第4話 学生寮捜索試験 ~動乱~
俺達はどうしたら良いか悩んでいた。止めるべきか、静観するべきか。
止めた方が良いのだろうが、その場合、五十嵐の怒りの矛先が自分達に向く可能性がある。
それはとても面倒くさい。五十嵐の相手とか時間と労力の無駄である。
それにこれはD組の問題であって、無関係の人が関わって良い事ではない。俺達は静観することにした。
逃げることも出来るだろうが、この乱闘の結末は見たい。
ということで、俺達はこの場に留まることにしたのだ。
試験の途中なのにそんな悠長にしてて大丈夫かって?
なんとかなるさ!俺は推理力には自信があるし、麗也も推理力は高い。
ということで、問題はない!
五十嵐と波上がお互いを警戒し合う。
「勝った方が鍵を貰うってことでいいわね?形式は寸止めで良いかしら?お互いにポイントをマイナスされるのはごめんだしね。」
「ああ、それで問題ねぇよ。
ジャッジは……そこのお前がやれ。」
そう言って俺を指した。
「え……俺?」
「そうだ!お前だよ、チビ野郎!
さっさとしあがれ!」
ピキッ……この言葉には流石の俺もうざく感じた。
確かに俺の身長は高校男子1年の平均以下の151cmだ。これは高校女子1年の平均より低い。
俺の1番のコンプレックスでもある。そのコンプレックスを言われたのだ。
俺は怒りを五十嵐にぶつけたいという衝動を抑えて、ジャッジを引き受ける。
俺はそこの馬鹿と違って感情をコントロールすることなど容易いことなのだ。
一歩前に出て、右手を挙げる。
「俺を巻き込まないで下さいね?
それじゃあ、始め!」
俺はそう言って右を勢いよく振り下げた。
その瞬間、五十嵐が電気を纏って波上に向かって突進をした。
波上はぎりぎりのタイミングで躱す。その動きには一切の無駄がない。
一方、見事に躱された五十嵐は拳や体に電気を纏い、次々と攻撃を繰り出す。
それでも波上は手で捌くなり躱すなりしている。
両者一進一退の攻防を繰り広げている。その速度が徐々に速くなっていく。
五十嵐が能力を使っているのに対して、波上は使っていないように見える。
しかし、波上は五十嵐に攻撃出来ないでいる。これでは、五十嵐には勝てない。
波上がいつ能力を使うのかがキーポイントとなる。
「さっきまでの威勢はどうした?守ってばかりじゃお前に勝ち目は無いぜぇ!」
「あら、さっきから1発も当たっていない貴方に言われたく無いわね。」
超高速戦闘でも互いに皮肉を言い合っているほど余裕があるとは……
すると、五十嵐が波上から距離をとった。
どうやら戦法を変えるらしい。
五十嵐は体内に電気を溜め始めた。だが、さっきのように放電するわけではないらしい。五十嵐の体内に相当なエネルギーが溜まっている。
五十嵐が踏み出した瞬間、あっという間に波上との距離を詰めた。
五十嵐は体内に溜めた電気エネルギーを運動エネルギーに変換したのではないかと俺は予想した。
この事態に対して流石の波上も動揺していた。
しかし、動揺したのも束の間、五十嵐の攻撃に既に対応しているが、何発か波上でも捌けずにいた。
五十嵐がニタニタと笑っている。勝利を確信しているようだ。
しかし、波上はまだ能力を使っていない。
2人は互いに距離をとった。
波上は1度目を閉じた。どうやら波上も能力を使うようだ。その隙を五十嵐は逃さない。
五十嵐は音速に届くほどの速さで波上との距離を縮める。
波上は未だに目を閉じている。
五十嵐は勝利を確信した顔をしながら、正拳突きを繰り出す。
五十嵐の拳が波上に当たる寸前で波上が消えた。いや、音速で移動した。
その結果、五十嵐の拳は空振る。
波上はいつの間にか五十嵐の後ろに移動しており、遅れて五十嵐が波上に気付く。
しかし、気付いたときには既に遅く、波上は衝撃波付きの正拳突きを繰り出している。
五十嵐が対処しようと後ろに振り向いた瞬間、波上の拳が五十嵐の顔前で寸止めされる。
寸止めされた拳からは衝撃波が発生し、五十嵐を襲う。
その衝撃波によって、五十嵐の体は硬直した。
勝負は決したようだ。
「そこまで!
この勝負、波上さんの勝ちとする。」
俺はそう宣言した。
五十嵐の顔が悔しさの余り歪む。
今まで女子に負けたことなど無かったのだろう。
五十嵐の奴、ざまあみろだ!
周りの生徒を馬鹿になんかするから恥をかくんだよ!ばぁーかぁ!
