中学3年生①
その日の朝から自分でも何か変だな、と感じていた。浮き足立っているのか、ふわふわしていて集中できないような言葉にできない不安定さを。
忘れもしない中学3年生の秋、結論からいえば私はその日の国語の授業中におしっこをもらしてしまった。トイレにいきたいと先生に言い出せず、盛大に、誰がどうみてもわかるおもらしを、15才にもなって、クラスのみんなの前で、してしまったのだ。
その授業が始まる前のお昼休み、私はクラスメイト何人かで宿題の答え合わせをしていた。今から思えばその時はもうかなりトイレにいきたいはずだったのだが、何故か席を立つことはしなかった。前述した不安定さがそうさせるのか、宿題の答え合わせに集中しているわけでもないのに、この後の授業中、このままだとどうなるのかという想像力が働くこともなかった。
その授業の始まりを知らせるチャイムが鳴ったと同時に先生が教室に入ってきた。号令の時、自分の左側の前の前の席の女の子がいないことに気がついた。あれ?と思った時、教室の後ろのドアからその子が息を切らせて戻ってきた。
「すみません、トイレに行ってて遅れました!」
照れながらその子は席に戻り、先生はギリギリセーフだといい、クラスメイトたちも笑っていましたが、私はそれどころではなかった。自分の体の違和感に遅まきながらその子のトイレ発言によって気づかされてしまったのだから。
授業が始まって数分後、私は悩んでいた。このタイミングでトイレに行きたいというのはあまりにも子どもみたいではないか?と。お昼休みにトイレを済ませられず、授業が始まってすぐにトイレを申し出る。考えただけで顔が赤くなってしまい、せめて授業の半分は我慢してそこから決めよう、と我慢の決意を固めた。
私はおしっこを我慢するのが苦手な方だと思う。体は同年代だと大きい方だが、トイレは近い方で、恥ずかしながら小学生の時に何度か失敗をしてしまっている。中学生になってからは大丈夫だったのだが、あと25分も残っているこの授業を乗り切ることが現実的ではないほど、私の膀胱は追い詰められていた。
普段我慢するだけなら少し前を押さえたりすると結構持つのだが、今はもう、前をぎゅっと長く押さえても波が全く引いてくれない。力を入れても駄目、抜いても駄目。何度か経験した「おもらし」の四文字が頭を埋め尽くしてしまっている。
残った手段は、先生にトイレに行かせてもらうことだった。中学生にもなって授業中にトイレに行きたいというのは恥ずかしいのだが、もらしてしまうよりは何倍も、何百、何千倍もよいだろう。
しかし、私は手をあげてそれを申し出ることが出来なかった。理由は正直自分でもよくわからない。わからないのだが、とにかく恥ずかしかったのだ。恥ずかしくてたまらなくて、トイレに行きたいというその一言がどうしてもここでは言えなかった。
授業が終わる10分前、私はおしっこが我慢できなくなってしまった。隣の女の子に大丈夫?と声をかけられても引きつった笑顔で頷くことしかできない。じゃっと押さえている手が濡れる位大量にちびってしまう。
めいっぱい体をゆすっても、大事な所をめいっぱい揉んで押さえても、もう止められない、どうしよ、でちゃう、あっ、あっ、あっ。
両手でぎゅうっと前を握りしめて、両足を浮かせて太ももと膝をぎゅっとしめて。でも、それが限界。浮かせた足、つま先が床に触れた時、決壊が始まった。
じょっばぁぁっ、しゅいーーーっっ、と伏せた顔の下で大きな水音が鳴り響いた。
学生服ズボンから洪水でも起こったかのようなおしっこが流れ落ち、下半身をびしょびしょにしていく。
みずたまりは両足のあたりを中心に大きくなっていく。先生とクラスメイト全員の目がこちらを向いているのが下を向いていてもわかる。私はどんな顔をしているだろうか。きっと真っ赤になっているのを見られたくなくて、顔はあげられなかった。