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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第三章:不穏な職場
55/346

55 休み明け

 回復科を取っている学生達へ無事にテストを受けさせ終え、それを手伝ってくれたラヴァルと一緒に職員室に戻ってきた。

 それぞれ抱えてきた紙の束をドサリと円卓に置き、適当に椅子を引っ張ってきて座る。

 席が自由なのはこういうとき助かる。

 「ありがとなラヴァル、助かる。」

 「フッ、気にするな。」

 これから結果をまとめる作業に入る前に一言礼を言うと、ラヴァルは笑って首を振った。

 肉体強化魔法・魔術の効果は俺が手合わせをして判断し、魔法系のテストは回復魔法判別紙を用いて評価できるものの、回復魔術のテストを俺は評価できない。そこでこうしてラヴァルに参加して貰ったのだ。

 ちなみに彼の協力はニーナ経由で要請した。魔術のテストで忙しいだろうに、とことんニーナに甘い奴である。

 「にしてもまさか魔法判別紙がこんなに余るとはな。はは、一枚ぐらい紙飛行機として使ったってバレないんじゃないか?」

 机の脇にドンと居座る、ツェネリから預かった大量の紙の束を見て嘆息。

 使い捨てでは無かったため、予備を入れても必要なのは数枚だけだったのだ。

 あまり多くは市場に出回らないから、たくさん買いためたってだけらしい。

 「やめておけ。これは決して安いものではない。」

 「へぇ?ツェネリって結構金持ちなのか?」

 「何を当然のことを。ファーレンの教師は役職に関係なく皆同じ給料をもらっている。お前の貰っている額を考えよ。」

 元の世界では教師は薄給だってイメージがあったけれども、ファーレンの教師は学園が複数の国の貴族を迎え入れ、その国々による援助を受けているだけあって高いらしい。

 「俺は給料を受け取ってなくてな。全部アリシアに預けてる。具体的には一体いくらなんだ?」

 「一月5ゴールドだ。」

 ふーん、5ゴールド(約五百万円)ねぇ……。

 「多すぎだろ。」

 アリシアの金銭感覚が狂うわけだ。

 「はたしてそうか?ここは高い身分の子供も入ってくる。それも種族に関係なく、だ。妥当なところだと思うが?加えて研究をしている教師はそこから研究費を捻出せねばならない。」

 「ふーん、そんなもんかね?」

 「そんなものだ。」

 「へぇ。」


 そうして雑談しながら、テキパキと作業を進めていく。


 テスト結果を大方まとめ終わった。

 「では、私は魔術科のテストを受けさせに行くとしよう。」

 立ち上がり、ラヴァルが言う。

 「凄いなお前。キツくないのか?」

 回復科を受けるのは希望者のみとはいえ、百人近くが参加している。人気なのは大変結構ながら、その分チェックの量は増える。

 正直、俺の目はもう疲れ気味だ。

 「フッ、自ら言うのも何だが、完璧主義者なのでね、私の教え方が正しいのかどうかは確かめておきたいのだよ。」

 そう言い残し、勤勉な吸血鬼は転移していった。

 ……そうか、確かにテストって教師にとっても大切なものだよな。考えたこともなかった。学生時代、教師を呪ったことしかない気がする。

 と、背後に見知った気配が急に現れた。

 「まったく、何を聞いていたのよあの子達は!この前教えたばかりでしょう!」

 入れ代わりで転移してきたファレリルはかなりご機嫌斜め。どうやら学生達の出来がよろしくなかったよう。

 彼女の隣では――おそらく無理矢理協力させられたのだろう――バーナベルがその隣で巨体に似合わず狼狽えていた。

 「そんなに酷かったのか?」

 座ったままバーナベルに聞けば、彼は苦笑いを浮かべて困ったように頭を搔く。

 「ピンキリ、だな。ただ酷い奴はとことん駄目でな……俺も驚いた。」

 「試験内容はなんだったんだ?」

 ファレリルの事だ、無茶難題でも出したのでは無かろうか。

 「魔法の初歩の初歩、造形変化よ!」

 バーナベルの代わりに今度はファレリルが烈火の如く怒鳴った。

 「剣!槍!矢!壁!全部基本の形でしょう!どうして身に付いていないのよ!?」

 「ほとんどの学生はな、球は作れてもそこから他の形を作れねぇで終わってた。中には槍が連なった球になってた奴もいたぞ。」

 目の前で捲し立てられて怯む俺に、横からバーナベルの補足説明が為される。

 ありがたい。

 「別に完璧な槍を作らなくても……。」

 「馬鹿言わないで!攻撃の範囲と集中点を自在に操れてないといけないの!青や茶色、緑の魔法なんて特にそう。それともなに?あなた、鈍器よりも刃物の方が殺傷力が低いとでも言うわけ?」

