表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

7.カメラが……ない!?

 そうして迎えた夏の長期休暇目前。


 私は浮かれていた。


 全寮制の学校の夏休み。それすなわち、帰郷組が多くなる……!


 学内の多くの学生は休暇期間のほとんどを実家で過ごす。

 しかし、生徒会メンバーのメインキャラたちは数日実家に帰るだけで、休暇中も学内に留まるのだ。


 一般生徒がいない……ということは、いつでもどこでも聖地巡礼ができ、周りの目を気にせずイベントを堪能できるということ……!


 そりゃカメラのメンテナンスに力も入るってもんですよ。


 鼻歌を歌いながらカメラを拭くわたしを見て、洗濯を終えたリアがため息をついた。


 ──そう、わたしは浮かれていたのだ。








「リア、ここに置いてあったカメラ、知らない?」


 お風呂上がり、わたしはいよいよ明日に迫った夏休みの準備をすべく、カメラの最終調整をしようとしていた。


 が、入浴前に机の上に出していたはずのカメラが見当たらない。


「さぁ、知りませんよ?」と言いながら、リアは西日差す窓のカーテンを閉めた。


「おかしいなぁ……たしかに置いたはずなんだけど」

「ケースの中は見ました?」

「見たけどなかったのよね」


 わたしはかがんでテーブルの下をのぞく。何もないどころか、ちりひとつほこりひとつない。さすがリア。仕事がたしかだ。


「あら……?」


 その彼女が、きょろきょろとあたりを見回している。珍しい。何か探し物だろうか。


「お嬢様、失礼ですが……下着をお召し替え忘れてはない、ですよね?」

「ええ。というかリアがいつもコルセットつけるの手伝ってくれるし、お風呂前は汗で濡れてたから替え忘れは絶対ないわ」

「……ですよね……」


 心なしかリアの顔が青い。


「下着がどうしたの?」

「…………無いんです……お嬢様がきょう、着てらした下着が」


 ………………。


 ……いやいや、まさかそんな。

 いくら女子寮といっても貴族が通う学院。王族もいるからセキュリティもばっちり。まさか前世みたいな下着泥棒や盗撮野郎がそんな簡単に出るはずが……。


 ……無いとも言い切れないか。わたしこの1年、ほぼ盗撮しかしてないわ。うん、わたしが一番怪しい人物だった。


「……と……とりあえず、探してみましょ。変なところに置いただけかもしれないし」

「そ、そうですね」

「わたしはこっちを探してみるわ」

「では私は逆側から」


 それぞれの持ち場を探し始め──そしてすぐに気づいた。


「あ…………」


 ない。


 私の目の前にそびえるように立つ本棚。

 そのすべてが本ではなく、アルバムだ。ナンバリングにしてざっと100を超えたところ。ところどころ抜けているところがあるのは、アルに貸しているものがあるからなのだが……。


 ……2冊、ない。


 入学して間もない頃に撮った2冊がない。

 中身はローラン以外の攻略対象とのイベント写真が主だ。現在、ハノンがローラン一筋で頑張っているので、当時の写真はかなり貴重なものになる。


 そんな貴重な写真を収めたアルバムが、ない。

 持ち出した記憶もない。昨日数えた時はあった。

 どこをどう探しても、何度数え直しても、本棚をひっくり返しても、どこにもなかった。


 ……。


 ああ、ダメだ。叫び出してしまいそうだ。口汚く罵ってしまいそうだ。


 我慢するように握りしめたこぶしが震えた。


「お、お嬢様……?」


 いつの間にか捜索が一通り終わったのか、リアが背後からおずおずと声をかけてきた。「終わったの?」といつもと変わりない声で振り返ったつもりが、存外低い声が出た。


「ひっ…………」


 リアはわたしの顔を見た途端、震え上がってあとずさる。

 怯えているのかしら、そんなに怖い顔してるつもりはないんだけど。


 これだけ一気に物がなくなるなど今までなかった。どこかにしまった可能性もなくはないが、さすがにこれは状況的に泥棒の仕業だろう。


 わたしはただ、夏休みの思い出をたくさん撮ろうと楽しみにしていただけだ。

 それなのに、今までの思い出もこれからの思い出も全て、見知らぬ誰かに奪われた気分でいっぱいだった。

 同時に、なんでカメラを出しっぱなしにしてしまったのかと数十分前の己を悔やんだ。


 おのれ……許すまじ……! こんなことが二度とないよう、犯人とっ捕まえて取り返さないと。


 そうと決まれば……。


「リア」


 呼びかけたわたしの声に、彼女の方がびくりと揺れる。

 ぐっと握りしめられたこぶしが目に入ったのだろう。怒られると思ったのか、リアはぺたん、とその場に座り込むと、「申し訳ございません!」と頭を下げた。


「え、リアは悪くないのよ? 悪いのはわたしの大事なものを盗んだ犯人よ」

「いえ、こうなったのも私の使用済み下着の管理が不十分だったからで……!」

「ん? 下着……?」


 あ、そういえば下着も盗まれてた。うっかり忘れてた。でもぶっちゃけそっちは替えがきくからどうでもいいかな。


 わたしは首を振った。


「それはもう、いいわ。それより今、お父様に連絡とって欲しいの。鍵付きの本棚と金庫を早急に送ってもらって。色味とデザインはリアに任せるわ」

「は、はぁ……かしこまりました」

「私は今からちょっと出るから」

「あ、あの……」


 羽織りを手に取るわたしに、リアは怪訝そうな表情で聞いてきた。


「……キャメィラはよろしいのですか?」

「それは今から……取り戻すから。もちろん、アルバムもねぇ……」


 ふふふ……カメラとアルバム……ついでに下着も盗むようなふとどき者、一体どうしてくれようか。


 リアの「ひっ……」という悲鳴を聞きながら、わたしは自室を後にした。

次回は明日投稿です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