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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第三章:不穏な職場
39/346

39 実戦担当教師の一日 午後

 顔を上げれば、クラレスがこちらをしげしげと眺めているのに気が付いた。

 彼女は俺と目が合うなり首をかしげ、

 「美味しい?」

 と一言聞いてきた。

 ちなみにクラレスが食べているのはクリームシチュー。あんまり他の物を食べている様子は見掛けない。

 「ああ、美味かったよ。今度お前も食べてみたらどうだ?」

 「……考えておく。」

 ポツリと言って、再び黙々とシチューを食べ始める無口な少女。

 今のだけでもいつもよりはたくさん会話した方だ。

 「じぁあな。」

 カツ丼のあったお盆を持って立ち上がる。

 「……ん。」

 クラレスはこちらをちらっと見て会釈した。

 いつもの会話はこれだけ。

 彼女に会釈を返し、そのまま食器をカウンターに返しに行く。

 ああ、ネルみたいなコミュニケーション能力が欲しい。



 「だからな、料理はそんなに多くなくて良いんだ。」

 「不味い、ですか?」

 ネルの助言に従い、意を決してルナに料理の量が多すぎることを伝えると、予想通り、ルナは自身の着物の裾を掴み、今にも泣きそうな目になった。

 しかし、俺は襲ってくる罪悪感を跳ね除けて、しかし半ば慌てつつ言葉を繋ぐ。

 「いやいや、そんなことは全くない。毎日とても美味しいよ。」

 「なら!」

 「あのなルナ、獣人族の男はどうなのかは知らない。ただ、俺は人間だ。毎日毎日そんなに食べられないんだよ……。」

 「っ!やっぱり、種族が違いますからね……。私みたいな獣人族の作る料理は嫌、ですよね。」

 何でそうなる!?

 「違う!そうじゃない、そうじゃないんだ。ただ量を減らして欲しい、それだけなんだよ。ルナの料理は物凄く美味しい、これからも毎日作って欲しい。」

 「え!?そ、そう、ですか?」

 「ああ、もちろん。これからも頼むよルナ、な?」

 「はい、これからも作らせていただきます。うふふふ。」

 ルナはにこりと笑った。

 あれ?ちゃんと分かってるかな?

 「ルナ、量は……」

 「はい、ご主人様の分はもっと少なく、ですね。」

 「ごめんな、作ってくれているだけで喜ぶべきだってのに。」

 「い、いえ、むしろ楽になりますので心配ありません。では私は今日の夕御飯の用意をしますのでご主人様はお仕事頑張ってください。」

 ルナは鼻唄を歌いながら夕御飯の用意を始めた。

 まぁ、分かってくれたと思おう。

 さて、リングでユイのために魔法陣を作るとするか。



 「よし。」

 リングの中心に腰を下ろし、爺さんの指示に従いながら黒魔法で魔法陣を象っていく。

 とは言っても、無学な俺にはただの幾何学模様にしか見えはしない。つまりこれは意味の分からないまま文字を書くようなもの。

 正確にやるのはかなり難しい。

 ……しかも俺はスケッチが苦手だってのにな。

 ま、やるしかないか!


 『集中せんか!何をやっておる!そうではない、もっと真っ直ぐじゃ!』

 『そこが曲がっておる!しっかりせんか!』

 『馬鹿者!何故この違いが分からん!』

 『さっきも言った!ここはそうではない、もっとしゃんとせい!』

 『わしの話をちゃんと聞いておるか!?全っ然違う!』

 『違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!どうしてそうなる!』

 『ふむ、駄目じゃな、全部やり直しじゃぁ。』

 『何をやっておる!そうではない、もっと……』

 ……これはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだ。これはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだこれはユイのためだ……



 そうこうしてやっと邪龍の魂片を分離する魔法陣が出来上がった。

 コロシアムリングいっぱいに描かれた、黒い幾何学模様を改めて見て、ちょっとした達成感に酔いつつ、ぐっと伸びを一つ。

 「っふぅぅ。」

 ……しっかし、黒魔法って色々応用が聞くんだな。

 『わしがいなければただの下手くそな模様しかできんがな。』

 うっせ。

 『しかし、完璧の出来じゃ。これで魔法陣のせいで失敗することはないぞ。』

 そうかい、そりゃ我慢した甲斐があったよ。

 『何か言うたか?』

 いや何も?

