遠く離れていても想いは通じる
そうか、俺に助けを求めているんだな。わかった、幼馴染のよしみだ、助けてやろう。
「槇原。あきらめるんだな。麗華には、ずっと好きな奴がいるんだ」
「そ、そうなのか……。誰なんだ? 一ノ瀬はそいつの事知っているのか?」
つか、麗華の好きな奴なんて俺が知っているはずないだろ? 麗華がていよく断るいい訳だ。
まっ、適当にでっちあげるか。
「あぁ、知っている。そいつはいいやつなんだ。成績も良く、運動神経抜群。そして、最高にイケメンだ」
「は? そんなことないでしょ?」
麗華が俺の助け舟を沈没させる。ちょっとまて、話を合わせろよ!
「れ、麗華?」
「私が好きな人はそこまでいい奴じゃないし、成績だって──」
「と、とりあえず! 槇原、麗華の事はあきらめな。こいつはお前の思っているほど可愛くないぞ」
麗華が立ち上がり、俺の頬をつまむ。
「え? なに? 誰が可愛くないって? この口? この口がそんなこと言うのかな?」
「いっふぇまふぇん」
「んー、良く聞こえないな。今日、この後時間取りなさいよ。色々とお話ししてあげるから」
「……ふぁい」
麗華は俺の頬をつまんだ状態で槇原に視線を向けはなし始める。
「槇原君。悪いけどさ、私は誰とも付き合わない。私の事はあきらめて」
「諦められないと言ったら?」
「勝手にすれば?」
「友達! 友達からお願いします!」
そこまで麗華の事を……。恋は盲目というが本当なのかもしれない。
「……槇原君、唯人と同じクラスだよね?」
「そうだけど?」
「だったら唯人の面倒を見てよ。もっと、唯人の成績上げないといけないの」
「成績?」
「そ」
麗華の手が離れ、俺はやっと解放された。こいつ、いつまでも子ども扱いしやがって!
「私はクラスが違うからさ、槇原君同じクラスなんだしお願いするね」
「ちょっと待てよ、何で俺が槇原なんかに──」
「留学したくないの?」
うっ、ここでその話を出しますか。
槇原も少し不思議そうな表情で麗華を見ている。
「一ノ瀬が留学?」
「そ。唯人は留学する為にこの学校に来たの」
「あっ! も、もしかしてあの写真……」
二人の視線が俺に向く。
「う、うるせーな。そんなことどうだっていいだろ」
「そっか! 一ノ瀬も恋してるんだな!」
「してねーよ! ただ、約束しただけ……」
「今のままだと選考にも引っかからない。唯人、本気なんでしょ?」
「……本気だ」
「だったらやれることをやりましょ」
「お前ら、結構いいやつなんだな」
槇原も初日と比べたら随分と変わった口調になっている。
「いいやつじゃないわよ」
「麗華は鬼だからな」
「唯人の覚えが悪いんでしょ! なんで一回で覚えないのよ!」
「一回で覚えられたら苦労しねーよ!」
「ははっ、お前らいいコンビだよ。でもな、俺もあきらめない!」
「はいはい、がんばってねー。私の想いは変わらないから、早く次に行った方がいいよ」
「そんな簡単にはあきらめられない! 麗華さん、俺頑張ります!」
何を熱くなっているんだか……。でも、そんな二人を見ているのもなんか悪くないなと感じてしまう。
ソフィー、俺は早く会いたい。絶対に留学のチケットを手に入れてみせる!
※ ※ ※
「お父さん! 学校からもらってきたよ!」
「お帰りソフィー。どうだった新しい学校は」
「……普通。それよりも早く見てよ!」
「あらあら、そんなにあわてっちゃって」
「お母さんも早く見て!」
私は新しく通い始めた学校から留学についての資料をテーブルに広げる。
引っ越しが多く、なかなか学校になじめない。友達も毎回リセットされる。
でも、一人になる時間は多く、勉強に充てる時間は多い。
「ソフィー、また日本に行きたいのかい?」
「……行きたい。約束したの、会いに行くって」
「そうか、どれ少し資料を見てみようか……」
「日本にね……。ソフィーは一人でもいける?」
私は立ち上がり、部屋の片隅にある棚へ向かい歩き始めた。
その棚には、一枚の写真が飾られている。
私は写真を手に取り、テーブルへ戻ってくる。
「大丈夫。私は一人でも日本に行く。約束したから……」
私は一枚の写真を見ながら微笑んでいるだろう。
もう一度会いに行くよ。きっと、唯人も私と同じ気持ちのはず。
だって、あの日私たちは約束したんだから。
『またあなたに会いたい』




