ギルド
門番に声をかける前に目立つであろう刀をインベントリに収納する。
ヘルプで聞いてみたところ刀は西の大陸の端にある地域にしかないらしい。
出来るだけ目立つことは避けたい。
深呼吸をし門番に声をかける。
「あの、すみません」
なんとか上擦ることなく声を出すことに成功するが内心は冷や汗かきまくり、心臓バクバクいっている状態。恐れるなかれ、女は度胸だ。女っていう程年取ってないけど。
なにせわたしは一人ではファミレス、コンビニ、マッ〇に怖くて入れないほど臆病なのだ。
別にコミュ障ではないよ。
声をかけたのだが返事がない。
通じてないのか?と思いながら再度声をかけてみる。
「あの」
「え、あっはい!な、何ですか?」
なんか凄く焦ってる?、いや緊張しているのか。良かった緊張しているのは門番も一緒なんだ。
「身分証が無いんですが」
この世界では村や街に入る時身分証が要るのはヘルプ済みだ。無い人は犯罪歴がないかチェックを受け、入村料を払わなければならない。
「え、そ、そうなんですか?てっきり冒険者の人だと…」
「そうする予定ですが、田舎から出て来たばかりでまだ登録してないんです」
嘘は言っていない。わたしが目覚めたのは森の中だから。
「わかりました。ではこれに手を翳して下さい」
門番は無色の水晶玉を出してきた。それに手を乗せて「いいですよ」と言われて手を下す。
「入街料は500ギルです」
「それなんですが、長旅で路銀が尽きてしまって…討伐した魔物を売るまで待ってもらえませんか?」
「はい…今日中だったら…」少し考え込んでから答える門番。
良かった。これが断られたらどうしようかと思った。
「どうぞ」と言われて門を潜り村の中にはいる。
聞くの忘れてた。
「あの、お聞きしてもいいですか?」
「え、ハイッ!」
先程より緊張しているようで声が裏返っている。思わずクスクスと笑いが漏れる。
あ、カンジ悪いよね。初対面の子どもにわらわれるなんて。
門番は顔を赤くした。
「冒険者ギルドはこの街にありますか?」
「えぇありますよ。仮登録しかできませんが」
「ありがとうございます」
それじゃ失礼しますねと頭を下げ歩き出そうとしたところで声がかかった。
「なんだ、嬢ちゃん。ギルドに用があるのか」
声をかけてきたのはガタイの良い中年の男で鈍い銀色の防具を身に付けている。
「はい」
「そうか、だったら俺が案内してやるよ」
「え?」
思ってもみなかった申し出に考えるよりも先に聞き返してしまう。
正直有難い。
ギルドがどんなところか知らないので自分で探すには時間がかかるだろうなと思っていたのだ。
有難くその申し出を受けることにする。何かあっても逃げればいいし。
「ありがとうございます。助かります」
「気にしなさんな。ちょうどギルドに戻るところだったんだ」
礼を言い頭を下げる。
わたしは男性の背中を追ってギルドに向かった。
村の様子は想像としていたものとほとんど変わらなかった。
ほとんどが木で作ってある建物で、メインストリートと思われる道には10件くらいのお店が並んでいる。
活気はあるがどこかさびれた感じがする。
服装はなんだか民族衣装っぽい。
すれ違う人たちはわたしの前を歩く男性に挨拶を必ずしていく。
街のお偉いさんだろうか?ギルドに戻るって言ってからギルマスとかかな?
・・・・っていうか、さっきからすごく視線を感じる。・・・ちょっと恥ずかしい。
何か変なところあるのかな?
わたしとしては普通のつもりなんだけど。
もうこの戦闘服に慣れている自分が怖い。
「ここがギルドだ」
立ち止まった男が指で示す。そこは村の中心のようで小高い丘になっていた。丘の上には2階建ての建物と物見台、物見台には大きな鐘があった。
「俺はこの街でギルドマスターをやっているダイルだ。よろしくな冒険者志望の嬢ちゃん」
ギルマスだったんだ。
相手が自己紹介をしたんだからこっちも名乗らなきゃいけないよね。
なんて言おうか。本名でもいいけど・・・1文字はぶくか。
「モエです。よろしくお願いします」
イントネーション的にここはカタカナのほうがいいか。
本名は萌穂と書いてもえみと読む。みがつくと不自然な気がする。
親しい人たちからはこう呼ばれていたし、ヘタな名前を言って反応できなかったら悲惨だし。
どうやら違和感無しに受け入れて貰えたみたいだ。
萌穂改めモエこの世界でのわたしが始まった。
ギルドの中はカウンターと紙の貼られたボードがあるだけの簡単な作りだった。
「ギルドといってもここは出張所でな。重要な手続きは無理だが仮登録なら出来る」
「はい」
「仮の登録証でも身分証の代わりにはなるから作っておくといい」
「はい、ありがとうございます」
男は私にそう教えると奥へと消える。
カウンターに窓口は2つあるが1つしか開いていないので迷う必要もない。私は暇そうに座っている受付嬢の元に行った。彼女は私を見て目を見開くがそれはほんの一瞬だった。
「登録したいのですが」
「ここでは仮登録しか出来ませんがよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。ステータスは見ますか?」
「え?…いえ、いいです…」
ステータスを見るってどういう事?自分で見れるよね?
不審に思いながら答える。
後で分かったのだが、自分のステータスでも解析スキルがないと見られないので普通は魔道具で確認するらしい。登録時は無料で見られるがそれ以外は料金が発生するため、子供のうちは自分の持っているスキルを知らない事が多い。インベントリはアイテムバッグを装備すれば併用して使えるようになる。ちなみに、スキルでは使用した本人にしか見えないが魔道具は皆に見える。
アイテムバッグは早いとこ準備しとこう。不審がられても困るし。
「この紙に必要事項を記入、お願いします。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
多分だけど、心の中で言い添える。
差し出された紙は真っ白では無かったが羊皮紙ではなく、ある程度紙が出回っている事が予想できた。
記入といっても名前と年齢だけ。普通に書けたが、自分の手から異世界の文字が綴られるのは不思議だ。
紙を渡すと確認をして門と同じ水晶玉を出してきて
「手を乗せてください」
「はい」
それが終わると「少々お待ちください」と奥で何か作業をしてすぐに戻ってきた。
「こちらが仮の冒険者カードになります。本登録出来る一番近い街はハマイヤの街です。ギルドの説明をしてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
・冒険者はF~A、S、SSの9ランクに分かれている。ランクによって受けれるクエストが決まっている。
・依頼達成数やギルドへの貢献度などでランクアップする。
・依頼長期無達成、失敗、迷惑行為などでランクダウンや除名処分がある。
・カード紛失、依頼失敗時は違約金が発生する。
・依頼は自分のランク上は1つ違いまで下は全て受けれる、種類によっては複数同時進行可能。
「ギルド内での冒険者同士の揉め事、喧嘩などは迷惑行為とされますのでご注意ください。正当防衛は別です。質問などはございますか?」
「いえ、ありません。魔物の買い取りもここで良いんですか?」
「はい」
「数が多いのですが・・・」
「では倉庫へどうぞ」
案内された倉庫はギルドと横に繋がっていた。
結構な広さがあり天井も高い。端の壁には魔物を解体するための道具類が並べられていた。
受付嬢は奥で道具を磨いている白髪交じりの男性に声をかける。
「カイさん、鑑定お願いします」
カイと呼ばれた男性は手を止めこちらにやってくる。