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闇は全てを塗りつぶす  作者: 岩谷衣幸
入学編
2/19

第2話 初めての友達

 ピピピッ……ピピピッ……ピピピッ……

 春の暖かな日差しを浴びならが、徐々に意識を覚醒させていく。

 俺は甲高く鳴り響く目覚まし時計を乱暴に叩いて、その音を止める。

 半開きの目を擦り欠伸をしながら、ベットを出た。

 部屋は白を基調とした内装で高級感が出ている。

 部屋が輝いているように感じるほどだ。一気に目が覚める。

 俺は朝食をとるために部屋を出て、エレベーターで2階にある食堂へ行った。

 窓の外は紺碧の空に鮮やかな桜が舞い散る。

 昨日とは打って変わってとても清々しい気分になる。

 今日は良い1日になりそうな気がした。

 俺はそんなことを思いながら、食堂のバイキングの料理に手を伸ばした。

 いつもより、料理が美味しそうに見える。

 俺は調子に乗っていつも以上の量をとってしまった。

 それだけ、俺はこの生活が楽しみなのだ。

 俺は朝食を食べ終えて、自分の部屋へと戻る。

 学校へ行く準備を完了し、キャスターバッグを持って受付でチェックアウトを済ませる。

 俺は心を弾ませながら、ホテルの自動ドアを出た。






 俺は電車に揺られながら、本を読んでいた。

 登校中の読書は中学からの習慣だった。

 だが、その習慣はなくなるかもしれない。


「おはよう、光。今日は良い天気だねぇ。」


 そう、俺の友達――俺が一方的に思っているだけ――である花宮くんだ。

 花宮くんと登校するという習慣に変わるかもしれないと思うと、嬉しさがこみ上げてくる。


「おはよう、花宮くん。

 今日の天気は清々しい気分になるよね。」


 俺は本を閉じて花宮くんに言った。


「ああ、そうだ花宮くん。これから何かあったときのために、連絡先を交換しとかない?」


「そうだねぇ。私も君の連絡先を知りたかったからねぇ。

 私の連絡先はこれだよ。」


 そう言って、スマホを差し出してきた。


「ありがとう。俺の連絡先は送っとくね。」


 やっったぁー!連絡先交換する仲とか俺達もう友達だよね。

 嬉しさのあまり叫びそうな衝動を抑えて、花宮くんと他愛ない話をした。

 やはり、今日は良い1日になるようだ。

 俺はそう確信した。






 学校に着いて昨日と同じ席に座っても、俺は花宮くんと話をしていた。

 花宮くんの席は俺の前なのだ。

 この生活めっっちゃ楽しい!