 あとは本人を説得するだけだな。ま、あんなに自分を苦しませるものをあのまま持っておこうなんて言うとは到底思えない。そう苦労する事はないだろう。

 残る問題は2ヶ月間継続できるかってところか。一回途切れたらまた始めからやり直しらしいからな。

 と、待ちに待ったユイが、リングに上がってきた。

 「……何よこの魔法陣は。」

 「お前を助けるための道具だよ。」

 「助ける?私は情報の交換をしにきただけよ?」

 「まぁいいさ、取り敢えずそこに座って……。」

 「変な物じゃないでしょうね?」

 「はは、大丈夫だって。害はない。じゃ、夜更かしするのも体に悪いし、早速始めてくれ。」

 魔法陣の中心に座らせる。俺は早速魔法陣に魔素を流し始めた。

 了承は後で取ればいいだろう。

 「あら、私から話すのかしら?」

 「レディーファースト。」

 「それは男性が女性に親切をするときの表現よ……。まぁ良いわ。それで私の話だけど、まず、私の使う武器はこれ、刀よ。」

 ポン、とユイが腰に吊った刀を叩く。

 「おう、見れば分かるな。」

 「ええ、そして勇者のみが使える装備、聖武具の種類は知っているかしら?」

 「ああ、たしか剣・槍・双剣・矢・槌の五つだったな。なんだ?他の二人には剣や槍があって、自分の使う刀の形をしたものが無いことか?そんなもん、普段は刀を使って、いざというときにだけ聖槌でも使えば良いじゃないか。」

 「それができないのよ。聖武具は選ぶ〝物〟じゃないの。自ら使用者を選ぶ〝者〟なのだから。そして私はどの聖武具からも選ばれなかった。刀を使うってことは聖武具にとっては浮気のようなものかもしれないわね。」

 「へぇ、自我でもありそうな言い方だな?」

 「たぶんあるわ。アオバ君とヒイラギさんは聖武具に選ばれてから独り言が多くなったような気がするもの。」

 「なるほど。ま、お前が聖武具を使えないことは分かった。それでなんであんなに苦しむことになったんだ?」

 「聖武具を使えない勇者は、要は欠陥品よ。でも勇者として身体能力は高くなっているし、それだけでも戦力になるから見捨てられることはなかったわ。でもそれだと王家にとってはただの強い兵士と何も変わらない。だから私は聖武具の代わりに宝玉を取り込むように言われたのよ。」

 「王家に?」

 「ええ、ティファニー王女が直々にくれたわ。そしてその宝玉が私が苦しんでいた原因よ。聖武具の力を解放した状態は聖武具に膨大な魔素を流さないといけないの。だから普通、勇者にとっての奥の手なのよ。でも私が宝玉に入っていた、底無しと言って良いほどの魔素をアオバ君達の聖武具へ流すことでアオバ君達はいつでも聖武具の解放状態を使えるようになったわ。」

