表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第九章:はっきりとは言えない職業
326/346

新たな力➀

 森の中から垣間見える灰色の空に、小さな打ち上げ花火の光はとてもよく目立った。

 「や、やった、これでお前達は、終わぶっ!?」

 「二人とも、逃げるぞ!」

 それを見上げ、達成感溢れる笑顔を浮かべた騎士を思いっきり殴りつけて黙らせ、ベン達のいる方へと駆け出す。

 「はい、それしかありませんね。」

 「ああ、分かった!」

 少し遅れ、ケイとセラも俺の後ろについて走りだした。

 今尚ワイヤーに縛られたままの騎士が打ち上げた火の玉はどこまで楽観的に見ても味方への合図で間違いない。そう時間も経たないうちに準備を万端にしてきた敵兵がここへ押し寄せて来る。

 そんなのと戦おうなんて思う奴は余程の戦闘狂かただのアホだ。

 『ん?お主は両方では……』

 やかましいわ!少なくとも俺は戦闘狂じゃない!

 『そうかの?』

 どう考えてもそうだろうが!

 脳内で怒鳴りつつ右耳を抑える。

 「ユイ!退却だ!ベンとヘレンにも退くように言ってくれ!」

 [え?な、何馬鹿なこと言ってるのよ!敵に捕まったっていうのならなおさら助けに行かないと!]

 「違う!そういうことじゃない!盗賊団に隣のアイワース領の騎士が加担してたんだよ!」

 語気を強くしてそう言うと、ユイは少しの間沈黙した後、ポツリと一言呟いた。

 [そんな……どうして?]

 「知るか!」

 んなもん俺が知りたいわ!

 「とにかく、俺達は待ち伏せされていたんだ。この先どんな罠があるか分かったもんじゃない。それにアイワースの騎士が加わった分、敵の数だってかなり増えている可能性が……『うむ、集った傭兵の2倍はおるの。』……あーいや、確実に増えてる。」

 知りたくなかったなぁ。

 [分かったわ。ベンさん達にもそう伝えておくわね。]

 「頼む。」

 [それで、本当に助けはいらないのね?]

 「おう、出くわした敵ならしっかり倒した。……まぁ、少しドジって増援呼ばれて、今は尻尾巻いて逃げてる真っ最中だけどな。はは。」

 [駄目じゃない!]

 「まぁまぁ大丈夫だって。援軍を呼ばれたってだけで、取り敢えずその姿はまだ見えて……嘘だろっ!?」

 怒鳴るユイに軽く笑って返した瞬間、後ろから強い気配がこちらへ迫ってくるのを感じた。

 まだ距離はあるとは言え、接近してくるその速度は逃げる俺達を凌駕してしまっている。

 そしてそれより何より、この気配には――とてつもなく嫌ぁな――覚えがある。

 覚え間違えだと良いなぁ……やっぱりそんなことないよなぁ。

 「はぁ……。」

 [ちょっと、どうしたのよ。]

 「……敵方にアイがいる。」

 荒々しい、殺意の塊のようなこの気配の持ち主はあのカイト大好きっ子で間違いない。

 [え!?]

 「まぁ何にせよやることは変わらない。退却の指示、頼むぞ。」

 [待って。まさかあなた一人で戦うなんて言わないでしょうね?]

 「……まぁ、一人じゃないな。」

 一応今は。

 [あ、ちょっと!?]

 「じゃあな!」

 一方的に会話を終わらせ、耳から手を離して足を止める。そして迫る敵の方へと身体を向けると、ケイも隣で足を止めた。

 当然といえば当然ながら、彼も近付いてくるアイの気配を感知しているのだ。その目にははっきりと不安の色が見える。

 「隊長さん、アレを迎え撃つんですか?」

 「どうせ逃げ切れないのはお前も分かってるだろ?それに勇者の扱う聖武具は軍隊相手にこそ真価を発揮するからな、ヘルムントの奴らに追い付かせたら大惨事になる。」

 「……そう、ですね。」

 「まぁ心配するな。あいつの相手は俺がする。できればお前にも横から嫌がらせとかして欲しいけどな、ぶっちゃけこのままベン達の元まで逃げて貰っ「私は残ります。」……そうか、ありがとな。セラお前は、くはは、準備万端か。」

