この世界での勇者
部屋を出た先は何も無い草原だった。
周りには多少の木々と見た事の無い動物やらさらに先には山が見えた。
異世界、ここだけでそう実感できる程の光景だと俺は言える。
隣には一緒に部屋から出たソフィもちゃんといた。
と言うよりも俺気づくの遅くね?
ソフィが隣にいるのを忘れて目の前に広がる光景に目が行っていたのは俺にはどうしようもないのだが、そんな言い訳はよしとしてソフィが気を損ねていないか見たがソフィも呆然と目の前の光景に飲み込まれてた。
俺がソフィのことを眺めていたのが気づいたのか、顔を赤くして俯いてしまった。
「すみません。つい見蕩れてました。」
「ソフィが謝ることじゃ無いだろ?俺も実際にこの光景に見蕩れてたんだから。それにしてもソフィはこういうのはよく見てたんじゃないの?」
「知識としてあるだけで、その…実際に見るのは始めてなんです」
そんなものかと、俺はひとりで納得していた。
神様だからといっていって、何でも知ってたり見てたりするわけじゃ無いんだなと理解した所でこれからどうするかをソフィに聞くことにした。
「そうですね。ここから東に向かったところにオーレリア王国が一番近いですね」
「オーレリア王国か、それってどんなところかな?」
「オーレリア王国は勇者が建国した歴史ある有名な国ですね」
「へえ~勇者ね。それって俺みたいに異世界から来たの?」
「オーレリア王国の勇者はこの世界で生まれた人で間違い無かったはずです。名前は…確かアルス・ドラグーンでした」
アルス・ドラグーンそれがこの世界の勇者か。
俺は勇者というフレーズよりも『アルス・ドラグーン』に興味が惹かれた。
それが何故だかは分からないが知った方が良い気がすると思えた。
「それじゃオーレリア王国に行ってみるか」
「わかりました。それでしたら旅をしながら当麻さんにこちらの世界のお話をさせてもらいますね」
「それは助かるよソフィありがとうな!」
「はいっ!」
この世界に最初の魔王が現れたのは二百年前だった。
魔王は強力な魔物達を従え、人間や亜人達の国に攻めてきた。
それは地獄のような時代だと数多くの書物が残されており、そしてそれらを書いた学者達には必ず一人の青年とその仲間達の名が書かれていた。
『アルス・ドラグーン』
地獄と言われた時代に彗星のごとく現れた希望。
魔王に支配された国や大陸を救い出し、そこで出会った仲間達と共に冒険をし、そして魔王を倒した。
まさに『勇者』と誰もが称え、そして誰もが憧れた存在。
そして勇者は仲間達と各国の王達の協力のもと、また魔王のような存在がこの世界に現れた時、万全な対応ができるように一つの国が出来上がった。
それこそがオーレリア王国であり、今ではもう…世界から忘れられたアルスが愛した少女の名前でもあった。
「これが勇者のお話ですかね」
俺はその話の中で何かが引っ掛ていた。
いや、それが何かはわかっている。
だけどそれがここまで懐かしくも思い、とても哀しくも思うのはなぜだろ…
オーレリア、最初こそ気にもしなかったはずの名前なのにソフィから勇者の話を聞いた後だと何かを思い出したようにその名前が凄く愛しい…
「当麻さん…
当麻さん…
当麻さん!」
「ごめんソフィ。ちょっと考え込んじゃっていた」
「いったいどうしたんですか?」
「何でもないないんだ。本当に何でもないから気にしないでくれ」
「そこまで言うなら、良いですけど。何かあったら相談してくれて良いんですよ?
私は当麻さんのお嫁さんなんですから」
そうだよな。
この気持ちが何なのかはまだ分からないけど、その答えがこの先でわかるかも知れない。
勇者の国になら必ず彼女に関わる物があるはずだと俺は確定に近い気持ちだった。
他にもソフィが教えてくれる話はどれも興味深く、中でも冒険者には男の子としては凄く興味が出た。
冒険者にはランクがあるらしく、ランクが高い程高難易の依頼を受けることができる簡単な仕組みだ。
冒険者になるには試験官のもと模擬戦をおこない、その結果によってランクが渡されるらしい。
ランクはFランクからEランクまでが初級冒険者DランクからCランクまでが中級冒険者BランクからAランクは上級冒険者それ以降のSランクにSSランクはまさに最強の冒険者と言える程凄いらしい。
俺はオーレリア王国に着いたら早速冒険者ギルドで試験を受けようと決めた。
ソフィも一緒に受けるらしく、神様が相手だとやばいんじゃ無いかと思って聞いてみたのだが、力は何重もの封印がされており、今は俺と同等の実力しかないそうだ。
それからもオーレリア王国に着くまでの間、この世界の常識をソフィから教えてもらいながら何の事件もなく到着した。
だがそれはまだ、あの大事件が起きる嵐の前の静けさでしかない。