背水
幸い、コロシアムに敵は一人もいなかった。
むしろここにいる限りだとヴリトラ教徒に今現在攻められているとは到底思えない。
そこの中心――月明かりに照らされた石リングの上にアリシアを寝かせ、念話でネルに回復魔法の使い手を誰でもいいから連れてくるよう頼もうとしたところで、ふと、神官服に空いた穴から覗く肌が無傷であることに気が付いた。
恐る恐る右手で触れてみるも、そこはやはり血で濡れているだけで、外傷はない。
……どうなってるんだ?
『たまたまあの槍が的確な場所を突いたようじゃ。言うたじゃろ、あの摘出方法は成功すれば無傷で済むと。』
じゃあ本当に、運が良かったんだな。
『そういうことじゃ。わしの加護のおかげじゃな。ふぉっふぉっ、幸運上昇の加護もこれで馬鹿にはできまい?』
そう、か。
片膝立ちのまま、左手でアリシアの金髪を優しく撫ぜる。
「コテツさん?え!?」
そしてその背中に右手を回し、俺は彼女を感情に任せて強く抱き締めた。
「良かった……本当に、良かった……!」
この子が死んだと思ったときに感じた無力、後悔、自分の中の大きな一部が失われたような虚無感は二度と味わいたくない。
「あぅ……苦、しいです。」
「もう少しだけ、こうさせてくれ。」
この声がまた聞けただけで自分がこんなにも喜ぶとは思わなかった。
しかし柔らかい金髪にさらに顔を押し付けようとしたところで、ぐいと強めに押し返され、俺は彼女の体に手を回したまま、少しだけ間に空間を開ける。
アリシアは頬を少し膨らませていた。
もう一度抱き締めたくなるのをなんとか我慢。
「私よりコテツさんの方が大変な事になってるんです。早く横になってください。」
「あ、ああ、分かった。」
胸をさらに押してくる彼女の言葉に素直に従い、俺はアリシアに押し倒されるような形でリングに背中を預けた。
「むぅ、傷を隠しちゃ駄目です。」
俺の横に座り直すと、アリシアが怒った表情のまま俺の腹に巻かれた黒いベルトをつつく。
貫かれた腹に鋭い痛みが走ったものの、彼女がまだ生きていてくれることが嬉しくてこの程度どうということはない。
「これは出血を一時的に止めてただけでな。」
「私がいるから大丈夫です。」
「はは、了解。」
笑い、魔法を解除。
するとじわじわと血が流れ出始めたのが感じられた。
「酷い……こんなお腹でどうしてまだ戦おうとしたんですか?またネルさんに怒られますよ?エスナ!そして……エクスキュアーッ!」
傷口に翳された手が柔らかな光を放ち、俺の腹部の痛みが引いていく。
「はは、すまんな。内緒にしていてくれ。」
「笑い事じゃ、ありません。……あれ?」
と、流血が収まったところで白魔法の輝きが途切れた。
「すぅっ……エクス、キュアーッ!」
首を傾げたアリシアが大きく息を吸ってもう一度魔法を行うも、光は一瞬輝いただけで終わる。
「変、ですね。うっ、けほっけほっ……。」
「はは、魔法はやっぱり……おい、どうした!?」
苦手か、とからかおうとしたところで、アリシアが自身の胸に拳を押し当ててうずくまり、俺は慌てて上体を起こす。
まだ痛む腹の傷ははもう一度腹巻きを作って抑え付ける。
その肩をそっと支えてやると、彼女が口元に当てていた手の平に赤色が見えた。
血!?
「ア、アリシア、ほら、ゆっくりと横になれ。」
「でも、コテツさんの、傷が……。」
「ここまでしてくれたら大丈夫だ。死にはしないさ。」
覆いかぶさるようにして彼女を寝かせ、その背を片手で支えながら片膝を立てて座り直す。
「けほっ、血が、まだ……」
「俺のことは心配するな。」
さらに咳き込み、手の赤を濃くする彼女の額に張り付いた髪を払ってやる。
「どこが痛い?我慢しなくていい。」
「胸の……中が熱いような、冷たいような、あと……チクチク、します。うぅ……。」
中?
