こんな話を知っていますか?〜キャンプ場で〜
はじめまして、こんにちは。楽しんでいってください。
これは、とあるキャンプ場での話。
私(X)は、いつも通りのメンバーでキャンプに来ていた。親友のAとB、それから私の三人で。
山の中にある小さなキャンプ場だったんだが、そこそこ人気で、予約をとるのには苦労した覚えがある。
私達三人は、キャンプ同好会とでも言おうか、よく一緒にキャンプに行く仲だった。北は北海道、南は沖縄、そのあたりまで行っていたように思う。色々なキャンプ場に行っていたから、噂が伝わってきたそのキャンプ場に行くのも当然だったろう。
そのキャンプ場が人気だった理由が気になってしまったのもある。好奇心というやつ、だろうか。
その理由は、行ってみればすぐに分かった。大きく綺麗な湖があるのだ。テントをたてるエリアや、コテージの建つエリアに囲まれた湖。これが、人気の理由らしかった。
澄んでおり、湖底まで見える。多くの魚が泳いでおり、釣り体験なども行われていた。
「子供連れが多いな。」
Aが少し辟易とした声音で言った。子供嫌いなAには少し辛かったらしい。眉間に皺が寄っている。
「まあまあ、気にすんな。どうせ関わりやしないさ。」
Bが励ますように言った。
「Xもそう思うだろ?」
「楽しんだ方がいいと思うけど。」
私がそう言うと、Aは諦めたかのようにため息を吐いた。否定する気はないようで、無理にでも楽しもうとしたのだろう、話題を切り替えてきた。
「このキャンプ場、怪談とかあるのか?」
「さあ、調べた限りはなかったと思うが……。」
とBが応じる。彼は怪談話のたぐいが大の好物らしく、キャンプに行く際は例外なく調べ尽くして来る。
そんな彼が言うのだ、本当に妖怪変化のたぐいはここにはいないのだろう。
「それより、はやくテント建てよーよ。」
そう私が言うと、二人とも弾かれたかのように作業を開始した。
テントを建て、食事も済ませ、夜十時になった。
山の中だから、だろうか。とても暗く、涼しい。
私達三人は、どうしても眠くならなかったので、折角の機会だからと周辺に散歩に出かけた。どうしても、Bは怪談話がなかったことが悔しかったらしく、幽霊を発見してやろうと息巻いていた。Aと私は、巻き込まれたとも言える。まあ、過去にも似たことがあったので平気なのだが。
この時、私達は考えもしなかった。
あんな傑作な幽霊が、このキャンプ場にはいたなんて。
はじめに気づいたのは、Aだったと記憶している。
唐突にAが、
「……ん?声が、しなかったか……?」
と言ったのだ。
談笑していて目的を忘れかけていた私達は、その言葉で本来の目的を思い出し、そして、……すこし、静かになった。その時既に夜の十一時頃になっていたのもあり、それが他の客の声だとは思えなかったのだ。
だから、次の声は微かではあったがBと私にも聴こえた。
「……ォ、クレェ…………。……ォ、クレェ……。」
……その声に、私達は顔を見合わせ、頷き、同時に呟くように言った。
「「「よし、見に行こう。」」」
湖が見えてきた。夜の湖は月の光を反射し、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
……そして、そばにあるベンチには、黒い影が。
「なんなんだ、あれは……。」
Aが、困惑気味に言う。勿論、私も同じ気持ちだったし、Bもそうだったろう。何故なら……。
「サケヲ、クレェ……。サケヲ、クレェ……。」
……ベンチには女が座っており、「酒をくれ」と繰り返していたからだ。え、客なのではないかって?
……ソイツの下半身は、すけてたんだよ。まあ、それはどうでもいいんだ。
その女(幽霊、か?)が、「酒をくれ」と言っていたのが問題なんだよ。死ね、でもなく。呪ってやる、でもなく。酒をくれ、と言っていたのが。
しかも、女の様子も可笑しかった。なぜだか今でも分からないし、普通は確実に怖がるところだが、やっぱり可笑しかったんだ。
私達が困惑気味に立ち尽くしていると、女は、こちらに気づいたようだった。顔を上げ、こちらを見てきた、の、だが……。
表情が、何かを期待するような表情だった。そして、少し嬉しそうな声で、
「サケ、クレル?サケ、クレル?」
と訊いてきた。
私達は、素早く後ろを向いて逃げ去った。女は、悲しそうな声で、
「マタ、キテネ。」
と言った。
今思うと、女はキャンプ場の福の神か何かだったのだろう。あのキャンプ場は今でも有名だ。だいぶ時が過ぎた今でも。たまに、あの女にまた会ってみたいと思うことがある。無邪気な子供のようだった、彼女に。