 「ふん、一騎士として、守られるというのが癪なだけだ。……勇者アイか、相手にとって不足はない。」

 既に剣を抜いて構えているセラの姿に苦笑すると、彼女は鼻を鳴らして鋭い目を森の奥へと向けた。

 冒険者として気配察知も身につけていたか、どうやら彼女も迫る脅威に気付いていたらしい。

 すると、遠くに純白の光が見えた。

 鉄塊を発動。ロングコートの下にスケルトンを纏う。

 「来るぞ!」

 そして鼓舞を込めた号令を掛けると、ケイは隠れるため後方へ退いていき、セラは剣を構え直した。

 「……ルァァッ!」

 雄叫びが木霊し、白い光が加速。

 まだ速くなるのかよと舌を巻いたのも束の間、迫る光が突如無数に増殖したのを見て、聖槍が投げられたのだと遅れて理解した。

 「ったく、ハナから全力かよ!」

 悪態をつき、右手の木の陰へ飛び込む。

 『アレに手加減を期待しておったことの方がが驚きじゃ。』

 まぁ確かに。

 背にした木の幹に黒い魔素を込め、それを鋼鉄並みに硬化した次の瞬間、白い槍の雨が水平に降り注いだ。

 爺さんの好調はこの前触れだったか……。

 『違うに決まっておろうが!』

 そうかぁ?

 聖槍の突き刺さる端から文字通り木っ端微塵に弾ける木々、細めの若いものはもちろん、太く、樹齢を重ねてきたであろうものでさえ、ただの一撃すら受け止められずに粉砕される。

 泥の下の地面まで抉られ、掘り返され、そこにさらに大小様々な木片が突き刺さって小汚い造形を作り上げた。

 セラを見れば、彼女も俺と全く同じ方法で――既に半ばから吹き飛んでしまった、黒く染まった木の幹の根元で背を丸めることで――難を逃れていた。

 そして木の幹から伝わる振動や肩をかすめて次々飛んでいく槍に肝を冷やしながら身を小さくしていること数秒、危険極まりない雨は突然、ピタリと止んだ。

 数秒遅れて、さっきからビシバシ放たれている殺気とは裏腹に、何の気負いもない声が背後から聞こえてくる。

 「ふぅ、スッキリした。森ってあんまし好きじゃないんだよね。汚いし。できれば泥も吹き飛ばしたかったけど、仕方ないかな。あんたもそう思わない?」

 座る俺の頭の高さより上を失った木の陰からチラと様子を見れば、白銀の鎧を身に纏ったアイが歩きながら軽い伸びをしていた。

 どうも今さっきの攻撃には俺達への牽制どころか、戦いやすくなるように場を整えるぐらいの意味しかなかったらしい。

 恐ろしいったらない。

 いつの間にかその手元に戻ってきていた聖槍ゲイボルグを肩に担いだアイは周囲をぐるりと見回すと、「チッ。」と大きめの舌打ちを漏らした。

 「何黙ってんの?まだ生きてるっしょ?」

 声に苛立ちを滲ませ、アイがゆっくりと近付いてくる。

 「早く出てきてよ。さっきは私と戦う気満々だったじゃん?それとも今ので怖くなっちゃった?」

 一度隠れたからには不意討ちを狙いたい決まってるだろ。誰が進んでお前なんかと正面対決するか!

 叫び返したいのは我慢。

 アイがこのまま直進して俺の横を通り過ぎた瞬間即座に襲い掛かれるよう、静かに姿勢を変える。

 「隠れてるのは分かってるんだからさ、面倒掛けないでよ。ねぇ、第二王……ううん、“元”第二王子の婚約者さん?」

 ……アイの奴、そういや気配察知を身に着けていたな。ただ、どうもセラの気配しか感知できていないようなのは隠密スキルの習熟度故かね?

 でもまぁセラの方も隠密スキルを習得してはいるのだから、存在は知られても位置までは分からないだろう。

 そう思っていたら、急にアイが足を止めた。

 ……不意打ちするにはまだ少しばかり距離があるな、くそったれ。

 歯噛みしながらも木の影からチラと様子を伺えば、彼女は槍の雨に晒されて尚運良く形を残した木の根元の一つ――セラが今現在隠れている場所へと顔を向けていた。

 「だからさぁ、こそこそ隠れてないで……」

 聖槍が右肩から下ろされ、するとそれに触れてもいないのに下の泥が辺りへ飛び散る。

 風の刃か!

