伏兵
ほぼ壊滅した船団から数十m離れた砂浜が、無数の黒い影に覆われていく。
「このまま直進した先で確かなのだな?」
月光でぬらりと煌めく彼らが砂浜と街道の堺に達するというところで、その先頭を俺と共に歩くラヴァルが問い、俺はしっかり首肯して返した。
「十中八九な。」
『十中十じゃわい!』
はいはい。
爺さんに適当に応対しながら向かう先を見れば、黒焦げの家屋や倒壊した建物、そしてそれらの残骸が無造作に散らばっており、さらに先へ目を向ければスレイン軍の背中がある。
そこには投石機やら巨大なボウガン――バリスタだっけか?――やら、遠距離攻撃に特化した攻城兵器が並び、ファーレン城へ向けての攻撃を繰り返していた。
まぁ、狙いは城じゃあ無いかもしれない。
何せ城の付近では巨大な蛇が暴れ周り、今現在も死者を量産しているのだ。むしろあれを無視してファーレン城の中のどこにいるかも分からない――ていうかどこにもいない――敵へ向けて攻撃するなんてことはまず無いだろう。
ヴリトラの死骸は勇者達の注意もしっかりと引き続けており、目を凝らせば黒い古龍に纏わり付くように飛び回る2つの白い光点が見える。
しかし雷撃、火炎、氷花の大輪等々、立て続けに起こるあらゆる色彩の攻撃に晒されていながら、尚も大蛇はその巨躯を存分に活かしてスレイン兵を吹き飛ばしていた。
そういや、あいつの核って何処にあるんだろうか?……ま、もうしばらく保ってくれるのは間違いない。
「ラヴァル、行くぞ。」
「ああ。」
「よし。進め!」
隣に最後の確認を取り、俺は指輪を用いて歩兵達に更なる進軍を伝達。
走る。
「準備完了!」
「発射っ!」
「次射装填!急げッ!」
「「「「「オウッ!」」」」」
攻城兵器の周囲で忙しなく動く敵兵の気合い十分な声が聞こえてくる。
全神経を兵器の操作へ注いでいる彼らのテキパキとした手際は、巨大な杭や岩を大した間隔を開けることなく次々と飛ばす事を可能としていた。
「良いぞ!次だ!勇者様を援護しろ!」
投石機の木製の足に右足を乗せ、左手の剣を大きく振るい、大声で周囲の味方に号令を掛ける司令官。
「はいよ。」
その味方――俺に取っては敵――の間をスルスルと走り抜けていた俺は、軽い返事をしながらそいつの首を背後から斬り落とした。
大口を開けた頭が地面を転がり、遅れて崩れ落ちた体は投石機の骨格に右腕を引っ掛からせて静止。
傾いた切り口から噴き出る鮮血は彼の着ていた軽鎧におどろおどろしい模様を描く。
辺りの空気が硬直した。
「た、隊……長?」
「お前!良くも隊長をっ!」
少し遅れて誰かが呆然としたように呟き、次いで別の奴が声を荒げてようやく、その他の兵士達が各々の得物を構え始める。
「俺よりも自分を心配した方がいいぞ?」
しかし俺が素っ気なくそう言ってやると敵兵は揃って訝しげな表情をし、その表情のまま地面に接吻した。
彼らの首を落としたのは、首無死体のすぐ後ろ、もしくは隣にいるスレイン兵――俺がここに走って来るまでに量産しておいたアンデッド達だ。
「お前ら、何を!?」
「ぎぃぃぃ!」
「ぎぇぇぇ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
そんなやり取り(?)があちこちから上がる。
「良いぞ、進めぇッ!」
指輪を通して号令を掛け、俺は近場の敵兵に踊りかかった。
攻撃の届かない位置からの後方支援からら敵を直接迎え撃つ最前線。あまりに急な状況の変化にスレイン兵が対応しきれる事はなく、そう時間の経たない内に攻城兵器は配下のアンデッド達の支配下に落ちた。
そして夜空を飛んでいった巨石や杭は、見るまでもなく敵に命中。
むしろ外す方が難しいだろう。
「う、後ろだ!」
「背後からア、アンデッドが来たぞ!」
慌て出すスレイン軍。
俺はそんな彼らへ突貫し、新たに作ったゾンビをさらに前方の敵へ押し飛ばしつつ指輪を口元に近付けた。
