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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
プロローグ:ぐだぐだな召喚
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4 職業:弟子②

 あと一週間で俺の弟子期間は終わる。もう師匠達には常に勝てるようになった。

 この半月、お互いに奇襲を掛け合い、隠密と気配察知の向上に勤しんでいる。もちろんこれまで一度だって夜の魔法の訓練は欠かしてない。

 「なあ、コテツ。話がある。」

 と、師匠が珍しく真剣な顔で話しかけきた。

 「今失礼なこと考えただろ。」

 最近、師匠に心の中がバレることがある。気配察知の修行の成果かもしれない。全く嬉しくないけれども。

 「まあいい。アタシはこれからアルとしばらく出掛けてくる。そうだな、帰ってくるのは一週間後ぐらいだ。」

 「はあ?俺の修行もあと一週間ですよ。最後の追い込みとか何かないんですか?」

 「ああ、まぁそこは自主練で。」

 「先生とイチャイチャする時間なら一週間経った後でもできるでしょう。」

 実は師匠と先生は恋仲だ。実際、俺が来るまでは内緒で同棲していたらしい。

 「い、いや、そ、そんなんじゃねえし。」

 うんうん、微笑ましい。

 「とにかく、お前は留守番!いいな!」

 「はいはい、分かりましたよ。」

 こうして俺の最後の一週間の修行は自主練ということになった。

 おかしくね?

 

 「そんじゃ行ってくるぞー」

 「一週間後にまた会おう。」

 「お幸せにー。」

 「「そういうのじゃない!」」

 こうして無事彼らを見送った俺は、早速、毎夜していた魔法の練習に移った。

 黒色魔素を手元に集め、根本から訓練で使っていたのと同じ形の剣ををかたどっていく。

 超魔力スキルのお陰もあってこれができたとき、爺さんの得意げなようすがとても面倒臭かった。

 ったく、俺があのとき文句を言って成長率50倍を得てなかったらこんなことはできなかったんだからな!?

 『それもわしの与えたスキルであることに変わりはないわい。』

 「チッ。」

 舌打ちしながらも、製作時間1秒以内はクリア。

 剣をあらかじめ用意しておいた丸太に向かって振るえば、抵抗も少なく丸太を真っ二つにできた。

 性能も問題無しと。

 次にこれから手を離して浮かせ、自在に操ってみる。

 流石にきつい。

 これを剣の数を二本、三本と増やして同じ事をしていく。

 今の俺では自在に動かせるのは1度に5本が限界だ。それ以上あると真っ直ぐにしか飛ばすことができない。それでも殺傷力を持つ勢いを出せるのは同時に10本まで。

 そうして少し休憩を挟んだ後、俺は師匠達に習った技を繰り返し、自分のものとしていった



 自主練生活を初めて一週間、師匠達が帰ってきた。後ろに物々しい雰囲気の馬車を連れて。

 「帰ったぞー。」

 遠くから師匠が大きく手を振り、ちょうど丸太を両断したところだった俺に楽しげに報告してきた。

 いや、訳が分からない。説明して、お願い。


 「で、どういうことなんですか、先生?」

 「もし強ければ軍にスカウトしてくれるように話をつけたんだ。君はこのままじゃ明日から無職だからね、弟子の面倒を見るのも先生の務めかなって。」

 主な修練場である、師匠の家の裏の草原に一足先にやってきた先生へ早速聞くと、そんな答えが帰ってきた。

 ちょうど明日からどうしようかと悩んでいたので、この申し出はとてもありがたい。

 「ありがとうございます」

 本心からそう言った。

 「で、何をするんですか?」

 「アタシ達と2対1での殺し合いだ!」

 走ってきながら、今度は師匠が笑って答えた。

 ……へ?殺すの?

