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茜&統也&アース

茜空

作者: 美緒

思い付きで書きなぐった感じのもの。

設定等、穴だらけではありますが、それでもよろしい方はどうぞ。

Chapter.1


 橙色に染まる道を私は一人歩いていた。

 いつもの慣れた帰り道。響く靴音は一定で、少しも乱れない。


 頭の中をしめるのは、今日の晩御飯のメニュー。

 明日は土曜日で学校が休み。時間はいっぱいあるから、買い物は明日に回して……冷蔵庫の中に何が入っていたかな? あるのだけで作れるものがあれば良いけど、レパートリーが少ないからなぁ……何か美味しいものがないか調べてみようかな?

 そんな風に思考しながらも慣れた足は、いつも通り角を曲がり――


 ――止まった。


 私の瞳は、角の先に広がっていた光景に釘付けとなる。


 淡いオレンジから茜、藍へと変わる空の下。金の光が夕陽を反射している。

 暮れ行く街。静寂だけが支配するこの場所に、金色の天使が立っていた。私にはそう感じられて仕方なかった。


 瞬き、金の天使を凝視すれば。それは何故か知っている光景の様な気がして……?


 あれ?


 何故だろう。見た事がある?


 え?


 あれー??


 パチパチと瞬きし、目の前の光景と金色の天使を凝視する。


 うん、やっぱり見た事が――


 ……?


 …………うーん?


 ……?


 ――あーーーーーーっ!!


 うん。見た事ある筈だ。

 この『絵』をカラーで見た事がある。


 ……前世で。


 どうやら私、アニメだか漫画だか忘れたけど、そっち系の世界に転生しちゃったようだ。

 え? 私のポジション? ヒロインなのかって? いやいやいや。冗談じゃない。

 モブですモブ。キング・オブ・モブ。なんのこっちゃ。

 まあ良いや。


 私の立ち位置は、今目の前に居る金色の天使改めヒーローに憧れちゃってる、その他大勢の女生徒の一人。完璧な背景の一部です。

 モブ絵の中に描かれる事すらない、セリフもない素敵なモブです。


 ちなみに、『金色の天使』なんて恥ずかしい呼び方しちゃっている事から分かるだろうけど、彼は金髪碧眼のザ・王子様☆な容姿をしている。

 眉目秀麗、質実剛健、文武両道などなど。誰に聞いても四文字熟語オンパレードの彼の名は『皐月統也(さつきとうや)』。モロ日本名なのに金髪碧眼なのは、こういった物語系のある種のお約束。そして、生徒会役員なのもお約束?

 そんな彼が、角を曲がった先に居る。何故か壁の方を向いて、電信柱の下の方をジッと見詰めていた。


「……?」


 なんだろうと思って、視線の先を追い、私は再び固まった。

 だってだってだって!!

 そこには、真っ黒い仔猫が居たんだよ! かーわーいーっ!!


 彼が見詰める先で、弱々しくはあるけれど、確かな命の声が響く。くっ! 可愛すぎるじゃないか!

 仔猫は、小さな段ボール箱に入っていた。ちょっと見にくいけれど、たどたどしい文字で『ひろってください』と書かれている。

 状況を理解した私は、思わず、彼に近付いた。


「皐月君」


 呼び掛けると、彼はビクッとしたように私を見て、目を見開いた。


「君は……確か、結城茜(ゆうきあかね)……だったか?」


 すごっ! 彼、私の名前を知ってたよ! クラス違うのに! しかも私はモブなのに!!


 びっくりしながら頷くと、彼――皐月君は首を傾げた。


「何の用だ?」

「うん」


 言外に、話した事ないのに何の用だと聞こえたのは気の所為、という事にしておこう。うん。


 私は、彼から目を逸らし、黒い仔猫を指差しながら訊ねた。


「この仔猫、皐月君が捨てたの?」

「何故そうなる……」


 思いっきり不快です、と言わんばかりに顔を顰められた。やだなー。念の為の確認だっての。

 それにしても、うーん。そんな顔してもカッコイイって、美形は特だねー。うらやましいわ。

 とか言っててもしょうがない。もう一つ確認を。


「じゃあ、拾うつもりなの?」

「いや……」


 今度は思いっきり顔を曇らせた。拾いたいけど拾えないって感じかな。


「……学院の寮暮らしで、ペット厳禁だから……無理だ」


 寂しそうに、悲しそうに、未練たらたらって瞳を仔猫に向けている。

 そんな顔見ちゃうと、こんな事言うのは(はばか)られるけど……でも、言わせてもらう。


「じゃあこの子、私が拾っても良い?」

「は……?」

「ダメ?」

「いや……」


 何故か困った様に眉根を寄せ、彼は私を見た。


「……何故、俺に断る?」

「え? だってさっき、すっごく凝視してたから。断った方が良いのかなーって」

「!!」


 私が『凝視していた』と言った瞬間。彼の顔が夕日に負けないくらい真っ赤になった。あ、ちょっと可愛い。


「そ、そんなに……凝視してたか……?」

「うん。穴があくんじゃないかと思うくらい見てた」

「そ、そうか……」


 片手で口を隠し、プイッとそっぽを向いてしまう。あらま。凝視してたのは無意識なのかな?

