3『ある日の昼休み 女子二人』(第1話内)
メルルーサが郵便局で勤め始めて数日が経った、ある日の昼頃。
「メルちゃん、よかったら一緒にお昼ご飯食べよ?」
「うん、喜んで! イラ先輩!」
局内のカウンターに座るメルルーサにイラが声を掛け、二人は一緒に昼食をとることになった。
書棚前のテーブルに移動し、メルルーサが風呂敷包みを取り出す。
「あ、メルちゃんは今日ご飯持ってきたの?」
「うん、ナプだよ」
メルルーサが風呂敷を開くと、楕円形の焼き菓子のようなものが現れた。
ナプとは、イモを乾燥させて粉末にし、砂糖や塩、水を混ぜて焼いたもので、この辺りでは主食として親しまれる料理である。木の実や香草、ジャムなどを交ぜたものもよく食べられる。
「へえ、メルちゃんが作ったの?」
「ううん、お母さんが作ってくれたんだ~。わたし料理は全然ダメダメだから。イラ先輩はお昼いつもどうしてるの?」
「遠出する時はメルちゃんみたいにナプを持ってきたりするんだけど、今日はここで何か作ろうかなって」
「え、料理するの!? すごい!」
メルルーサが唐突に高い声を上げて驚き、イラが照れくさそうに視線を逸らした。
「別にすごくないよ~」
「ねえねえ! 料理するの隣で見てていい?」
「え、うん。いいけど」
やった、とメルルーサは小さくガッツポーズをした。
「でも、ちょっと時間かかっちゃうわよ?」
「いいよ、だって楽しそうだもん!」
「うふふ、メルちゃんって不思議な子ね」
「え、そうかな?」
口元に手を当てて静かに笑うイラを前に、メルルーサは首を傾げるばかりだった。
そういうわけで、二人は局内にある給湯室へ。そこで料理をするイラをメルルーサが隣で見守る。
イラの一挙手一投足にメルルーサは感嘆の声を漏らしていた。
しかし、そのうちにメルルーサもちょっとずつ手伝うようになり、いつの間にかイラによる料理講座が行われていた。
そんなこんなで料理は完成。海鮮スープが出来上がった。
「やっぱりイラ先輩すごいなぁ~! あっという間に料理が完成しちゃった!」
「メルちゃんが手伝ってくれたからだよ」
「わたし、ちょっとしか手伝えてないもん。それに色々教えてもらっちゃったし。わたし、イラ先輩みたいなお姉さんが欲しかったなぁ~」
「そんな褒められると照れちゃうわ。さあほら、手伝ってくれたお礼に一緒に食べましょ」
「やった! あ、じゃあ、わたしのナプも半分こしよ!」
テーブルに鍋敷きを置き、その上にスープの鍋を運ぶ。
木のカップに取り分け、ナプも半分ずつ配った。
そしてシトゥ神への祈りを捧げてから食べ始めた。
「う~ん、美味しい~! イラ先輩、天才だよ!」
スープを一口飲んだメルルーサがキラキラと目を輝かせた。
イラは頬を赤らめてはにかむ。
「もぉメルちゃん大げさ」
「冗談抜きで美味しいって! ターポン先輩にも普段料理作ったりしてるの?」
「なっ、ど、どうしてここでターポンが出てくるの……!?」
ガタン、と食器が揺れた。
動揺したイラが足をテーブルにぶつけたのだ。
「え、だってイラ先輩とターポン先輩ってすごく仲良しっぽいから」
「そ、そう見えるかしら? へぇ~」
「? ……あーそういうことか」
あからさまに目を背けるイラに対し、初めは疑問を抱いたメルルーサもすぐに理解した。
つまり、イラはターポンに恋心を抱いている。
いくらメルルーサでも、その感情を見抜けないほど鈍感ではなかった。
そういえば、配達の時に二人は夫婦のような関係だと聞いたことがあった。イラの想いは、周りにも筒抜けなのだ。
するとそこへ、まるで誤魔化すようにしてイラが質問を投げかけてきた。
「そ、そういうメルちゃんはどうなのかな? トリーに何かあげたりしないの?」
「あははは、それはあり得ないって。100パーセント! 絶対に! 空から銛が降ってきても!」
「あははーそっか……」
メルルーサの強い物言いに、このパルトネ大丈夫かなぁ、と心配になるイラだった。