表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第三章:不穏な職場
28/346

28 ファーレンへ①

 「でかいなぁ。」

 「ええ、そうですね。」

 「うん、予想以上だよ。」

 「はい、私よりも大きいです。」

 「アリシア、お前がこれよりも大きかったらお前はギルドにモンスター登録されるぞ。」

 これから乗る飛行船を目の前にして、俺達はそろって上を見上げている。

 しかし、本当にでかいな。

 語彙力が欲しい。

 飛行船は首都ティファニアの外壁にドッキングしていて、俺達乗客は壁の上で長い列になって並んでいる。

 俺達は最後尾だ。

 と、列が進み始めた。どうやら搭乗準備が整ったよう。

 俺はいつも通りの魔装2を纏っていて、ルナは俺と初めて会ったときのようにフード付きのローブを着込んでいる。首都では獣人がどのような目で見られるのかが分からなかったから、取り敢えず、だ。

 それに対し、アリシアとネルはそれぞれの私服の上に揃いの紺色のケープを纏っている。

 私服はティファニアの街で、アリシア達がわざわざ俺を引っ張り回しながら買ったもの。

 あれは辛かった。どうしてずっと黒いコートを着て過ごしている俺にファッションチェックなぞさせるのだろうか、はっきり言って俺がされるべきだと思う。

 そして彼女達の紺色のケープはファーレン受験生の証だそう。

 ファーレンでは試験に合格した人にはその証としてのケープが渡されるらしい。男性は緑、女性は赤だそうだ。そしてその襟元に学年別のバッジを付けるらしい。

 ちなみにこの二つが揃っていればファーレン内で物を買うとき、学割が発生するんだとか。

 正直言って、俺も入学したいと心底思った。

 そして、ついに俺達の乗る番となる。

 チケットを飛行船の船長らしき人に渡し、女性陣から中に入っていく。

 「豪華だな。」

 「……ええ。」

 「ネルさん、これっていくらで買えるんでしょう?」

 「アハハ……いくらだろうね。」

 落ち着いた雰囲気ながら所々に金の入った、楕円形の船内をキョロキョロしながら進んでいく。

 自分で言うのもなんだけれども、田舎者丸出しだと思う。

 席の指定はないので、取りあえず空いていた3つの席に女性陣を座らせ、俺はその後ろの空いている4つの席の一番窓際の席に腰を下ろした。

 田舎者は壁による、とか言われても反論できない。

 飛行船が揺れた。

 ドッキングしている部分を取り外したのだろう。

 つまり、いよいよ出発だ。

 アイマスクを作り、目に貼り付ける。アリシア達の手袋と同様、簡単には解除されないよう、意識して作った。

 そうだな、この寝ていても解けない魔法、単純に固定化とでも呼ぶか。ロングコートや手袋やらも固定化しておこう。

 前の三人がこちらに俺に話しかけようとしたのを気配で感じるも、無視。

 座りっぱなしというのは案外辛い。そして長くて辛い旅路は寝てやり過ごすに限る。

 「待ってください!」

 と、遠くからそんな声が聞こえてきた。

 「もう無理です!次の便に乗ってください!」

 船員の声。

 どうやら遅れてきた乗客がいるらしい。でも流石にドッキングが解除されたんだから乗れはしないだろう。

 時間を守るって大事だよなぁ。

 「やめてください!危ないですよ!」

 先ほどと同じ船員の悲鳴。

 「「「はーっ!」」」

 するとそんな気合いを入れた叫び声が聞こえ、次の瞬間、飛行船が一際大きく揺れた。

 「間に合ったぁ。」

 「ホント、危なかった。」

 「今度からはしっかりと時間を確認しないといけないわね。」

 ……君達、間に合ってないからな。完全に遅れていたぞ?

 「カイト、どこに座ろうか。」

 「自由席のようね。」

 「お、あそこは?オレ達3人とも座れるよ。」

 カ イ ト?

