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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第三章:不穏な職場
31/346

31 職業:教師候補②

 「トーナメント表を発表します。第一試合コテツ対リーア。第二試合タイソン対アルベルトです。それぞれで勝った方が最終試合に出場できます。……ではこれより、第一試合を開始致します。」

 アナウンスがされるなり、俺はコロシアムに来る途中で買った焼き鳥などをさっさとたいらげ、リングに駆け上がった。

 観客の盛り上がっている声が聞こえてくる。

 向かい側ではリーアが既に待っていた。その手には体と同じくらい大きい、幻想的な光を纏った半ば透明な弓。

 ちなみに俺は初っぱなから黒龍と陰龍を両手に持っている。

 神を冠している武器に下手な手加減は危険だろう。

 ふと観客席に耳を傾ければ、ほとんどの奴等がリーアコールをしているのが分かった。

 まあ、むさい男なんてを応援しないよな。

 エルフって綺麗だし。

 『ふむ、ミヤ……』

 黙れ!

 [コテツさん、頑張ってください。]

 [コテツ、賭けるよ、いい?]

 と、アリシアとネルの声が頭に響いた。

 そういえば二人に買ってもらったこのイヤリングは念話機能があったんだったな。

 「もちろんだ。」

 耳を手で抑え、俺は二人にそう返した。

 「では両者構えてください。」

 アナウンスが流れる。

 「あなた、バトルロイヤルはほとんど何もせずに勝ったけれど、強いのかしら。」

 リーアはそう言いながら光の矢を手から生み出し、矢をつがえる。

 「何もしてないのはお互い様だろう?」

 あれが妖精の固有魔法か?

 『エルフのものじゃ。名前はそのままエルフの矢じゃよ。』

 エルフも固有魔法を持ってんのかい!

 『ちなみにルナベインのドラゴンロアも似たようなものじゃの。』

 はぁ、人間は?何かないのか?

 『うーむ、異常な繁殖力を利用した数の暴力?』

 あ、無いのね。あとゴキブリみたいに言うな。

 『ゴキブリとはお主の世界のあの虫かの?ふぉっふぉっ、全身黒ずくめが何を言っておる。そのコートに少し光沢があるんじゃから……』

 うるさい!

 「あなた、構えないの?」

 おっと集中集中。

 「すまんな、少し考え事をしていた。」

 半身になり、腰を落として構える。

 ゆっくりとした剣の動作を蒼白い軌跡が追うのを見て、リーアは目を一瞬丸くした。、

 「へぇ、強そうじゃない。」

 バトルジャンキーかよ、ルナを思い出すな。

 「はじめっ!」

 アナウンスの声が鳴り響くと同時に駆け出す。

 対するリーアは矢をつがえて俺を狙ったまま。ゼロ距離射撃でも狙っているのか?

 舐めやがって……乗ってやる。

 速度を上げる。

 そして俺の間合いにリーアが入る直前、

 「はっ!」

 矢が放たれた。

 即座にワイヤーを真後ろの地面に放ち、引っ張れば、上半身がガクッと背中から倒れ、矢は顔の真ん前を通過、観客席の方へと飛んでいった。

 ズゥンッと背後から轟音鳴る。

 状況からして矢が壁にぶつかった音だろうに、聞こえて来たのは明らかに矢のそれではない。

 鋼鉄をも穿つ力って奴か?

 背中が地面に着く直前、剣を持ったまま、指二本でナイフを両肩からとりだし、相手へ投げつける。

 「くっ、変な動きね!?」

 リーアは即座に飛び退いてそれを回避。俺は背中から落ちた勢いそのまま素早く後転をして距離を取り、、再び石のリング上を駆け出した。

 「このっ!」

 下がりながら、10本の矢を一気に持ち、リーアはその全てを矢につがえる。

 ……それで威力でも上がるのか?

 疑問に思っている内に矢が放たれ、その全てが放射状に広がった。俺に当たりそうな軌道は皆無。

 が、それが単なるミスかと思われた瞬間、全ての矢が急激に曲がり、軌道を俺の方へと修正した。

 妖精のものかエルフのものか、何らかの固有魔法なんだろう。

 一度に迎撃するのは無理と判断。

 光の矢は全て無視し、走る速度をさらに上げて、相手を直接叩きにいく。

 幸い、矢は曲がることはできても追尾性能はなかった。

 矢の動きはあらかじめ決められているのかね?

