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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
プロローグ:ぐだぐだな召喚
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6 職業:無職③

 ロングコートを身に纏い、魔素使用量増加訓練のため、手には黒の革手袋みたいなものを作ってはめた。靴は個人的に一番こだわったと思う。完全な黒魔法製で、履き心地は完璧。足を踏まれることなどに対するちょっとした防御力も兼ね備えている。

 この一見暑そうに見える服、割と通気性がよく、黒色魔素がひんやりしているからなかなか快適だ。

 関節部には無色魔素の割合を多く黒色を疎に、逆に手の甲や背中には黒色魔素を密にすることでかなりの動きやすさが実現されている。

 我ながら惚れ惚れする出来。

 ……疲れた。

 『アホかお主は当たり前じゃろうて。全く、わしはただ適当に1枚作って羽織るだけかと思っておったのにお主と来たら人が変わったように作り込みはじめてのう。腰の辺りのポケットはまあ分かるが、両肩のポケットなんぞ普通作らんぞ。』

 肩、というよりも肩甲骨辺りに作ったポケットには投げナイフが入れられるようにした。ナイフは俺の魔法でポケットの中でも量産できる。これにより、俺は魔法がバレることいつでも即戦闘体勢に入ることができる。

 もちろん、ナイフ投げは百発百中になるまで練習しておいた。ナイフのみでの戦い方はまだまだ練習中だ。

 しかし、キツいな。今までで一番集中して魔力を使った気がする。

 こだわりって大事なものだ、きっと。

 サングラスも作ろうと思ったが、どうしても目隠し状態になってしまい、作れなかった。

 マトリ○クスを再現したかったんだけどなぁ……。

 『そんなことしたらイベラムに追い返されるじゃろうよ。怪しすぎて。』

 ま、そうだな。

 俺はそのまま、少しふらつきながらも歩きだす。

 『お主、もう日は沈んだ。今はしっかり寝ておけ。どうせその様子では何もできまい。安心せい、賊が来たらわしが起こそう。』

 そうか、助かる。

 俺は中二装備を維持したまま、満足した気分で、倒れるように寝た。



 翌日、案の定中二装備は解除されていた。即座に作り直し、ちょっと休憩。

 しばらくして、魔力の回復を確認してから立ち上がり、爺さんのナビに沿って土の道を行く。

 そして、中二装備の維持が問題なくなった頃、がらの悪い連中に馬車が襲われているところに出くわした。

 なんだ?

 『ふーむ、ありゃ盗賊じゃろうの。馬車を襲っておる。』

 襲われてるのは分かる。しっかし盗賊かぁ……物騒な世界だ。

 装備はバラバラだが、全員黄色い布を体のどこかに巻いている。黄巾賊ってか?

 盗賊は7人、それに相対する護衛は6人。5人は周囲の盗賊と交戦中、1人は馬車の上に綺麗な服を着た男とともに乗り、周囲に回復魔法や炎の攻撃魔法を放っている。だが、攻撃魔法は不慣れなのか、たまに味方をかすってしまっている。

 回復に専念した方が良いんじゃないか?

 しかし、ともあれ、馬車を持った方が襲われているのだ。徒歩なんかよりずっと優れた移動手段を持たれた方々が!

 助ければもしかしたら俺をイベラムに乗せていってくれるかもしれない。そうすれば中二装備をグレードアップさせられる時間ができる!

 ダッシュで近づき、まずは3人の盗賊と戦っている、大盾をを持った重装備へと向かう。

 三人の内一人が俺の方に気付いて向かって来たが、右手でナイフを投げて対処。

 ナイフは一直線に飛び、盗賊の膝に命中。動きが止まった盗賊の顔を渾身の力を込めた右拳で殴りつけ、左手でも同じように投げてもう一人を処理、最後の1人は後ろから蹴って盾に頭からぶつけてKO。

 「助かった!」

 それからは手の空いた大盾持ちと一緒に戦い、敵をバッタバッタと薙ぎ倒し、盗賊共は全滅した。



 「ありがとうございます。どうお礼を言えば良いのか。」

 俺は綺麗な服を着ていた男にお礼を言われている。

 予想はしていたが、彼は商人で、この馬車の主であり、他の連中は護衛に雇った冒険者たちらしい。

 「あー、じゃあ、俺をイベラムまで連れていってくれませんか?」

 「それで良いのですか?イベラムはもうすぐそこですよ。」

 「ならついでに良い宿を紹介してくれると助かります。」

 「お安いご用です。私たちの目的地もイベラムでしたので。私、奴隷商人のカイルと申します。見たところ、冒険者になるためにイベラムに行くようですね?また取引をするかもしれません。その時は便宜を働かせていただきますよ。」

 しかし、商人だからかは知らんが、うさんくさい笑みだこと。

 「そ、そうか、ありがとう。」

 奴隷商人ねえ。考えていたイメージと全く違うなこいつは。もっと悪徳っぽいと思ってた。

 『それは人それぞれじゃな。中には奴隷を本当に物のように扱う商人もいるぞ。』

 なんで冒険者になると奴隷を買うんだ?