 ちょっと可笑しくなって笑うと、彼は「笑うな」と言って、私を横目で睨みつけてきた。

 いや、口を隠して赤くなったまま睨まれても、何かもう可愛らしいだけだから。


「それで? 私が飼っても良いよね?」


 念を押すように尋ねると、彼は真顔に戻り私をジッと見てくる。


「……」

「何?」

「いや……」


 何故か苦虫を噛み潰したような顔をして彼は声を絞り出した。


「……そんな簡単に『飼う』と言うのもどうかと思うが」

「は?」


 何故に?


「……親にダメと言われたらどうするつもりだ」


 ああ……何だ。そういう事か。

 私の顔に苦笑が浮かぶ。


「それなら大丈夫だよ」

「分からないだろう?」

「うん? だから、問題ないって」

「何が『だから』だ――」

「うん。私、親、死んじゃっていないから」

「――っ!?」


 サラッと言った私を彼が凝視してくる。さっき、仔猫を見ていたのと良い勝負になるくらいの凝視っぷりだ。

 私はそんな彼に苦笑するしかない。

 そしてふと、思う。


 親が亡くなったのはかなり前の話だ。今の私は母方の親戚を後見人に高校へ通っている。

 最も、後見人とは言っても名前だけ。私は親が死んでしまう前から、実の親と暮らしていた家で一人暮らしをしている。

 親が残してくれたお金とバイト代で生活しながら高校へ通う。そんな生活。支援? ないない。あの自分の事しか考えていない後見人が支援なんてする訳ない。

 そんな訳で、質素倹約しながら学校へ通い、気の合う友人と学び、遊ぶ生活は大変ではあるけれど楽しい。

 でも楽しい分、家で『ひとり』になるのがきつい。

 最後の頃、親は入院していて家に居なかったから、結局はずっと『ひとり』だったんだけど……会える『一人』と、会えない『独り』はこんなにも違うんだって実感している。

 だから……欲した。


「動物好きなのもあって、新しい『家族』を迎えたいなってずっと思ってたの」


 寂しさに耐えかねて、本当なら明日、探しに行こうかなって思ってたんだけど……。


 私は仔猫を見る。真っ黒い、仔猫。可愛い子。はっきり言っちゃうと……


「あのね、遠くから見ただけだったんだけど、この子に一目惚れしちゃったんだ」


 か細い鳴き声が聞こえた時、運命だって、思っちゃったんだ。


 一緒なら、寂しくないよね? そう、思った。


「小さくても、大事な『命』。ちゃんと、一緒に居るよ」

「……そう、か」


 彼は気まずそうに視線を逸らし、仔猫の前に屈み込む。

 どうしたんだろう? と見ていると、そっと仔猫を抱いて立ち上がり、私を真っ直ぐに見詰めてきた。


「……手」

「へ?」


 反射的に手を差し出すと、彼は私の少しだけ伸びた腕に仔猫を乗せ。


「わっわっわっ」


 私は、仔猫を落としてなるものかと、慌てて両手で抱える。


 彼の手から私の腕の中へと移される黒い仔猫。彼の手が仔猫から離れようとした瞬間。


「なぁお」


 瑠璃色の瞳が私と彼を見ながら、一声鳴いた。

 その瞳と声に、私は惹きつけられ。


「――うん。決めた!」


 少しだけ仔猫を持ち上げ、その小さな小さな頭に頬ずりする。


「お前の名前は『アース』。アースだよ」

地球(アース)?」

「そう! この子の瞳、宇宙空間で見る地球の様に綺麗な瑠璃色だから『アース』!」


 写真で見た、綺麗なキレイな青。多くの人を惹きつけてやまない地球。

 どうかそんな地球の様に、愛される存在であって欲しい。愛すべき存在であって欲しい。

 その名前は、私の願いでもある。


「アース、か……良い名前だな」

「ありがとう!」


 なし崩し的に彼の前で名前を決めてしまったが、そんなのは些事だろう。

 大事なのは、私の新しい『家族』。


「宜しくね、アース!」

「なぁう」


 それはまるで、宜しくと返してくれたかの様に聞こえ。


 私の顔に笑みが浮かぶ。どうしよう。嬉しい。


「そうと決まれば。アース用に色々揃えなきゃね!」


 買い物は明日、とか考えていたけど、最低限必要なものは今日中に揃えちゃう方が良いだろう。

 ペットショップとATMが閉まる前に急がないと!


 私は一歩を踏み出し、アッと思い出して振り返る。


「ちゃんと、大事にするから!」

「ああ」

「うん、じゃあ、バイバイ」


 少しだけ名残惜しそうに仔猫を見る碧の瞳に背を向け、私は速足で歩き出す。走りはしない。だってアースが少しだけ震えている気がするから。怖がらせたくはない。


 浮かれながら、腕の中の体温だけを気にしていた私は気が付かなかった。

 彼が私の背中を見送っていた事に。


 そうして。


 後で気が付いた。見覚えがあると思ったあの『絵』の意味。

 ヒーローが仔猫を構い、飼えないからと後ろ髪を引かれつつ「ごめんな」と呟きながらその場を離れ。

 一部始終を目撃していたヒロインは、そんな彼の優しさに惹かれ、仔猫を拾っちゃう、そんなシーン。


 そしてアースは、ヒロインとヒーローを結びつける大事なキーパーソン。


 あれ? 私……オープニングイベント邪魔した?

