終結
視界が戻ると、周囲を瓦礫に囲まれていた。
積み上がった椅子やらタンスやらが危ういバランスを保っていて、そのあちこちに挟まった紙片が吹き抜ける風に揺れている。散らばった大小様々な石の破片は、ここに設置されていた円卓の成れの果てだ。
炎の化身と化したカイトの前から転移で逃げた先はファーレン城の2階――職員室……だったところ。
スレイン軍へ仕掛ける前にラヴァルがここの転移陣を修復しておいてくれたのである。
床と壁の下半分しか残っていない場所を部屋と呼んで良いかは知らん。
……雨じゃなくて本当に良かった。
「ふぅ……くはは、うまく行ったな?」
「気を抜くなコテツ。まだ逃げ切った訳ではない。」
双剣を腰に納め、安堵の息を吐いて笑うと、ラヴァルがそう言って俺を諌めた。
返す言葉もなく肩をすくめる。
「そうだな。で、抜け道とやらはどこにあるんだ?ていうか大丈夫だよな?ヴリトラとの戦いの最中に崩れたとかだと笑えないぞ?」
「そこは問題ない。私が確認した。……ただ、勇者とヴリトラとの戦闘による影響は心配だ。お前の危惧が的中する可能性もある。」
……聞かなきゃ良かった。
「しかし、それをここで考えたところで致し方あるまい。付いて来いコテツ。」
「了ー解。ん?」
踵を返して歩き出したラヴァルの後を、気の抜けた返事をして追おうとしたそのとき、明け始めて青みがかった空に赤色の点がスーッと登っていくのが見えた。
……まさかね。
『そのまさかじゃ。』
くそったれ!
「ラヴァル、上だ!カイトのやつ、空からこっちを見てるぞ!」
「なに!?くっ!」
素早く空を見上げ、浮かぶ赤い光点に歯軋りするラヴァル。
そして、その光が落ちてきた。
見る間に大きくなっていく炎は、避けるという選択肢を俺達に許さない。
「ハァッ!」
と、ラヴァルが跪いて剣を床に突き立て、気合の声と共に目の前に石の壁が乱立させた。
「これで防ぎ切れるのか?」
跳ね上がる気温に冷や汗をかきながら尋ねると、返ってきたのは苦笑い。
「さて、な。しかし今の私にこれ以上の防御は為しえん。……精一杯、やるまでだ。」
「くはは、それもそうだ。」
笑い返し、俺は一番手前の壁に黒色魔素を、消耗した魔力の許す限りありったけ込めた。
そして石壁の群はあっという間に巨大な火球に飲み込まれ、強化された黒い壁が最後の俺達を守る砦となる。
かと思うと、より小さな炎塊がそれをあっさり貫き、俺とラヴァルの目の前に着弾した。
よく見れば、それは人型をしていた。
「フレアバースト!」
叫び、人型――カイトが聖剣を地面に突き立てると、そこから猛る火炎が噴出。
同時に彼が貫いた石壁も崩れ、辺りが一気に明るくなった。
身体が煽られ、浮く。
後ろの瓦礫の山は、クッションにはなり得なかった。
「ぐぁっ!?」
背中を襲った衝撃に呻く。
それでもすぐに体を持ち上げ、積み上がった何やかんやに座り直せば、爆心地に立ったカイトが聖剣を肩に振りかぶっているのが見えた。
彼の視線の先――俺から見て右方向には、地面に倒れたラヴァルの姿。
蓄積した疲労や怪我のせいか、起き上がろうとする彼の動作は緩慢で鈍く、カイトの一撃を凌げるとは到底思えない。
「待て!……カイト!」
体に掛かった石礫を払い、よろよろと立ち上がりつつ、息を切らしながらも叫ぶ。
しかしカイトはこちらを一瞥もしない。
「焼き尽くせ……」
どころか、彼は聖剣の炎をさらに燃え上がらせた。
「くそっ!」
ワイヤーを飛ばす。
「……レーヴァテイン!」
直後、カイトが剣を振り下ろすと、元より半分消し飛んでいた職員室の、さらに4分の1が吹き飛んだ。
衝撃で足場がグラつき、俺はその場に膝をいてしまう。それでも視線は前に向けたまま。
「くっ!?」
と、カイトが急に後退し、遅れて赤い切っ先が彼の心臓のあった箇所を貫いた。