 「いや、そんなことは……。」

 「造形がしっかり出来れていれば自然と魔力の無駄遣いもなくなるの!なんでも基本あってこそなのよ!本当に、この半年間何を聞いていたのよあの子達は。こうなったら補習よ補習ッ!」

 「あはは……。」

 これは手がつけられないな、笑うしかない。

 「コテツ、笑い事じゃねぇぞ。」

 そんな俺に、バーナベルがあきれたような顔を向ける。

 「え?」

 「お前の冒険者時代の仲間だったアリシアって子も酷かった学生の一人だ。」

 はい!?

 「……マジか。」

 「ちなみにファイアボールを繋げて棒状にしたのもそいつだ。」

 「うわぁ……。」

 後でルナを家庭教師として送り出そうかな。それともコロシアムに呼ぶか?俺の魔法も基本的に造形のみだし。

 「そ、それで、ネルはどうだった?」

 恐る恐るもう一人の冒険者仲間について聞いてみる。

 「おう、あいつならこれ以上にねぇぐれぇ優秀だ。もう一年目の女子の間じゃあ片手の指に入るんじゃねぇか?」

 良かった。まぁ、俺が一本で捌ききれない位だし、問題はアリシアか。

 「コテツ!」

 「んあ!?」

 目と鼻の先に妖精の顔が急接近。思わず仰け反る。

 「入学試験で身内贔屓なんてしてないわよね?」

 そこまで言うか!?

 「ファレリル、それは言葉が過ぎるだろう。」

 と、ラヴァルが転移して戻ってきた。って、もう試験は終わったのか?

 「早いな?」

 仰け反ったまま聞くと、ラヴァルは軽く肩をすくめた。

 「なぁに、魔術の試験はほとんどが筆記だ。実技はあとから行うのだよ。それでさっきの話だが、回復魔法を身につけているからこそ魔法の造形が苦手なのではないのか?」

 「まぁ、それもあるでしょうね。簡単な回復魔法は患部を包めば良いだけだし。でも半年間教えたのよ、それにしてはできなさすぎだわ。」

 「ふむ、アリシアは魔術師としても優秀なのだがな。あれには天賦の才がある。あの娘が魔術を一段高い領域へ押し上げても私は驚かんよ。」

 「いくら魔術が上手くてもねぇ、彼女は魔法使いコースの学生として入ってきたのよ。最低限の能力は身につけてもらわないと。」

 最低限て……そんなに酷かったのか。

 「な、なぁファレリル、補習って一体何をするんだ?」

 おそるおそる聞いてみる。

 「そうね……夜、段階を追って、私の定めた目標を達成できるまで私とみっちり頑張ってもらおうかしら?コテツ、あなたも付き合いなさい。あの子、あなたがいれば必死に頑張りそうな気がするわ。」

 「いや、ファレリルと一対一ってだけで十分に必死になる要素は揃っていると思うぞ。それに俺なんかが行っても対して変わりはしないだろ。」

 なんで魔法使いの訓練を受ける予定のない俺が一晩中ファレリルと一緒にいないといけないんだ。神経がごっそり磨り減るわ。

 「私と一対一でいることが必死になるには十分だなんてどういうことかしら?」

 ヤバッ!

 助けを求めてラヴァルを見る。

 「そろそろ実技に移る時間だな。」

 転移していった。

 「テストは終わったんだし、か、家族サービスをしねぇと。」

 バーナベルも消えていった。

 お前はこの前家族サービスっぽいことをしたばかりだろうが!