 しかも、キーパーソン、お持ち帰り?

 これでヒロインが転生ヒロインで、物語通り進めようとか思っている人だったらヤバくない?

 ってか、一部始終を見られちゃっていた危険性ありですか? もっとヤバくね? 積んでない?


「なう」


 ゴロゴロと私に甘えてくるアース。うっ、可愛い。


 ダメ。この可愛さと温かさを知っちゃったら、もう手放せない。

 ヒロインがアースを奪おうとしたら、間違いなく徹底抗戦しちゃう。


 ……うん、もう、良いや。


 アースの為なら、ヒロインだろうと何だろうと敵に回して悔いなし!!


 本来はモブなのに悪役にシフトチェンジ?


 アースの為だ。どんとこい!











Chapter.2


 HRが終了した途端。私は鞄を手に取り、さっさと教室を後にする。

 担任より教室を後にするのが早いけど気にしてられない。速攻で帰って、アースと遊ぶ方が大事だ。

 昇降口に足早に向かっていると、背後から足音が複数聞こえ。


「茜!」


 ポンと肩を叩かれた。

 叩いてきたのは、同じクラスの友人達。


「随分急いでるね?」

「うん。家で、可愛い『家族』が待ってるから」

「え?」

「先週末にね、仔猫拾ったの」

「え! どんな子、どんな子!?」


 私と同じくらい可愛いもの好きな友人達は食いつき方が違う。並んで歩きながらも、興味津々といった顔で私を見ている。


「全身が真っ黒でね、綺麗な瑠璃色の瞳をしている可愛い子!」


 ちょっとだけ自慢げに言うと、友人達が笑った。


「茜ってば。もう飼い主バカになってる」

「だって、そのくらい可愛いんだよ!」


 力説すると、「写真ないの?」と聞いてきたから、スマホの待ち受け画面を見せる。

 そこには、こっちを見上げているアースの姿。


「かっ、可愛い~~~!」

「ホントに綺麗な瞳の色だね」


 写真を覗き込みながら友人達がアースを褒めてくれる。

 それが嬉しくて、思わずデレる私。するとまた、友人達が笑った。


「こんなに可愛い子が待ってるなら、早く帰ってあげたいよね」

「そういう事」


 足を止めずに断言すると、友人達は笑ったまま立ち止り手を振る。


「では、急ぐのだ茜よっ!」

「あはは、らじゃー」

「落ち着いたら、あたし達にも会わせてよー」

「勿論!」


 友人達は部活があるから、また明日、と手を振って別れ、私は昇降口に急ぐ。

 帰ったら、まずは掃除しないと。トイレのしつけとかやっているけど、まだ数日。完璧ではない。だからこそ掃除大事。不潔な所為で病気になっちゃうとか冗談じゃない。


 昇降口で靴に履き替え、正門に向かう。

 拾ってから、こんなに長時間離れている事なかったから、アース、寂しがっているかな。急がないと。


 小走り気味に正門を抜けた途端。


「結城」

「へ?」


 呼ばれて振り返ると、丁度正門を抜けてくる彼――皐月君の姿があった。


「随分と急いでいるな」


 長い足で私に追い付くと、促すように歩き出した。

 私は困惑しながらも、皐月君の半歩後ろをついて行くしかない。


「アースが待っているから、早く帰りたいだけ」

「ああ、なるほど。……随分、可愛がっているんだな」


 チラッと私を見て微笑する皐月君。普段、笑っているところなど見た事ないから結構な破壊力です。美形、恐るべし。


「だって、本当に可愛いから」


 握り拳を作り、きっぱりと返事する。脳裏に浮かぶのは、捨てられちゃった所為か、甘えん坊で、家に居る時は片時も私から離れようとしない仔猫(アース)の姿。

 思わず、口元が緩む。


「……顔がだらしない事になってるぞ」

「うっ」


 慌てて頬を押さえ、ポーカーフェイスを作ろうとすると。

 皐月君が肩を震わせ、顔を背けた。


「……からかった」

「いや、そんなつもりはなかったんだが……」


 そんなつもりないとは言いながらも、声が笑っている。

 昨日まで面識なかった人間をそんなに笑うな!

 少しむくれていると、皐月君は笑いながら振り返った。


「あまり、甘やかしすぎるなよ?」

「うっ……」


 実は、自分がかなりアースに対して甘々な自覚は、ある。

 でもさ、あんなつぶらな瞳で自分を見上げ、「なぁお」と擦り寄ってこられて甘やかさないでいられる!? 無理でしょ!!

 だから、素直に白旗を上げる。


「手遅れ」

「おい」


 今度こそ、皐月君は声を上げて笑った。

 もういい。勝手に笑ってれば! ふんっ!!