 いやいや、まさか。

 チラッとアイマスクを触らずに動かし、三人を盗み見る。

 見たことのある顔。間違いなく同郷の彼らだ。

 3人はそれぞれ同じ紺色のケープを着ていて、ユイは上等そうな刀を帯刀しているのに対し、カイトの剣とアイの槍はそこらの武具屋で売り叩かれているものに見える。

 気のせいだろうか?

 すぐにアイマスクを元に戻す。

 ……あいつらもファーレンに入学するのか。

 あれ?そういえば俺のとなりって席が3つ空いていた気が……。

 気配で3人がそこに座ったのが分かった。

 俺は安眠できるのかね?



 結果、寝れました。ええ。

 知らぬ内に疲れが溜まっていたのか、あれから数分したら意識が飛んでいた。

 窓の外を見れば、辺りは夜闇に包まれている。

 もう一眠りしようとすると、

 「あれ、おじさん?」

 カイトが声をかけてきた。

 見ると、やはりというか何というか、俺の隣には勇者三人組。俺の方からユイ、カイト、アイの順で座っている。

 取りあえず驚いた風を装おう。

 「おおっ!久しぶりだな。あと俺の名前はコテツだ。」

 おじさん言うな。

 「あ、オレはカイトで、向こうからユイとアイです。ほら、アイ、ユイ、コテツさんだって。」

 「あーっ、ティファニー王女を頭から落として起こしたおじさんじゃん。」

 「こんにちは。」

 アイ、記憶力良いな。

 あとおじさんじゃ……もういいや。

 「その格好からしてファーレンに入学するのか?でもいく必要なんてあるのか?お前らはゆう……ふごっ!」

 言い掛けると、突然、俺の口をユイの手が塞いだ。

 「ごめんなさい、それは秘密なの。」

 そしてそう囁いて、彼女は手を離してくれた。

 「……了解。」

 頷き、そう囁き返す。

 勇者様ってのは色々大変そうだ。

 「それで、コ、コテツさんは何をしに?」

 焦りを完全に消せないまま、カイトが聞いてきた。

 「俺は冒険者をやっていてな、連れがファーレンに入学するんだ。俺はその付き添いと、その連れがファーレンで勉強している間の仕事探しだな。」

 特段隠す必要は感じない。

 「コテツさんが元気で良かったね。」

 アイがカイトに笑いかけ、カイトは小さく頷いた。

 「お、心配してくれたのか。」

 「ええ、まぁ……似た境遇ですし。」

 良い奴じゃないか。だからモテるんだろうな。ケッ。

 そうして互いに軽く近況を報告しあっていると、

 「グロォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 突如、雄叫びが響き渡った。

 あまりの声量に飛行船そのものまで揺れている。

 「なんだ!?」

 「なんの音だ!?」

 「こら、あなた!」

 「俺の腹じゃない!」

 「そんな!?」

 「一体どこから聞こえてきているんだ!?」

 そしてあまりに突然の事に、船内の人々が慌て始めた。……のか?

 「おい、外を見ろ!!」

 誰かがそう叫んだのを合図に乗客全員が窓に駆け寄り、窓に張り付いて外を見る。

 かく言う俺も外へ目を向けたものの、そこには夜の綺麗な空が広がっているのみ。

 「何もないじゃないか!」

 そう怒鳴ると

 「馬鹿野郎、海だよ!」

 どこかから怒鳴り返された。

 言われた通り、海の方を見れば、そこには龍がいた。

 遥か下に見える海の大部分を覆う、長大な体は一見すると巨大な蛇のよう。その体の各所から薄い青色のヒレを生やし、頭部からはヒレつきの突起が3本突き出ていた。

 顔にある2つの金色の目は闇の中で爛々と輝き、全身の鱗は海水で濡れ、月光を反射して輝いている。

 開かれた口にビッシリと並ぶ牙は軽く触れるだけで貫かれるんじゃないかと思ってしまうほど。

 尻尾の先は見えず、体の殆どはとぐろを巻くようにして海の表面を波打っている。

 ……絡まらないのだろうか。

 「ぶ、文献で読んだことがある。あ、あれは古龍、リヴァイアサンだ。」

 「そんな、古龍、だなんて。」

 「もう、駄目だ。」

 その堂々とした姿は、ただそこに存在するだけで人を畏れさせていた。

 古龍?