「そ、そうか、じゃあ少し楽になったら教えてくれ。ファーレン城の治療室に行こう、な?」
『体の内が、じゃと?……そうか。』
爺さん!アリシアは無傷で済むんじゃなかったのか!?
『……これはヴリトラの魂片とは関係のない事じゃよ。……いや、関係はしておるか。』
どっちだ!はっきりしろ!
『魔欠病じゃ。』
魔欠……病?……確かティファニアにある爺さんの教会で、警備の聖騎士がなんか言ってたな。……いや、でもあれは魔力の弱い赤ん坊しか掛からないんだろ?
『そうじゃな。つまりその娘は赤子の頃よりずっとそれを患っておったんじゃよ。』
馬鹿言うな。今までそんな様子は……っ!
『気付いたか。その通り、アリシアにこれまではあって、今はない物はただ一つ。無限に魔素を吐き出すヴリトラの魂片のみじゃ。たまたま魔色適正に緑があったからこれまで生き延びて来れたんじゃろうな。』
安静にしていれば、大丈夫なんだよな?爺さんも言ってただろ?魔欠病を何とか生き延びれば、魔法は使えなくとも生きていけるって。
『それは魔力が十分に育ち、体内の魔素の調節を行うことのできるようになればという仮定の話じゃ。それに、言うておくが、まず魔欠病を生き延びた者などおらん。加えて魔欠病を患うほど弱い魔力を一人前まで育て上げることなど、生半可な努力では叶わぬわい。』
それでも、回復の魔法か魔術で……何か薬は……。
『魔欠病は魔法や魔術が効かぬから恐れられておることを忘れたか?いかなポーションとて一時凌ぎにすらならぬじゃろう。傷付いた内蔵を治癒したところで次の瞬間にまた別の傷が入るからの。』
じゃあどうしろって言うんだ!
「コテツさん、少し、楽になってきました。けほっけほっ、行きましょう。」
ッ!
「いや、今はここで休憩しよう。」
努めて穏やかな口調を保つ。
「そう、ですか?」
「その、なんだ……少し、考える時間が欲しいんだ。」
きょとんとした表情で見上げてくるアリシアに言うと、彼女は俺の右手に両手を伸ばし、弱い力で握ってきた。
「コテツさんも休憩するべきです。」
「はいはい。」
笑い、繋げられた手を彼女の腹に置く。
何か、ないか?
……白か赤か緑の魔色適正を持った奴にアリシアの中へ魔素を送ってもらうってのは?
『体の何処とも分からぬ場所に入った適性外の魔素を探し当て、外に出し、同時にそこへ等量の、その娘に適性のある魔素を入れ、尚且つその状態を保持する必要があるのじゃぞ?無理難題にも程があるわい。量を間違えればアリシアの体の内はより傷付くだけじゃしのう。ヴリトラの魂片のように莫大な量の魔素で強引に魔素の濃度を均一にするしか手はあるまい。』
魂片か……!それならこのコロシアムに埋まったやつが……あれは茶色か。
待てよ、安定で何の現象も起こさない無色の魔素なら何とかなるんじゃないか?それなら俺が魂片の代わりになれるんじゃないか?これならどうだ!?
『今言うた手法をお主は使えぬじゃろうが。加えてそもそも適性がないんじゃぞ?魔素がアリシアの体を傷付けるのではない、体そのものが拒絶反応を示し、壊れるのじゃ。お主が魔法の水を飲んだときと何ら変わりはないわい。』
くそっ!
「コテツ、さん?けほっ。」
歯軋りし、右手に拳を握ると、それを覆っていた柔らかい手が拳を解くように優しく擦り始めた。
「何でもない。大丈夫だ。」
精一杯の笑顔を貼り付けてみせる。
……アリシアを救うにはヴリトラを倒してその魂片を奪取するしかないってことか。
つまり、やるべきことは何ら変わってない訳だな?
