復讐者
海外のニュースをお伝えします。
戦闘が続いている欧州で「欧州クライスアーリア党」は先日、難民戦線「三日月と星」をイベリア半島から駆逐したと声明を発表しました。
「三日月と星」の総司令官はクライスアーリア制圧圏内にいる兵士や一般人にテロ攻撃を命じる等。イベリア半島でも独仏伊での虐殺行為が発生される懸念されています。
それに続きロシアでは欧州の混乱への介入準備のため、先日「衛星国条約」を締結したポーランドにロシア軍が進駐を開始し、中国も混乱が続く東南アジア、アフリカ等で展開している駐屯軍の増派を決定。それに伴い中露両国外相は電話会談で「上海協力機構」の再確認を行い。「ユーラシアの秩序を司るのは我々の大きな役割である」と共同して声明を発表しました。
一連の動きにアメリカは強い懸念を発表し、英国も警戒すると発表。しかし、包囲網が形成されつつあるインド、オーストラリア。中国から多額の支援を受けている中南米各国は否定的であるものの弱い表現にとどまりました。
次のニュースは……。
「どうしたんだ衛利。そんな辛気臭いもん見て」
「別に。ただ目に入っただけ」
セントラルビルに設けられた食堂でテレビを見ていた衛利の隣に、シックスアイが腰かけると、栄養素が見分けやすいよう着色された栄養スティックが乗せられた衛利のお盆を覗き込む。
「ストイックだねぇ」
「そっちこそ。こんな時代なのに有機的な食事は効率的じゃないわ」
「効率ねぇ」
シックスアイはハンバーグにご飯を頬張って水を飲み干す。噛みしめるように食べる姿に衛利は少し睨むように言う。
「そんなに変? 栄養スティックだけって」
「たまに食べるがいっつもそれだけってやっぱり変だぜ」
衛利は手を止めてシックスアイに顔を向ける。
「じゃあ逆になんであなたは有機食事で変わったメニュー食べてるの?」
「俺は今のうちいろんな味わってるだけさ」
「転職でもするの?」
「まさか。イヌモに入る前は糞みたいな食事だったからな。食事が楽しみで仕方ないんだ」
いまのうち楽しまないと、シックスアイがそう締めるとサラダを頬張って食事を楽しんでいる。しばらくしてハンバーグを刺したフォークを衛利に差し出した。
「食うか?」
「いいえ。それに私の一度口を付けた食器は使わない方が良いわ」
「どうして?」
「体内ナノマシンやら安定剤が分泌していて普通の人が摂取したらどうなるか分からないから」
「えっ……冗談だろ?」
「どうでしょう」
驚いたシックスアイを置いて、最後のひとかけらを頬張って空になったお盆を持って衛利は食堂から去っていった。
見届けたシックスアイは、視界とは反対居た汎用人型フレームの給仕にしばらく気づかず、余りの近さに驚いて飛び跳ねる羽目になった。
―――
九州新都市の郊外から更に少し離れた難民居住区。古い初期型電気自動車に混じり自転車に乗った多くの人間が道路を横断する。まるで人の川だと、道端に駐車してあるトラック荷台にいる柿種は思った。
「珍しいだろうな。豆腐付近に住んでるあんたらには」
柿種の前に座っているずぼらな男は嘲笑的に笑った。
「その不愉快な笑いはやめろ」
「おっとそりゃ失礼。それで本題だがその前に」
「持ってきている」
柿種は紙に包んだ物体を取り出すと男へ差し出す。中身を確認した男は今度はボロボロの歯を見せて一人で嬉しそうな笑みを浮かべた。その目はもはや普通の人間ではなかった。
「これは前払い分だ。確かな情報ならこれより倍の分持ってきてやる」
柿種は冷えきった目で男を見据えた。それに気づいた男は少しびくりとして包みをすぐ上着の中にしまう。
「旦那目つき悪すぎますぜ」
「構わないだろう。それで? イヌモの奴らについて知っている事を全部話せ」
「えぇ。俺は3年前の事件の日までここらあたりで掃除屋してたんだ。悪名高いイヌモのプライベートフォースが、自警団をテロ組織認定して掃討作戦した後や暗殺。閉鎖地域の絶滅作戦。その後始末だ」
昔の悪事自慢に男は下品な愉快さで饒舌となる。いちいちやめろと言うのは必要ないと思い柿種はそのまま続けた。
「なら聞いたことはあるだろう。利府里司徒と言う名前を」
喉が大きく動いたのを柿種は見逃さなかった。どのような答えであれこいつは何かを知っている。そう直感した。
「白を切ってもダメだ。奴の何かしらを知っているだろう」
先ほどの残虐行為の加担を半ば自慢気に話していた男が急に大人しくなり思い出すように言葉を選び始めた。
「噂は知っていた。なんでもたった一人で街に潜伏するゲリラ共を一人も民間人と間違えず皆殺しにしたとか、正直尾ひれの付いた話だと思っていた。だが、3年前の事でそれが嘘じゃねえと思った」
「何があった」
「同僚がやられたんだ。3年前のあの夜に緊急の呼び出しがあって、一旦集合場所の3階建てアパートの3階にある一室に集まった。早めに着いたら直接イヌモから雇われた奴と数人集まっていた。今思えば早急に集まった数人もイヌモと強い繋がりがあったのかもしれん。俺も部屋に入ったが、車にタバコを忘れたんで取りに戻ってる間、たぶん二分ぐらいだったと思う。戻ったら事が終わっていた。そよ風が通り過ぎたように静かにな。ただ生き残りが一人いたが、青ざめて正気を失ってた。超能力者だとか怪物だとか叫んで、声かけようとしたら窓から飛び降りやがった」
「超能力者?」
突然オカルトな話に怪訝な顔をする柿種。
「噂ぐらい知っているだろう? 今の若い中国の国家主席は遺伝子操作や特別な訓練を受けた超能力者だとかいう噂」
「噂はしょせん噂だ」
「火のない所に煙は立たぬ。日本人のことわざにはあるだろ? まぁ米中が仮初であれ先端技術の平和的交流の為に設立したのがイヌモグループだ。そんな技術を中国から持ち合わせていてもなんも不思議じゃねえだろ」
「仮にそんな技術があったとしても、たった一人でイヌモの旧体制をひっくり返した男を創り出せる大層な技術を持ち出すはずがない」
「さぁな。まぁ納得いかんだろうが俺の知りえることはそんだけだ。死んだ奴らはもっと知ってたかもしれねえがなぁ」
男は暗にお開きにしたい気だるげな雰囲気で、トラックの荷台の壁に背をくっつけた。
「話は終わりだ。約束通り渡してもらおうか」
「もう一つある」
「利府里司徒についての質問に対する対価はもらった。それ以外は契約外だ」
「貴様の過去の犯罪で逮捕してもいいんだぞ」
やれやれと慣れたように男は首を横に振った。
「駄目だな。俺だってこれで生きてたんだ。分からないなら知恵の実にでも聞くんだな。データがあればの話だが」
「……また連絡する」
男が荷台から降りた後、柿種は上着のポケットからチェーンを引っ張ると釣り下がった指輪が出てくる。それに指を這わせて一人呟く。
「まだ終わっていない。上層部が変わっても奴らの目的に変わりはない。そうだろう? もう繰り返させてはダメだ」