 「どういうことかしら?」

 他の教師達に助けを求めようにも全員転移していった後だった。

 「ねぇ!」

 「いや、まぁ、そのなんだ、ファレリルは、たくさんの学生の、あー、憧れ、だからな。うん。」

 ファレリルは俺に背中を向けた。納得してくれたのだろうか。

 「ふーん、そう。コテツ、私の目を見てもう一度同じことを言いな……。」

 全部言い切られ、彼女がこちらに向き直る前に転移。

 言えるわけないだろう。本当に恐いんだぞ。



 「……と、いうわけでアリシアはルナから許しが出るまでここに通うように。」

 夜、コロシアムの居住部屋にアリシアを呼び出し、これからはルナと一緒に魔法の特訓をするよう言い渡した。

 流石に職員室であそこまで言われると俺も少し心配になる。

 「ふぁぁい。」モグモグ

 「わらひも頑張りまふ。」ムグムグ

 だからなにも分かっていないかのような幸せそうな顔をされると余計に不安が増すのである。

 たしかに冷えたケーキというのは存外美味しい。良く分かるとも。

 「……おい、ケーキ取り上げるぞ。」

 「ングッ、はい!頑張ります!」

 「ゴクン、私がアリシアを一流の魔法使いにして見せます!」

 良い目だ。

 豹変とはこのことかね?ま、これを利用しない手はない。

 「じぁあ一定の水準に達するまではケーキは禁止な。」

 途端、怯えたような目になる二人。

 「ご、ご主人様、私が食べるのは許してくださいませんか?私は教える立場ですし。」

 「あ、ルナさんズルいです。」

 おっと仲間割れが始まったぞ?

 「駄目だ。連帯責任な。」

 「そんな!?」

 「コテツさん、ケーキが悪くなってしまいますよ。」

 「なに、俺とユイで食べれば良いだろ。いつも暇だしな。三日もあれば食べきるさ。」

 ニヤリと笑ってみせる。

 ちなみにユイからはまだカイト達を説得したという連絡はない。おそらく今日その結果を聞くことになると思う。

 「さぁてと、そろそろユイが来る頃かなぁ。二人とも頑張れよ。」

 俺は二人を残してコロシアムリングへと向かった。

 しょうもないけれども、これが起爆剤になってくれれば上々だ。



 「えっと、これは?」

 魔法陣を書き終えた頃やって来た。ユイが所定の位置に立ったあと、俺がケーキをあげると彼女は訝しげな目を向けてきた。

 「ん?見たまんま、ケーキだ。」

 「……私は別に宝玉を取り出すことをやめようだなんて思っていないわよ。」

 「そいつは良かった。」

 「……何か入っているの?」

 また疑わしい目が向けられる。

 「あのな、入れるわけないだろうが。」

 「私はそんなに甘くないわよ。」

 「これは断じて賄賂なんかじゃない!ったく、最近の高校生ってのは他人の好意をここまで警戒するのか?」

 だとしたら悲しい世の中になったもんだ。

 「あらそうなの?ごめんなさい。でもこれ、本当に食べて良いのかしら?あなたの後ろの二人がすごい顔をしているけれど。」

 振り向くとそこにはユイの持ったケーキと俺の片手にある残りとを凝視しているアリシアとルナの姿があった。

 一瞬遅れて俺の視線に気付いた彼らはサッと互いに向き直り、その場で魔法の練習をし始めた。

 ……いつの間にリングに上がって来たんだ?

 まぁ、魔法の練習をするきっかけにはなったようだし、結果オーライだろう。うん、そういうことにしよう。

 「それで、カイトを説得できたのか?」

 「うっ、それは、切り出すタイミングを、その、なかなか掴めなくて……」

 「はぁぁぁぁぁ。」

 「そんな溜息をつかなくても良いじゃない!大丈夫よ。期限までには説得するわ。」

 えっと、期限っていつだっけ?

 『簡易魔法陣を休みの間中使っておるから、……三日前後じゃな。』

 短かいな!?