 が、俺の動きは誘導されていたのだろう、加速しだしたときにはリーアは真っ直ぐ俺に向け、既に矢を放った後。素早くそれを黒龍でたたき落とせば、そのときにはさらに二本が立て続けに放たれていた。

 次々と飛んでくる矢を黒龍で払い、陰龍で切り、体を捻ってかわす。接近する歩みが多少遅くなるものの、それを完全に止めることだけはしない。

 矢が尽きないという事実が忌々しい。ただ、連射だと一つ一つの矢の威力がそこまで強くないのが救いかね?

 これで毎回剣の修復させられていたら、おそらく魔力不足で俺が負ける。

 追う俺、逃げるリーア、しかしその攻守は逆転している。

 後ろ向きに逃げ続けた彼女は遂にリングの端に付き、背後に逃げ場が無い事を見て取るなりこちらを向いて俺を睨み付け、舌打ち。

 「チッ、様子見はここまでよ。」

 その少しの間だけ、矢が途切れた。

 「ああそうかい!」

 見逃さず、一息に距離を詰める。

 しかし相手が慌てて矢を撃ち始めると思いきや、諦めたのか、さっきまでとは打って変わってリーアは全く攻撃して来ない。

 訝しげに思いながらもそのまま走って黒龍を振りかぶり、間合いに彼女が入った瞬間、振り下ろす。

 「ふふ。」

 「は!?」

 リーアが笑い、俺の攻撃は空を切る。

 彼女は跳んだのだ。

 真後ろに。つまり、リングの外へ。

 「……ルールはこうよ、リング外の、“水に落ちた方”が負け。」

 落ちるはずの彼女の体は重力に逆らい、そのまま宙に大きな円弧を描いて俺の後方に一瞬で移動。

 その狙いはすぐに理解できた。

 「ッ!」

 首だけ回して後ろを振り向けば、弓を構えた上下逆さのエルフと目が合った。

 その口元には不敵な笑み。

 「ふふふ、これは避けられないわよ?」

 放たれるのは、鋼鉄をも穿つ光の矢。

 背後から襲ってくるそれを黒銀で受け止めようにも十中八九押し出される。なので剣で受け流してしまいたいものの、生憎今の体勢からじゃあ間に合わない。

 ならば第三案。

 「黒銀ッ!」

 左手を軽く伸ばして、肘、肩、肩甲骨までを黒く真っ直ぐ固めてしまう。

 腰を左に捻り、迫る矢に黒く染まった左肘を斜めに宛てがい、決定打に思えた一撃を左前腕で滑らせ、その軌道を俺の頭の上へと逸らし切った。

 ズンッ!と腹に響くような重い音が鳴り響き、観客席から悲鳴が上がる。

 怪我人はいないと良いなぁ。

 「嘘!?」

 「ハッ、驚いてる場合か!?」

 左足軸に回転して目を見開いたリーアへと向き直り、接近。

 「セァッ!」

 「くっ!」

 今度こそと気合いを込めて黒龍を振るうも、エルフィーンそのものに阻まれた。

 が、地に足付けた俺と違い、空飛ぶリーアは踏ん張れない。

 加えて変な体勢だったのが災いしたか、彼女はそのまま宙を錐揉みをしながら飛んでいった。

 すかさずその後を追う。

 リングに落ち、リーアの体が一度跳ねる。

 「らぁっ!」

 「させない!」

 宙に再び浮いたその胴へ向けて陰龍を振り下ろすも、またもやエルフィーンで防がれた。

 ……無駄にでかい上に頑丈だな。

 陰龍にもう一度リングに叩き落とされ、しかしそれでも相手は俺の剣を警戒は切らさず、大弓を両手で振り回す。

 「くっ、面倒だ、な!」

 それを片腕で防ぎ、俺はその無防備な脇腹を思いっきり蹴飛ばした。

 「がはっ!?」

 大きく飛んでいくリーア。

 しかしその体は今度は空中で静止すると、そのままスーッと上空高くへ浮かび上がっていった。

 「はぁ……はぁ……あなた空を飛べないのは分かっているのよ。ここまでは、飛び上がれないでしょう?」