 『古龍は神の領域に片足突っ込んでいる存在じゃ。足は無いがの。ぷっ。』

 ……平常運転だな。

 『とは言うても、神ではないから実体はある。じゃからお主の下半身の装備も作れたのじゃよ。頑張ればなんとかなるわい。』

 よし、なんとかなるなら、なんとかしよう。熊みたいに大きな音に驚いて逃げるなんてことはないかね?

 そう思いながら、取り敢えず飛行船の甲板に向かおうとする。

 「仕方ない、行こう。」

 「うん!」

 「そうね。」

 が、俺が動く前に勇者三人組が甲板へと走っていった。

 「アリシア、ネル、ルナ、ここで待っていてくれ。もし何かあったら自分の命を最優先にな。」

 「コテツは?」

 「今走っていったのは昔の知り合いでな。様子を見てくるだけだよ。」

 言い残し、俺は勇者三人組を追った。



 「アレをやる。ユイは魔法で援護。そして危険な攻撃の気配があったら警告してくれないかな?」

 「任せて!」

 「……分かったわ。」

 外に出るとカイトが今後の動きを指示していた。

 いつの間にかカイトとアイは上等そうな武器に得物を持ち替えていた。

 「よし、行くぞ!」

 「うん!」

 カイトとアイがリヴァイアサンに向かって飛び降りる。そして突如、ユイが……

 「……なさい、ごめんなさい、いつも、任せてしまって……ごめん、なさい……。」

 何故か急に謝りだした。

 「何謝っているんだ?」

 そう言いながら歩み寄ると、ユイはパッと立ち上がり、

 「なんでもないわ。」

 本当に何でもなかったように振る舞って眼下の古龍を睨み始めた。

 ま、本人がそう言うなら良いか。

 「何をしに来たのよ?」

 「いや、いくら勇者なんて言ったって、あんなの相手じゃ心配で。まあ、そんなことする必要なかったみたいだけどな。」

 「あら、優しいのね。」

 そう言いながらユイはリヴァイアサンに向けて次々と炎の槍を形成しては撃ち始めた。

 流石は勇者と言うべきか、一つ一つの威力がでかい。それらは眼下の古龍に当たるたび、派手な爆発を起こしてリヴァイアサンの巨体を揺らす。

 加えて下へと飛んでいる勇者達には一つもかすりさえしてしない、アリシアに是非とも見習わせたいものだ。

 手持ち無沙汰になった俺は、もしものときのためにリヴァイアサンの遥か上空、俺の目でギリギリ見えるぐらいの位置で一本の槍を形作った。

 「グルォォォ!」

 降り注ぐ槍の雨に辟易したか、リヴァイアサンが唸り声を上げ、同時に海から無数の水弾が打ち上がってユイの火の槍を迎撃し始める。

 赤と青が交錯し、激しい爆発が起こる中、それでもカイトとアイは無傷で古龍に距離を詰めていく。ユイの魔法精度の賜物だ。

 にしても、ここまで離れた場所から魔法を使うのは初めてだな。いつもより魔力を使うと覚悟してはいたけれども、うーむ、予想以上。

 空に槍を作成したことがバレないよう、腰に当てたままにしていた両手はいつの間にか拳を作り、ギリリと強く握り締めていた。

 と、リヴァイアサンの喉元に明るい青色の光が現れた。

 ブレスを放つつもりだ。

 狙いは当然、この飛行船。

 「おい、ブレスが来るぞ。」

 「ブレス?まぁ大丈夫よ。勇者って強いのよ?」

 隣のユイに警告するも、魔法放ち続ける彼女からは謎の返答がされただけ。

 防御手段でもあるのか?