「サイ、敵の背中に切り込んだぞ。そっちの戦況はどんなもんだ?」
[はっ、既に敵の動揺は収まり、密度を増す敵軍によって進軍は徐々に遅れております。古龍が敵勇者に倒されたが最後、我らの全滅は必至かと。]
「あと少しでいい、保たせろ。こっちが目的を果たすまでそう時間は掛からん。」
[我が主よ、可能であれば竜を半数程回してくださると……。]
「よし分かった。」
要望通り屍竜を援護に向かわせ、前へと目を戻せば、今さっき突き飛ばしたソンビの一体がスレイン兵を剣で貫いていた。
「ぎぃぃぃ。」
「ニ……コル……。」
「くそっ!やめろニコル!目を覚ませ!」
「頼む、お前を殺したくない!」
しかし隙だらけのアンデッドに対し、周囲はただ剣を構えて的外れな懇願を喚くだけ。
そこへふらりと近付いて全員を一太刀の元に殺してやれば、死んだ彼らは周囲の敵兵に襲い掛かってさらに動揺を拡散し、その隙を付いて俺はさらに仲間を増やす。
ねずみ算って奴だな。
あっという間に周囲が味方で埋まり、俺はさらに前へ出て自軍への勧誘を再開。
「待て、突出し過ぎだコテツ。」
しかし、そこで追い付いてきたラヴァルに肩を掴まれた。
少し遅れ、俺の周囲をアンデッド達が追い抜いていく。
「なに、ここもすぐに自軍になるさ。それにこれは時間との勝負だ。あいつらが来る前に終わらせないといけない。そうだろ?」
ラヴァルにヴリトラの死体を、具体的にはそれと戦っている勇者達を指し示すも、彼は首を横に振った。
「だからと言ってただ闇雲に進めば良いという話ではない。目標に辿り着けなければ意味はないだろう?」
「……そう、だな。分かった。よし、堅実に行こう。」
「ああ、それが良かろう。しかし当然、急ぐことも忘れるな?」
「くはは、了解!」
急がば回れと言ったって、結局急いでいる事に代わりはない。
肩を離したラヴァルに今度は背を押され、俺は早速敵軍へと切り込みんで周囲をゾンビで溢れさせ、さらに大混乱を引き起こさんと突き進む。
気を付けるべきことは、アンデッドの先頭を進む中で、孤立は避けること。幸い、ラヴァルが後方支援に回って、アンデッドの進行を後押ししているため、進軍速度そのものは遅くはない。
むしろ俺を追い越すときまであり、それはそれで俺の軽い休息時間として利用できる。
「待て!俺は人間だ!まだ生きてる!」
「ぎぃぃ!」
「お前がアンデッドかよ!?ぐわぁぁ!」
俺達が進めば進むほど、アンデッドが増えれば増えるほど、船上での戦いと同じように、スレイン兵は既に敵味方の区別を付けられなくなってきた。
かく言う俺にも気配察知がなければ両者の区別はつけられなかったろう。
ただアンデッド達はちゃんと見分けられているのか、確実に敵のみへ攻撃を仕掛けているため、気配察知を使わなくても、切りかかってくる奴らと、まだ交戦していない前方の奴らだけを敵と見なせば何とかなる。
「食い止めろ!ここから先には行かせるな!」
と、号令が掛けられたかと思うと、前方の一団が一斉に大盾を構え出した。
すぐに龍泉を投擲。
白い刃は構えられかけた盾の隙間を縫い、その後ろにいる兵士に突き立った。
「応えよ!」
すかさず転移して目の前に現れた頭蓋から龍泉を抜き取り、新たなアンデッドとして近くの敵に投げ付ける。
「くそっ、怯むな!」
「囲め!」
しかしそろそろ不死の兵に慣れてきたか、大盾持ち達は迅速に後退。俺と新たなアンデッドの前に改めて鋼の壁を生み出した。
次いで奥から魔法や矢が飛ばされてくる。
少し考え、
「ラヴァル!出番だ!」
俺は唯一生きている味方に頼ることにした。
「分かっている!」
直後、俺と金属壁との間に赤い魔法陣が出現。
そこからゴウと爆炎が吐き出されると、隊列を組んでいた重装兵はあっさりと吹き飛ばされ、焼け焦げた道のみが跡に残った。
「くはは、良いぞ!」
爽快さに軽く笑い、開かれた道を駆け抜ける。
すると焼け焦げた地面から巨大な人型が生えてきた。
「ゴーレムか!」
さて術者はどこだ?
