅子に座っているジェラルドの姿があった。
流石にこの時間はまだ冷える。
レティシアもまた、テラスへと向かう。
夜風がジェラルドの前髪を持ち上げる。
「綺麗……」
そこには綺麗な紫色の瞳があった。
「お前も懲りないな。いいかげん帰ったらどうだ?」
「いいえ、帰りません」
ジェラルドの声はいつもより優しかったような気がする。
「不幸になるぞ?」
「なりません」
そう言うと、ジェラルドはふっと笑った。
「昔、君のような人がいたよ。君と同じようにこの目を綺麗だと言ってくれた。俺の幼馴染の少女はいつもそう言ってくれていた。でも、もう彼女はこの世に居ない。事故で亡くなったんだ」
そこで、レティシアは理解した。
冷たく突き放すのは、ジェラルドの性格が悪いからなんかじゃ無い。
これは、彼なりの優しさなのだと思う。
冷たく人を突き放すことによって、自分の周りに人を寄せ付けない。
そうすれば、周りに誰も居ないから傷つくのは自分だけでいい。
だが、そんなのは間違っている。
人を傷つけない為なら、自分は傷ついてもいい?
そんなのはエゴだ。
「君も魔法が使えなくてずっと1人だったんだろ? 俺も一緒だよ」
「でも、もう1人じゃありません。私が傍にいますから」
そう言って、レティシアは微笑んだ。
《条件を満たしました》
美しい声がレティシアの脳内に響いた。
そして、レティシアの周りに無数に光が集まってきた。
「これは、精霊……?」
《あなたに、光の精霊の祝福を与えます》
聞いたことがある。
光の精霊は、祝福を与えた者にその全ての力を与えると。
その条件は魔法を使えないこと。
そして、誰かの役に立ちたいそう思う心だったか。
魔法が使えないレティシアはその条件を満たしたのである。
「お前、それは……」
「光の精霊の祝福らしいです」
レティシアは自分に授かった力を確かめるように、空に向かって精霊の力を放つ。
光の矢が数本上がって空に消えた。
これが、霊霊術だ。
魔法や魔術とは、また違った領域の術である。
使える人間は王都でも限られた数人だけだ。
「これでも、ダメですか? 私はそう簡単に死にませんよ」
「そう、みたいだなレティシア」
ジェラルドはそこで初めてレティシアの名前を初めて呼んだ。
光の精霊は幸運を呼ぶ精霊として古くから伝えられてきた。
その光の精霊に祝福された者は幸運を呼ぶ聖女と呼ばれる。
ジェラルドが不幸を呼ぶなら、レティシアがその何倍も幸運を呼べばいい。
「ジェラルド様、あなたはもう1人じゃありません。私が、傍にいますから。これから先もずっと自分とあなたのことを守ります」
「それは心外だな」
ジェラルドは低い声で言った。
その声に、少しドキリとしてしまう。
「レティシア、君のことは私に守らせてくれ。君がいい。君じゃなきゃダメだ」
「はい、もちろんです」
これは、不幸を呼ぶと言われて自分から殻に閉じこもっていた次期公爵と幸運を呼ぶ聖女の出会いの物語。
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