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ミッションプログラム


 なぜ奴はこんなことをしたのか俺には分からない。奴が死んだ以上確かめようがない。


 ただ奴が残したデータとまばらな記憶。そして自分の役割を果たす以外を望まなかった奴が、唯一感情から湧き出た願いがプログラムになって深く刻み込まれている。


 青い光の水晶に彼女の姿が浮かび上がる。彼女を取り巻く脅威は最善である静観を続けられない事を意味していた。


 俺が奴程強いかは分からない。しょせん俺はデッドコピーなのだから。


 ―――


「降参するなら今のうちだよ。痛い目に会う前に、僕に付いてきて欲しいのだけど」


 白鎧が帯電する槍を構え、相対する衛利はデフォルトブレードの切っ先を白鎧に向ける構えで応じた。

 柿種はラングレーの車内からコインガンで狙いをつけているが、始まらない動きに息を呑むしかない。


「柿種さん。この人は逮捕出来ますよね」

「あぁ。マテリアルハザード現行犯及び幇助の疑いがある。抵抗するなら制圧も許可する」

『衛利!外骨格相手だぞ。危険すぎる』


 シックスアイの言葉を聞いても決して衛利は構えを崩さない。逃げる気配のない様子を見て白鎧は一歩近づく。


「ESP能力者相手は、ESP能力者しか務まらない」


 衛利の言葉に柿種がはっとして先日の男の言葉を思い出した。超能力者。人知を超えた何かが起きる予感に柿種は不安を覚える。


 もう一歩近づいた白鎧。


 にらみ合いの臨界点。動き出したのは同時。

 衛利は体を思いっきり後ろへ飛び、踏み出した白鎧の薙ぎ払いを避ける。着地で踏ん張ったバネで再び白鎧に接近する。

 返す刀で槍を薙いでも衛利は両膝を曲げてかわしながら白鎧の懐へ滑り込む。二体の獣が飛びかかるが一体は柿種のコインガンで足止めされ、一体は衛利に貫かれた。

 そして、白鎧蹴りを右足を軸に一回転して避けると、その勢いでブレードを振ってヘルメットを切り裂いた。


「な、なぜ?」


 バイザーが割れて声が明瞭となり顔も露わになる。衛利は目を凝らす。


「女?」

「貴様もだろうが!」

「!っ ラングレー!」


 ラングレーのキャノピーが閉まる。白鎧は怒鳴りながら槍を更に帯電させて振り回し、衛利はデフォルトブレードを地面に刺して車の陰に隠れる。辺り一面への放電による爆音が響く。


「大丈夫か!?」


 ラングレーのキャノピーが開かれると柿種は辺りを見渡す。あたりには放電された箇所に黒焦げの痕跡が煙を上げていた。白鎧だけが立ち尽くしている。

 すぐさま衛利が車の陰から飛び出しデフォルトブレードを地面から抜いて投擲。白鎧はそれはじくと同時にワイヤーが左腕に絡みつく。ワイヤーは衛利の腰のベルトから伸びていた。


「こんなもので!」


 槍の切っ先でワイヤーを切断しようとするが、ワイヤーを巻き取る力で接近する衛利の方が早かった。アッパーを食らわせ、怯んだ隙にワイヤーを右腕に絡ませると、更に全身を複雑にワイヤーで巻いていく。


「期待外れね」


 後ろで密着した衛利の率直な感想が口から出ると、振り返った白鎧が割れたバイザーの中から怒りの目が睨みつけた。


「大人しくしなさい。ご自慢の放電もここでしたら貴方自身もただでは済まない」

「お前なんか!本気を出したらすぐに消し炭に出来るのに!」

「本気を出せない理由があったのね。それを後でたっぷり聞かせてもらうから」

「それは……」


 急に態度が変わる白鎧。衛利はなるべく思考言語を読み取ろうと集中する。


(ごめんなさい。中佐……)

(中佐?)


 衛利も危険を感じ取った時には既に遅かった。衛利の思考もまた相手に読まれていた。


「おまえぇぇ!!」


 激高した白鎧が帯電し衛利はワイヤーを放す。周囲に電撃が放たれ電撃を食らった衛利は吹き飛ばされた。ワイヤーも緩み瞬く間に槍で切断されてしまう。放電に巻き込まれた白鎧も片膝を着きながらも、槍を構え直し衛利に突進する。


「止まれ!」


 柿種の放ったコインガンが白鎧の足を狙うが、最後の獣がそれを防ぎ逆に柿種に襲い掛かった。ラングレーがそれを避けるが、獣の足止めしか出来ないコインガンでは無力化する事も出来ない。

 一方ですぐ起き上がった衛利に白鎧は警戒して足を止める。


「今のは効いた……」

「なぜ倒れない」

「これぐらいの痛みならむしろ心地いいわ。生きてるって感じがして」


 不敵に笑う衛利と歯ぎしり睨むしか出来ない白鎧。


『衛利。車両がこっちに一台来てる。所属は不明だ。敵の仲間かもしれない』


 突然シックスアイが衛利に映像情報を送る。ドローンからの映像に映る黒塗りの車。


「こっちは今忙しいの。増援は?」

『一般人の避難と負傷者の救助だ。いや一体の警備アンドロイドが向かってる……。なんだ?』

「どうしたの?」

『いや不自然なんだ』


 シックスアイの言葉を待っている間に白鎧が、道路に向かって走り出した。


「次は絶対に負けない」

「逃がすか!」


 衛利が追いかけようとした時。遠くからブレーキ音と共に黒い車が現れ窓から8個の球が放り投げられる。まるで生き物のように駐車場にある車に引っ付くとゲル状の液体を染み出しながら埋もれていく。

 その形に見覚えがある。ウィルスコアだ。


『車のモビルマテリアルが媒介液に触れて流動体に戻されてる!動き出す前にデフォルトするんだ!』

「くっ!ラングレー!奴を追って!」


 だが、ラングレーは衛利の元へ駆けつけ柿種が手を伸ばすと困惑しながらも手を掴んだ。


「無茶を言うな。もし獣に変異して一斉に襲われたらひとたまりもないだろ」

「それなら私一人でも」

「じゃあ獣がお前を無視して散開したら?」

「……」

『車の追跡なら俺がしておく。被害が出る前に倒せ』


 変異しかけた車両にデフォルトブレードで突き刺しウィルスコアを破壊するがその時には既に、車両が四足の獣に変わっており。車の部品がその腹から音を立てて零れ落ちた。

 先ほど生き残った1体を加えて8体の獣の群れが再びあらわした。そして、全頭がバラバラの方向へ逃げ出す。


『ドローンを分散させて近くの自警団にも情報を共有しておく。衛利は車を追ってくれ』

「了解」


 ラングレーがジェネレータを唸らせ、人通りのない道路を爆走する。逃走車より何倍もの速度で、すぐに追いつけるのは確実だった。


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