走りながら周囲を見渡す。
しかしそんな俺へ向け、足や腕の先が太い、約十メートルの体長を持った土塊が巨大な掌を振り下ろしてきた。
すかさず両手からワイヤーを背後の地面に飛ばす。
それを強く引いて後退することでハエ叩きのような攻撃を避けた俺は、目の前の土製の腕を足掛かりにゴーレムの肩へと駆け上った。
一気に視界が開ける。
そのまま周囲を見渡しまず目に入ってくるのはやはりヴリトラと勇者達との戦闘模様。
どうも聖武具はアンデッドの再生能力すら妨げるらしく、古龍の頭部は半分潰れ、その体を覆う生来の鎧はあちこちが剥がされていた。
しかしヴリトラは攻撃してくる勇者達に構わず、徹底してスレイン軍に体当たりやのしかかりを喰らわせており、吊られて振り回される長大な尻尾もスレイン軍への被害を大きくしている。
その足(?)元では先程送った竜たちが飛び回っているのが見え、そのさらに下での光の明滅から、サイ達が奮闘してくれているのだと分かる。
そして目の焦点をもう少し近くに合わせれば、杖やタクトを持つ敵兵が不自然に充実している塊に気が付いた。
その中心に乗馬している全身鎧の手には、見間違えるはずもない、黒い立方体が抱きかかえられている
ヴリトラの魂の恩恵を受けるためと思えば、納得のいく布陣だな。
「……あそこか。」
呟き、ゴーレムの肩から背後の地面は飛び降りる。すると俺を押し潰さんと迫っていたゴーレムの手の平が自身の肩を打ち砕いた。
着地するなり石人形の頭部にワイヤー飛ばして強く引っ張ってやれば、自身の力で背後によろけていたそいつはそのまま背中から地面に落ちる。
ちょうどその股の下にいた俺はもちろん無事。
そんな俺の“取り敢えず魔法使いの多そうだった方向に倒す。”という作戦は上手く行ったようで、倒れたゴーレムが起き上がる様子はない。
さぁぺたんこになった敵兵を味方にしよう、と身を屈めた瞬間、背後に誰かが立った。
素早く振り返れば、そこにいたのは一年間共にこの世界を巡った同郷の士。
「お願い、もうやめて。これ以上、人を殺さないで。」
長い黒髪を後ろにまとめた、女性にしては割と長身な彼女は、斬撃を飛ばせる刀を抜き、中段に構え、辛そうな表情で俺と目を合わせてくる。
「ユイか。どうした?ヴリトラなら向こうにいるぞ。カイト達に置いて行かれたか?」
話しながら、配下の死体達に彼女を襲わないよう念話で命令。
「ふざけないで。……あなたは空から上手く逃げてくれたと思っていたのに……どうしてよ!どうして、こんなこと……。あのヴリトラも、あなたが操っているのでしょう!?」
「魔視、か。」
面倒な……いや、好都合か。
「ええ、全ての糸があなたのその指輪に繋がっているわ。お願い、これ以上の戦いは……。」
「はぁ……そうか。」
ため息をついて呟き、双剣を握り直す。
高揚してきた気分を抑え、つい笑ってしまいそうになるのを我慢。
馬鹿野郎、相手は敵じゃない。
「っ!」
対するユイは息を呑み、カチャリと刀を握り直した。
「俺の目的はヴリトラの魂だ。お前がそれを持ってきてくれるのか?」
「……どう、して。」
「どうして?あれは俺やファーレンの人達が死に物狂いで戦って、何百という犠牲を出して、ようやっと手に入れた代物だ。……それをスレインに、姑息な手で横から奪われるのを黙って見てられる訳ないだろ。」