 「攻撃は届くさ。」

 コロシアムのリングを強く叩く。リングは石でできているので、殴ったところに大小様々な小石が出来る。

 それを左手でたくさん、右手に一つを持つ。

 「らぁっ!」

 そして、俺はそれを思いっきり相手へ投げた。

 キィィィィィン。

 甲高い音が鳴り響く。

 見るとリーアの足下に、半径1メートル程の透明な薄いピンクの半球状の壁が展開されていた。

 ……ズルいな。

 「あなた、どんな筋力してるのよ。でも残念ね、この障壁は貫けないわ。」

 キィィィィィン、キィィィィィン、キィィィィィン、キィィィィィン、キィィィィィン、キィィィィィン。

 立て続けに響く甲高い音。

 俺が懲りずに小石を投げ続けた結果だ。思いっきり物を投げるというのがなんか楽しかったのだ。

 「だから無駄だって言ってるでしょう!もういい、手加減なしの本気でやってやるわ。」

 リーアはそう言うと弓を真上に向けた。

 「殲滅せよ!」

 ドワーフのミョルニルのときと同じように力の波動が辺りに広がり、エルフィーンがまばゆい光を纏う。

 そのままリーアが弦を引っ張る。

 そこに矢はつがえられていない。と思いきや、今までのどのエルフの矢よりも大きい光の玉が彼女の手元に現れた。

 「エルフィーン!」

 弓の名が叫び上げられ、同時にその光の塊は薄い桃色の軌跡を残しながら遥か上空へと放たれた。

 しばらくの沈黙。

 観客も含め、全員が上を見上げている。

 ズドォォォン!

 そして、遥か上空から爆発音が聞こえてきた。

 「なあ、飛行船とかに当ててないよな。」

 「そんなわけ無いでしょ!」

 一応聞いておくと、怒鳴られた。

 そすか。

 再び上空に意識を集中。

 すると、一筋の光線が落ちてきた。

 光は俺の前方三メートルぐらいに落ち、爆発。半径1メートルのクレーターを作る。

 ……まさか。

 再び空へと視線を上げ、今の爆発を皮切りに、青い空から無数の光線が降ってきているのが見えた。

 空を埋め尽くすようなそれらは、観客席には一つも向かっていない。きちんとそこらの調整はされているよう。

 しかし、何て数だ。

 黒魔法で壁を作ってもいい。ただ、そうすれば相手を確実に見失うし、俺の手札がバレる。

 そもそもたった一つで石の塊をあんなあっさり砕く代物を全て受け止められるのかも怪しい。

 でもだからといってこれを全部捌くのか!?

 ……落ち着け。

 はぁぁふぅぅ……よし。

 「龍眼!」

 呼吸を整え、目の能力を底上げ。

 すると落ちてくる無数の光に眩く照らされたコロシアムは少し暗く、見やすくなり、そして降る光線は光弾となった。

 それらは一気にたくさん落ちてきてはいるものの、ホーミング機能は無い上、着弾するタイミングもバラバラ。

 落ち着いて一つ一つに対処すればいい。

 黒魔法の壁は最終手段だ。

 そして、光の雨が襲い掛かってきた。

 ズドドドドドドと絶え間なく落ちる光弾はリングに着弾する度にその表面を砕き、砂塵を巻き上げる。

 その度にグラグラと足場を大きく揺らされるも、攻撃を放った本人、リーアは空。

 ったく、いい気なもんだ。

 体のバランスと光弾への対処だけに専念し、また常に弾幕の少しでも薄い箇所へと小刻みに動き回りながら、乱舞する光をかわし、そらし、弾いては斬り落とす。

 砂埃で碌な視界が無いまま、突然現れる薄桃色の光に双剣の纏う蒼白いそれをほぼ反射的に幾度となく交錯させること数十秒、弾幕が次第に薄くなり、視界がある程度回復してきた。