 解放状態というのは十中八九、あの武器を凄く光らせた状態だろう。

 「そして元々自分にはなかった能力を行使する反動で激痛が走る、と?」

 ここは爺さんの受け売り。

 「ええ、その通り。さ、私のことは教えたわ。あなたのスキルを教えて。」

 「朝言っただろう?」

 「ごめんなさい、聞き方が悪かったわね。あなたのスキルを“全部”教えなさい。」

 「はぁ、朝言った二つと超魔力、隠密、そして武道系が二つあるな。」

 〝何々だ。〟と断定しないこの言い方だと嘘にはならない。つまりユイの質問には完全には答えきっていない状態になる。

 もちろん、テミスを警戒してのことだ。

 「テミス、どう?」

 と、ユイが虚空に呼びかけるとそこから件の女神様が現れた。

 予想通り。おっかないったらない。

 「嘘は言っておりません。」

 心なしか、俺を睨んでいるように見える。

 「わざわざカイトから借りてきたのか?」

 「ええ、でもその必要はなかったみたいね。ありがとう、テミス。」

 「お気になさらず。」

 暇な女神様はそれだけ言って、またもや小さな光球となって消える。

 「これで用は済んだわ。私は帰るわね。」

 「待て、その宝玉を取り出させてくれないか?」

 「聞いてなかったの?これはアオバ君達の力を最大限に発揮するための……」

 「まぁまぁまぁまぁ取り敢えず俺の話を聞けって。」

 ユイを座らせ、俺はヴリトラの復活のことや邪龍の魂片のことを伝える。。

 かなり回りくどく、同時に懇切丁寧な説明をして、ユイに教えるついでに今日1日分の魔法陣の効果は発揮させることができた。

 「……だからその宝玉を俺に取り出させて欲しい。」

 「ふーん、でも断るわ。」

 そして彼女はあっさりと俺の申し出を断ってしまった。

 これは想定外。

 「それが無くなればもう苦しまなくて良いんだぞ?それにヴリトラから狙われる可能性も減る。」

 「駄目よ。これは私にできる唯一の役割なの。それに宝玉を取り出したとして、アオバ君達が全力を出せないせいで傷付いたり死んだりしてしまったら私はどう償えばいいか分からないもの。」

 「二人にそのことを説明すれば……」

 「駄目!それだけは駄目よ。アオバ君にはもう心配をかけられないわ。聖武具に選ばれなくても必死で私をかばってくれた。それに王城の人達にもこれ以上迷惑をかけたくないもの。」

 「高校生がなに言ってんだ。ったく、まだ若いんだから他人に迷惑をかけるのは当たり前だろうが。迷惑をかけながら生きていくのは若い奴の特権なんだぞ?一々振り返ったりせずに特権を最大限活用しろよ……まぁ、やり過ぎない程度にな?」

 「それでも助けてくれたアオバ君には報いないといけないじゃない!」

 「はは、そんなもの、ありがとうの一言で十分だろ。その上さらに感謝の気持ちを物なり手紙なりで表すのはお前自身の判断だ。相手が決める事じゃない。もし相手がそれに文句を言うような奴なら始めから感謝する必要はないだろうに。」

 一々深刻に捉えすぎだと思う。

 「そ、それでも私は勇者よ。期待には答えないと……。」

 「勇者なんて聖武具が使えたとしてもただの強い兵士じゃないか。呼ばれた理由だって戦争だろう?お前らが呼ばれた理由が戦争に勝つためであってもお前らのこの世界での目的は生き延びることだ。それは分かっているよな?」

 「何が言いたいのかしら?」

 ユイは少し困惑した顔をする。

 分かりにくかったか?

 「生き延びて、元の世界へ無事に帰還することがお前らの最優先の目標だろ?」

 「ええ、当然でしょう。」

 今度はきちんと頷いてくれ、彼女は続ける。

 「だからこそ私にはこの宝玉が必要なのよ。」

 「そのせいでカイト達はヴリトラの脅威にもさらされるんだぞ?勇者の身体能力があれば戦争くらい、生き残ることに徹すれば切り抜けられるだろうに。」

 「それは、まぁ。」

 「お前がそれを持つことで逆に危険を呼び込むことになる。だから、俺に宝玉、いや、ヴリトラの魂片を渡してくれないかって言っているんだ。」

 「でもこれは、元々はスレイン王国の物よ?私が勝手に渡すなんて……」

 「そのスレイン王国に確認を取ったとして、それが許されると思うか?それに、それをただの宝玉だって嘘を付いたのは向こうの方だ。気にするな。大丈夫だから、な?最悪、俺に騙されたって事にしていい、あとの事も任せておけ。」

 「そんな、でも……。」

 「それを持ってたって苦しむだけだ。それにカイトは優しい奴だろ?」

 見るからに。

 「はぁ……分かったわよ。」

 「ホッ、そりゃ良かった。」

 それは何より。

 「なら今から取り出すわね。」

 え?

