廊下の音
コツリ…コツリ…
足音が響く暗い廊下。
廊下から聞こえる、聞き慣れた足音に耳を澄ませ、少し心細さを誤魔化す。
一人の病室にいる私にとって、足音は存在の確認だった。
そう、証拠だった。
ナースステーションの方から聞こえる足音が、私にとっては安心材料だった。
ああ、一人じゃないんだ。
そう思っていた。
だが、主任看護師の話を聞いたせいか、安心しなくなった。
若い看護師がうっとりと話していた若い男女の話と隔離病棟、大きな木での会話の話。
人の想いが残りそうな話に、私は疑心暗鬼のような感覚を持っている。
足音は人の存在の証拠だ。
廊下の先に人がいる。
それは、誰なのか?
私は怖かった。
コツリ…コツリ…
あの足音は誰のものだろう。
誰の?男の子だろうか?
彼が、女の子に会いたくて歩いてきているのではないのか?
余計な恐怖心を私は起こして、過剰な想像力で生々しさを感じている。
コツリ…コツリ…
いや、きっとこの足音は看護師だ。
だって、聞き慣れているから…
いや、私が聞いていた足音は、本当に看護師のものだったのだろうか?
いつも耳を澄ましていると聞こえる別の音。
カタリ…カタリ…
この音に恐怖を覚える。
いつもはこの音だけに恐怖だったのに、今は聞こえる音全てに恐怖を覚える。
風が窓枠を揺らす音。
窓の外では木が揺れているのではないか?
きっと
カサリ…カサリ…
と葉を揺らしているのを想像する。
いや、想像してしまう。
若い看護師の話のせいで、私は想像力が豊かになった。
コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…コツリ…
私は思わず布団を頭まで被った。
足音が、すごく聞こえる。
近付いてくる気がする。
廊下はここまで長くないのに、何でここまであるのだろう?
いつもは使わない頭の中を使って、精一杯の脳力で恐怖を思い起こす。
何でだろう?私に関係のあることじゃないのに、私はすごく怖がっている。
カタリ…カタリ…
窓が揺れる音が、まだ優しく思える。
ガタン
ドアが揺れた。
私は耳を塞いだ。
誰か来るのではないか?
誰かいるのではないか?
誰がいるのだろうか…
カラカラカラ…
とゆっくりとドアを開く音が聞こえた。
「…大丈夫ですか?」
看護師の声が聞こえた。
よかった。看護師だ。
私はゆっくりと布団を取った。
そこには、私に木の話をしてくれた看護師がいた。
「大丈夫です…」
私は、少し震える声で言った。
気が付いたら寝ていたようだ。
私は朝日の眩しさと、暑さで目を覚ました。
「おはようございます。」
主任看護師が私に笑顔で言った。
「…おはようございます。」
私は明るい部屋と、彼女に安心して、眠気もあるが比較的明るく挨拶をした。
「今日は暑いですね。」
主任看護師は窓を締めながら言った。
どうやら、朝になって外の気温が上がったから部屋が暑かったようだ。