 私は鞄を抱え直し、駆け出す。


 ――が。


 皐月君の横をすり抜けようとした瞬間、腕を掴まれ引き止められる。

 驚いて振り返ると、少しだけ眉根を寄せた皐月君が私を見下ろしていた。


「その、な……」


 歯切れ悪く、何か言いたそうに視線を彷徨わせる。

 何故かピンと来た。ああ、皐月君はアースに会いたいのだと。

 思わず、私の口から言葉が零れる。


「アースに会いに来る?」

「えっ!?」


 皐月君が大きく目を見開いた。












Chapter.3


 無意識に誘ってしまったが、皐月君は驚きはしたもののその申し出に即座に飛びついてきた。そんなに会いたかったんだね……まあ、あの可愛さだから、その気持ちも分かるよ、うんうん。


 通り慣れた家に帰る道を二人で歩く。

 皐月君は照れながら、今居る寮はペット厳禁で飼えないが、実家では猫を飼っていて、猫は大好きなんだって私に説明してくる。

 実は自分もアースに一目惚れしていた口だから、もう一度会いたかったとも言った。


 そんな訳で、王子様・イン・マイハウス。


「アース! ただいま~!」


 鍵を開けて家の中に入ると、「なぁう」と思いっ切り甘えた声を出して、たしたしとアースが駆けてきた。かわゆす!!

 元気いっぱい甘えてくるアースを存分に撫でる。嬉しそうに瞳を細める姿がまた可愛過ぎ! うちの子、最高です!!


「まだ二、三日くらいしか経ってないのに、随分元気になったな」


 ゴロゴロと喉を鳴らし、元気に鳴きながら擦り寄ってくるアースを見て皐月君が呟く。

 ああ、まあね。拾った当初は、か細い鳴き声しか出せず、震えていたもんね。その姿しか分からなければ、随分元気になったように見えるよね。


 実際は。

 家に連れて来て、身体を温めつつ、温めのミルクを少しずつ与えたら、あっという間に元気になったんだけど。

 あの箱に入れられてから余り時間が経っていなかったのか、それとも、アースがタフなのか私には分からないけど、元気なのは良い事だよね。


「なぁ」


 私に存分に甘えた後、アースはひと声鳴きながら皐月君に擦り寄る。先に自分を見付けた人を覚えているんだろう。

 皐月君は驚いた様に目を見張った後、蕩けるような笑みを浮かべてアースを撫でだした。うむ。色んな意味で眼福。


 じゃれ合う一人と一匹を眺め、私の顔にも笑みが浮かぶ。思わずだったけど、皐月君を連れて来て良かった。どちらも嬉しそう。

 玄関先で見守る態勢になっていた私に気付いたのか、皐月君が私を見て、照れ臭そうに頬を掻いた。アースはそんな皐月君の足に擦り寄っている。


「すまない。つい、夢中になった」

「構わないよ。とっても嬉しそうだし」


 笑いながら返事すると、皐月君が驚いた様に目を見開き、何故か顔を赤くした。

 うん? 何か変な事、言っちゃったかな?

 自分の言葉を思い返し……主語が抜けている事に気付いた。やばい。これは勘違いするかも?

 私は慌てて、皐月君の足元に居るアースを抱き上げる。


「アース。構ってもらえて良かったね~」

「なぁう」

「ああ、そっちか……」


 私の言葉にアースが応えると同時。皐月君がボソッと呟いた。小さい声だったけれど、しっかりはっきり聞こえた。

 これでセーフ? 皐月君が嬉しそうで良かった的な勘違いはされてないよね?

 窺うように皐月君を見ると、何故だかバッチリ視線が合って。二人揃って慌てて目を逸らす。

 何やってんのとも思うが、どうすれば良いのか対処が思い浮かばない。


「なぁ~」


 アースの鳴き声で我に返る。

 アースに会いに来るかと誘ったのは私なのに、誘った相手をいつまで玄関先に立たせておくんだ!?

 慌てて皐月君を中に促した。


 ん? 家に上げて平気だよね?

 問題ない……筈?


 ……あ、れ……?


 あー!!

 も、問題あったーっ!!


「ご、ごめん、皐月君! ちょっと待ってっ!!」

「は?」


 驚いて目を見開く皐月君にアースをお願いし、私は慌ててリビング兼アースの遊び場(?)に飛び込む。

 普段はちゃんと掃除して、綺麗にしている筈のそこは……アースが遊びまわったのか、ちょ、ちょっと? 荒れていた。粗相もしちゃっているようだ。

 救いは、何かあれば捨てれば良いと敷いておいた古いタオルの上にしている事。ゴミ袋と掃除用具、違う古いタオルを持ってきて、タオルを捨てて拭き掃除し、消臭除菌。古いタオルを敷き直して完成。

 それを何度か繰り返し、散らかっているティッシュとかをまとめて捨てて、アースのトイレを覗いて……ごめん。時間経ってたから、結構汚れちゃってるね。慌てて掃除し、引っ繰り返っているエサ用の皿を定位置に。水飲み用の容器は……セーフ。入ってなかった。