 そう思った瞬間、カイトとアイの武器から純白の光が迸った。余りの眩しさに目が眩んだものの、上空の槍は何とか保つ。

 光がある程度収まり、再び下を見ると、カイト達の武器が明るい光を発する、輝く武器へと変わっていた。

 その効果なのか、カイト達の落下は止まり、そのまま足場のない空に留まっている。

 「あれは?」

 「……勇者専用の武器、聖武具よ。」

 「それがあれば大丈夫なのか?」

 リヴァイアサンの巨体に比べると眩く光る爪楊枝に程度にしか見えない。

 「見ていれば、……分かるわ。」

 ユイからの返答が鈍い。何だろう?

 「ユイ!」

 下から声が掛けられる。ユイはすぐさま魔法を放つのをやめ、

 「いつでもいいわ!」

 と返答。

 瞬間、カイトとアイの武器が更に光を増した。

 「っ!」

 同時にユイは胸を片手で押さえ、もう片方の手で甲板の縁に捕まる。

 「おい、どうした!?」

 「大丈夫、何でもないわ。はぁ……はぁ。」

 慌ててその体を支えてやろうとするも、首を振ったユイに片手で押し退けられる。

 何でもないとはどうしても思えん。

 と、急に辺りが明るくなった。聖武具の発している白とは違う、清々しい感じのする、爽やかな青い光。

 周囲の温度が下がった気がした。

 「グロォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 咆哮。

 焦って下を見れば、リヴァイアサンの巨大な口から極太の光線が吐き出されようとしていた。

 龍の周りの海水は発射されてもないのに既に薄氷に覆われており、漏れる冷気に飛行船の上にいる俺の手までがかじかみ始める。

 直撃すればまず間違いなく凍死。

 ……ユイを抱えて、アリシア達を引っ掴んで、何とか直撃前に脱出できるか!?

 そう思い、ユイの腕を取ろうとしたそのとき、

 「天断!」

 「聖光雨!」

 カイトが剣を降り下ろし、アイは槍を投げ付けた。

 それと同時に聖武具から一際眩しい光が迸り、ブレスの光をも呑み込んで、俺の視界がホワイトアウトした。

 咄嗟に目を閉じ、気配察知に意識を傾ける。

 「ああああああああっ!」

 すぐ隣のユイが悲痛の叫びを上げ、胸を押さえてうずくまってしまったのが分かった。

 何が起こっている!?

 「おい、ユイ!?」

 跪き、目を閉じたまま呼びかけるも返事は返って来ない。彼女は一度は漏れた叫び声を今は必死になって堪え、歯を食い縛って精一杯何かに耐えている。

 「おい、取り敢えずこれを噛め。」

 せめて歯が折れてしまわないよう、黒魔法で縄のような物を作り、ユイからはこちらが見えないので縄を彼女の歯に当ててやった。

 縄の存在に気づき、ユイがそれに思い切り噛み付く。

 「ううううう。」

 押し殺した呻き声が漏れでる。

 そのまま数秒、光が収まったところで目を開ければ辺りを真っ白に染めていた極光はすっかり収まってしまっていた。

 海の方を見ると、戦っていた本人達も回りが見えていなかったようで、リヴァイアサンも含めて皆の動きが固まっていた。

 カイトとアイの攻撃はリヴァイアサンのブレスを相殺するに留まったらしい。

 「ユイ!もう一発行くよ!大丈夫?」

 カイトがこちらを見上げる。

 無理に決まってるだろうが!