 『何を言っておるんじゃ。簡易魔法陣を使えばいくらでも引き延ばせられるわい。』

 あー……でもそれじゃあキリがないよな……。

 「期限っつったって、三日後だぞ?」

 「え?嘘!」

 「嘘じゃない。」

 「そんな……あ!こ、この簡易魔法陣を使えば……」

 ユイが携帯しているポーチから俺の作った魔法陣を取り出した。

 おい、急に物理法則を無視するな。

 ま、自分で自分をもとの位置よりも高いところに動かせる奴が言えた義理じゃないか。

 閑話休題。

 鑑定!



 name:マジックバッグ

 info:古代に技術を結集して作られた魔法の鞄。見た目よりも遥かに大きな容量(約100メートル四方)を持つ。鞄の中の時は止まっている。



 ギルドマスターの持っていたアイテムバッグより遥かに高性能な代物ながら、それでもアリシアの神の空間の劣化版ってところか。

 『わしの空間の時は止まっておらんがの。』

 神の空間には爺さん以外の生物はいないんだろう?食べ物を入れる訳でもなし、同じような事だ。

 『ついでに言うならわし以外の物質も無いがの。要は完全なる無の世界じゃ。フォフォフォどうじゃ、凄いじゃろ。』

 へいへい、そりゃ凄い。

 「ねぇ、聞いてるの!?」

 「当たり前だ。そしてその魔法陣は没収だな。」

 指を鳴らし、黒い幾何学模様を四散させる。

 「何するのよ!?」

 憤るユイの目をまっすぐと見て、なるべく落ち着いた口調で話す。

 「なぁユイ、こうして期限を設けないとお前は行動しないだろう?」

 「そんなこと……」

 「無いと言い切れるか?」

 「っ、言い切れるわ。」

 明らかに嘘だ。

 「なぁ、俺は正月休みの前にこのことをカイトに話すよう言ってあったよな?そして結局話したのは正月直前だったろう?それもお前が自ら話すんじゃなくて、状況に流された結果で、だ。」

 「でも……。」

 「俺はそのあと正月休み中に話しっかり話しておくようにと言ったはずだ。そしてお前はさっき何て言った?『切り出すタイミングを掴めなくて』って言ったんだ。要は話さなかったんだろう?」

 「だからって、こんな急に……。」

 「お前が自分から話すべきことを二度もカイトに話せないでいたことを俺は知っている。それはお前も分かっているな?」

 小さく頷き、俯くユイ。

 泣きそうになっていてこれ以上怒るのはちょっと気が引ける。それでもここで引いたら駄目だ。

 「分かってるよな!?」

 現実逃避しようとするユイを敢えて怒鳴る。ここで心を閉じられたらたまらない。

 ユイはビクッと顔をあげ、驚いたように俺を見た。

 まぁ、柄じゃないのは分かってるさ。

 「ユイ!」

 「分かっているわよ!でもあなたに何が分かるのよ!?それでアオバ君に嫌われでもしたら、私、耐えられないわ。……勝手にこの世界に連れてこられて、勝手に戦争に参加するってことになって、と思ったら勝手に私は役立たずだって決められて、だから他の二人の土台になれだなんて……私だって嫌なのよ!でも!それでもアオバ君と一緒だったから、アオバ君がいたから耐えられた。彼の側にいるためなら頑張れたのよ!」

 堰を切ったようにユイが捲し立てる。

 しかし、戦争への参加を了承したのも同一人物なんだぞ?恋は盲目ってやつか?

 「前も言ったと思うけどな、カイトはそんなお前をただ一度だけ不平不満を言ったからって嫌いになるような奴なのか?お前が好きな男はそんなに器が小さいのか!?」

  「そんなわけないじゃない!?良く知りもしないくせにアオバ君を卑下しないで!」

 「お前の今までの行動がカイトを卑下していることと同じだってまだ気付かないか!?」

 「そんな……で、でも……。」

 言葉に窮し、またもや下を見るユイ。

 ふぅ、少し落ち着こう。

 自分の意見を討論で通す事と、相手を納得させることは似ているようで全く違う。

 気を付けないと。

 「ユイ、まだ何か言いたいことはあるか?」

 かなり本音を言わせることはできたが、なるべくしこりは取り去っておきたい。

 「……怖いのよ。アオバ君に嫌われることもだけど、長い間一緒にいたあの二人と仲が悪くなってしまうことも。私、こう見えてかなり人見知りで、二人に会うまでは話す相手はいても友達と呼べるような存在はいなかったわ。元の世界でもこの世界でも友達は皆あの二人を介して知り合ったわ。だから、恐い。二人がいなくなると同時に私の周りから人が全員いなくなって、一人ぼっちになってしまうことが。……ふふ、全然そうは見えないでしょうけど。」