 バタバタと片付けて、これで大丈夫と振り返ったら……皐月君がリビングのドアの前でアースを抱っこしたままポカンとしていた。

 み、見られていたようです……。


「ごめんね。誘ったのは私なのに待たせて」

「あ、いや。大丈夫だ」


 恐縮しながら謝ると、皐月君はハッとしながら頭を振った。


「生き物を飼う大変さは知っているから問題ない、が……」

「が?」

「いや……飼い始めたばかりなのに、随分、手慣れていると思って……」

「あはは。一人暮らし歴長いし、アースのワンパク振りに、数日で慣れざるを得なかったというか……」

「……なるほど」


 アースを床に下ろし、皐月君は納得した様に頷いた後、苦笑する。心当たりがあるようだ。


 その後。

 アースと遊びつつ、皐月君は色々な事を教えてくれた。猫のしつけ方とか、食事とか。実家で飼ってるというだけあって詳しい。流石としか言いようがない。

 パッと見、アースは生後1カ月から2カ月くらいだから、1回目のワクチン接種しておいた方が良いとアドバイスをもらった。大体の金額まで答えられるってすごいね。

 評判の良い獣医さん調べて行ってこようかな? 外出用にキャリーバックも探そう。リュック、ショルダー、カートなどなど色々なタイプがあるらしいから悩みそう。

 あ、ペット保険も要チェックだね。後でネット検索してみよう。


 皐月君の話を聞きながら、あれもこれもと考えてしまう。

 それに気付いたのか、皐月君が苦笑した。


「先ずは信用できる獣医を見付けて、性別確認とワクチン接種。その後は追々って感じで良いんじゃないか?」

「え? それで良いの?」

「何でもかんでも完璧にやろうとして、自分やアースにストレス与えたら本末転倒だろう」

「う……確かに……」


 ふっと、肩の力が抜けた気がした。ああ、もう。経験者のアドバイスはありがたいや。


 お礼の意味を込めて夕食をご馳走し、皐月君は帰っていった。

 アースと一緒に玄関先で見送って、扉を閉めた時「あれ?」と思う。


 ……何で私、こんなに皐月君と仲良くなってるの……??












Chapter.4


 それからというもの、何故か私は毎日のように皐月君と家に帰り――生徒会の仕事がある時は待つように言われている――、皐月君とアースと過ごし、夕食を一緒に食べて、お見送りしている。

 はて……何がどうしてこうなった??


「茜ってば最近、皐月君と仲良いね~」


 お昼のお弁当を食べつつ友人達と話していたら、突然そんな事を言われ、私は虚をつかれて瞬きを繰り返す。今、何を言われた?

 言葉を頭の中で繰り返し、理解した途端。苦笑が浮かぶ。


「仲が良いと言うか……」

「何々。何があったの!」


 興味津々といった感じで訊ねてくる友人達に苦笑が深まる。


「アースを拾った現場にたまたま? うん。たまたま、皐月君が居合わせてね。初めて生き物を飼う私の様子がかなり不安らしく、妙に面倒見てもらっているだけ」

「ああ……」


 納得する様に頷く友人達。ひどくない?

 これでも一人暮らし歴長いんだよ? それなりにしっかりしてると思うんだけど?

 そう言うと、友人達は残念なものを見る様な目で私を見た。


「まあ、茜はこうじゃなくちゃね~……」

「確かに」


 何故か憐れむ様に遠くを見る友人達。一体何なの?


「茜ってば激ニブ」

「皐月君、かなり分かりやすいよね」

「うんうん」


 だから何が!?


「「「やれやれ」」」


 ひどいんだけど!?


 とまあ、何故か友人達にからかわれたというか、呆れられたというか?

 そんな事があったその日。事件は起こった。


「ちょっとあんた!!」

「へ?」


 放課後、昇降口に向かって廊下を歩いていた時、突然、後方から怒鳴り付けられ振り返る。するとそこには、なーんか、どっかで見た事あるような女子生徒が私を睨み付けるようにして立っていた。

 違うクラスの人間なんて、生徒会とか委員会とか、関わりがないと覚えていないんだけど……この人、そのどれでもないよね? どこで見た事あるんだろう?

 首を傾げていると、見た事あるけど知らない女生徒がぎゃんぎゃんわめく。


「あんた、あの黒猫、あたしに返しなさいよっ!!」

「はぁ?」


 その言い方にカチンときた。

 この人、何様のつもり? 『あの黒猫』とはアースの事だろう。言われて思い出した。コレ、ヒロインだ。


「あの黒猫はもともと、あたしのモノよ!」


 私のそんなに長くない堪忍袋の緒が呆気なく切れた。

 アースが『モノ』? 『モノ』ですって? 


「どこの誰だか知らないけど勝手な事を言わないで。アースは私が拾ったの。拾った時、貴方みたいな人、何処にも居なかったけど?」

「うっさいわね! あたしのモノと言ったらあたしのモノなのよ!! モブの癖に、ヒロインに口答えするんじゃないわよっ!!」

「うるさいのは貴方でしょう! 何訳の分からない事わめいているのよ! アースは私の家族よ! 人の家族を『モノ』扱いするなっ!!」

「なっ!!」


 顔を真っ赤にして怒りの所為かブルブル震えるヒロイン。私はその顔を睨み付ける。


 あーあ、最悪。この人、最悪の転生ヒロインじゃない。世界が自分中心に回ってると思っているタイプ。

 え? ヒロインの名前? 知らない。だってこの人、名乗らないんだもん。

 こんな態度の悪い、イタイ系ビッチヒロインの名前なんて思い出したくもないし、呼びたくもない。


「あんたがアレを横取りするから、あたしが統也君と仲良くなれないじゃない!」


 知るか! そんな事!

 本当に結ばれる運命なら、アースが居なくても何とかなるでしょ! ここは現実(・・)なんだから。


「いいから、さっさと返しなさい!」

「アースは私の家族だって言ってるでしょ! その耳は飾りなの!?」

「うっさいっ!!」


 とうとう、目の前の人が拳を振り上げる。

 やばっ! 殴られる!