 「ごめん。そりゃ混乱するよね。今から、死ぬような怪我を受けた場合、結界の外に転移魔術で飛ばす、結界を張るんだ。その中で僕とリズの相手をして貰う。」

 「へえ。」

 転移魔術がどんなものかは知らないけれども、なんかすごそうだ。

 「開始は10分後だからな。」

 「はい。」



9分後



 俺は丸腰で師匠達に応対している。先生は体術の達人だからか同じく丸腰で、師匠は血のように鮮やかな赤色をした、今までの訓練で使ったのと同じ形の剣をふた振り持っている。

 残り一分。こんなに長い一分は人生でこれっきりになるだろうと思う。ていうか、なって欲しい。こんな緊張が何度も続いたら絶対に寿命が十年近く減る。

 ちなみに師匠達と一緒に来た馬車の中にはあの騎士ドレイクがいた。開始の合図は彼がすることになっている。

 そして永遠に続くかに思われた緊張はついに終わりを迎える。

 「用意……はじめ!」

 師匠達はほぼ同時にこちらへ踏み込んできた。

 わざわざ二人で軍の人を呼びに行ったのはこういう連携を決めていたからかもしれない。

 下手に迎え撃ったりはせず、即座に後ろへ飛び退る。

 2対1は分が悪い。本意ではないけれども、意表を突いて一人は倒さないといけない。

 空気のような大量の無色魔素に少量の黒色魔素を混ぜこむ。そして着地と同時にそれを手の平から撒き散らせば、

 「ブラックミスト!」

 視界を塞ぐ黒い煙が師匠達を包み込んだ。

 「アンタ、魔法を使えたのかい!?」

 「夜な夜な何かしてると思ってたけど、これか。」

 師匠が驚きを顕にする一方で、先生は落ち着いて気配察知に神経を傾かせる。


 この気配察知、俺と師匠達とでは歴然とした差がある。

 師匠達のそれは何かくることは分かってもその方向や人数は不明な漠然としたもの。

 一方、俺のは五メートル以内ならば手に取るようにわかり、そのさらに遠くでも方向くらいならなんとなくわかる。

 これが分かったとき、師匠達の気配察知訓練とやらは本人でさえマスターしてないものを教えるという、鬱憤ばらしだったことが発覚した。


 ここはそこを利用する。先生は完全に肉を切らせて骨を断つ構え。待っているところにわざわざ攻めたりはしない。

 一方師匠は慌てて後退しようとしている。

 当然、狙うは師匠だ。

 彼女を追いかけながら剣を作る。師匠が煙から抜けた直後、飛び上がり、俺は剣を大上段に振りかぶって叫んだ。

 「うらあぁぁぁ!」

 それに反応して師匠が上を見、視界の急激な明暗の切り替わりで目をくらませる。

 両手の剣は頭の上で受ける構えになったまま。

 即座に剣を霧散。俺は師匠の腹を思いっきり蹴飛ばした。

 「がはっ!?」

 完全に無防備だったお陰で蹴りは綺麗に決まり、師匠は大きく飛んで地面に転がっていく。

 「鉄塊!」

 着地し、即座に先生から教えられた唯一の防御技を使い、体全体の防御力を上げる。


 この技は身体に魔素を通すことで体を著しく硬化するもの。

 通す魔素によって名称が違い、「鉄塊」は無色魔素によるの技の名前だ。防御性能は黒 茶 赤=青=黄 無の順に高い。ちなみに、緑は防御力はない分、相手を吹き飛ばす力が上がり、白は防御力も攻撃力も変わらない一方で、魔素のあるかぎり傷が回復し続けるらしい。


 体を固めた直後、脇腹を強い衝撃が襲った。後ろから先生に蹴られたのだ。

 こいつら、お互いを利用しあって俺に決定打を決めようとしてるな!?

 負けず嫌い達め。

 大量にいるけど一人ずつしか襲ってこないショ⚪カーより質が悪い。

 裏拳を放つも、先生は一歩後退してそれを躱してしまう。

 すぐに踏み込み、放った愚直な右のストレートは、横へのステップで楽々回避された。

 「動きが荒いよ。」

 「わざとですよ!」

 伸びた手の先に最速で中華刀を作り上げ、鋭く真横に切り払う。

 空振り。

 「剣だって!?」

 驚きの声を漏らしながらも斬撃を屈んで躱した先生は、俺の無防備な腹にボディーブローを放とうとし、

 「黒銀!」

 その直前、俺は黒色魔素を身体に通した。


 防御性能が高いほど魔素の通しにくさが上がるものの、そこは俺の超魔力の出番。さらに日々の訓練のお陰で体の一部位なら体全体の鉄塊と同じ速さで発動できる。


 腹への打撃に、俺は怯みもしない。

 これには先生も驚いている。鉄塊位なら防御を撃ち抜く自信があったのだろう。

 ついつい、口角が上がってしまう。

 そのまま先生に剣を振り下ろすと、彼は光に包まれて消え、空振りしてしまったように俺は少しつんのめった。

 「よし、まずは一人。」

 さぁ師匠はどこに……!?

