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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第三章:不穏な職場
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47 誘拐

 女子寮では既に戦闘が始まっていた。

 ただ、戦闘と言ってもかなり一方的なものだ。

 たくさんの女子寮生が十数人の男子学生と共に、7〜8人の敵を圧倒し、殲滅していた。

 数の暴力がここに極まっていた。

 なんら問題ないようなので加勢はせず、早速寮にクラレスがいるかの確認をすることにする。

 寮の影に入り、耳を押さえる。念話の相手はアリシア。俺が女子寮に飛び込む訳にはいかなくとも、彼女に頼めば良い話だ。

 [アリシア、聞こえるか?]

 [クラレスさん、起きてくださいよぉ……あ!コテツさん!?]

 どうやらクラレスはアリシアの近くにいるよう。しかし何らかの異常が起こっているらしい。

 [どうした!?]

 [……その、悪い人達に捕まってしまいました。すみません。]

 くそったれ。

 [いや、お前が謝ることじゃないだろう。クラレスは大丈夫なのか?]

 [……ええ。大丈夫ですよ。寝ているだけです。]

 アリシアの声が少し低くなった気がしたけれども、今は気にしている場合じゃない。

 [で、どこでどうやって捕まった?]

 [私とクラレスさんはルームメートなんです。それで寝ている内にさらわれてしまいました……ごめんなさい。]

 アリシアが再び謝る。

 いやしかし、イヤリング持ちの彼女が一緒に捕まってしまうとは。

 運が良かったのか悪かったのか。

 [ま、良い子はもう寝る時間だからな。仕方ない。それで、場所は分かるか?]

 [私には全く……。あ、誰か来ました。今声を聞かせますね。]

 [頼む。]

 少しして、アリシアの周囲の音が聞こえてきた。外界とは布か何かで隔たれているのか、くぐもった音が聞こえてくる。

 [ふぅ、作戦成功だな。]

 ギシッと木が軋む音がしたかと思うと、イヤリングを通じて別の男の話し声。

 このイヤリング、感度が込められた魔素に従って働くため、このように盗聴機のような使い方もできる。

 これを利用し、耳の良いモンスターに取り付けたり張り付けてたりしたあと、数人がかりで魔素を込め、対応するイヤリングに爆音を鳴らすことでそのモンスターを昏倒させる作戦も冒険者にはあるそう。

 むしろそっちが主目的で、人との会話は副産物のようなものかもしれない。

 [何が成功だ!できるだけ静かに行動するどころか完全に気付かれて逃げてきただけじゃないか!結局この三人で逃げて後は囮にしてきただろう!]

 別の男が激昂し、バンと何かを強く叩く音が響く。……木製、かね?

 [目標は達成できた。]

 [予定では一人だったはずだ!あと一人は邪魔にしかならねぇ!]

 [なに、ファーレンの学生なんだ、金にはなる。教えを説き、我らの同士とすることも……。]

 [予定が狂っちまったって言ってんだよ!]

 と、ここで別方向から手を叩く音が割って入り、場が静かになる。

 [はいはい、この話はここでおしまい。さっさと飛行船乗り場へ急ぐわよ。ファーレンには乗り場が一つしかないの。もしさらったことが向こうにバレて、そこを占拠されたら堪らないわ。]

 女の声が場を収めた。話の内容からして前々からファーレン島に詳しいようだ。

 前から潜入していたのかもしれない。

 [チッ、分かったよ。]

 激昂していた男が静かになる。

 同時にギシッと再び木の軋む音。馬の鳴き声、ガラガラと車輪の音がし始める。

 ここは、馬車の中なのか?

 [ふふ、貴方達はこれからヴリトラ様の元へ行くのよ。怖がることはないわ。]

 と、今度は少し大きく女声が聞こえた。アリシア達に向かって話しかけ始めたようだ。

 [だから大人しくなさい。殺すわよ。]

 それだけ言うと、笑い声は遠ざかっていく。

 […………コテツさん。]

 アリシアが感度を下げ、声をかけてきた。

 [よし、今から助けに行く。ただ敵に助けが来ることを気付かれるなよ。最悪眠った振りでもしてくれ。]

 [はい、迷惑をかけます。本当にすみません。]

 声が少し震えている。

 ……話題をずらすか。

 [ま、今度からはすぐに俺に連絡するようにな。]

 [え?]