 反射的に目を閉じ身構えた次の瞬間。


「――へ?」

「――あっ!!」


 私のマヌケな声とヒロインの驚きの声が重なる。


「とっ、統也君!!」


 ヒロインの声が聞こえ、この場に皐月君が居るのは分かった。分かったけど……私の視界は暗闇で、その姿は見えない。

 何かに引っ張られるような感覚があった後、目の前は真っ暗。分かるのは、私の背中に誰かの腕がある――って、腕!?


 慌てて身動ぎすると、暗闇に光が差し、頭上から心配そうな声が降ってきた。


「大丈夫か? 結城」

「さ、皐月君……」


 頭上の声の主は皐月君でした。見上げると、碧の瞳が声の通り心配そうに私を見ていた。


 えーと?


 何で、ここに皐月君が?


 というか、私……?


 さ、皐月君に抱きしめられてっ!!?


「だ、大丈夫っ!」


 叫ぶと同時に離れようとするんだけど、何故か皐月君は腕の力を緩めてくれない。

 お願い! はーなーしーてーーーー!!!


 心からの叫びは声にならず、私は金魚の様に口をパクパクさせる事しかできない。ちゃんと働いて! 私の口!!


 挙動不審な私に苦笑しつつも、皐月君は私を腕に閉じ込めたままヒロインを睨み付けた。


「最初から話は聞いていた。何、訳の分からない事を言っている」

「ち、違う! 統也君! あたしは、あたしのモノを取り返そうと――」

「だから、それが訳のわかない事だと言っているんだ。あの仔猫は、俺の見ている前で結城が拾った。その時、お前はどこにも居なかった」

「だ、だからっ、それは――!」

「くどいっ!」


 ヒロインの言い分をぴしゃりと遮り、皐月君は呆れた様に口を開く。


「迷惑を顧みず、俺にまとわりついてくるだけでは飽き足らず、結城にまで迷惑かけるとか最低だな。今後、俺に近寄るな」

「と、統也君――!」


 ヒロインが縋る様に手を伸ばしてくるけど、皐月君はそれを無造作に振り払い私を見た。


「帰るぞ、結城」

「で、でも――」

「いいから」


 皐月君が私の背中を押す。それに促されて一歩を踏み出し、漸く私は気付いた。

 放課後の廊下。しかも昇降口に結構近付いていた場所。


 ……すごい野次馬がいますよ……。


 は、恥ずかしい……!!


 必然的に私の足が速くなる。すると――後方で、皐月君が小さく噴き出したのが分かった。

 笑い事じゃないんだけど!?

 それにそれに。何か知らないうちに、ヒロインと皐月君を取り合っていたっぽくなってた気がするんだけど? ……こんな状態で、明日、どんな顔して学校来れば良いの!?


「何とかなる」


 笑いながら言われても説得力ないし! 何なの? その楽観的な思考は!?

 頭ポンポンしないでよ!

 って、だからって撫でないでよ?!


 皐月君に振り回されつつ、昇降口へ急ぐ。


「統也君!!」


 ヒロインの声がした気がするけど……


 私も皐月君も、振り返る事はなかった。












Chapter.5


 気まずい気分を味わいながら、皐月君と並んで歩く。

 向かっているのは勿論、私の家。

 あんな事があっても、私と皐月君の予定(?)は変わらない。


「何か、悪かったな」

「え?」


 突然、皐月君に謝られ、私はその顔を見上げる。

 バツが悪そうな皐月君は、顔を顰めたままボソボソと話し出す。


「最近、あいつに絡まれてて、な……」

「うん」


 皐月君の言う『あいつ』とはさっきのヒロインの事だろう。

 あのビッチ振りからすると、相当しつこく皐月君に付き纏っていたのだろうと簡単に予想が付いた。


「ずっと無視していたんだが、突然今日になって、結城の事を悪し様に言い始めて」

「……」

「結城が悪いんだとか何とかわめいて、走り去って……嫌な予感がして結城を迎えに行ってみたら、あれだ」

「……それ、皐月君が悪い訳じゃないでしょう。あの人が、ただ、傍迷惑なだけで……」

「そうだけど……でも、あいつ、俺の名前を出していたし……意味解らないが、俺が関係しているんだろう? だから、ごめんな。嫌な思いしただろう?」

「だから! 皐月君は悪くないでしょ! 謝る必要なし!」


 行儀が悪いと分かりつつ、私はビシッと人差し指を皐月君に突き付ける。

 皐月君は驚いた様にその指を見て、私を見た。


「お互い、訳の分からない事で嫌な思いをした。だったら、ああいう変な人の事はさっさと忘れるに限る! それが一番建設的な方法なの!」

「……暴論」

「暴論で結構! 私は、何も悪くない皐月君が謝る事なく、嫌な思いをしない方が大事!!」

「――!」


 きっぱりはっきり言い切った途端。私の身体はぬくもりに包まれた。


 ……わ、私……また(・・)皐月君に抱きしめられてるっ!?


「さっ、皐月君っ!?」


 微かに自由になる手で皐月君の身体をパシパシと叩くけど、皐月君の腕の力は弛まず、さらに強くなっていく。


 ぎゅうっと抱き締められる中でふと気付く。

 夕闇迫るこの場所は――奇しくも、アースを拾った場所だった。


「最初は――変な奴だと思ったんだ」

「は?」


 え? さっきまでの話の流れ的にヒロインの事ですか!?