 そして最後の一本を弾いたと同時に、俺は両龍の柄を合わせて弓へと変形、それを左手で握る。

 弓の弦は俺の筋力でしか引けないぐらいの固さ。故に飛距離や威力は段違いだ。

 砂煙の間から見えたリーアは下を向いて警戒していた。

 幸い、こちらにはまだ気付いてはいない。

 砂塵に紛れ、矢を作ってつがえる。チャンスはこれっきりだ。失敗すれば次はない。

 コテツ、しっかり狙え。

 矢を放つ。それは直接リーアに飛んでいかず、上空へと消えた。

 「そこ!」

 おっと、見つかった。

 弓を霧散、黒龍と陰龍を両手に構え直すと同時に、リーアが空中から連続して矢を放ち出した。

 ほとんど引き絞る必要がなく、少し引くだけで正確かつ速く放てるなんて、本当にどうなってんだ。

 内心は文句たらたらながら、龍眼はまだ発動中。

 脅威はさっきまでの光の怒涛の雨あられとは比べようもない。これならしっかり堅実に矢を捌いていける。

 「私の矢は尽きないわ。つまりあなたが力尽きた瞬間、私の勝ちなのよ。さっさと降参しなさい!」

 と、矢を連続して放ちながらリーアは俺に勝利宣言をして来た。

 もし本当にそんな展開になったなら、お互い、眠気との対決になる気がする。

 ……まだか。

 「でもあなたは強かったわ。まさかアレを凌ぐなんてね。」

 勝利を確信した余裕の表情で相手は矢を撃ち続ける。

 対する俺は、自身の心の内にいつか気付れるんじゃないかと気が気じゃない。

 まだか、早くしろよ!

 と、天頂から迫る黒い物体か目の端で捉えられた。

 ああ、やっとだ。

 あの厄介な障壁はリーアを自動でいつも守っている訳じゃない。彼女が意識すればその力を発動する類のものだ。、

 そして今、彼女は下からの攻撃ばかり警戒していて、頭の上が疎かだ。少なくとも今、上方向にはバリアは張られていないと見て取れる。

 思わず口角が上がる。

 「うふふ、 本当、この状況じゃあ笑うしかないわよね。」

 俺の笑みは別の意味を持っていたようにリーアは思ったらしい。

 俺が弓を所持しているなんて向こうが思ってもいなかっただろうことが幸いした。

 やっぱり手札はなるべく隠して正解だな。

 空から降ってきた黒い矢が刺さる直前、リーアは光に包まれて、リングの外の水に落ちた。

 「え?なんで!?」

 水に浮かんだまま、本人はぽかんと間抜けな顔をしていて何が起こったのかまだ分かっていないよう。

 「勝者、コテツ!」

 そして俺の名前が勝者として呼ばれた瞬間、観客席が爆発した。

 「そんな、バカなぁ!」

 「あああああああああああああ!」

 「これは悪夢だ!」

 「安全パイだったのに!くそぉぉ!」

 「この世に神はいないのか!」

 内容は全て呻き声や悲鳴。阿鼻叫喚と言っても過言ではない。

 うるせぇ!俺に賭けた奴が少なすぎだろ!?

 この様子じゃあ賭けてくれたのはアリシア達だけかもしれん。

 まぁいいや、その分こっちが得をするだけだし。

 ……強がってなんかない。

 とても複雑な気持ちのまま、俺は控え室に戻った。



 「その様子だと、勝ったのか。」

 「おう。」

 控え室に戻っていると、アルベルトと鉢合わせた。

 どうも彼は今の試合を観ていなかったらしい。試合前に精神統一をするタイプなのかもしれない。

 いや、案外モニターがあったりするのか?