『……まぁ、そう……じゃの。』
どうした?歯切れが悪いぞ?
ドガン!とコロシアムの外から大きな爆発音が聞こえ、そちらを見ると細い朱色の柱が天を突いていた。
「っ!?」
「大丈夫、大丈夫だ。」
言い聞かせ、震えたアリシアの体を優しく抱き寄せる。
……ヴリトラか?
『いいや、ラヴァルじゃよ。ツェネリはやられてしまいながらも、数多の魔法陣を用い、一人で戦っておる。』
……そうか。
よし、ならネルを呼んでアリシアを任せて、俺も加勢に行かないとな。
ヴリトラの魂片を一刻も早く手に入れないといけない。
『無理じゃ。』
あ?
『無理と言うたんじゃ。ラヴァルは戦っておるというても、ヴリトラの攻撃を何とか凌いでおるに過ぎぬ。たまに攻撃を命中させてはおるが、傷は全て即座に修復されておる。』
だから加勢に……!
『やめんか!魂片を6つも取り戻したヴリトラに神威の弱い聖剣などでは勝てぬわい!神性の強まった今のヴリトラの首をその聖剣で一太刀の元に斬り落としたとて殺せはせぬ!その他の急所も同じことじゃ!』
なら、神器を使って……。
『あ奴に届くのはお主の双剣のみじゃということを忘れたか!今更新しい武器に持ち替えて双剣と同じ域の技巧を実現できるとは本気で思っておるまい!?』
なら……どうすればアリシアを救える!?
『……諦めよ。』
なんだと!?
『諦めよ、と言ったんじゃ。』
ふざけるなッ!
「……コテツ、さん?怒って、ますか?」
「ああ、少し、な。ただ、お前にじゃないから、今はゆっくり休んでろ、な?」
怒りが顔に出ていたか、弱々しい声音で心配そうに聞いてきたアリシアの頭を撫でて笑いかける。
『良いか、わしは今からアリシアに話し掛け、神官としての位を聖女へと引き上げる。彼女がお主のために祈りを唱え始めたなら、お主はなるべく痛みを与えぬよう……アリシアの命を断て。』
……おい、ふざけるのも大概にしろよ?
『ふざけてなどおらん。それにより、わしはお主に本格的に力を貸すことができるようになる。ヴリトラを倒した勇者も使った手法じゃ。あのときは聖女一人の代わりに神官が十数人、自ら命を断ったがの。流石にアリシアに自害をさせるのは酷じゃから、お主にやれと……』
黙れ!
『ならばお主に何か案があるのかの?わしとてすすんで信徒に命を捧げさせたい訳ではないわい。じゃがヴリトラを倒すには他に道がないのじゃ。……それに、アリシアの命は2日と持たん。ならばすべきことはお主も分かるじゃろ?』
黙れっつったのが聞こえなかったかクソジジイ!
『なっ!?ええい、話にならん!』
なってたまるか!
「はぁぁ……ちくしょう。」
深くため息をつき、心を落ち着かせるついでに悪態をはく。
爺さんの提案はもちろん採用なんぞしない。ただ、聖双剣ではヴリトラをどうあっても殺せないという言葉は無視できない。
そして癪ながら、どの神器を使ったとしても、双剣に勝る動きをできないというのは的を射ている。
……となるとやはり、一早くラヴァルの加勢に行って、魔法陣を最大限に活用してヴリトラを倒す他ない。
アリシアのことはネルに頼むか。
イヤリングに右手を当てて、魔素を流す。
「ネル、聞こえるか?忙しいなら返事しなくていい、なるべく早くコロシアムに……。」
[……テツ!?]
返事は来た。
しかし、雑音が酷いな。こっちの言葉は正確に向こうに聞こえてるのか?
「ああ、コロシアムに今すぐ来てくれないか?」
[……え?な……て……の?]