……間に合った、か。
片膝を立てて座ったまま、血色の剣を突き出したラヴァルの姿にホッと安堵の息をつく。
「邪魔を、しないでください。」
静かに言い、カイトが聖剣を閃かせると、その手首と俺の右手を繋ぐワイヤーが切られた。
「なんだ、話せたのか?てっきり神に乗っ取られてると思ったぞ。」
「っ!?これが神様の力だってどうして知って「え?あ、あー、ヴリトラから聞いたんだよ。」……。」
俺の軽口に酷く驚いた彼の様子に逆にこっちまで驚かされ、慌ててそう返答する。それで何とか誤魔化せはしたようで、カイトは言葉を呑み込み、押し黙った。
こいつの力、爺さん経由でしか教えられてないんだったな……。
内心でため息を吐き、降りた沈黙の合間に双剣を抜くと、カイトは聖剣を握り直した。攻撃を外し、収まっていた火炎が再び白い刃に宿る。
「おじさん、どうしてスレインに敵対するんですか。」
「どうして?お前らが攻めてきたんだろうが。漁夫の利を狙って。」
当然過ぎる答えを返すも、カイトは納得した様子を見せない。
「……聞き直します。どうして、敵の味方をするんですか?」
敵、だって?
「お前、まさか俺達がヴリトラ教徒だと本当に思ってるのか!?」
「え?いいえ。あれが建前だってことはちゃんと分かってます。」
「なら……。」
「でもコテツさん、ファーレンだってオレ達の敵なんですよ?」
「は?」
つい、間抜けな声が漏れた。
「確かに、ファーレンは自分達が中立だとか言ってますけど、結局はスレインの味方じゃないって事に変わりありません。実際、住んでるのは異種族ばかりですしね。」
「異種族は敵、か?」
「当たり前じゃないですか。」
答えに悩む様子は微塵もない。
「……クラレスやフレデリックに対しても、同じ事が言えるのか?一緒に拘束を破って夜の学校の探検とかやってた仲だろう?」
「あはは、そんな昔のことを言われても……。それに、仲が良いか悪いかなんて関係ありません。オレは勇者として、スレインの人達の思いを背負ってるんです。誰であろうと、敵なら倒します。」
「そう、か。」
よく、分かった。
「はい。だからオレ達が戦う必要はないんです。剣を納めてください。コテツさんはファーレンに騙されてただけだって、オレからも王様に言っておきますから。」
「……。」
カイトの言葉を無視し、鎧を修復。
「おじさん?」
兜を被る。
次の瞬間、俺はカイトの懐に潜り込んでその鳩尾に右肘を叩き込んでいた。
「ゴハッ!?……なん、で?」
「それをお前が分かってないからだ!」
怒鳴り、僅かに浮いた彼のその右肩へ、続けて左の回し蹴りを繰り出す。
それを聖剣で受け止め、ガン!と硬質な音を辺りに響かせると、カイトは再び紅蓮の炎を体から生じさせた。
「おじさん!騙されちゃ駄目だ!」
「どらァッ!」
「くっ!?」
熱に炙られながらも気合いで足を振り抜き、炎の塊を――彼自身が開けた出口から――勢い良く退出させる。
続いて俺も飛び出そうとしたところで青色の小瓶が投げ寄越された。
「ラヴァル?」
「どれだけ力になるかは分からんが、持っていけ。残念ながら、私はもうそうするぐらいしか役には立てん。」
それを受け取り、投げた本人であるラヴァルに目を向けると、彼は床に腰を落としたまま、自嘲げな笑みを浮かべてみせた。
そうしながら彼が軽く叩いた左の膝から下は、半ばで綺麗に無くなってしまっている。
「……間に合ってなかったか。すまん。」
「お前が謝ることではない。なぁに、命と違い、足ならばまだ一本ある。それよりもコテツ、これからどうするつもりだ?」
「決まってるだろ。カイトを倒して、お前を連れて逃げる。」
「やはりか。コテツ、私のことは置いていけ。抜け道にはあの避難所から入れる。教師証を掴み、“脱出”と唱えれば入り口は開く筈だ。」
「お前はどうする?」
