独り、村へ
ここから村までは残すこと約50㎞くらい。
わたしの歩くペースだと遅くて明日の夕方、速くて昼ってところ。
街への方角は西みたいだ。
このヘルプどうやら方位磁針が内蔵してある。便利だな。
廃村を出てひたすら歩く。
辺りは所々に岩が転がっていたり地面から突き出たり、石もそこら中に散らばっている。
転びやしないか少し心配だ。
自慢じゃないがわたしはどんくさいの部類に入るらしい。
らしいってのは運動はできるから。
運動神経は良い、体育の成績だって学年上位なのに担任や友達、家族にまでどんくさいと言われている。
まぁ確かに歩いている時には躓く事があるよ。
毎日数回は躓いて、階段は踏み外したり落ちそうになったりはする。
わたしは何時も何かしら考えながら行動している。
歩いている時は大抵考え事をしているそっちに集中しているから足元が疎かになり転びはしないが躓く事は毎日のようにあった。
幼いころは膝に生傷が絶えず中学の時は少し改善したが三年になると一週間に一回はあった。
毎日のようになったのは高校に上がってから。
よってわたしは学校ではドジっ子認定された。これ結構堪えるんだよね。
歩くこと一時間、街道は見えず未だに景色が変わることはない。
変わらず岩や石はあり草木は一切見当たらない。ある時から大きな岩ばかりになってきた。
今まではわたしの下半身くらいまでの高さしか無かったのにだんだんと大きくなっている。
中にはわたしの身長を超えるくらい。といってもわたしの身長は157㎝なんだけど。
「グギャー!ギッキィー」
その岩の一つから不快な何かを擦り合わせたような耳が痛い声が届く。
そっと気づかれないよう様子を見る。
オークの小さいバージョンがいた。
手に持っているのは棍棒じゃなくて刃毀れしている反り返った剣だが。
これまたお馴染みのゴブリン。しかも4体もいる。
進行方向だが仕方ない遠回りしよう。
ゆっくりと後退るが石に躓く。
コツンと音がなる。その音がやけに耳に残った。
何でここでやらかした!わたし!
音に気付いたゴブリンがわたしを見つけ向かってくる。
「グギィ!」叫びながら向かってくる。
クソッなんでこういう時に限ってやらかすんだ!
自分に悪態を付きながらチャンスだと思って薙ぎ払いを使う。
「薙ぎ払い!」
体が引っ張られるようにだけど自然に動き、三体纏めて屠る。
バシュウッと斬る音、剣線は白い輝きを帯びた。
ゴブリンは横並びになっていたので端は頭から胴体の下辺りまで斜めの車線が入る。
傷口からブシャアッと血が噴き出る。返り血を浴びないよう後ろに下がる。
凄まじい威力だ。一斬りで三体纏めて倒すことが出来た。
初めての剣技の使用と結果に体が興奮に震える。
三体の内、一番最後に斬ったゴブリンは威力が一番強かったのか肉片が飛び散り何かの珠を残した。
・・・もしかしてこれが本来の威力?他の2体の時は動きが悪かったからだろうか?
最期のほうが上手く出来たという手応えがある。
魔物は使える部分がほとんどみたいだし、威力を抑えたほうがいいな。
全部吹き飛ばしたらデメリットしかない。
ゴブリンをインベントリに収納して珠を解析してみる。
【名前】ゴブリンの魔石
【種類】魔石
【状態】普通
【備考】少ない魔力が篭った魔石・魔道具の素材・火魔法スキル(F)
へぇ~、魔石か、こんなのまであるんだ。
それよりも火魔法スキル(F)、早速コピーを使ってみよう。
コピーするとステータスに変動があった。
火魔法が追加された。うわぁ~早速使ってみたい!憧れるよね。
ヘルプで魔法について聞いてみると
魔法はイメージが大切でそれに通じる言葉を発したほうが成功するらしい。
威力は魔力に左右されるため低いランクでも威力は個人差がある。
ランクが上がることにより技を獲得出来たり複数同時操作が可能になる。
上級ランクになると緻密な操作が出来たりする。
イメージ力か・・慣れるまではやっぱ何か言ったほうがいいよね。何がいいかな?