 『奴隷は所有者の物という認識で処理されるからの。パーティーを全員奴隷にしておけば報酬を分けなくて済むしのう。』

 へえ。一考の余地は……ないな。やっぱり奴隷には抵抗がある。

 「あの、すみません。」

 と、俺の肩を揺すりながら馬車の上で敵味方関係なく、無差別に魔法をブッ放していたフードが話しかけてきた。

 声からして若い女性らしい。

 「なにか失礼なこと考えませんでしたか?」

 師匠も同じようなことを的確なタイミングで言ってきたな。あれって気配察知に関係なく、ただ俺が顔に出していただけなのかね。

 「あなたはこれから冒険者になると聞きました。私もなんです。そこで、一緒にパーティーを組んでくれませんか?」

 「え、ここの全員がパーティーを組んでいるんじゃないのか?」

 「いえ、皆それぞれバラバラで依頼を受けた人たちで、私はこの馬車にお金を払って故郷から乗せてもらっていたんです。それで、パーティーを組んでくれませんか?」

 「え、ええ、なら「やめておけ。」」

 同意しかけると冒険者の一人が遮った。

 「そいつはな、確かに回復魔法と攻撃魔法を使える貴重な存在だが、命中率が限りなく悪い。魔法使いってのは後ろからの後方支援がメインなんだ。だがそいつが後ろにいると危なっかしくて集中できない。」

 「それは、そうですが。私の本領である神官としての役割なら。」

 「はっ!近づかないと癒せない神官になんの価値がある。神官ってのが回復の役割を持っていることなんてゴブリンでも知ってるんだ。だから神官は遠くの安全な場所か仲間の1人に守られながら的確に仲間を回復するって役割なんだよ。いくら性能がよくても当たらなけらゃ意味がない。」

 「でも、戦いの前後なら、誰にも負けません!」

 「それなら、教会の方がいいに決まってる。そこなら少しのお布施でしっかりと治療してくれるからな。」

 「うっ、でも……」

 「はいはい。分かった分かった。俺はこの子とパーティーを組むよ。まだ初心者なんだ。命中率位、練習すれば上がるさ。そうすれば効果の高い治癒がいつでも受けられるようになるだろう?青田買いって奴だ。」

 庇うように言うと冒険者はフン、とそっぽを向いた。

 「わはははは、確かにそうだ。先はまだ長い、それまでは練習あるのみだな。兄さん、名前は?」

 今度は大盾持ちの重装備が話しかけてきた。

 スキンヘッドに大柄な体格。体を隙間なく、しかし運動を出来るだけ阻害しないように鎧を着ているため、より大きく見える。大盾まで持ってるんだから防御を活かして戦うのだろう。

 「コテツだ。」

 「変な名前だな。」

 失敬な。

 「覚えやすくていいだろう?」

 「俺はゲイル、ランクB冒険者のゲイルだ。」

 「ランク?」

 つい、疑問が口をついて出た。

 「ああ、冒険者についてあまり知らねえのか。じゃあ先輩らしく教えてやるよ。」

 「あ、私が教えます!これでも色々下調べはしてきたので。」

 正座して小さくなっていた神官ちゃんが話に加わってきた。

 着ている白い神官服によく映える長い金髪がフードをとったことであらわになり、背中に流れる。それに加え、緑の瞳が神秘的なイメージを醸し出していた。

 また、ゆったりした神官服なのに胸の辺りが張っていて、どうしてもそちらに目が行く。

 見た目は16か17……あの勇者達と同じくらいかね。

 ありがたいし、本人も話したそうにしていたので素直に聞くことにした。

 「冒険者というのは薬草採集から戦争参加まで様々な依頼をこなす職業で、その依頼というのは難易度ごとに分けられていて、下はG、上はAそしてSまであります。それぞれのランクごとに色の違うプレートをもらえるんですよ。」

 あれ、Bって高い方なのに盗賊に負けそうだったのか?

 そう思ってゲイルを見ると、ゲイルは少し怒りながら神官ちゃんを指差した。

 「言いたいことは分かるが、俺がここぞと思う度にそいつが炎で妨害しやがったんだよ。普通はあんなの十人来ても怖くないぜ。」

 あーあ、神官ちゃん小さくなっちゃった。

 なんか神秘的なイメージが崩れて、可愛いと感じる。

 うん、胸が腕に押し付けられ、眼福眼福。

 ただ、それより気になることがあるのでまずはそれを片付けよう。

 「戦争に参加?」

 だったら勇者と変わらないぞ?