俺は五十嵐に身長のことで根に持っていた怒りを心の中でぶちまけた。
実に良い気味である。
まだまだ五十嵐を馬鹿にしたいのだか、これ以上ぶちまけると口に出してしまいそうだ。そうなったら、間違いなく五十嵐は俺に攻撃してくるだろう。そんなのまっぴらごめんだ。
鍵も波上が貰うことになる。
俺はその鍵を見たのだが、違和感を感じた。
普通、ドアの鍵といったら差し込み部分が長いものが一般的だろう。
だが、波上の持っていた鍵は自転車の鍵のような差し込み部分が短い鍵だった。
なんか偽物感があるな……
「麗也、あれ本当に寮の鍵なのかな?」
俺は小声で麗也に訊いた。
「私も疑問に思うねぇ。
それに『寮の鍵を持っていない生徒に-3pが与えられる』というルール。偽物があるならこのルールは非常に重要になってくるだろうねぇ。」
麗也の言う通りだ。この試験を合格するためには、寮の鍵と偽物の鍵を見極めないといけない。
寮を探す序でに鍵は見つけられると思ったんだが、寮の場所を見つけ、鍵穴の形から本物の鍵の形を予測する必要があるようだ。
まったく……なんて面倒な試験なんだ……とっとと帰って休みたいのに……
「麗也、錬、行こう。
五十嵐の怒りの矛先がこっちに向く前にさ。」
「そうだな。八つ当たりで五十嵐の相手とか……想像しただけでゾッとするぜ。」
そう言って、俺達はその場を離れた。
俺達は空港のロビーにいる。ロビーは閑散としていて、俺達の足音だけが奇妙に響く。
静かすぎる。今の時間は15:00過ぎ。試験が始まって30分程経過したのだが、不自然だ。
空港やホテルは学校内に建てる理由が不明で、寮の場所である可能性が高いことに気付く生徒はいるはずだ。校舎からも遠くはない。
にも拘わらず、全く人がいない。罠でもあるのだろうか。
俺達は周りに気を配りながら、空港内を歩き回る。そして、空港構内の地図を見つけた。
空港ビルは地上4階、地下2階構造となっている。
地上階に寮の入口があるとは思えないが、一応確認しておく。
4階は展望台で、壁が1面ガラス張りになっている。
3階はお土産の販売店が軒を連ねている。東京○ナナや白い○人など日本各地の有名なお土産が集められていた。
2階は搭乗口へ繋がる保安検査場や手荷物検査などがある。
保安検査員以外は誰もいない。
1階は待合所だ。
さらに、ホテルへと繋がる通路がある。
あれ……ホテルから空港まで直接行けたの?
じゃあ、ホテルに出る必要は無く五十嵐と波上の戦闘に巻き込まれることも……いや、これ以上は言わないようにしよう。
うん、あの戦闘に巻き込まれることは必然だったんだ。気にしない、気にしない。
俺はそう自分に言い聞かせた。
B1・B2階はレストランや食堂といった飲食店が軒を連ねている。
蕎麦・饂飩・寿司などの和食やマク○ナルド・吉○家・ピザ○ットなどのファストフード店と多種多様だった。
しかし、寮の入口など乗っているはずもなく、手分けして探すことになった。
錬が3・4階を、俺が1・2階を、麗也がB1・B2階だ。
俺は1階、2階の順に探す。
寮の入口や鍵らしき物はなかった。
他の階にあるのだろうか。
空港に誰もいないことは不自然だし、俺達が空港に来る前に何かあったとしか思えない。
錬と麗也は大丈夫だろうか。
そんな時、俺の腕時計が鳴った。
錬からの電話のようだ。
この腕時計に電話の機能あったのか……
そんなことを思いながら俺は電話に出る。
「どうした?錬。何か……」
『早く空港から出ろ!!!』
錬が切羽詰まった様子で叫んだ。
『錬、どうしたのかね?』
あ……麗也の声が聞こえる。一緒にいるのかと思っだが、どうやら、3人のグループ通話になっているようだ。
この腕時計、以外と便利である。
『良いから早く!!2人は合流して空港から出ろ!
やばい奴が空港にいる。』
そう言っている錬の後ろで爆発音が聞こえる。同時に空港が地震でも起きたように揺れる。戦闘を行っているのだろうか。
「とりあえず、1階に合流だ。
錬だけ置いて行けるわけないだろ!」
俺はそう言って1階へ降りる。
1階には既に麗也がいた。
麗也と合流し錬を探そうとしたとき、天井が白熱化してもの凄い勢いで炎が噴き出してきた。
そして、天井に穴が開き、錬が墜落してきた。
俺達は錬に近づき、容態を見る。
体を耐熱金属に変質させていたから、傷は負っていない。
無事な錬を見て安堵する俺達だったが、直ぐに俺達はその場を飛び去った。
その瞬間、天井の穴から複数の炎の塊が勢い良く降ってきた。
その炎の塊が地面に着弾した瞬間、爆音と熱風を周囲に撒き散らして、クレーターを作る。
その熱風を浴びただけで、肌が焼けるように熱くなる。
凄まじい威力だ。
直撃したら、人死ぬんじゃない?それ程の威力だった。
錬が体を耐熱金属に変質させたから傷を負ってないものの、相手が錬じゃなければ軽傷じゃすまない。
耐熱金属に変質させた錬の判断も正しい。耐熱じゃなかったら危なかっただろう。
その時点で-25p確定だ。何を考えてるんだ。誰か知らんけど、やばい奴だな。
「お前ら……ハァ……これ4階で見つけたんだ……ハァ……これ持って……逃げろ。ハァ、ハァ。
あいつは……ハァ……化け物だ。」
錬が息を切らせながら、手を伸ばしてきた。手には鍵が握られている。
波上が持っていた鍵とは違う鍵だ。
「馬鹿言ってないで一緒に逃げるよ。
さっきも言ったが、錬を置いて逃げる気なんて俺にも麗也にもないよ。」
俺は錬に肩を貸しながら言った。
そして、天井の穴から人が降りてきた。
その姿はファウンテンブルーと桑の実色の髪にゴールデンオーカーの瞳、左目に眼帯をしており、右手で顔を覆っている厨二病者……緋山聖司だった……
「さぁて、その鍵を此方に渡して貰おうではないか……この……太陽神へーリオスにねぇ!!」
to be continued