「話した事もないのに、突然声を掛けてきて、仔猫を拾って良いかと俺に聞いてきて……」


 違った。

 え? あれ? 何故突然、私の事を話し出すの!?


「仔猫の名前を決めて、嬉しそうに笑った時――その笑顔に見惚れた」


 ――は?


「頼る者が誰も居ないのに仔猫を飼うと言うから気になって……結城を探して、声を掛けた」


 あれって、わざわざ私を探して声を掛けてきたんだ……。


「話が聞けて、アドバイスでも出来れば良いと思っていたんだが……まさか家に誘われるとは思ってもみなかった」


 耳元で微かに笑う息遣い。うう……くすぐったいです。

 って、ちっがーーーう!! くすぐったいじゃないでしょ、私!


 何なの、これ! 何のシチュなのよ!!

 というか、何で私は皐月君に抱きしめられてる訳!? 心臓バックバクで落ち着かないから放してほしいんですけど!?


 自分の体を包む熱に私の思考はショート寸前。どうしよう、どうしようと考えていたら、首筋にサラッとした感覚が滑る。

 息とは違う、さらさらが増したくすぐったさと、角度の変わった皐月君の身体の位置。皐月君の顔が私の顔の真横に――!?


「う、うにゃあああああぁぁーーーーーっ!??」


 思わず、妙な叫び声? を上げて皐月君の身体を力いっぱい押し退ける。

 そんな事をされるとは思っていなかったのか、皐月君はあっさりと離れ、ポカンとして私を見ている。 


「結城?」


 麗しい尊顔が少し傷付いた様に私を見ているけど――。


 ちょっと待ってよ! この展開に私の頭はまったく追い付いてないんだから。

 ねえ。何でこんな事になったの? 今、何が起きようとしてたの?

 傷付いた様な顔されても、意味が分からないんですけど――!?


「あう、あう、あう」


 訊ねようと思って口を開くけど言葉にならず、妙な音だけが零れでる。

 皐月君は、そんな私の様子をまじまじと見て、言葉を聞いて――。


「ぷっ」


 お、思いっ切り噴き出した―――――!!!

 身体をくの字に折り曲げて大爆笑してるんだけど、何なのよー!?


 はくはくと口を開閉して、何とか呼吸を繰り返し、落ち着こうとするけれど。

 私のそんな努力を無にするように、皐月君が笑いながら――妙に優し気なのは何故!? ――私に近付き、頭を撫でてきた。


「……結城が好きだ」

「はうっ?!」


 変な言葉が出たのは許してほしい。だって、息を吸った瞬間に意外な事を言われちゃったんだから、まともに返せる筈がない。

 再びはくはくと口を動かしていると、頭を撫でていた手が下に滑り、温かな手の平が私の頬を包む。


「結構ストレートにアプローチしていたつもりだったが……気が付いていなかったんだな」


 ――へ?


 ――アプローチ?


 その瞬間。今日の友人達の言葉が頭に浮かぶ。


「茜ってば激ニブ」

「皐月君、かなり分かりやすいよね」

「うんうん」


 あ、あれって、これの事ーーーーー!!?


「……最初は『アース』目的だったが、今は『アース』の方が口実なんだけど?」


 どこか面白そうに、でも、妙にムズムズする、恥ずかしくなる眼差しを私に向けてくる。


「返事は……この時点では無理か?」


 ――――――っ!!


 そ、そんな事言われても、モブだと思い出した時点で、全て諦めた訳で……。


 ……。


 …………ん?


 ………………あ、あれ?


 わ、私……


 ……『諦めて』……た?




 そう。それが『答え』。

 私ってば、無意識にしろ、意識的にしろ、皐月君を『そういう風に見る』事を止めようとしていた訳で。

 でも、そうしようとしている時点で……手後れ、だよねぇ。


 パニックになっていた頭がスッと冷えていく。

 私の変化に皐月君も気付いたのか、頬を包む手が緊張するのが分かった。


 私は、目の前に居る皐月君を見上げる。その顔も瞳も……予想以上に真剣だった。


「……本当、に……?」


 こんな事で嘘を吐くような人じゃないと分かっている。

 それでも、どうしても信じきれなくて尋ねれば、力強い首肯が返された。


「結城は……嫌かもしれないが……俺は君が好きだ」


 再び、皐月君が言ってくれた。

 だからじゃないけど。

 私も、素直になろう。


「……嫌なんかじゃ……嫌なんかじゃないっ!!」


 込み上げてくる思いをそのまま叫び、皐月君に向かって手を伸ばす。

 皐月君は――驚いた様に少しだけ目を丸くした後、蕩ける様に、嬉しそうに笑って私の手を取った。

 ううう……その笑顔、反則。

 恥ずかしくなって俯くと、皐月君がそっと、私を引き寄せ。


「好きだ」

「……」

「結城が……()が好きだ」


 再び、包み込まれる。

 私が恐る恐る顔を上げれば、碧眼が優しく細められ。その真摯な眼差しは、嘘偽りなどない事を如実に伝えてくれて。


 ――私の顔に、笑みを浮かび上がらせる。


「うん。私も、皐月君が……と、統也君が好き、だよ」


 素直な告白の言葉を伝えた途端。自分の顔が熱を持ったのに気付く。

 皐月君――統也君の瞳の中には、真っ赤になった自分の顔が映っていて、私の羞恥を煽る。


 も、ダメ。無理!