 [何かあったらすぐに、だ。いいな?]

 [はい!]

 よし、良い子だ。

 女子寮の影から出る。

 囮役のヴリトラ教徒達は全員無力化されていた。

 「私達の勝利ですわ!」

 最後のヴリトラ教徒の顎を膝で蹴り上げるというお嬢様にあるまじき行為で無力化したオリヴィアが高らかに宣言した。

 ったく、相変わらず接近戦が好きだなおい。

 歓声が上がり、それぞれの学生がお互いを讃えながら自分の寮に戻ろうとしたところで寮の管理人さんの言った言葉が高揚した場の雰囲気を凍り付かせた。

 「皆さんお疲れ様でした。では男性の学生諸君は残ってください。何故ここにいたのかをしっかりと聞かせてもらいますよ。」

 ……うん、頑張れ男達よ。

 俺は学生の意識がそちらに向いたのを確認し、寮に一番近い城壁を足場を作って乗り越えた。

 線のように細い月が上っている。

 爺さん、奴等の潜伏場所は分かるか?

 『無理じゃ。』

 おい、フラッシュリザードのときはあんなに的確に見つけられていたじゃないか。

 『あれは生き物をその種族単位で探したのじゃ。個人の特定は一人一人見て回らん限りできん。』

 毒竜の巣にアリシア達が落ちたときはどうして分かったんだ?

 『お主が酒を飲み交わしている間、わしが何か面白いことはないかと辺りを見ていたら毒竜と二人の人間が交戦しておったからの、それをよく見ようと思ったらあの二人じゃったと言う訳じゃ。それでどうする?わしが一人ずつ調べるのかの?』

 そうだな、そんな時間があったらな!

 仕方がない、飛行船乗り場に先回りするしかないか。

 俺はここに来たとき以来一度も立ち寄っていない、飛行船乗り場のある塔に向かって空を走った。



 監視塔頂上の展望台兼飛行船乗り場は、夜だというのにたくさんの人でごった返していた。

 夜の遊覧飛行でもやってるのか、ここの飛行船は?

 何にせよその人混みの中を掻き分けながら辺りを捜索しているため、結果はあまり芳しくない。

 これでは黒装束を脱がれたら見つけるのはかなり難しい。

 さっきからアリシアとの連絡も付かないので、きっと話せない状況にいるのだろう、それとも本当に寝てしまったのかね?

 手掛かりは男性二人と女性一人のグループであること。それだけだ。

 あの話の内容からかなり急いでいたようだった。馬車の速度を落とさないためにも、人数の変動はたぶんないだろう。

 人数が分かっているとしても、袋に詰められて貨物用飛行船に乗せられるかもしれないから袋や鞄に変な動きがないかもずっと気を付けていないといけない。

 気配察知をしても大多数がペットを入れているのか判別できない。ここで一か八かの賭けをして間違えてしまうと目標に警戒されてしまう。最悪人質作戦に出られかねない。

 と、飛行船が1つ飛び立った。

 爺さん、あの中にアリシアやクラレスは!?

 『ふむ……おらんの。』

 まだここにいるのか。

 残りは貨物船が二隻に乗用船が一隻だ。

 畜生、敵が隠密スキルを持っていなければ気配の強さの違いを見分けることで見つけられたのに。

 ん?

 隠密スキルを持っていなければ?

 爺さん、隠密スキルってかなりの訓練を積まないと会得出来ないんだよな。

 『うむ、そうじゃ。お主がいた環境はそれだけ異質じゃったんじゃよ。それがどうかしたのか?』

 ああ、おかげで見つけられそうだ。

 気配察知!

 目を閉じれば周りの人々の気配がまぶたの裏に蒼白い光として映し出されるほど気配察知に集中。

 そのまま目を開くと、予想通りその幻想的な風景が現実のそれと重なった。

 視覚と気配の感覚が一致しているかどうかを一人一人確認していく。

 これで隠密スキルを持つ相手にかなり絞り込む事ができる。後は立ち居振る舞いから特定できるはず。要は逆転の発想って奴だ。

 それでもなかなか見つからない。

 やはり人が多すぎる。

 二隻目の貨物船が飛び立った。

 爺さん!