 「ええ、ランクC以上が対象で、戦争への参加というものが国からの依頼として出ることがあります。勝ったときの報酬額が破格で、もし勝てば3年は遊んで暮らせる金が手に入るんです。」

 そうか……強制じゃないんだな。

 「ありがとう、助かったよ。自己紹介がまだだったな。俺はコテツだ。」

 「いえ、礼を言うのはこちらです。私はアリシアといいます。これからよろしくお願いしますね。」

 「ああよろしく。アリシアは神官なんだよな。何ていう神様を信仰してるんだ?」

 「私はこの世界を天より見守り、支え、いざというときにはその力をもって救ってくださる、アザゼル様を信仰しております。」

 あれ、爺さんと被ってね?

 『ふはは、何を隠そう、私自身のことじゃよ。お主も信仰してくれても構わんぞ。』

 「あの、コテツさんは?」

 「俺は無神論者だ。」

 断固拒否する。どこの誰がお前なんか信仰するもんか。

 『主の目の前におる。』

 「信仰する神をいったん変えちめたらどうだ?そのせいで魔法がうまくいかないのかもしれないぞ?」

 『やめんかぁ!』

 「ふふ、そんなことできるわけないじゃないですか。」

 チッ。

 「まあ、そうですよね。」

 そうこうするうちに大きな壁が見えてきた。

 では早速、鑑定!



 name:イベラム外門

 info:イベラムを守る外壁。魔物が近づかないようにする魔術が掛けられている。



 便利な物があるんだなぁ。

 ま、目的地に着いたのは分かった。 

 ああ、楽しみだ。

 隣を見れば、アリシアも見るからにそわそわしている。

 馬車はそのイベラムの外壁の前で止まり、槍を持った男が荷台に乗り込んできた。

 俺の周りの冒険者達がそれぞれ何かを服の下から取り出してその衛兵に見せていく。

 「君達も、身分証を出しなさい。」

 一頻り確認し、未だ固まっている俺とアリシアに衛兵が声をかける。

 アリシアは慌てたように自身の体をまさぐりはじめ、すぐに神官服の裾から1枚の紙を取って差し出した。

 「アザゼル様の神官ですか。どうぞ、お通りください。」

 そして衛兵は俺を見る。

 身分証なんてもの、持っちゃいない。必要だとは師匠達も教えてはくれなかった。

 まさか忘れてたとか?……あり得る。

 「おい、どうした。」

 「え?あー、少し長い話に……」

 「いいぞ、話してみろ。」

 「はい……。」

 時間を取るのは申し訳ないという理由で、馬車を下りて先に行かせ、その間に脳みそを回転させ、俺は衛兵さんへ向き直って即席の話を口にした。

 「すみません、来るときに盗賊に会いまして、あ、こいつらもその一人です。それで、他は逃げられてしまって……。」

 言って、縛り付けられて気絶した、先程衛兵に引き渡された盗賊達を指差す。

 カイルが何かの拍子に戻ってきて、変な口出しをしないことを願うばかりだ。

 「盗賊か。そのときにこの馬車が近くにいた、ね。どこから来た?イベラムに知り合いは?」

 「ここから2日ほど歩いた場所にある村です。知り合いは……生憎。」

 「その村にお前の身元を証明できる人はいるか?」

 「ししょ……リジイとアレッ「リジイ!?関係は?」弟子です。」

 王様が紹介するだけあって、師匠は割と有名人なのかもしれない。

 目の前の衛兵さんも師匠の名前に見るからに驚きを見せている。

 「あーなるほどな、分かった。後で確認は取らせる。通ってよし。冒険者に一時的にでも成るなりして身分証を発行しておけ。」

 お、何とかなった。

 「はい、ありがとうございます。」

 そして俺は新天地イベラムへと足を踏み入れた。

 

 入って少しした所でわざわざ待ってくれていたカイルにお勧めの宿屋を教えてもらい、礼を言った後、俺はアリシアを連れて冒険者ギルドに向かった。

 案内は再びKAMIだ。

 そして石畳の整備された道を歩き、到着したそこは木造の、巨大な円形の建物だった。

 その両開きの仰々しい門を開き、入ると、まず真ん中に立つ太い木の柱が目に入った。

 そしてその柱を中心に作られた半径三メートル位の円形のカウンターには、女性が4人座っていて、彼らの前には長い列。

 壁には扉がたくさん並んでおり、それぞれに訓練所やら何々指南所などと看板が打ち付けてある。中にはカウンセラー室なんてものもあった。

 もしあのカウンターの美人さん達がカウンセリングしてくれると言うならいつも満杯な気がする。俺も常連になったって良い。

 一角には依頼提示所という看板が打ち付けてあり、その下に貼ってある様々な紙を武器を担いだ人達が数人眺めていた。

 そうして一通り観察した後、俺は何故か緊張した様子のアリシアを連れ、一番流れの早そうな列へと向かった。

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