 「現界、魔槍ルーン。」

 ユイがそう呟くと、どこからともなく光が集まり、その手に槍が現れた。

 血のように真っ赤な柄と穂先。柄から穂先までは透明な液体で濡れていて、その穂先から滴り落ちている。

 その槍の穂先をユイは自分の胸元、ちょうど心臓の辺りにゆっくりと穂先を向ける。

 『いかん!』

 頭に警告が響く。

 それに従い、俺は跳ねるように動いてルーンの柄を持ったユイの手から引き抜いた。

 「痛っ!」

 途端、とユイが手をおさえる。

 どうやら引き抜く際に手のひらを軽く切ってしまったよう。考えてみれば指ごと切り落としていた可能性もあった。あまり力を入れて柄を握っていなかったことが幸いだったな。

 『何が幸いなものか!もしユイを救いたいのならば早急に治療せい!』

 何を……!?

 「う……くっ。」

 逡巡している間に突然、目の前のユイが地面に倒れた。

 『早くせんか!』

 後で説明しろよ!

 『自ずと分かるわい。』

 苦しそうに喘ぐユイを急いで肩に担ぎ上げ、教師証を持って職員室へ転移する。


 「おい、治療担当の職員は誰だ!」

 視界が戻る。即座に叫ぶ。

 残業をしていた教師達が一斉にこちらを振り向いた。俺の腕のなかのユイを見て固まっている。無理もない。

 「どうした、やり過ぎたのかね?」

 ゆったりとした話し方でラヴァルが話しかけてきた。俺を落ち着かせるためだろうが、爺さんのあの急ぎようからそんな暇はないだろう。

 「それよりも早く教えてくれ!」

 「それならば……」

 「何をしているの!ラヴァル、さっさとツェネリ先生を連れてきて!私がエスナで何とか繋ぐわ。」

 ファレリルがラヴァルを遮って飛んできた。

 「分かった。」

 その剣幕にさすがのラヴァルも目を見開き、転移していった。

 「コテツ!早くその子を下ろしなさい!」

 「あ、ああ。」

 跪き、ユイを地面に寝かせる。

 そしてファレリルが両手に白い魔素を集めてユイに乗せた。

 「白はあまり得意ではないけれど、エスナ!」

 基本の毒消し魔法が発動され、ボウッと白い光がユイを包む。

 「えっと、手を怪我してて……。」

 「それを早く言いなさい!で、どっち?」

 「たしか右の……「これね。ふぅ、……ハイエスナ。」」

 平静を取り戻したフェレリルは右手を重点的に解毒し始めた。

 「ゴホッゴホッ。」

 ユイが血を吐きながら咳き込む。

 「くっ、ツェネリはまだなの!?」

 「連れてきたぞ。」

 あたかもファレリルの呟きに応えるように、ラヴァルが転移してきた。

 「我輩が来たからには大丈夫である。」

 急に現れた彼の後ろにいたのは、黒々した肌の筋骨粒々の大男。

 彼――おそらくはツェネリ――はユイを一瞥し、眉を潜める。

 「むむっ、これは酷い。事情は後で聞こう。退いてください。今から我輩が治療を行うのである。」

 「ええ、お願い。」

 パッとファレリルは飛び上がり、ツェネリの後ろへと下がった。

 「エクスエスナ!」

 ユイの体が一際大きく輝く。光が止むとそこには通常の呼吸を取り戻したように見えるユイの姿。

 「治ったのか?」

 さっきまでの苦しみようからどうしても魔法一発で治せるとは思えない。

 そして案の定、ユイは再び苦しそうに咳き込み始める。

 「いや、まだであるな。何という毒の強さだ。こんなものどこにあったのか話は必ず聞かせてもらいますぞ。カダはいるか!?」

 ドスの聞いた声で言い、ツェネリが周りを見回す。

 「は、はい!」

 カダが手を上げて出てきた。

 「ああ、取り敢えず連れ呼んでおいた。必要になるかもしれないと思ったからな。」

 「でかしたわ、ラヴァル。」

 「……カダ、アレの用意を。」

