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二人で歩く帰り道


──キーンコーンカーンコーン 


 夕方の鐘が鳴った。試合終了の合図、今日の試合はここまでだ。


「疲れた! 今日は引き分けかー」

「唯人がもっとシュート決めてくれれば」

「うるさいな、しょうがないだろ。蹴っても違う方向に飛んでいくんだから」


 そんな話をしながらみんな帰っていく。

 公園に残ったのは俺と麗華。


「帰らないのか?」

「帰るわよ。唯人は帰らないの?」

「俺だって帰るさ」

「……家まで一緒に行ってあげてもいいわよ」

「なんでそうなるんだよ」

「帰る方向一緒でしょ? 付き合ってあげる」

「はいはい、ありがとな」


 途中まで一緒に帰る。


「あ、あのさ……」


 珍しく麗華はどもっている。


「なんだ?」

「唯人は中学どこに行くの?」

「中学? そんなの決まってるだろ?」

桜花中おうかちゅうだよね」


 このあたりの学区はみんな桜花中に通う。決まっていることなので、悩む必要もない。

 この前振り、まさか引っ越すのか?


「麗華、おまえまさか引っ越し──」

「違うよ、唯人と同じ中学だったらいいなって──」

「は? 俺たち同じ中学だろ?」

「なんでもない。それに私は引っ越ししないから安心して」


 なんか話がかみ合わない。


「なんだ、引っ越さないのか。じゃ、同じ中学だな」

「……そうだね同じ中学だといいね」


 いつもよりも覇気のない言葉。何かあったのだろうか?

 夕日が俺たちを照らし、後ろには長い影が俺たちについてくる。


「あ、ゲーム機忘れた」

「また?」

「ちょっととってくる」


 俺は麗華を残し、走って公園に戻る。


「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」

「先に帰っててくれー」

「なんでよ。せっかく一緒に……」


 走って戻った公園。ゲーム機は土管の中に入れておいた。

 土管を覗くとゲーム機はしっかりと残っていた。よかった。

 しかし、ゲーム機を取ろうとしたとき土管の中に人がいる事に気が付く。


「お前、なにしてるんだ?」


 さっきまで茂みに隠れていたソフィア。今度は土管に隠れていたみたい。


『……』


 ソフィアはこっちを見ているが何も話さない。


「帰らないのか?」

『なんて言っているの?』


 おおぅ、まったくわからない。何を話しているんだ?


「えっと、子供はもう帰る時間だ。ほら、帰れよ」


 ソフィアは土管の中に座ったまま動こうとしない。どうしよう、このまま放置して帰るか?

 いや、万が一事件にとかになったらめんどくさい。しょうがない、何とかして帰すか。


 俺は手首を指さし、走るそぶりを見せる。そして、ご飯を食べるそぶりを見せて何とかジェスチャーで伝えようとした。


『何しているの?』

「時間、走って帰る、家でご飯。わかるか?」

『何?』


 キョトンとした表情。恐らく何かは伝わっただろう。


「ほら帰るぞ」

『何を話しているのかわからないわ』


 たぶん伝わってるよね。俺はソフィアの腕をつかみ土管から出そうとした。


『何するの!』

「帰るんだよ! ちゃんと話したし、ジェスチャーで伝えただろ!」


 やや、無理やりになってしまったが何とか土管からの脱出に成功する。

 最初腕をつかんだときは騒がれたけど、今は黙ってついてくる。

 この腕を離したら逃げられてしまいそうだし、家まですぐそこだ。多少騒いでもしょうがないよな。


『この手、放してよ』

「おう、そろそろつくぞ」

『ちょっと、痛いんだけど』

「こっちでは鐘がなったら帰るんだ。わかるか? キーンコーンカーンコーンだ」

『いったい何を話しているの? 早く手を放してってば!』


 手を振り払おうとするソフィア。多分早く帰りたいんだろう。腕をぶんぶん振り回そうとしている。


「ほら、アパートが見えてきたぞ」

『戻ってきちゃった……』


 さっきまでで腕をぶんぶんしていたソフィアは借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった。

 アパートの塀の中、一歩入ったところで人影が目に入った。


「唯人、あんた何してるの?」

「麗華? お前何してるんだ? 帰ってないのか?」

「あ、あんたがちゃんと帰ってくるか確認しに来ただけよ。それより、誰よその子」


 俺が腕をつかんでいるのは隣に住むソフィア。誰? 俺はソフィアとどんな関係なんだ?


「あー、隣に引っ越してきた子だ。まだ、こっちに慣れてないんだって」


 麗華はソフィアを頭の先からつま先までじっくりと見ている。なにこの怖い目。


「麗華、何見てるんだよ。そんな怖い目で見るなよ」

「見てないわよ。……いつまで握ってるの?」


 言われて気が付いたが、俺はソフィアの手を握ったままだった。


「あ、悪い。もうアパートについたからいいな。麗華も早く帰れよ。じゃーな、また明日学校で」

「言われなくても帰るわよ。また、明日ね」


 俺とソフィアを横目に、麗華は自分の家に方角に向かって歩き始めた。


「ほら、着いたぞ。早く家に入れ」


 俺は自分の家の玄関前に立ち、ノブに手をかける。

 しかし、ソフィアは玄関前で立ち止まり、首からネックレスを引き出した。そして、その先には鍵がぶら下がっている。


『何見てるの? 早く部屋に入れば?』


 何か言われたが、意味は分からない。さよならって言っているのか?


「じゃーな」


 俺は彼女よりも先に扉を開け、中に入ろうとする。


『誰もいない家に帰っても……』


 扉の閉まる音が聞こえ、ソフィアは無事に帰ったようだ。これで俺は安心してご飯を食べることができる。


 そんな日が数日続き、夕方の公園にソフィアを見かけることが多くなった。

 ただ、決まってどこかに隠れている。そして、誰もいなくなった夕方、結局俺が見つけて帰ることが多くなっていった。

 毎日一人かくれんぼでもしているのか?


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