 周囲を見回そうとした途端、ゾッと背筋に悪寒が走り、すぐに頭から前に飛び込む。

 しかしギリギリ間に合わず、背中が薄く真横に切られた。

 そのまま転がり、距離を取って立ち上がも、突然体から力が抜け、俺はガクッと膝をついてしまう。

 「な、なんだ!?」

 「どうだいコテツ?アタシの魔剣の味は?」

 魔剣とは、何らかの特殊な効果を持った不思議な剣のこと。

 師匠の双剣が纏う赤い光はただ赤い魔素を纏わせているだけかと思ってたけれども、魔剣の光だったのか?

 鑑定!



 name:魔剣吸血姫

 info:吸血鬼に憧れた鍛冶屋が作った一対の魔剣。

 傷つけた相手の生命力を傷の面積や深さに比例して吸い取り、使用者に与える。



 大人げねぇなぁおい!

 師匠は致命傷を狙わずにすみ、俺は掠り傷でも致命傷になるってことかよ。面積とか鬼畜だろ。

 「ドレイン効果って相手にするとこんなに厄介なのか。」

 さっきの黒銀だって相手の技術の高さや力によっては傷付けられるし、斬られもする。あの魔剣相手だとそれさえも許されない。

 しかも相手は師匠。

 「ずるいですね。」

 「初っぱなから魔法を使ったやつが何言ってんだい。それに戦いにずるいもへったくれもありはしないよ。」

 ただでさえ背中の傷とドレインで思うように動けないのに、これ以上生命力を奪われたらたまらない。

 遠隔攻撃しかないか。

 俺は剣を10本作る。9本は目の前、1本は頭上のなるべく上に。

 「ブレイドダンス!」

 まだ踊らせられないけど。

 叫び、9本に師匠を襲わせ、1本 は上空に制御をミスったかのようにして浮かばせたまま。

 「こんな物でアタシを仕留められると思うのかい?」

 それぞれの剣は直進しかできない。

 もちろんそんな物は師匠の両手の武器に簡単に弾かれ、流されてしまう。

 「ハッ、こんな物かい?」

 「そこだ!」

 相手が切り抜けて安心したところに上空の1本を勢いよく師匠に襲わせる。

 「おっと。」

 しかしそれに遅れて気付いた師匠の剣は十分に不意打ちへの対処に間に合い、軽々と剣を弾いてしまう。

 「さぁ今のが操作できる限界だろう。アタシの勝ちだ!」

 俺が剣を10本しか出さなかったからそう思ったのだろう。

 「俺は日々成長しているんですよ!」

 そう言って師匠の魔剣と同じ形の漆黒の双剣を作り上げて両手に掴み、習った剣の中でも初歩にして最速、片手による斜め上からの一閃を放つ。

 「ハッ!丸腰だった理由はそれだね!」

 笑い、師匠はスキル特有の蒼白い軌跡を放ちながら同じ攻撃を繰り出した。

 

 スキルというのは誰しもが使える魔法だと爺さんは言っていた。万人共通の魔色ということだ。魔法以外の技能を完全に習熟し、身に付けるとスキルに昇華されるらしい。

 そしてスキルに昇華されるとその技の速さや力が段違いに高くなるそう。

 そしてこの場合、師匠の使う剣技が1つのスキルと化しているため、剣を持つ師匠の全ての動きが補助、促進される。


 師匠の剣は俺の成長した身体能力を持ってしても追いつかない速さで迫り。結果、俺の力が完全に乗る前に刃が衝突。俺の剣は力負けしてあっさりと弾かれる。

 「吸血姫で切られたにもかからわらずスキルに身体能力で食い付くとはねぇ。弟子期間が終わったらどんな化け物になるんだか。」


 弟子期間中はスキルが完全には習得できない。その技の動きを完全に理解していないままスキルが身につくとスキルに振り回されることになるからだと師匠は当然のように言っていた。