 言い切り、ユイは自虐的に笑った。

 ああ、正直に「考え過ぎだろ。」なんて端的に言い放てたらどれだけ楽なことか。

 「……お前にとって友達ってなんなんだ?孤独を回避するための手段か?自分の意見に全て賛同する奴のことか?それとも自分のためなら何でもやってくれる下僕か?まさか依存して貢ぐ相手だとは言わないよな?」

 「違う……でも、分からないわよ、そんなこと。」

 そうだよな、俺も友達の定義なんぞ知らん。

 ただし、一人ぼっちが嫌というならやりようはある。

 「ならお前が大事にしたいのは人との縁だろう?お前は一人ぼっちだなんて言うけどな、他人と一度知り合えば、その縁が良いにしろ、悪いにしろ、腐っているにしろ、それはそう簡単に切れたりはしないんだよ。カイトがいなくたって、縁がある奴はたくさんいるさ。」

 「そんなこと、分からないじゃない!」

 「本当にそうか?食べ物を作ってくれた人とか、そういう顔を会わせたこともないような人との縁は置いといて、まず血縁がある。それにお前、剣道で強かったんだろ?剣道関係でも縁はあるだろうに。ほら見ろ、これでカイト達を含まない縁が二つだ。」

 言いながら指を2本立てて見せる。

 まぁ、カイトも剣道にはある程度関わっているが、必要不可欠な存在じゃない。

 「何なら同じ別世界に一緒に連れて来られたって縁で、俺もいるぞ?」

 そしてさらに三本目を立て……

 「え?」

 「いや、なんでもない。」

 ……ようとしてやめておいた。

 なんでそんな意外な顔をするんだよ。

 「あ、あとはほら……えー……そういやカイトを介して知り合った奴しかいないだって?くはは、だからどうした、そこをきっかけにそいつと向き合え。そこからカイトを介さない繋がりを新たに作るのは今からだって遅くない。一人ぼっちになることなんて早々ないさ。……まぁ相当アホな事をやらかさない限りはな。なぁに、話せる相手がいるんだから難しい事はない。はは、渡る世間に鬼なんて早々いやしないさ。」

 「だからってアオバ君達との友達の関係を壊せとでも言うの!?」

 お、一応俺の言い分には納得してくれたらしい。

 良かった。

 「そうだな、もしその関係がお前がたった一つの不満を言っただけで壊れるような物なら、無い方が良いだろうな。」

 「そんなわけ……。」

 「なら証明してみろ。明日、ちゃんと自分の口でカイトに……まぁ説得まではしなくてもいいから、宝玉を取り出すことにしたって伝えるんだ。いいな?」

 「……分かっ、たわ。」

 消え入るような返事。

 それでも無いよりは遥かにマシだ。

 「ま、そうは言っても結局はお前が決める事だ。お前から宝玉を取り出して本当に良いのか?」

 まだ疑問があるのならそれを解消しないと。また宝玉を取り出さないとか言われたらたまらない。

 「今さら何よ。あなたがそう望んだんでしょう?」

 「お前はどうなんだ?正直に答えてくれ。俺のこともカイトのことも頭から除外して、お前の気持ちを教えてくれないか?」

 「……大丈夫よ。」

 「そう、か……ふぅ。」

 彼女の返答に思わず胸を撫で下ろした。

 「……迷惑掛けてごめんなさい。あと、ありがとう。」

 それに気付いたのだろう、居心地悪そうにユイが頭を小さく下げてきた。

 「ん?はは、いやいや、気にすることなんてないさ。説教されたら誰だって嫌がる。それに礼を言うにはまだ早いだろ?……そうだな、数年後の戦争を生き延びてから、元の世界に帰る直前辺りで言ってくれると嬉しいな。」

 「……そう。分かったわ。あなたがそう言うのなら。」

 「おう。じゃ、頑張れよ。」

 「ええ。」

 あと俺ができるのはこうして声援を送るぐらいだ。ただまぁ、これで取り敢えずは一安心、と……あ!

 「ちょっと待った!」

 危ない危ない。

 「な、何よ。」

 立ち上がり掛けていたユイが不格好な姿勢のまま固まる。

 「魔法陣から出ていいのはまだあと5分後だ。えーと……ケーキ食うか?」

 黒魔法でナイフを作りながら聞くと、

 「…………貰うわ。」

 気恥ずかしかったのだろう、彼女は素っ気なくボソリとそう言って、ストンとその場に座り直した。

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