 恥ずかしさに耐えきれず、再び俯こうとした私の顔を、統也君の手が優しく、だけど有無を言わさず押し留め。

 淡いオレンジから茜、藍へと変わる空の下。


 ――二つの影が一つとなった。












epilogue


「ただいま~」


 玄関を開けると、いつも通りアースがたしたしと駆けてきた。

 その小さな体を抱き上げ頬擦りすると、可愛らしい鳴き声が聞こえ――。


 温かな手がアースと私の頬を離した。


「へ……?」


 手の主を振り返ると、少しだけ拗ねた様な統也君が、私からアースを取り上げた。


「……俺の前で、アースに頬ずりとかは厳禁」

「え??」


 と、突然何?

 今まで、そんな事言わなかったよね?


「――妬けるから、ダメ」

「――っ!!」


 内緒話の様に耳元で囁かれ、息が止まりそうになる。


「やややややや妬けるって! 相手はアースだよ?!」


 どもりながらも何とか返事すると。

 統也君は自分の手の中のアースをチラッと見て。


「……アースって……オスだったよな?」

「え? うん」


 先週末、統也君が調べてくれた評判の良い獣医に行って、ワクチン接種と性別確認、一緒にやったよね?

 不思議に思いながら統也君の顔を見ていると、統也君は深々と溜め息を零し。


「……最大のライバルがアース、か」

「は?」


 呟く言葉に瞬きを繰り返し、思わず、統也君とアースを見比べ――


「……」


 言葉を失った。

 だって、あれほど統也君に懐いていた筈のアースが、統也君の手の中で暴れている。

 しかも、それだけじゃ足りないとでも言うように、統也君の指を噛んでいる様な……?


「あ、アース!?」


 慌ててそれをやめさせようとしたけど、何故か統也君に止められる。

 止められる理由が分からず、困惑しながらも心配して統也君を見上げる。どうして?


 統也君は微かに笑い。


「――」


 おふうっ!? 不意打ちは止めてーーーーー!!


 沸騰した頭と顔で統也君を睨み付けると、統也君は苦笑を零した。


「ほら、ライバルだ」

「……え?」


 統也君が視線で促す先にはアース。

 真っ黒い仔猫はいつの間にか統也君の手から逃れ、玄関先で毛を逆立て唸っている。


「あ、アース?」


 私が呼び掛けると、それまでの様子が嘘の様に「なお」と鳴きつつ擦り寄って甘えてくる。


 ……うん。これが統也君の言った『ライバル』って事?


 確認する様に統也君を見上げると、統也君は頷き。


「完全に嫉妬」


 自分の気持ちに気付いた頃から、時々、こういう事があったんだよなぁと統也君が呟く。

 き、気付かなかった……。


「ちなみに。その時から茜がアースに頬擦りしたりするのをモヤモヤしながら見てたんだよなぁ」


 そ、それも気が付かなかった……。


「そういう理由だから、俺の前で過剰なスキンシップは禁止」


 艶やかに笑い、統也君が私に手を伸ばし――


「うにゃっ!!」


 アースが統也君の足に飛び付いた。


「……」

「……」

「ふーーーーーー」


 な、何故だろう。何故かとてもいたたまれない。


 私が何も出来ず、無言で立ったまま統也君とアースを見守っていると、統也君はアースを見ながら伸ばしていた手で私を捕まえた。


「ふーーーーー」


 再び、アースが威嚇する様に鳴くけど、統也君は全く気にせず私を抱き締めてきた。


「ととととと統也君っ!?」


 焦る私を気にもせず、アースをひょいっと掴み上げ、艶然と笑う。


「少しくらい、譲ってくれても良いだろう?」

「ふーーーーー」


 何故か対等に会話(?)している統也君とアース。

 私は為す術もなく見ているしかなくて――。


 ふと、思い出す。

 あれ……原作のアニメだか漫画に、アースと統也君がライバルっぽい描写……あったっけ?


 ……うん、ない。


 統也君の腕の中から、一人と一匹を見る。


「うん?」


 その視線に気付いたのか、統也君が微笑みながら私を覗き込み首を傾げ、アースが甘える様に鳴く。

 恥ずかしいけど……手を伸ばし、統也君とアースをそっと抱き締める。

 統也君はちょっと眉を上げた後、嬉しそうに私を抱く腕に力を込め、アースはいつも通りゴロゴロと喉を鳴らす。


 私は……じ、自覚したばかりの気持ちだけど、間違いなく統也君もアースも大切で。

 欲張りだけど、手にした温もりを放さない、放したくないと思うから。


「……大好き」


 精一杯の気持ちを伝える。


「俺も」

「なぁう」


 返されたものに、心がポカポカ温かくなる。

 うん。絶対、絶対にこの手を放さない。放してやらない。


 目の前で取り合い(?)されるのは困るけど。

 私は欲張りだから――。


 統也君とアース。私の幸せを抱き締めた。

お付き合い、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白すぎて何度もよんでます。 恋愛小説書くのがすごくうまいので新作待ってます。
[一言] アースと統也君の取り合いとかヒロインちゃんの感じとかすごく好きです!
[一言] 猫好きには堪りませんね。 ただココんとこだけは気になりました。 マイハウス・イン・王子様。 →王子様・イン・マイハウス。
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