 やはりまだ追いつけないか。

 まぁ予想できたことだ。

 「その化け物を作ったのは師匠ですけどね!」

 言いながらもう片方の手の剣を投げつければ、即座にそれを弾こうと魔剣が切り返される。

 「そんな苦し紛れの一撃でアタシを倒せ、な!?」

 しかし投げた剣が弾かれる直前、俺はそれを霧散させた。

 たとえ力を軽くしか入れていなかったとしても、攻撃を外したときの隙は大きい。

 初撃を弾かれたときの体勢は既に直した。

 踏み込み、繰り出すのは鋭い突き。

 狙いは相手の首。

 「くっ、この!」

 しかしスキルによる恩恵で、普通は無理な速度で師匠の体が動き出す。

 空振った腕を体に引き寄せて右脇を締め、師匠は左の剣を斜め下から蒼白い軌跡を描かせて振り上げた。

 それにより必殺に思われた、いや、明らかに必殺だった俺の一撃に魔剣は余裕で間に合ってしまい、俺の突きは左上へと流される。

 「相変わらず反則だろ……。」

 ついボヤくも、こんなことはこの一年で何度もあった。それだけ負けず嫌いなのだこの人は。

 「シィッ!」

 師匠の右の魔剣による刺突。

 しかしそれは俺も予想していた。

 突きを左の剣で右へ押し、その力を利用して左足軸に体を回転、一瞬背中を相手に見せながら右足を師匠の方へと踏み込んで、振り上げさせられていた右の剣で上から斜めに切り払う。