やっぱり駄目か。
「アリシア、イヤリングを……ん?」
耳から手を離して目線を下ろせば、アリシアが目を閉じ、両手の指を固く組んでいる姿が見えた。
……ティファニアの礼拝堂で見た、爺さんに祈るポーズだ。
穏やかな顔で真摯に祈りを捧げる彼女の姿はしかし、やけに儚く、俺に嫌な予感を感じせた。
「アリシア。」
呼び掛け、軽く揺する。
「ん……。」
ゆっくりと目を開いて俺を視界に入れると、アリシアは少し眠気を感じさせる表情に柔らかな笑みを浮かべた。
「あ、コテツさん。今、凄いことが起きたんですよ。」
楽しそうにアリシアが言う。
「凄いこと?」
「はい、驚かないでくださいね?……ふふ、私、聖女になったんです!」
聞き返すと、アリシアは俺の最も恐れていたことを口にした。
「聖……女?」
「はい。今、アザゼル様の力が強く感じられたと思ったら、頭の中に直接話し掛けられたんです。本当にびっくりしました。」
あの野郎ッ!自分の計画を強行するつもりか!?
「そ、それよりアリシア、ネルをここに呼んでくれないか?俺のイヤリングは壊れてしまっててな。」
「む……分かりました。」
怒りをなるべく出さないようにしながら言うと、少し不機嫌な返事をして、アリシアは自身の耳に手を当てた。
どうやらせっかくの一大報告をサラッと流されたことが気に食わなかったらしい。申し訳ないと少しは思うものの、祝福する気持ちにはさらさらなれない。
……失ってたまるか。
アリシアが右耳に手を当てて目を閉じ、イヤリングでの会話に集中し始め、俺は彼女の左手をそっと握る。
「ネルさんは今からこっちに来るそうです。けほっ、どうか、しましたか?」
するとアリシアは目を開いて小さく首を傾げてみせた。
「……絶対にお前を死なせないからな。」
掴んだ手を握りしめ、ほとんど自分に言い聞かせるようにして言うも、アリシアの顔は翳り、少し伏せられた。
「すみません……私はもう、助からないそうです。アザゼル様がそうおっしゃいました。」
いつものような元気にあふれた笑顔ではなく、ただただ柔らかい微笑を浮かべ、続けた。
「でも、だからこそ、私の命を用いた祈りで、コテツさんに勝利をもたらすのだそうです。聖女にしてくださったのも、そのためで……」
何度か息切れしながら、アリシアが爺さんの立てた計画を笑みを絶やさないまま説明してくる。
自分の命を代償とすることに何の気負いも恐れもないと、そう、暗に伝えるように。
翡翠の瞳は微かに揺れていた。
「……俺がお前を刺すと思うのか?」
「う……でも、これから死んでいくだけの私が役に立つには、これぐらいしかできないんです。」
……なんだそれは。
「爺さんが、そう言ったのか。」
「え?爺、さん?」
「アザゼルがお前に、そんなくだらないことを言いやがったんだな?」
怒気を努めて抑えて言う。
「は、はい。……ふぇ!?」
アリシアが頷いた瞬間、俺は再び、より強い力で彼女の頭を自身の胸に押し付けた。
「あんな奴の言うことを聞くんじゃない。アリシア、お前は死なない。「でも……。」俺が死なせない。絶対にだ。」
言い掛けたアリシアの言葉を遮って言い、金色の髪に顔を埋める。
「良いな?」
「……はい。」
囁くと、アリシアは頭を僅かに縦に動かし、その両手を俺の腰に回した。
「ひくっ……。」
すると小さくしゃくり上げる声が聞こえてきた。
「アリシア?」
「何でも、ないです。……ちょっと安心したら、涙が、ぐす、出ちゃっただけで……ぅぅっ。」
「ったく、無理するな。」
苦笑し、腕の力を少し強めると、彼女は「子供扱いしないでください。」と照れたような声で呟いた。