 「全く、損をさせられた。」

 アルベルト、お前もか……。

 「おかげで儲けさせてもらったよ。」

 嫌みったらしく言ってやると、アルベルトは不敵に笑ってみせた。

 「もっと儲けたいのなら次の試合と決勝戦は両方私に賭けるといい。」

 「ま、次の試合は言う通りにしてやるよ。」

 もちろんしない。こいつの相手のタイソンもリーアと同じく神の武器なんて物をぶら下げてるんだから。

 「そうか。では決勝戦で会おう。」

 言い、アルベルトは手を差し出してきた。

 「すまんな、ここで手を握るとタイソンがまたミョルニルを振り回しそうだ。」

 しかし俺がそれを断ると彼はむしろ笑みを深め、

 「君は冗談が上手だ。この試合の後、あのドワーフは戦う気力さえ奪われているだろうよ。では。」

 そう言い残してリングに上がっていった。



 「コテツさん!凄かったです!あの光の雨が降ったときはもうだめだと思いました!」

 「そうかそうかぁ!わはは!凄いだろ!」

 「はい!」

 観客席のほとんどは確かに俺に期待はしていなかった。だがしかしそんな事、目の前でここまで喜んでくれるアリシアがいるのだからもうどうでも良くなってくる。

 「ええ、あれを魔法なしで切り抜けられるとは。それに、ご主人様は弓も使えたのですね。」

 「まぁ、双剣程じゃないけどな。」

 アリシアとハイタッチとかしながら喜び合っていると、ルナがそう言って微笑み、

 「アハハ、でも煙とか光とかであまり良く見えなかったよ、残念。」

 ネルはそう言いながら子供のようにはしゃぐ俺とアリシアに温かい目を向けてきた。

 ここはリングをぐるりと取り囲む観客席の最前列。

 まだ次の試合は始まっておらず、リーアのエルフィーンのせいでボコボコになったリングが土魔法で修繕されている真っ最中。

 バトルロイヤルのとき程の大破ではないので人の手でなんとかするらしい。

 「でも、バトルロイヤルでの槌もそうだったけど、相手の弓は凄かったねぇ。」

 「ええ、それに神聖な気配を感じました。あれは神のご加護を受けた武器ではないでしょうか?」

 お、アリシアが珍しく神官らしい発言をしたぞ?

 「加護を持った武器って結構あるのか?」

 「たくさんはないと思いますよ。神一柱につき1つの武器にしか加護を与えられませんから。」

 「おまえのあの神官服もか?」

 だとしたらとんでもないぼったくりになる。

 「いえ、あれは私達人間の方から加護を求めて得られたものですから違います。神自身が自らお作りになられると、あの弓のような強力な加護が与えられるんですよ。」

 「それが少なくとも2つ、この場に集まるとはな。」

 「ええ、でもその使い手を倒しちゃったんですよ、コテツさんは!」

 アリシアはそう言って俺の腕を両手で持って揺する。

 「まあ、なんとかな。」

 一応そう返しておく。あれは明らかに対軍用の武器で、一個人を倒すのには適していないと思う。

 でもまぁ、勝ちは勝ちだ。

 「あ、ご主人様、次の試合が始まるようです。」

 ルナに言われ、リングの方を見れば、ちょうどタイソンとアルベルトが出てきたところだった。

 タイソンは当然ミョルニルを、アルベルトも変わらず、バトルロイヤルのときに持っていたタクトを持っている。

 お互い空を飛べることは分かっているんだし、大空を活用したドッグファイトになりそうな気がする。

 「では両者構えてください。」

 アナウンスが流れた。

 タイソンが両手でミョルニルを頭上に構える。その体勢をよろけることなく維持できるのは、傍目からも分かる逞しい筋肉のなせる技だろう。

 対して細身のアルベルトは、タクトを無造作にタイソンに向けた。

 「はじめっ!」

 「鳴動せよ!」

 合図と共にタイソンはすぐさまミョルニルに雷を纏わせる。

 同時に周囲が暗くなり、聞こえた遠雷に空を見上げると、コロシアム上空に雷雲が集まっていた。

 「っ、いきなりか。」

 そう言いながらアルベルトが飛び退る。しかし、タイソンは大槌を持っているとは思えない速さで彼に急接近した。

 「ミョルニル!」

 そして、雷の槌が振り降ろされる。

 轟音。

 とんでもない光の奔流がリングから上空の雷雲までを満たす。

 そして俺達観客はいきなり眼前に現れた、光の柱の力強く壮大な光景に圧倒された。

 ふと、ルナの体が震えているのに気付いた。その肩を叩いてやって大丈夫だと囁くと、彼女は小さく頷き、小さく息を吐き出す。

 それでも体は縮こまったままだった。

 太い光の柱が外縁から収まり、段々と細くなってゆく。

 と、タイソンが光の中から現れた。

 本人も自身の攻撃で目が眩んだらしく、目をまたたかせているのが見える。

 「ふははははははははは!」

 試合は終わった。そう、誰もが思ったそのとき、柱の中心から笑い声が聞こえてきた。

 直後、光の中心から高笑いをするアルベルトの姿が現れた。

 掲げられた右手には刃がない上、細長い錐のような形をした武器。その鋭利な刀身には幾重もの螺旋模様が彫り込まれているのが見える。

 「わしの最高の一撃を、受けとめた、それも片手でじゃと!?」

 「ふははははは、やっと喋ったなドワーフ!そう落ち込むな。お前は決して弱くない。そのミョルニルは確かに強力武器だ。ただ単に、私の剣がその2つの力を遥かに上回っていたというだけだ!」

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