 『……おらん。』

 どこなんだ!?

 まだ何かできることはないか?

 ……ああ、まだあれがあるじゃないか。

 「龍眼!」

 目を金に染める。

 すると底上げされた視界の中、すぐに現実の姿しか映し出されていない3人組を見つけた。

 ……ていうか隠密スキルって本当に修得者がすくないのな。ま、敵がバラけていなくて良かった。

 旅人の装いをし、ご丁寧にも顔や体は完全に布で覆って、肩に頭陀袋を一人一つずつ担いでいた。

 あの中にアリシアが。

 しかしあの頭陀袋からは何の気配も見えない。もしかしてそういう繊維で作られているのか?

 旅人の装いをしたせいでか、気味悪がられて周りに人はあまりいない。移動に支障が出ないから便利かのだろうけれども、こちらとしても好都合。

 宙を二歩走って大きく飛び上がり、ワイヤーを三人の背後の床にくっつけ、思いっきり引っ張る。

 そうして彼らに急接近した俺は、タイミングを合わせてワイヤーから手を放し、彼らの肩に担がれた頭陀袋を後ろから両手に1つずつ奪い取る。

 「な!誰だお前は!」

 「返せ!それは俺達のもんだぞ!」

 「悪いことは言わないわ。返しなさい。」

 着地したのは彼らから約三メートル離れた地点だった。

 すぐ後ろには展望台の縁。吹き付ける夜風がやけに強い。

 正直、もし手元がくるったり勢いをつけ過ぎたりしてたらこのまま遥か下の地面に落ちていたと思うとゾッとする。

 「盗人か?」

 「肝のふてぇー野郎だ。」

 と、周りの正義感旺盛な輩が今にも飛び出してきそうになっていた。

 しかしそんな彼らは俺が肩からナイフを取り出すと途端に動きを止める。

 当然だろう。ナイフ持ちに丸腰でかかってくる奴はアホか相当な腕前の持ち主だけだ。

 「黙れ。」

 怒りを押し殺して周囲に言い、重い袋へ刃を丁寧に突き立てる。

 「誰が……おい!」

 誘拐犯の制止を無視し、頭陀袋を切り裂けば、

 「んー!」

 中から猿ぐつわを噛まされて後ろ手に縛られ、呻き声を上げるクラレスが出てきた。

 やはりこの袋は気配を遮断するらしい。

 どよどよとざわめく群衆。どっちに味方すべきかはご理解いただけただろうか?