「コテツ!アリシア!来たよ!」
と、気配の接近を感じたと思った直後、ネルがリングに上がってきた。
「え?わっ、すごい血!?待ってて、何かポーションを……」
彼女はリングの端から中心にいる俺達の側へ一瞬で来たかと思うと、アリシアの真っ赤な神官服や周囲の石の床に残る俺の血の跡を見て大いに慌て、マントの下から様々な色の液体の入った小瓶を石タイルの上に並べ始めた。
「……ポーションなら必要ない。大丈夫だ。それよりネル、アリシアのことを頼めるか?ここで安静にさせていて貰えれば良いんだ。」
「そ、そう?……あ、コテツ!ルナが!」
「ニーナを斬った犯人なんだろ?身をもって知ったよ。」
文字通り。
「……ニーナの奴、起きたのか?」
「え?うん。でも、身をもってって、どういう……?」
「後だ。今は時間が無い。ほら、左に座れ。」
「う、うん。」
戸惑いながらもネルは指示通りに座ってくれ、俺はアリシアの上半身を彼女へと寄り掛からせる。
「顔色が悪いけど、アリシアはどうしたの?」
「……魔欠病だ。」
「え!?いやいや、そんな訳……「悪いな、でも話すと長くなる。ふん!」……待って!その背中!全然治ってないよ!?」
気合いを入れて立ち上がり、ラヴァルの加勢に向かおうとするも、その前にネルの手が俺の左手を掴んだ。
「……いや、アリシアがここまで治してくれ……「さっさとポーションを飲んで!緑色のやつ!」あ、はい。」
……治してくれたから大丈夫だ。と俺が言い掛けたのに構わず、ネルは強い口調で言い切り、今さっき取り出して並べたっきりの小瓶へと俺を引っ張った。
反論できず、素直に従って屈み込み、緑の液体をまずは小瓶一本分、喉に流し込む。
「……うぇ。」
やはり不味い。
「全部飲んでよ?それでもボクの持ってる分だけでそんな重傷を治せるかは怪しいんだから。」
「はいはい。早く戦場に辿り着いても、足手まといになったら世話ないしな……。」
焦る自分に言い聞かせ、俺は瓶をもう一本飲み干した。
腹の傷口に大した違いは見られないものの、痛みが引いていっているのは分かる。
「ルナがいるなら、ボクも一緒に行くよ。恋人同士だったんだし、戦い難いでしょ?夏休みの後半、伊達にルナと切り合い続けてた訳じゃないし、足止めぐらいなら任せてよ。」
「頼もしいな。でも大丈夫だ。ルナへの対処はもう考えてある。」
言って、次の一本へ手を伸ばしたところで、世界が突如暗くなった。
「ギリャァァァァァァァァァァァァァァ!」
次いで轟いた脳を揺さぶられるような咆哮に反射的に両耳を抑えて周囲を見回せば、コロシアムの外に巨大な壁……いや、柱が見えた。
月を隠してしまったそれは、逆光もあって墨のように真っ黒。
ただ、その輪郭だけは銀に輝き、柱が黒い金属のような鱗で覆われている事を伝え、銀色の微かな凹凸の動きが、それの勢い良く天へ伸びていることを教えてくれた。
あれが、ヴリトラの本来の姿か。
リヴァイアサンと同じように手足や翼は存在せず、しかしその体にはヒレすらない。
代わりに頭部に7本もの鋭い角を後ろ向きに生やした、蛇のような体躯は他のどの古龍と比べるまでもなく、遥かに巨大だった。
俺の今いるコロシアムくらい、楽に飲み込めてしまうだろう。
勝てる……のか?
「ハッ、馬鹿野郎。」
さらに視線を上げ、古龍の巨躯が空の大部分を埋め尽した光景を目にしたことで弱気になりかけた俺自身を笑い飛ばし、俺は最後のポーションをグイと一気に飲み干した。
やはり不味い、ただ、目は覚めた。
「勝つんだろうが。」