 「……さっさと出て「セラ!そこから離れろ!」ッ!あんたもいたの!?」

 そしてアイが木の幹ごとセラを串刺しにする直前、俺は大声を上げて飛び出し、こちらへ素早く向けられたアイの顔面目掛けてナイフを投げつけた。

 すかさず飛びずさることでそれは避けられ、ナイフはアイが今しがた貫こうとした木に突き立つ。

 即座にアイがこちらへ左掌を突き出して魔法を行使しようとしたのに対し、俺は無色弾で集まり掛けた魔素を吹き飛ばしてやった。

 「っ、あーもう面倒くさい!」

 「そこだッ!」

 魔法が不発に終わって苛立たしげに怒鳴ったのを隙と見て、木の影から飛び出したセラが剣に蒼白い軌跡を描かせアイに切り掛かる。

 「うざい!」

 「ぐぁっ!?」

 しかしそれより先にぶん回された槍がセラの肩を強かに打ち据え、それだけで彼女を森の奥へかっ飛ばした。

 ……なんつー馬鹿力だ。

 「くそっ、セラ!」

 「ハッ、人の心配してる余裕があんの?ハイジャンプ!」

 声を上げた俺を鼻で笑い、アイが足元の泥を爆発させてこちらとの距離を消す。

 「くっ!?」

 そうして突かれた槍は黒龍で何とか上に弾いたものの、予想以上の力に腕が軽く痺れ、右足を後ろへ半歩下げさせられた。

 「スマッシュッ!」

 そうアイが叫ぶと俺の頭上を突いた槍が蒼白い光を纏い、そのまま俺の頭をかち割らんと軌道を真下へ変える。

 ……攻撃を真正面から受け止めたところで力負けするだけなのは初撃でよく分かった。

 だから俺は陰龍の刃の根本を槍に宛てがい、その刃の背中を黒龍の柄で押し支えると同時に右足で地面を蹴り、左足軸にその場で回転し、ついでに陰龍の切っ先を下へ向けることで聖槍に地面を叩き付けさせた。

 槍の着弾点が爆ぜ、泥の飛沫が高く舞う。

 そして既に半回転し終えた俺はアイのすぐ右に足を下ろし、そのまま彼女の後頭部を掲げていた右肘で打ち据えた。

 アイがうつ伏せに倒れ、遅れて泥の飛沫が辺りへ散る。

 しかしそこで安堵の息を吐こうとした瞬間、純白の槍が俺の顔へ跳ね上がった。

 「くぉっ!甘かったか!?」

 「ハッ、あんなんでやられる訳ないっしょ!ハイジャンプ!」

 予想外の一撃を咄嗟に距離を取ることで躱した一瞬後、左手で上体を支えていたアイが再び急加速を行い、こちらとの距離を詰め終える。

 そして繰り出されたのは、嵐のように激しい槍撃。

 その全ての軌道を双剣で逸らさせるも、小柄な身体に似合わぬ力に押され、やはり後退を余儀なくされる。

 それでも対処が追い付いていることに変わりはない。このままアイが疲れるか何かして隙を見せてくれるのを待てば良いだけだ。

 しかし、先に隙を晒したのは俺の方だった。

 突如、何の前触れもなく、下げた左足の踵が固い何かに阻まれたのだ。

 「ッ!木か!?」

 その何かの正体に気づいた時にはもう遅く、踏ん張り切れなくなった右足が泥で滑る。自然、俺の体は後ろへグラリと傾いた。

 「潰れろッ!」

 ここぞとばかりにスキルの光を強めさせ、聖槍の鋭い穂先が迫る。

 「くそっ!」

 対し、悪態をついた俺は陰龍を逆さに握り直して真後ろの木の幹に深く突き刺し、それを手掛かりに黒龍を聖槍の側面へ力一杯叩き付けた。

 まるで鋼の壁をぶん殴ったかのように右手が痺れる。

 が、その甲斐あってトドメとなりかけた一撃は俺の左頬を掠めるに留まった。

 ただ、そうして俺から逸れた槍は背後の木をあっさりと粉微塵にしてしまい、左手の手掛かりを失った俺の身体は再び浮遊感に襲われる。

 そこへすかさずアイの蹴りが入った。

 「ゴハァッ!?」

 咄嗟に黒銀を使ったは良いものの踏ん張ることなどできるはずも無く、勢い良く吹き飛ばされた俺の身体はまだ無傷だった木々の幹を幾つか折った後、ようやく泥地に背中から激突して止まった。