 クラレスのフードは脱がされていて、いつも隠れていた頭には小振りな角が三本、短髪の間からヒョコッと可愛く生えている。

 俺を見て安心したのか、クラレスの目が和らぎ、呻き声は収まった。

 「もう大丈夫だ。」

 安心させるようにそう言って猿ぐつわやその他の縄の結び目をナイフで切る。

 「ん、ありがとう。」

 「すまん、不甲斐ないばかりに。怖かったか?」

 「大丈夫。」

 聞くと、クラレスはにこっと笑ってくれた。

 さて、二つ目の頭陀袋を……

 「ふん、そこまでだ!」

 余裕のある声に振り向くと、頭陀袋から上半身だけ出されたアリシアの首もとに、獣人の男が短剣を突き付けていた。

 凄むために顔の覆いを脱いだのだろうが、それよりもアリシアが気掛かりだ。

 「んんー!んー!」

 「少しは大人しくしろ!」

 アリシアは腹を殴られ、たまらず腰を折るも、無理矢理頭を掴まれて再び上を向けさせられる。

 俺が取り上げた二つ目の袋は外れらしい。

 「んーーー!」

 「くそっ!」

 怒りに任せて二つ目の頭陀袋を引き裂く。中には生活用品や彼らの黒装束が入っていた。

 「ふふふ、ざんねん。でも危なかったわ。よくもやってくれたわね。」

 「狂信者共が。」

 「あら、知ってたの?でも酷いわね。まぁ、ここを大人しく通してくれたら寛大な私は許して上げるわよ?」

 「さぁ、ナイフを下ろしてそこをどけ!その鬼神族も置いていくんだ。くく、三本角ってのは高く売れる。」

 圧倒的な優位を確信したのか、アリシアに短剣を突き付けている男は下卑た笑みを浮かべる。

 「断る。」

 即答し、アリシアの方へゆっくりと歩いていく。獣人の奴には手札がバレるかもしれないけれども、周りからは気付かれないだろう。

 それに、殺してしまえば問題ない。今の俺ならそんなことを抵抗させる間もなく、容易くできる。

 「お、おい、こいつがどうなっても良いのかよ!?ああ!」

 男が掴んでいる頭を強く振り、アリシアの金髪が数本抜けた。

 「んんー!」

 彼女はそれでも必死にもがき続けている。

 すまない、アリシア。もう少しの辛抱なんだ。

 右手袋の指の先端部を変形、鋭利に尖らせる。

 「くそがぁ!」

 男は短剣を握り締める。

 「おい!やめろ!」

 「そうよ、そいつを殺したら私達は……。」

 「うるせぇ!どいつもこいつも舐めやがって、死ねやぁ!」

 残り二人の警告を無視し、短剣に力が込められる。

 が、しかし、男の持つ短剣が血に濡れることはなかった。

 「へ?」

 短剣の剣先に黒い小さな板があり、その進行を阻んだのだ。

 正体はもちろん黒魔法。アリシアが初めに藻掻いた際、こっそり滑り込ませて貰ったのだ。

 これができたのはひとえに彼女が足掻いてくれたおかげ。

 予想外の事態に狼狽える男との距離を一気に詰め、その顔を右手で正面から鷲掴みして、筋力でそのまま無理矢理宙に浮かせる。

 尖った指先が男に食い込んだ。

 「ガぁッ!?」

 「……短剣を渡せ。」

 言ってもそいつは何の反応を示さない。

 握る力を強める。すると俺の指先が男の肌を貫き、そこから鮮血がにじみ出た。

 「渡せと言ったはずだ!」

 「あがっ!わ、分かったから。ほ、ほら。」

 差し出された短剣をもう片方の手で奪い取ってアリシアの腕を拘束していた縄を切り、頭陀袋から完全に抜け出た彼女に用の済んだ短剣を手渡す。

 「渡しただろ、は、放してくれよ。」

 「そのまま顔を剥ぎ取ってやっても良いんだぞ?」

 握力を強め、睨み付ける。

 「や、やめてくれ!殺すのだけは、な?」

 どうやら本気だと伝わったらしい。

 「ヴリトラ教徒は死を怖れないんじゃないのか?」

 「へ、だからって喜んで死ぬのは下っ端だけだ。ヴリトラ様は確かに俺達に尊い死を約束してくださった。だが俺ら高位のヴリトラ教徒はヴリトラ様に尽くすことこそが本懐!俺はまだ死ぬなんて真っ平だね。」