一歩踏み出す。
ユイは動かない。
「……アリシアは死んだ。」
「ッ!そんな、嘘……。」
伝えるとユイは心から悲しそうな顔をしてくれ、俺は思わず頬を緩めそうになるのを堪えて話し続ける。
「俺のせいだよ。だからこれは償いでもある。あの子が死んだ結果、あの子の友達が危機に晒されるなんて馬鹿な話は、俺が許さない。」
言いながらさらにユイへと近付き、そして殺気を放って威圧した瞬間、彼女は動き出した。
滑るような接近から、俺の右肩へ放たれる突き。
予想通りだ。
動かないまま、刀の軌道を太阿で少し修正し、ユイの刃が俺を貫通したところで、
「な、何して……!?」
「ブラックミスト!」
俺は濃い煙幕を辺りに放出した。
これで外の様子は中から見えず、外からも中は覗けない筈だ。
「さて、これで少しは話ができるな。ただ、一応小声で頼む。」
「それより早く白魔法を!「大丈夫だ。よく見ろ。脇で挟んでるだけだろ?」そ、そうならそうと早く言いなさいよ!」
「悪い悪い。で、狙いは肩か。優しいな?」
「う……。」
囁やけば、動揺していた彼女は分かりやすく押し黙る。
脇を開けると、草薙の剣の先が静かに下ろされた。
「悪かったよ。くはは、お前にこれまで散々人を殺すなとか言っておいて、あの挑発のしかたは酷いよな。」
「……本当よ。」
息を吐いて笑うと、拗ねたような声が返ってきた。
少しは落ち着いてくれたかね?
「すまん。……さてユイ、協力して欲しいことがある。」
「え?っ!?」
急な話題の変換に、驚いて体を離そうとしたユイを、俺はその手首をつかみ、阻む。
「なに、スレインを裏切れとか言うつもりはない。」
「……あなたに協力する時点で裏切るのと同義な気がするのたけれど?」
なるほど確かに。
「まぁまぁ、そう硬いこと言うなって。むしろこれはスレインのためにもなることなんだから。」
「でも……。」
「お前は裏切り者どころか英雄になれるぞ。」
「興味ないわ。」
即答かいチクショウめ。
「勇者様!?今、助けに!」
煙幕の外から声が掛かる。
……いかんな、あまり長くこうしている訳にはいかない。
「ユイ。」
目と目を合わせる。
「な、なによ!?」
「今から言うのはこの戦いの終わらせ方だ。聞いてくれ。」
「……わ、分かったわ。」
俺の言葉に首肯してくれたのを確認し、俺は彼女を少し引き寄せ、その赤みの差した耳に作戦を囁いた。
「……ま、できればせずに済むと良いんだけどな。」
「待って、そんなことをしたら!」
「分かってる。なに、逃げ切れれば問題ないさ。……あと、ごめんな?」
「え?」
ユイの言葉を遮って彼女の二の腕を叩き、そこに障壁を少し上向きに作成。彼女を斜めに勢い良く押し飛ばした。
そうして煙幕から勢い良く飛び出したユイの姿は、まるで発射するロケットのよう。……黒ひげ危機一発の方が的を射ているかもしれない。
そして煙が散り、再びファーレン城の方へ向かおうとした俺は、いつの間にやら急変していた事態に固まってしまった。
空が白く輝いていたのだ
具体的には夜空に幾筋もの白い光の線が浮かんでいた。
それを幻想的な光景に思えたのはほんの一瞬のこと。白い光がそのまま地上に降り、地面に深々と突き刺さったのを見てそんな気分は吹っ飛んだ。
光の正体は純白の槍だったのである。
まずい!