 「ア、アレをするんですか!?そ、そんなにひ、酷い事に……。わ、分かりました。み、皆さん、ま、周りをか、か、片付けて!」

 心配そうに覗き込む教師達に号令を掛け、カダは懐から粉の入った袋を取り出して、中の紫色の粉でユイの回りに魔法陣を描き始める。

 「コテツ、であったな。この子はいつこうなったのであるか?」

 「5分ぐらい前、だな。」

 ツェネリの質問に端的に答えると、彼は他の3人の方を向き、一言。

 「分かっていますね。」

 「これをするのは久しぶりだな。」

 「二度と使うことがないほうが良かったんだけれど。」

 言われたファレリルとラヴァルが、カダの描いた魔法陣の、外側の4つの小円に手を置く。

 「ゴクッゴクッ、ふぅ、わ、私も準備か、完了だ。」

 何やら怪しげな青色の液体を数本飲んだカダも、ファレリル達と同じように小円に手を置いた。

 「お、俺も何かできるか?」

 「無理よ。これには強い魔力とその繊細な操作、そして残り三人と流す魔素の量の同調が必要になるの。だからあなたにはどうあがいても無理。ニーナへの説明の方法でも考えておきなさい。」

 「……そうか。……頼む。」

 不甲斐ない。

 「ええ、頼まれたわ。」

 ファレリルが当然、と頷き、ツェネリが小円に手を置いた。

 「ではいきますぞ!」

 他の三人がうなずく。

 魔法陣を描く紫の粉が4つの小円からの部分から発光し、その光は次第に魔法陣全体をゆっくり反時計回りに広がっていく。

 そして光が魔法陣を完全に満たす。

 「「「「リワインド!」」」」

 四人が唱え、紫光の輝きがいっそう眩いものとなる。

 少しして、ユイの手の傷が急激な速度で塞がっていき、完全に塞がったところで四人が同時に手を離す。

 床にはユイが異常なく横になり、スヤスヤと穏やかに眠っている。

 「治ったのか?」

 「フッ、正確にはもとの状態に戻した、だ。」

 ラヴァルが教えてくれるも、俺は結果を知りたいだけだ。

 「治ったんだよな?」

 「ええ、治ったわ。ラヴァルの言うように彼女の時間を巻き戻してね。毒や深刻な切り傷でも何とかなるけど体の中身が丸々喪失なんてしたらもう助けられないから、無茶はさせないように。」

 どんな無茶だよそれは……。

 「それで、説明はしてくれるであるか?」

 「明日でいいか?ユイがまだ心配だ。」

 「ふむ、たしかに。では我輩が彼女を連れて行こう。」

 そう言ってユイを抱え、ツェネリは転移していった。

 「明日理事長に報告をしておいて。いいわね。」

 「分かった。ありがとう。」

 「が、学生を守るのはきょ、教師のつ、勤めですから。」

 カダが胸元のメダルを持って見せてくる。耳に痛い話だ。俺は何もできなかったしな。

 「コテツ、帰って寝るといい。何を考えても今は好転すまい。」

 「そう、だな。」

 ラヴァルの言葉に俺は鷹揚に頷いた。



 「はぁ。」

 改造部屋に戻ると気が抜け、思わず溜め息がこぼれる。

 「ご主人様、何かありましたか?」

 それを見てルナが心配してくれた。

 「あーいや、何でもない。」

 「そうですか。どんな悩みであれしっかり食べれば気分が上向きになりますよ。」

 「だから悩んでないって。」

 「ご主人様はもっと私を頼ってくださって良いんですよ?」

 「あ、ああ、気持ちはありがたく受け取っておく。」

 本当、心配してくれるだけでも楽になる。

 恥ずかしいから声に出しては言わないけれども。

 「それで、今日の夜ご飯は?」

 そういえば、と恐る恐る聞いてみる。

 「ふふふ、ちゃんと量は考えましたよ。このぐらいでどうでしょう?どうぞ、今夜はカツ丼です!」

 おう……。

 まぁ、カツ丼自体の量は丁度良いな。うん。

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