 ああ、この生活が永遠に続いたらなぁって思ってしまう。

 そんなことはあり得ないのだが、1度良い思いをしたら人はそれ以上のものを望んでしまうのである。

 そんなことを思っていたら、間先生が教室に入ってきた。


「皆さん、おはようございます。それでは朝のHRを始めます。

 この後の予定ですが、今日1日、学校内を見て回ることになります。

 この学校は広いですから、迷わないように注意して下さい。

 学校内を案内し終わったら、寮を目指してもらってかまいません。」


 間先生は丸眼鏡を上げながら言った。


「昼食は学校の食堂や自販機を使用して下さい。

 それでは、このA棟から案内していきます。」


「光、一緒に回らないかい?」


「いいね。一緒に回ろう!」


「俺も一緒に回っていいか?俺、知り合いいなくて1人で寂しいんだよ。」


 そう言って俺達の会話に入ってきたのは、クラス副委員長の土田錬くんだ。


「ああ、俺は良いけど、花宮くんはどう?」


「かまわないよ。人数は多い方が賑やかでいいからねぇ。」


「俺は陰谷光。よろしくね。」


「私は花宮麗也だ。よろしく頼むよ。」


「俺は土田錬だ。錬って呼んでくれれば良い。よろしくな。」


「じゃあ、俺も光で良いよ。」


「私も麗也と呼んでかまわないよ。光もそう呼んでくれたまえ。」


 こうして、俺は麗也と錬と教室を出た。

 ここ、1年A組の教室はA棟4階にある。この階は1年の教室となっている。

 3階は2年の教室があり、2階は職員室だ。

 2年の教室には誰もいなかった。

 職員室は廊下と教室の壁を全てぶち抜いて、5つの教室と廊下を無理矢理くっつけた感じだ。


「職員室広いね。」


「無理矢理1つの空間にしたって感じだな。」


 俺の呟きに対して、錬が言った。

 俺達は1階に降りた。1階は昇降口と保健室、校長室、会議室、図書室がある。

 また1階は、入学式の会場である第1体育館と繋がっている。

 第1体育館は1000人は余裕で収容出来るほどの広さだった。

 主に式典や集会で使うらしい。


「今更だけど、もの凄く広いね。こんなに広くする必要あったのかな?」


 俺は疑問に思ったことを口にした。


「ここは行事にも使われるようだから、全校生徒と来客者は収容出来るように広くしているのだろうねぇ。」


 俺の疑問に答えたのは、麗也だった。


「なるほど!確かにな。」


 錬も俺と同じ疑問を抱いていたらしく、麗也の言葉に納得した様子だ。

 2階には柔道場と剣道場がある。

 そのままA棟に戻り、1階と2階にある渡り廊下を通って、B棟へと行く。

 4階は美術室、美術準備室、書道室、音楽準備室と芸術系の教室だった。

 3階は音楽室、生物室、化学室、物理室、情報室と実験や実技教科の教室だ。


「情報室?なんだそれ?」


 錬が俺達にきいてきた。


「情報の授業で使う教室だと思う。多分、教室内にはパソコンが沢山あるはずだよ。」


「情報の授業って何するんだ?」


「プログラミングとかプレゼンのスライド作りとかじゃないかな?」


「電子機器の基本的なこと全般を学ぶ教科だねぇ。現代のような情報社会では必要な知識だよ。」


 錬の疑問に対し、俺と麗也が答える。


「そんな授業があるのか……知らなかった。」


「入学説明会でも学校のパンフレットにも情報の授業に関して説明があったよ?」


「全く気にしていなかった。」


 彼は苦笑いしながら答えた。


「副委員長!しっかりして下さいよ。」


 俺は笑いながら彼に言った。

 俺は今日何度目か分からない嬉しさを噛みしめていた。もう錬とも友達になったって言えるんじゃね?

 2階は3年の教室だが、誰もいなかった。

 1階に降りると、広い食堂や多種多様な自販機があった。


「食堂や自販機は昼食時に見て下さい。先に此方に行きます。」


 間先生が第2体育館へと繋がっている廊下に生徒を促した。

 第2体育館は第1体育館の半分程の広さだった。

 しかし第1体育館とは違い、卓球台やバドミントンコードが常設されている。

 2階には、バスケットボールコートが常設されていた。


「中部活動用の体育館って感じだね。」


「それだけではなく、体育の授業でも使うらしいねぇ。」


「行事用と運動用で体育館を使い分けてるってことか。金かけすぎだろ……」


 第2体育館の奥に廊下は続いていた。

 しばらく奥に進むと、第3体育館があった。


「うぉぅ、広いね……」


「これは驚きだねぇ。」


「な……何なんだ……この広さ……」


 中に入って、俺は間抜けな声を漏らし、麗也は感心し、錬は驚嘆している。


 円形の第3体育館は第1体育館の2倍以上の広さがあったのだ。収容人数は3000人らしい。

 これを聞いて驚かない方がおかしいのである。


「何に使うんだろうね。」


「私にもさっぱり分からないねぇ。」


「金の無駄遣いな気がする。」


 錬の意見は最もである。

 全校生徒は600人だ。つまり、全校生徒を収容しても余裕しゃくしゃくなのである。

 第3体育館の広さに圧巻している生徒を尻目に間先生は次へと促す。

 第3体育館は1階のみで、外から見たらホールのようになっていた。

 次に案内されたのは、国立競技場のような建物だった。

 実際中に入ると、オールウェザーの400mトラックとサッカーコート1面、4万5000席の観客席がある。


「おぉ、オリンピックの会場みたい!」


「この学校の体育祭は有名だからな。オリンピックと同じように、テレビとか来るんだろ?」


「それは困ってしまうねぇ。私がテレビに映ってしまったら、私のファンが増えてしまうではないか。」


「あ……ああ、そう……だな。」


 麗也のキザな発言に錬が戸惑っている。

 麗也は自信過剰だからな。まあ、実力は相当あるっぽいから一概に面倒くさい奴とは言えないんだけどね。


「れ……麗也ってこんな奴なのか?」


「うん、自分大好きだよ。麗也は。」


 錬が俺にきいてきた。

 俺は少し呆れたような口調でそう答えた。


「でも、良い奴だし、頭の回転が良いから頼りになるよ。」


「へぇ、意外だな。ただの自分大好き人間かと思ったぜ。

 そういえば、光の能力(ソリタリオ)って何なんだ?」


「俺は第7能力(セヴンスソリタリオ)絶対閃光(エクレール)