うーん・・・無難にていうかめんどくさいからそのまま。
「ファイア」
掌の上に火の玉が出現した。結構大きい。
ハンドボールくらいの大きさ。
掴むことって出来るのかな?火傷しないかな?
怖々とぎゅっと手に力を入れてみると火の玉から1cm位の幅を空けてつかむことが出来た。
不思議と火傷はせず、少し熱いかな?ぐらいの温度しかない。
これで攻撃できるのか?あんまり期待しないほうが良さそう。
近くにあった一際大きな岩に向かって投げる。
ドカンッ!!
岩は大きな音を立てて跡形もなく弾け飛んだ。バラバラと音を立てながら岩の欠片が降り注ぐ。
・・・・ちょっと待て、Fだよな?それでこの威力ってヤバくない?
これ周りに人がいるときは威力抑えなきゃ、巻き込むな。
あまりの威力にぱちぱちと瞬き目をゴシゴシ擦る。
目を空けても目の前の惨状は消えない。信じたくないこの破壊を行ったのが自分だなんて。
軽~く現実逃避をしながら目を背ける。
魔法ってものすごく危険じゃん?!
この惨状を早々に記憶から消し去りたくて時間を確認してまた歩き出す。
昼休憩などを適度にとりつつ歩く。
数時間後夕刻が訪れた。
この世界の夕日は印象的で忘れることはないだろうと思える程に美しいものだった。
地面は真っ赤に染まり岩の影がはっきりと現れる。
そこに伸びるわたしの影。
この広い世界に独りでいることが突きつけられる。
一人は慣れている、一人のほうがいいと思っていた。
それはわたしのことを知っている人たちがいるから、一人でいても会おうとすれば会える。
誰かと居ようとしても誰も居ない。
寂しいと感じた。
夕日がもう沈むころ街道を見つけた。馬車の車輪の跡が残っている。
この道を辿れば街に辿り着くだろう。
夜が訪れてもわたしは歩き続けた。
野営ができるような道具もない、歩くしかない。魔物に襲われたら溜まったもんじゃない。
それは言い訳だ。
ただ、怖いだけだ。夢に、見そうなのだ。誰もわたしを知っている人はいない。わたしが知っている人もいない。それを夢に見るのが、怖い。
例え、死んでいても記憶はある。
寂しい。誰かと話したい。誰かと居たい。
独りは嫌だ。
朝になりインベントリからフルーラビットの肉を取り出して朝食にする。
収納したときと同じ熱々の肉を頬張る。わたしのイベントリは経過時間がないことがわかった。
この調子だと容量も期待できそうだ。
わざとポジティブに考える。
落ち込むことはもうしない。そんなことを考えたところでどうしようもない。
わたしはそういう風にできてある。過ぎたことは忘れる。それが一番、そうすれば傷つかない。
一回とことんまで落ち込んで立ち直る。立ち直るのに時間をかけてはいけない。
直ぐに行動する。
それがわたしだ。
夜の街道には馬車も人も居なかったが魔物は出た。
出現したのはオーク、ゴブリン、フルーラビット。この辺りには他の魔物は居ないのだろうか?何度も戦ったので疲れを感じてはいるが段々要領が掴めてきた。
敵が変われば戦い方も変える必要があるかもしれないが、火魔法と短剣も使えるようになってきたので攻撃のバリエーションは増えた。
そして、だんだんと戦うことが楽しくなっている自分に気づいた。
戦闘狂にはなりたくないなぁとそちらに思考を移す。
ふとした時に考えそうになるから。
夜通し歩いたお陰か昼前に木の柵に囲まれた村が見えた。
街の入り口にはがっしりとした石造りの門が鎮座している。
門に門番がいて暇そうに欠伸をしているのが見える。
喜びよりも安堵が大きかったが不安もあった。
なにせ異世界人との初対面、文字は読めたが言葉は通じるかまだ分からない。
さぁ、村は目の前だ。行こう。