 すぐさま顔を上げれば、目に入ってきたのは殺気に満ち溢れた表情でこちらへ走ってくるアイの姿。

 しかし俺がまだ完全に立ち上がる前に彼女は突然大きく後ろへ飛び退いた。

 「まだいんの!?」

 俺から見て右へと目を走らせ、怒鳴るアイ。

 その左手には矢、いや、クロスボウのボルトが掴まれている。

 ……ケイ、か。

 「……どいつもこいつもこそこそ隠れ回って。ったく。」

 ぶつぶつ呟きながらボルトを中程で握り折り、脇に捨て、アイが聖槍を肩に担ぐ。

 「貫き穿て!」

 それは不味い!

 放たれる白く強い輝きに焦って素早く立ち上がり、地を蹴り駆け出す。

 「お前の相手は俺だろ!?」

 「チッ!」

 叫び、再びナイフを投擲すれば、舌打ちしたアイは担いでいた槍を片手で回転させてそれを弾き、

 「じゃあお望み通りあんたから殺してやる!スティング!」

 瞬く間に俺との距離を詰めて、腰に構え直した聖槍を鋭く突き出した。

 「ハッ、そりゃ骨が折れるぞ。」

 笑い、槍を黒龍で左へ流しつつ踏み込んだ右足を今度はわざと泥に滑らせて、十分距離を詰めたところで相手の顎目掛け右肘を振り上げる。

 手応えあり。

 そう思ったのも束の間、蒼白い軌跡を描いた肘をモロに打ち込まれたにも関わらず、アイの顔がビクともしていないことに遅れて気が付いた。

 「よっわ。」

 「……嘘だろおい。」

 鉄塊は発動させてる、よな?少なくとも2年前はこれで意識を奪えたぞ?

 驚きを隠せずいると、右脇腹に蹴りが入った。

 「ガッ!?」

 ミシリと骨の軋む音が体内に響き、またもや身体が吹っ飛ばされる。

 湿った土に左肩から倒れ込むなり背を丸めて一回転。地面を強く押して跳ねるように立ち上がって即座に戦闘態勢を取るも、敵の槍は既にすぐそこまで迫っていた。

 それを握るアイの姿はない。槍を投げたのだ。

 「くっ!?」

 慌てて陰龍でそれを右へ弾き、同時に右足を大きく引く。胸元を貫こうとしていた槍は、ロングコートの右肩横を破らるだけに留まった。

 「ハイジャンプ!」

 そこへ間髪置かずにアイが突っ込んでくる。

 その手には先程森の奥深くへ飛んでいった筈の聖槍。軽く驚きはしたものの、タネはすぐに理解できた。

 何のことはない、槍を二本に分裂させ、片方を投げただけだ。

 一瞬で俺を間合いに入れたアイが片手で槍を鋭く突く。陰龍を切り返させることでそれを左に流すも、こちらが反撃に移る前に第二の突きが連続して放たれ、それを捌けばさらに畳み掛けるように連続して刺突が襲ってきた。

 しかしとてつもない速さながら、やはりまだ龍眼に頼る程じゃない。

 顔を狙った突きは首を傾けて、手足へのそれは最小限の位置調整をして躱してしまい、避けにくい胴体目掛けたものに関しては双剣を操り、逆に槍の方に俺を避けてもらう。

 点の攻撃で駄目ならば、と薙ぎ払いや叩き付けなど線の攻撃をアイが多用してくると、その分攻撃速度が落ち、むしろ対処がしやすくなった。

 そうして相手の攻撃全てに対処していながらも、長いリーチと合わさった無茶苦茶な攻勢は、俺に防戦を強いてくる。それでもしぶとく耐え、相手の勢いが緩んだ一瞬の隙をついて聖槍を陰龍で上に大きく弾いてやると、その直後、槍の穂先が眼前まで迫った。

 「くぉッ!?」

 慌てて仰け反る。

 前髪が散った。

 視線をアイへ戻せば、彼女が左右それぞれの手に白い槍を持っているのが見える。

 ……そんなこともできるのかよ。二刀流ならぬ二槍流ってか?