 光を操作して、光学迷彩を施したり、光線を放ったりするんだよ。」


第7能力(セヴンスソリタリオ)か。凄いな、光は。

 俺は第6能力(シックスソリタリオ)鋼の鎧(メタルアーマー)

 体を金属に変質させる力だ。」


「麗也の能力(ソリタリオ)は何なの?」


「私は第8能力(エイスソリタリオ)絶対植生(プリローダ)、植物を操るのさ。

 この私にぴったりの力だろう?」


「流石、麗也だね、第8能力(エイスソリタリオ)なんて。」


「高校生で第8能力(エイスソリタリオ)かよ。

 光の言うように麗也って凄いんだな。」


 そんなことを話しながら、次々と大規模な競技場を回っていった。

 野球場、アメリカンフットボールコート、テニスコート、ハンドボールコート、50mプールなど何でもあった。

 しかも、ホテルと空港すらあったのだ。

 学校内でオリンピックが出来ると俺は思った。

 それ程充実していた。

 全てを見終える頃には、既に13時前を指していた。


「それでは、B棟1階で昼食をとって下さい。

 14:00には教室に戻っていて下さいね。」






 俺達はB棟1階の食堂へ行った。

 食堂の空いている席に、生徒証を背もたれにある電子機器にかざす。

 こうすることで、この席の予約が出来るのだ。

 ピッという電子音が鳴り、俺達はカウンターへ行った。

 メニューは、スマートウォッチの中に入っていて、食堂に着く前に決めていた。


「ハンバーグ定食下さい。」


「私は醤油ラーメンを頂こう。」


「俺はカツ丼定食を!」


 俺達は食事をカウンターで受け取って、予約していた席に座った。


「「「いただきます。」」」


 俺達は食事をしながら、今日のことを話していた。


「運動場はともかく、ホテルと空港があるのは理解できない……」


「確かに何のためにあるか全く分からないね。」


「規模もそこそこ大きかったからねぇ。」


 ホテルは50階建て、空港にはジャンボプライベートジェットがあった。


「この学校だけで数十億の費用が掛かってるんじゃないか?」


「国際教育学園、恐ろしいね。」


「第3体育館も広かったな。」


「その第3体育館の用途も謎だねぇ。式典や集会は第1体育館で体育の授業は第2体育館や外の競技場だろう?

 何の目的で建てられたんだろうか……」


「この学校は謎が多いね。」


 俺は窓から見える紺碧の空を仰ぎながら、そう言った。

 その後も3人で他愛ない話をしていたら、いつの間にか13:50になっていた。


「そろそろ、教室に戻ろうか。」


「そうだな。」


 俺達は空の食器を返却口に置いて、教室へ向かった。


「そう言えば、2年生も3年生も教室にいなかったよね?」


「ああ、そうだったな。」


「何でいないんだろう?普通、入学式の次の日は登校日じゃない?」


 俺は疑問に思ったことを口にした。


「言われてみればそうだねぇ。教室にも体育館にもいなかった。何かありそうな予感がするねぇ。」


「考えすぎじゃないか?」


「考えすぎだったらいいんだけどね…」


 そう話しながら教室に入ると、殆どの生徒が教室にいた。

 俺達は教室に入ってからも、雑談をして暇を潰す。

 14:00になるとチャイムが鳴って、間先生が教室に入ってきた。


「それでは、これからHRを始めます。

 皆さん、午前中はお疲れ様でした。学校内を歩き回ったので、大変だったでしょう。」


 確かに大変だった。300万㎡の広大さを改めて実感した。


「歩き回って疲れていると思いますが、今から君達には『特殊試験』を受けてもらいます。」


 と間先生は丸眼鏡を上げながら言ったのだった。



          to be continued

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