 「あ、後、一回ぐらいなら、大丈夫、よ!」

 俺の心の声に反し、ユイは自分が苦しんでいることを少しも表に出さずにそう言った。

 「よし、もう一回だアイ!」

 「ラジャー!」

 そう言うとカイト達は再びリヴァイアサンに向き直る。

 ユイはそれを確認すると膝からまたもや甲板に崩れ落ち、手を木製の足場に付いた。

 荒い息づかいがその苦しさを物語っている。

 「馬鹿野郎、もうフラフラじゃないか。」

 ユイにそう言うも、

 「コホッコホッ、ぜぇ……ぜぇ、だ、大丈夫よ。」

 彼女から百パーセント嘘だと分かる言葉が返ってきた。

 本当にどうなってるんだ……。

 『それはの……』

 いや、説明は後で良い。カイト達が聖剣の技を使う前にリヴァイアサンを何とかしないといけない。

 上空で作っておいた槍を遠隔操作のまま、できるだけ速くリヴァイアサンに向けて飛ばす。

 勇者達の聖武具が再び光を帯びはじめた。

 もっと速くだ。この一発で必ず決めないといけない。

 さらに魔力を使い、スピードを上げる。

 「それ、は!?」

 ユイがこちらを見て目を見開いている。

 ……忘れていた、この娘には魔力視のスキルがあったんだったっけ?

 失敗したなぁ、でもまぁ、やむを得ないか。

 「まだキツそうだぞ、無理するな。」

 取りあえずそう言っておく。

 起動を修正、槍に回転を加え、貫通力をさらに上げる。

 そして聖武具の光が更に強くなる直前、黒い直線が上空からリヴァイアサンの頭を貫いた。

 もちろん正体は俺の槍。あまりの速度に俺でも直線にしか見えなかったのだ。

 流石に神に片足突っ込んでいるからと、頭部を貫かれて無事な訳があるまい。

 ていうかそうであってくれないと俺にはもう打つ手がないぞ?

 そして、ありがたいことに頭部に穴の空いたリヴァイアサンの巨大な体躯は半ば凍った海へとゆっくりと倒れていった。その拍子に海の上の薄氷を粉々に砕き、大波を起こす。

 その様子を上空から見るカイト達は聖武具を構えたまま、何が起こったのか分からずに固まってしまっている。

 夜だし、黒い槍なんて見えないわな。

 突然、バン!と背後で扉が勢い良く開き、俺はその場で飛び上がった。

 「素晴らしい!」

 「ありがとう、助かったよ!」

 「お前ら凄いな!」

 「まさか古龍を倒すなんて!」

 飛行船の乗客達が甲板にぞろぞろと走って出てきて、空を登ってくる勇者二人を褒め称え始める。

 一方で迎えられたカイト達は浮かない顔のまま。

 そんな彼らの元に行き、俺はカイトの肩を叩いて笑った。

 「どうした浮かない顔して?凄かったじゃないか。」

 「あ、おじさん……リヴァイアサンを仕留めたのがオレ達じゃない気がするんです。」

 すると、カイトは予想通りの返答をしてくれた。

 ただ、そんなことより俺はおじさんじゃない。

 「うん、一回目はちゃんと技を当てたけど、二回目の技を放つ前に倒れちゃったもんね。」

 「はは、きっと一回目のダメージが後からじわっと効いたんだろうよ。」

 即席でそれらしい言い訳を。

 「そうかな?」

 「うんうん、きっとそうだよ!」

 何とか納得はしてもらえたらしい。

 アイと一緒になってそうだそうだと適当に言っていると、背後から肩を叩かれた。

 振り返れば、さっきまであれだけ苦しんでいたのが嘘であるかのように平然と立つユイの姿。

 「あなた、今、魔ほむぎゅっ。」

 俺の努力を水の泡にしようとした彼女の口を慌てて手で塞ぎ、

 「お前に秘密があるように俺にも秘密があるんだよ。分かるな?」

 素早くそう囁いた。

 コクコクと首を縦に振るユイ。了承いただけたようで何より。

 「ん?なになに?」

 「ああ、少し具合が悪そうだったからな。調子を聞いただけだ。」

 「あ、二発はやつぱり辛かったよね。ごめん。」

 「いえ、まだまだ余裕だから大丈夫よ。だからアオバ君は全力で戦って頂戴。」

 嘘つけ。

 「ああ、ありがとう。」

 ユイの言葉で、カイトは晴れやかな顔となって飛行船内に入っていく。

 残りの勇者も入ったのを確認し、俺はふと気になってリヴァイアサンの死体にもう一度目を向けた。

 ……そこにあったのはリヴァイアサンの頭の穴がゆっくりとではありながら、塞がっている光景だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