「龍眼!」
即座に叫び、目を強化。
すぐにユイの方を見、彼女が黒い障壁を強く蹴って無事に攻撃の範囲外へ逃げたのを確認してホッと胸を撫で下ろす。
「さて、要領はエルフィーンの奥の手を切り抜けたときと同じだ。簡単簡単。」
自分に言い聞かせ、異様に明るい夜空を再び仰ぎ見る。
そして、殺意の高過ぎる雨が降り注いだ。
その内、俺に当たる物のみを見て取っては弾き、避け、受け流して、最低限の体の動きと剣の補助でとにかく防御に専念する。
敵兵からの攻撃は、この際気にしなくていい。
幸い、無数の槍の雨は数秒で収まった。
しかし下手な鉄砲ということか、周囲のアンデッド達はほとんどが崩れ落ちたまま動かず、立っているのは運良く体の一部を貫通されただけで済んだほんの一握り。
……どうも俺達の快進撃は良くも悪くも目立ってしまったらしい。スレインに危機感を抱かせ、ヴリトラと戦う勇者の片方をわざわざこちらへ向かわせるぐらいには。
「でも向かわせるならせめて話の通じる奴にして欲しかったなぁ。」
空に浮かぶ、カイトとの共同作業に邪魔が入ったからか、既に怒りの形相を浮かべているアイを見てボヤく。
「ラヴァル!無事か!?」
「問題ない!」
大丈夫だろうと思いつつも振り返って聞くと、彼はやはり無事なようで、剣を振り上げ、しっかりと返事を返してきた。
辺りはスレイン兵の死体だらけ。まぁ俺の味方も元はそうであるため、そこは不思議ではない。
ただ、死体の埋め尽くしている範囲からして、アイがまだ生きている味方も巻き添えにしたのは明らかだ。……ユイを狙った可能性も否定できない。
それを責める資格は俺にはない。
まぁ責めたところで、そもそもアイはこいつらを味方と思ってないだろうしな。……アイだし。
とにかく、今は味方を増やそう。
アイの攻撃範囲の外周にいるスレイン兵達が、空に浮かぶ暴力装置がいつまた起動するか分からずに攻めの手をこまねいている今の内だ。
指輪を口元に近付ける。
「アンデッド以外の死体を俺の元に持って来い。」
大部分をアイに倒されたとはいえ、まだ立っている味方はパッと見ただけでも百以上はいる。倒れていても動ける味方だって何体かいる筈だ。
アンデッド軍の再編にそう時間はかかるまい。
思っていると、辺り一帯に乱雑に突き刺さることで地上を針のむしろのように見せていた槍が突然消え失せた。
空を見上げれば、一仕事終え、さっさとヴリトラとの戦いへ、いや、カイトの元へ戻っていくアイの後ろ姿。
「行け行け行けぇっ!」
「「アンデッド共をぶっ殺せぇ!」」
「「「「オオオオオオオオオ!」」」」
ホッとしたのも束の間、フレンドリーファイアを恐れずに済むようになったスレイン兵共が周囲360度から我先にとこちらへ駆け出した。
取り敢えずアンデッド達が今尚積み上げている死体の山を右手で撫でることで味方を数十体増やし、敵兵を迎え撃とうと心を落ち着ける。
と、俺の背後にラヴァルが立ったのが分かった。
「思うように進め。背中は任せたまえ。」
「堅実な戦いってのはどうした?」
「フッ、この状況でそれが望めるか?」
ま、味方の大半を失って、堅実も何もないか。
「なら自由にして良いのか?」
「行っただろう。思うように進め。援護する。」
ラヴァルはそう言って俺の背を叩き、一歩後ろへ下がる。
「くはは、了解。」
振り返らないまま笑って頷き、俺は前方の敵へ改めて目を向けた。




