5『イラの願いごとは?』(第2話後日談)
「あ、イラ先輩、お疲れさま~」
勤務時間の終了間近。
本日分の職務を終えたメルルーサが、ちょうどテーブルで事務仕事を片付けたらしいイラに声を掛けながら椅子に腰を下ろした。
そんな彼女の表情は、なぜだかとてもにこやかだ。
イラは書類をトントンと揃えつつ、笑顔で返す。
「お疲れさま、メルちゃん。どうしたの? そんなにニヤニヤして」
「ふふん、そのミサンガ素敵だなって思って」
メルルーサがイラの左手首に目を遣った。そこには、滑らかな糸で織られ、青緑色の宝石が通されたミサンガが。
イラは左腕を上げて見せた。
「うふふ、ありがとう、メルちゃん」
「あーそういえばー、ターポン先輩も同じもの着けてたよね~」
わざとらしいメルルーサの口調。二人がお揃いのものを着けていると知っていての発言だ。
イラはポッと頬を赤らめる。
「え……っ! も、もうメルちゃん、分かっててわざと言ってるでしょう!」
「えへへ、バレちゃった」
メルルーサがお茶目に舌を出して笑った。
「でもさ、お仕事中に着けてて大丈夫? いくら切れたら願いが叶うものだって言っても、汚れちゃったらショックじゃない? せっかくの宝石だって落ちちゃうかもだし」
「そうかしら? 私はそうは思わないな」
「どういうこと?」
イラは左手に着けたミサンガを愛おしそうに撫でる。
「私のたった一つの願い事さえ叶えば、他にはもう何もいらないから」
「へえ、そんなにいい願い事なんだ。じゃあさ、イラ先輩はどんな願い事をお祈りしてるの?」
「え、そ、それはその……?」
顔を一気に紅潮させるイラ。
その視線の先には、船着き場で片付けをしているターポンの姿が。
分かりやすい彼女を前に、メルルーサはつい頬が緩んだ。
「うん、その表情だけで大体何を祈ってるのか分かったから大丈夫だよ」