 役に立つか分からないけれども、ヴリトラ教徒の貴重な情報だ。覚えておこう。

 「そうか、良いことを聞いた。そうだな、俺の納得できる条件を提示できたら助けてやらんでもない。」

 ほんの少し握力を弱めてやる。

 すると男は心底ホッとしたような表情になり、真剣に考え始めた。

 その間にアリシアを抱き寄せ、胸に顔を埋めさせる。

 「え、コテツしゃん!?わっぷ!」

 「クラレスも目を閉じておけ。」

 「ん。」

 見るとクラレスは両手で目を塞いでくれていた。

 ここから先は少し刺激が強すぎるだろうからな。

 「俺はデカイ商人の出だ。金ならいくらでもやれる!」

 男はそうまくし立てた。考え込んで出た答えがそれか……。

 「金ならいらん。」

 もう十分過ぎる程あるしな。

 腕を右へと動かし、男の体をアリシアから遠ざける。

 アリシアを汚さないためだ。

 「ラダンで確固たる地位を……。」

 「残念、時間切れだ。」

 「ふ、ふざけるなぁ!」

 意識して残酷な笑みを浮かべ、俺はそいつの顔を魔力も用いて握りしめた。

 ぶちぶちっと肉を貫く感触。血が吹き出て、指が固い物にぶつかる。更に力を込めると、再び指先が柔らかい物を貫いていった。

 「あがっ、がァァァァァァ!?」

 「うるさい、な!」

 そのまま完全に握り締め、拳を作る。

 男の体は床へとずり落ちた。

 右腕を振り、手に付いた血やら何やらを振り落とす。

 「キャァァ!」

 「オエェェ、な、何てことを!」

 「あいつ、頭がイカれてんじゃねぇか?」

 散々な言われようだけれども、仕方がない。こうでもしないとヴリトラ教徒には牽制にもならん。

 死は苦痛を伴うとはっきりさせないといけない。

 「に、逃げるよ!」

 「分かった。」

 我に帰った残り二人のヴリトラ教徒は、野次馬を掻き分け、動き始めた飛行船に向かって走り出した。 

 ハイジャックでもするつもりか?

 「アリシア、まだ顔は上げるなよ。」

 コクッと頷いたのを確認し、アリシアから手を放す。黒弓を作り、血に濡れた手でワイヤー付きの矢をつがえる。

 まずは男の方から狙い射つ。

 風の計算が少し狂い、矢は男の左腕に刺さり、貫いた。すぐにワイヤーを引っ張れば、男はバランスを崩して倒れた。

 それを確認しつつ、続けて即座に女の方にも矢を放つ。

 しかし、その矢が正確に背中の下部を刺し貫いたにも関わらず、女はそのまま走り続け、展望台から飛び降りた。

 すぐにワイヤーを引っ張るも、旅装束が釣れただけ。

 あの女は空を飛ぶ技術を持っていたらしい。しっかしあれで外れたのか?どんな体をしてやがる。

 再び起き上がろうとする男のワイヤーを再び引っ張ってこちらに手繰り寄せ、右手をその顔に翳す。

 男の顔に赤い手形が付いた。

 「こ、この、化け物が。や、殺るならやれ。お、俺はし、死ぬまで抵抗してやるぞ。」

 勇の良い内容の台詞の割には怯えているのが見て取れる。

 手に少し力を入れると、案の定そいつは気絶した。

 黒い縄で縛り上げて転がし、血で汚れた手袋や魔装はこっそりと一旦捨て、新しく構築し直す。

 よし、一人生け捕りに成功だ。あとはニーナに渡せば謎の薬で全部吐かせられるだろう。

 「二人とも、もういいぞ。」

 「……」

 アリシアは俺に抱きついて顔を埋めたまま微動だにしない。むしろ力が入った気がする。

 「アリシア、もう大丈夫だ。安心しろ。言ったろう?助けに行くって。」

 アリシアはこちらをゆっくりと見上げてきた。目が少し潤んでいる。

 「……その、あのときはもう少し戸惑っても良かったんですよ?」

 そして彼女は少し不満そうにそう囁いた。

 やっぱりそこか……。

 「一刻も早くお前を取り返したかっただけだよ。」

 うわっ、これは照れ臭い。

 「……。」

 アリシアは無言で再び顔を埋めた。

 言われる方も気まずいよな。すまん。

 「コテツ先生。」

 クラレスにロングコートの袖を引かれた。

 「強い。」

 満面の笑みを浮かべてくれた。

 助けたかいがあった。

 「おう、ありがとな。」

 そう達成感に浸っていると、周りで見ていた人達がざわざわと騒ぎだした。

 「ありゃぁ、龍人じゃないか?」

 「……龍人?始めてみたよ。」

 「空想上の存在じゃなかったのか。」

 「こいつは良い土産話になる。」

 「おいおい、あの殺戮を話すのか?俺は早く忘れたいよ。」

 「でも本当に龍人なのかしら?」

 「あたりめぇーよ。見ろよあの金色の眼を、それに人の顔を意図も容易く剥いじまったあの爪の鋭さと握力。龍人じゃなきゃ何だってんだ。」

 金色の眼?

 そういえば龍眼を発動しっぱなしだった。

 もしかしたら師匠の双龍剣術ってネーミングはここら辺に由来があるのかもしれない。

 取り敢えずバレたら面倒臭そうだし、しばらく、少なくとも城に戻るまではこのままの方が良いかもしれん。

 アリシアとクラレスが顔の抉れた死体を見る前に、俺は気絶した男を抱えてさっさとその場から退散した。

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