 変に感心してしまいつつ、救い上げるように黒龍を思い切り振り上げる。するとアイは大きく後ろへ跳んで事無きを得、

 「貫き穿て!」

 そのまま宙に静止して右の聖槍を肩に担ぎ、声を張り上げた。

 槍の白い輝きが一層強くなり、周囲の影という影を消す。

 「龍眼!」

 対し、目を金に染め上げた俺は眩い槍を注視したまま腰を落とし、双剣を構え直した。

 「ゲイボルグッ!」

 降り注ぐ無数の光。その一つ一つが容易に人体を貫く力を持ち、加えてその回復さえも妨げる。

 ただ、アイには悪いけれども、この対処は正直得意分野だ。

 数年前、神弓エルフィーンによる攻撃を何とか無事に切り抜けたし、何ならほんの数ヶ月前、まさにこの攻撃からユイを無傷で守り切って見せた。

 ……むしろ聖槍による攻撃の方が、ほぼ一斉に襲い掛かってくる分、エルフィーンより突破しやすいまである。

 自身に命中する槍を瞬時に見切り、それら全ての軌道を、左右合わせてたったの二振りで全て他所へズラしてやる。

 そうして周囲に着弾した聖槍は盛大に爆発を起こし、無数に連なったそれらは地響きを立てて地面を揺らした。

 が、俺への被害は一切ない。

 「ふぅ、さぁこれでしばらくは動け……「ハイジャンプ!」……なっ!?」

 聖槍の全力使用でしばらく動けなくなると思いきや、未だ宙にいたアイは着地することすら横着して虚空を蹴飛ばし、突撃してきた。

 一瞬の油断で反応が遅れ、それでも突かれた槍は黒龍の腹を盾としてギリギリで受け止める。しかしゲイボルグに込められた余りある膂力に俺の足は緩んだ地面を数メートル後ろへ滑らされた。

 「くそっ、聖槍の負荷はどうなった!?」

 話が違う!

 ……ていうか出会い頭に一回聖槍を使ってきてたな、そういえば!

 俺を押す力が弱まったところで悪態を吐き、陰龍を突き出せば、アイは槍にもう一押し加えて大きく距離を取った。

 次の攻撃を警戒してすぐに右足を引いて半身となり、構え直す。

 「ふふ、知りたい?」

 一方、アイはというと俺から離れた位置に着地するや何やら機嫌良さそうに笑い、自ら答えたくて堪らない様子でそう聞き返してきた。

 そして案の定、彼女は俺が何か言う前に口を再び開いた。

 「カイトがね、精霊をくれたの。とっても綺麗なんだよ。あ、せっかくだからあんたにも見せたげる。」

 甘えた口調で心底嬉しそうに言い、可愛らしくはにかんだアイが左腕を突き出して掌を上に向ける。

 するとそこに白、緑、黄色の3種の光が現れ、かと思うとアイの掌を飛び立って彼女の周囲を自由自在に飛び交い始めた。

 ……蛍?

 『精霊じゃと言うておったろ。』

 まぁ、真っ昼間からこんなに光が目立つ蛍はいないわな。風情も何もない。

 「ね、綺麗っしょ?」

 手元に戻ってきた3種の光を見た事もないほど優しい表情で撫でながらアイがこちらへ目を向けてきた。

 「精霊?生きた魔素、精霊だと!?あり得ない。それは、迷信の類、いや、空想の産物だろう!?」

 すると、アイのさらに向こうから驚きの声が上がった。

 「セラ!?」

 そこにあったのは、右肩を抑え、泥と擦り傷だらけになった身体を近くの木に預けた我らが女騎士の姿。

 あいつ、あんな状態でどうして戻ってきたんだ!?気合いで何とかなる程甘い相手じゃないぞ!

 しかし幸いなことに、アイの上機嫌はまだ続いていた。

 「そう、そんなすっっごく珍しい精霊を、カイトは私だけのために召喚してくれたの。で、大量の魔素を好きなだけ分けてくれるこの子達のおかげで、今の私は魔法をほぼ無制限に使えるって訳。ね?カイトの愛は凄いっしょ?」

 ……何してくれてんだカイトォッ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