「フッ、スレイン王、いや、ヘイロンに、文句を二三言わせて貰うとしよう。」
冗談のような言葉ながら、ラヴァルの眼光は鋭く、俺に反論を許さない。
「そうか。はぁ……分かったよ。」
だから頷くしかなく、嘆息した俺はカイトを追って明るみ始めた草地へ飛び降りた。
そもそもカイトを倒せるのかどうかが怪しいのは、これから戦う自分のためにも口にしないでおいた。
夜が完全に開けた。
それでもファーレンの城壁の内側から響く爆発音は一向に鳴り止まない。
「急がないと。」
外から見える程に大きな爆炎が何度も噴き上がっている戦場へ向かいながら、私は小さく自身を急き立てる。
見えている派手な攻撃は全てアオバ君の物。
ヴリトラに一蹴されたあの日から、その悔しさをバネに修行修行すること約三ヶ月。たったそれだけの間で、彼は神の力を自身に宿して自由に戦えるようになった。
そしてその状態になった彼は、魔法の威力はもちろんとして、スキルで発揮できる力も著しく高い。
そんな相手とここまで戦い続けているあの人は相変わらず訳が分からないけれど、それでも、このままだとどちらかが殺される。
聖武具が――敵を倒すためではなく、殺すために作られた武器が、きっと彼らにそうさせてしまう。
決して考え過ぎではない、と思う。
だって3年以上使い続けているアオバ君は、敵と定めた相手に容赦が全くなくなっているし、使い始めてまだ一年も経たないあの人でさえ、様子が少しおかしくなっていた。
……ヒイラギさんは変わらないけれど、それはそれで怖いわね。
とにかく、私が二人を止めないといけない。
兵士の間を縫って走り続けると、ついに視界が開けた。
足元には、指輪を通した私の指示で死んだフリ……というより寝たフリをしているアンデッド達。
そして向かう先の城壁は、ヴリトラによる体当たりで大きく崩されていた。
それでもスレイン軍が攻め込まないのは、アオバ君の邪魔になるから。……そしてその本音はきっと、流れ弾が恐ろしいから。
「っ!」
アンデッドをなるべく踏まないように数歩歩いたところで、直感に従い、背後に刀を閃かせる。すると斜め上から投げられた白い槍が硬質な音と共に弾かれ、霞と消えた。
「チッ!」
あからさまな舌打ちの聞こえた方を見れば、空に立つヒイラギさんが聖槍を片手に私を見下ろしていた。
「何のつもりかしら?」
「何のつもり?決まってるっしょ。裏切り者を退治すんのよ!ハイジャンプ!」
瞬時に距離を詰められる。それでも槍を何とか捌いて後ろに下がり、聞き直す。
「裏切り者?」
「誤魔化しても無駄。あんた、王様を助けに入ったふりして、あいつとこそこそ話してたじゃん。」
よく見てるわね……。
刀を構え直すと、ヒイラギさんの背後の兵士達がざわつき始める。
「ゆ、ユイ様が裏切ったって……本当ですか?」
うち、一人が動揺を顕に言い、
「そんなわけ無いでしょう!」
「だからそう言ってるっしょ!」
私とヒイラギさんは同時に真反対の答えを叫び返した。
「ヒイラギさん、私はアオバ君を助けに行くだけよ。」
「ふーん、まだそんなこと言うんだ?なら、その刀をここで納めてみてよ。カイトがピンチになったら、二人で加勢に行けばいいっしょ。……ま、カイトがピンチになるとは思わないけど。」
「……。」
彼女が最後に付け加えたことには、私も内心では同意見。アオバ君はそれだけ凄まじい力を手にしてる。
だからこそ、悠長なことはしてられない。
「ほらやっぱり。できない。……ここにいる全員、命令よ!あいつを殺しなさい!」
微動だにしない私を蔑むように見て、ヒイラギさんが周囲の兵士達に向けて叫んだ。
でも、命令された方にはやはり躊躇があって、それぞれ武器を構えるものの、こちらへ襲い掛かってくる様子はない。
「チッ、この役立たず。やっぱり私がやるしかないのね。」