 「クソッ氷塊!」

 仰け反る師匠の体が薄い青色を帯び、俺の剣はその頬に掠り傷を付けるに終わった。

 そういえば師匠も魔素式格闘術を少しは使えたんだった。

 こうなるとスキルでない俺の攻撃では、しっかりと力を伝えない限り、かすり傷しか付けられない。

 後ろに跳び、距離をとる。

 流石に威力を完全に弾けなかったのか、師匠は後ろによろめくも、その体はこちらに向けたまま。

 即座に接近。腕からは力を抜いて後ろに手を流し、接近と同時に慣性を利用して両手の剣を叩き付ける。

 しかし師匠の首を狙ったそれは、仰け反ってかわされた。同時に俺の顎が蹴り上げられ、視線が師匠から外れてしまう。

 「くっ!?」

 後ずさり、何とか視線を前に戻したとき、素早く後ろ宙返りをしてみせた師匠が俺の肩を貫くところだった。

 地面を片足で何とか蹴るも、力が足りず、十分に距離を離せない。

 肩の表面を浅く切られる。ドッと疲労がのし掛かる。

 よし、まだ動ける。

 再び接近。至近距離からの打ち合いに持ち込む。距離を開けても放てる決定打は今の俺にはない。

 しかし、俺は師匠がそれを致命的なミスにできるスキルを一つ持っていたことを忘れていた。

 仕方ないだろう、この一年間、ほとんど使われたことがなかったのだから。

 師匠がニヤッと笑い、そのスキル名を呟く。

 「龍眼!」

 師匠の目が金色の光を帯びる。

 龍眼は師匠の剣術の奥義であり、目に関する全ての能力を急上昇させるスキルだ。

 しかし今の俺の体勢からでは攻撃を切り替えられない。

 「ウォラァァァ!」

 代わりに、俺は自身を鼓舞するように叫んだ。

 「来な!」

 剣戟の音は、ほとんどなかった。

 一年間みっちり叩き込まれてきた剣術と体術の両方を織り混ぜ、一太刀でも入れてやろうと本気の連撃を浴びせかけたものの、その全てがかわされ、流され、同時に反撃された。

 真横へ振り抜いた左前腕に浅くも長い切り傷が刻まれると同時に右の剣を真上から真下に力任せに無理矢理大振り。

 「っと。」

 そうして師匠を一瞬下がらせ、その隙に大きく飛び退くも、足が微かにフラついてしまう。

 腕の無数の浅い切り傷から血が伝い、両の剣先から滴り落ちる。

 体の至るところを切り裂かれる中、致命傷だけは避けたものの、流石に傷つけられ過ぎた。

 「はは、アンタもこいつには敵わないか。」

 師匠は油断せず俺との距離を詰め、鋭い突きを放ってきた。

 「がぁっ!?」

 それを弾こうと剣を振るうも間に合わず、肩があっさり貫かれる。

 勢いに逆らわずに後方に跳ぶも、着地の衝撃に足が耐えられず、尻餅をついてしまった。

 畜生、もう立ち上がる力もない。……負けた、か。

 「はぁ……はぁ……。」

 四肢から流れ出た血が血だまりを作るのを眺め、俺は師匠の剣に斬られるのを覚悟して、俯き、目を閉じた。

 しかし、なかなか衝撃が襲ってこない。

 何故だろうと思って顔を上げれば、目の前には魔剣を持ったまま腰に手を当てて立つ、少し不満げな顔の師匠の姿があった。

 「つまらないねえ。アンタ、まだこれを訓練だ練習だなんて思ってるだろ?それじゃあ駄目だ。最後まで足掻けよ。使える手札は全部使え。それでもだめなら未完成品でも使ってみろ。思いついて新しく作るのも良い。上手くいくかもしれないだろう?アンタはこれから軍に行くんだ。戦争のときもこんなに簡単に命を諦めるのか?違うだろう。何があっても諦めるな。どんなに詰まっても、卑怯な方法でも反則でもいい、生き延びろ。……コテツ、死ぬんじゃないぞ。師匠にとって一番弟子ってのは我が子同然なんだからな?」

 ……この戦いは、心構えを教えるための物だったのか。

 今だって素直に首を差し出した。それを違うだろう、そうじゃないだろうと、そう言ってくれている。

 本当の殺し合いにおいて、それでは通用しないぞと魔剣をわざわざ使ってまで教えてくれたのだ。

 「ありがとう、ございます。」

 最後の日、最後の時まで、俺はこの人の弟子だった。

 そしてこれからもそれは変わらない。

 「分かればいいんだよ。」

 「……師匠。」

 「何だ?」

 「俺は子供にしては年を食い過ぎてやしないですかね?」

 両手両足で後方に跳び、距離を取る。よろめいたものの、何とか堪える。

 「ハッ!かもしれないねぇ!さぁ、来な!」

 師匠が構える。

 俺は魔素を限界まで集め、それを鎧に変形させ、体全体を覆わせた。イメージは細身の真っ黒な鎧。

 師匠が走り出す。

 全身鎧を纏い終え、俺は自身の体ほどもある、巨大な大剣を作成、両手で握った。

 魔力と筋力を併用し、鎧を動かすことで足を踏み込めば、鋭い痛みが走った。

 それを何とか耐え、師匠の足元に向かって大剣を薙ぐも、師匠はそれを上に飛ぶことで楽々躱してしまう。

 「力が残り少ないから一撃で決めに来たか。間違っちゃいないが、大剣の鈍重な動きで龍眼を使ったアタシが捕らえられる訳ないだろう?」

 ああ、普通はそうだ。

 しかし今大剣を振っている力は筋力だけじゃない。

 俺の鍛えられた筋力よりも大きい、スキルによる超魔力も合わせたもの。大剣を慣性を無視したように動かすくらい、楽にこなせる。

 上に飛んだのが運のつきだ。

 勝利を確信する。

 口角が上がる。

 それを見て師匠が眉を寄せ、しかし次の瞬間、まるで細い棒切れのような切り返しを見せた大剣に驚愕し、目を見開いた。

 「くっ、氷塊!」

 大剣が師匠に当たる。これだけでは力が足りない、師匠を殺せない。

 「う、らぁぁっ!」

 気合で大剣ごと師匠を持ち上げ、頭上に掲げ、

 「アンタはこれをしないまま終わる所だったんだよ?」

 「すみません!」

 師匠の言葉に笑って謝り、そのまま大剣を地面へと落とした。

 師匠が光に包まれて消え、大剣が地面を深く穿つ。

 一年間、ありがとうございました。

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