ヒイラギさんが槍を構えてこちらを睨む。大して私は踵を返して、ファーレンの敷地内へ駆け出した。
「はん、逃げるの!?」
「悪いかしら?オーバーパワー!」
嘲笑うような言葉に耳を貸さず、身体能力を強化。
そして胸のたかさまである壁を一っ飛びで越えた途端、一際大きくなった爆音と吹き荒れる風が襲ってきた。
半壊した壁でも、多少は機能していたみたい。
目を細め、微かに聞こえる剣戟の音の方を見れば、燃える地面の中心で強い光と黒い影が激しくぶつかり合っていた。
地面に張り付いた草を踏み、後ろへ蹴った直後、背後で破壊音が響いた。
見なくても、ヒイラギさんが来たのだと分かる。
「行かせない!ハイジャンプ!」
「邪魔をしないで!」
右足を引き、時計回りに振り向きながら刀を倒して切っ先を僅かに下へ向け、重心を右足へ移しつつ、ヒイラギさんが右手で突き出した穂先を刀の上で滑らせて私の左へ逸らさせる。
しかしそのまま頭を柄で思い切り殴り付けても、彼女は全く怯まなかった。
「嘘っ!?」
「バーカ!」
空いていた彼女の左手に2本目の槍が現れる。
「ハァッ!」
「くっ!」
短く握られたそれが横に大振りされたのに何とか刃を合わせても、あっさり力負けして刀は腕ごと弾き上げられた。
胴が伸びる。
それを見逃す筈もなく、お腹に相手の右足踵が突き刺さった。
「かはっ!?」
一瞬、呼吸が止まる。
地面を背で叩くなり、ゴロゴロと焦げた草地を転がり、起き上がろうとしたところで、体が痺れて上手く動かない事に気付いた。
原因はすぐに思いつく。
あの最後の蹴りに雷の魔法を付与させていたに違いない。
「痛ッ!」
それでも無理矢理動こうとすると、お腹に鋭い痛みが走った。
見れば、革鎧は切り裂かれていて、血がそこから滲んでいる。……ご丁寧に風の刃も纏っていたみたい。
本当、陰湿であの子らしい。
「けほっ、誰よ、魔力操作のスキルなんてあの子に与えたのは。」
お腹の切り傷は白魔法で直し、咳き込み、愚痴りながらゆっくりと立ち上がる。
「聖光……一閃!」
途端、真っ白な光が辺りを強く照らした。
光源はヒイラギさんの担いだ聖槍。
繰り出されようとしているのは、聖武具の持つ力を限界まで引き出す、強力な反面、一度使えばしばらくは戦えなくなる大技。
……全く、私のような相手に使うものじゃないでしょうに。でも、ヒイラギさんだから、と納得できてしまうところもある。
「貫き穿て!……ゲイボルグ!」
光の束が放たれ、すぐに無数に分裂した。
体の痺れはまだ取れない。
でも気休めだと分かっていながら、私は体に魔素を通し、見様見真似の赤銅を発動させた。
突然、体が強く引っ張られた。
「龍眼!」
背中から倒れていく私を、黒い影が追い抜いていく。
その両手に握られた、真紅を帯びる双剣が一瞬ブレ、全く違う位置に再び現れると、迫っていた無数の光の槍は、私と目の前の彼だけを避けるように、辺りの地面に大爆発を起こした。
「……あ、ありが、とう。」
「ユイ!お前一体何しに来た!?」
赤銅を解除して体を起こし、小さく頭を下げると、いきなりそう怒鳴られた。
「た、助けに来たに、決まっているでしょう……。」
……今さっきは助けられたけれど。
「アホかお前は!スレインを敵に回してどうする!?元の世界に帰れなくなるぞ!」
「でも、このままだと、あなたかアオバ君が死んでしまうわ!」
尻すぼみの言葉を一蹴され、それでもそう言い返すと、彼は一転、困ったような笑みを浮かべた。
「はは、俺かカイトか、ねぇ……。十中八九俺だろ?正直言ってあいつに勝てる未来が見えん。なぁユイ、もしかしてカイトはずっとあの状態でられるのか?」
「神降ろしの力のこと?昔は1分ぐらいが限界だったけれど……。」
「いられるんだな?」
諦念の籠もった確認に頷く。
「そうかい。はぁ……で、手はあるのか?一緒に戦うのは無しだぞ?」
「大丈夫よ。」
「それなら早くしてくれ、よっ!」
直後、雷が私の目の前を駆け抜けた。
それは黒鎧にぶつかったかと思うと斜めに僅かに軌道を変え、鎧を挟んだ私の反対側に轟音と共に着弾。
少し遅れて、それが雷を纏ったアオバ君だと分かった。
「イテテ……ったく、炎の次は雷か。」
振り抜いた双剣を構え直しながら悪態がつかれる。
攻撃を弾いた両腕の鎧は完全にはだけてしまっていた。
黒い肌には幾つもの裂傷が入り、どす黒い赤色に染まっている。
「い、今治すわ!」
「良い。すぐ治る。」
すぐに白魔法を使おうとするも、彼はそう言って私を制し、そして、凄まじい量の魔素がその肩に集中した。
すると見る間に傷が塞がり始め、次いで鎧が腕を覆ってしまう。
「なによ、それ……。」
「くはは、凄いだろ?カイトと刃を交える度にその余波でこっちが傷付けられるからな、こいつが無かったら俺はもう立ってない。」
欲しくはなかったけどな、と最後に悲しそうに呟いて、彼はアオバ君に向き直った。
「ユイ、どうしてここに?」
と、ようやく私に気付いたアオバ君が目を見開いてそう聞いてきた。
「あなた達を止めに来たのよ!」
大声で叫ぶ。
「だ、そうだ。俺はもう戦いをやめたって構わないぞ?」
「ふざけるな!」
でも、私の声は届かなかった。
二人が互いに走り出し、激突。
金属音はしない。なぜならアオバ君の攻撃のほとんどが流され、あるいは避けられているから。
でもだからこそ、その一撃一撃に込められた破壊力が、空を走り地面を裂く稲妻としてはっきり現れる。
……あの二人の間に入って、戦いをやめさせるなんて、正気の沙汰とは思えない。
「神雷!」
「ぐぉっ!?」
迷い、前に踏み出せずにいると、激しい光が辺りを照らし、黒の全身鎧が吹き飛ばされた。
「待って!」
追撃に走ろうとするアオバ君の前に慌てて踏み入り、両腕を広げる。
「ユイ!?退いてくれ!あいつはあれだけじゃまだ死なない!」
「分かっているわ。お願い、ここからは私に任せて。」
そして言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を掛けるも、彼は頭を横に振った。
「そんなの、駄目だ。「くはは、今のは効いたぞカイト。」ッ!」
そして私の後ろから相変わらずの戯けた声がすると、アオバ君は舌打ちして、足元で雷を弾けさせた。
その姿が掻き消え、風が私を横殴りに叩く。
いけない!
すぐに後ろを振り向く。白と黒の剣戟は既に何合も交わされ、その余波で辺りに雷が散っていた。
また二の足を踏みそうになる。失敗したら死ぬかもしれない。
でも、ここで怯む訳にはいかない。
「オーバーパワー!」
体を強化し、地面を蹴る。
刀は左腰に構えたまま。
「ブースト!」
さらに白魔法で力を底上げし、二人の攻防の余波を掻い潜って、私は一気に接近したアオバ君の背中に右肩から体当たりした。
「くっ、どうして!?」
前につんのめった彼はすぐに私を睨んで聖剣を振りかぶり、
「何やってんだっ!」
その攻撃を阻止しようと黒鎧がこちらへ走り出す。
予想通り!
「切り払え!」
刀を逆袈裟に振り上げて聖剣を飛ぶ斬撃で跳ね返し、私は手首をぐいと立てて、神刀の切っ先を黒い兜へと向けた。
「くっ、ユイ!?」
「私を信じて!」
驚く彼に短く叫ぶと、草薙ノ剣を流すか弾くかしようとしていた双剣は、その中途で動きを止めてくれる。
「ありがとう。このまま、大人しく私に捕まってちょうだい。……今度は間違えない。私があなたを守ってみせるわ。」
「……ああ、なぁるほど、そう来たか。」
そして私の言葉に小さく頷き返すと、彼は双剣を腰に納めてくれ、
「ラヴァルのことも、頼めるか?」
力の抜けた笑顔でそう聞いてきた。




