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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第七章:危険な職場
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再会

 お久しぶりです。

 作者は長いGWを目一杯満喫していました。皆様はいかがでしたか?新たな時代の幸先の良いスタートを切れましたか?

 さて、令和2年にはオリンピック、7年には大阪万博と、一桁台から大イベントが待っています。

 張り切っていきましょう。

 試合が終わり、観戦客達がガヤガヤ話しながらコロシアムを後にしていく。

 風を操って観客席に戻ったクラレスが彼らに混じって帰っていった後、ルナ達に戦利品を見せびらかすためにリングから出ようとしたところで、アルベルトの取り巻きの一人、金髪を三つ編みにした眼鏡の女学生が肩を怒らせて俺の前に立ちはだかった。

 どこからどう見ても、「見直しました!」などとは言ってくれそうにない。

 「それを、どうするつもりですか?」

 ほらやっぱり詰問口調。

 「これか?しばらく貸して貰う事になったんだよ。この勝負自体がそのための物だったって、お前もアルベルトに説明されただろ?……おっと!」

 彼女の指差した、俺に逆手で握られた神剣カラドボルグをヒョイと小さく掲げて見せ、聞き返し、その途端掴みかかって来た彼女を一歩退いて躱す。

 「か、返してください!それは先生の物です!」

 「うん、行動と言葉の順序が逆だよな?」

 盗人根性でもあるのかこいつは?

 「早く!」

 「パメラ、もう良い。言ったはずだ。元よりそういう取り決めであると。」

 半ば駄々をこねるように怒鳴ったその子、パメラを、ずぶ濡れのアルベルトが背後から声を掛けて諫めてくれた。

 「ですが!」

 しかしパメラは収まらない。

 「パメラ、何をしてらっしゃいますの?……あら、お久しぶりですわ、コテツ先生。見応えのある素晴らしい勝負でしたわ。」

 と、ここでもう一人、懐かしい顔がやってきた。

 パメラと同じ金髪を、1年前と同様、見事な縦巻きロールにした2年生、オリヴィア。

 俺はまだ先生じゃないんだけどな……。ま、クラレスは最後まで言い直さなかったし、もういいか。

 「おう、久しぶりだなオリヴィア。ありがとな。この子とは知り合いなのか?」

 挨拶を返し、目の前で不機嫌さを隠しもしない女学生を指差してそう聞くと、オリヴィアは頷き、端的に一言。

 「ええ、私の妹ですわ。」

 そう言って、厳しい視線をその妹に向け直した。

 なるほど、どことなく似てるような……。何にせよ、この子がカイダル卿のもう一人の娘って訳か。

 「……返事はまだですの?私にもう一度同じ質問をさせますの?」

 「わ、私はただ……。」

 「ただ?」

 「ただ、先生の剣を取り返そうと……。」

 「アルベルト先生があなたにそう頼まれましたか?」

 姉に詰問され、パメラがうっと言葉に詰まる。

 「……いいえ。」

 そして小さく首を振った。

 「これはお二方の間で決められたことですの。あなたが余計な口出しすることではありませんわ。」

 「……。」

 「パメラ、分かっていますの?」

 「(コクリ)」

 「よろしい、寮に戻りますわよ。……先生方、妹が失礼いたしましたわ。このような事を二度としないよう、きつく言い聞かせておきますわ。」

 意気消沈して歩いていく自身の妹を見送って、オリヴィアは俺とアルベルトにそう言って頭を下げた。

 「謝ることはない。私のためにしてくれた事だ。」

 「俺の方も気にしちゃいないよ。だからパメラをあんまり怒ってやるなよ?」

 アルベルトと二人してそう言うと、オリヴィアはもう一度深く頭を下げ、

 「あ、コテツ先生、もう一度教師をなさるおつもりですか?」

 上げて、そう聞いてきた。

 「ん?ああ、そうだ。……やっぱり嫌か?」

 「まさか!そのようなことはありませんわ。魔法科の3年生一同は皆、むしろコテツ先生の就任を心待ちにしております。」

 「そ、そうか!」

 恐る恐るした質問の答えは、クラレスに癒やされ、しかし未だ傷だらけだった俺の心を全快させるのに十分だった。

 「はい、ですから、どうか頑張ってください。」

 そう言ってにこやかに一礼し、パメラの去った方へ歩いていった。

 「……さて、本当に返してくれるのだろうな?」

 そうして周りに誰もいなくなったところでアルベルトが聞いてきた。その顔は、ひた隠しにしていたのだろう苦々しい感情を顕にしていた。

 「ああ、言ったろ?神に誓うって。俺の命がある限り、こいつは必ずお前の元に返す。」

 まぁ神に誓ったかどうかはあまり関係ないけれども。

 「そうか、いつまでに返すつもりだ?」

 「……俺の希望通りで良いのか?」

 「その程度は勝者の決めることだ。常識の範囲内であれば従おう。」

 あ、一応交渉はするのね。

 「ちょっと考えさせてくれ。」

 「待とう。」

 爺さん、ヴリトラはどれぐらいで襲って来ると思う?

 『そうじゃのう……ヴリトラが取り戻した魂片は、未だ2つじゃから……ん?あやつ、いつの間にやら黄色の魂片も取り戻しておるわい。』

 おい。

 『ま、まぁいずれにせよ、ファーレンに存在する白、茶色、無色を除いた1つ――つまり緑じゃな。――を探し出したならばすぐにでも襲い来るはずじゃ。』

 だから?

 『長くて2年……かの?』

 「そうだなぁ……5年でどうだ。」

 とりあえず爺さんの予想の二倍にエルフの森を開放するための一年を足した、長めの見積りを言ってみた。

 「それだけか?」

 「え?」

 厳しい顔をされると思いきや、返ってきたのは拍子抜けしたような表情。

 これには俺の方も拍子抜けしてしまい、右手をパーの形にして見せたまま、間抜けな声で聞き返してしまった。

 「5年のみで良いのか?」

 「あ、ああ。」

 アルベルトの確認に数度頷くと、彼はホッとしたように嘆息した。

 「そうか……20年、いや30年ならば従おうと思っていたが、5年、か。……もしや50年では無いのか?」

 チクショウ、もっと欲張れば良かった……。

 にしても50年て、そのとき俺は70後半だぞ?

 『ま、人間より短命な人種はおらんからの。感覚が違うんじゃ。』

 そうかい。

 「5年で十分だよ。はぁ……じゃ、これで交渉成立だな?」

 「う、うむ……もしや5世紀と聞き間違えたか?」

 どうしてさらに10倍した!?

 「はは、やっぱり10年にしようかな。」

 笑い、冗談でそう言うと、

 「それがいい。あまり短いと私が不安だ。」

 最終的にそういう事になった。



 「あ、やっと出てきました!お久しぶりですコテツさん!」

 「あ……もう、ボク達ずっと待ってたんだよ?何してたの?」

 コロシアムの出口で、アリシアとネルがそれぞれの荷物を片手に持って待っていた。

 いち早く俺に気付くなり走ってきたアリシアを体で受け止め、そっぽ向いたままのネルに手刀で謝る。

 「っと。はは、そいつはすまなかった。さっきまで今回の勝負の報酬について話し込んでたんだよ。……ていうか二人とも、リングに上がって来れば良かったろうに。」

 「私もそう思ったんですけど……ネルさんがもう少し時間が欲し「わー!何でもない!あ、そ、そう!あれは何となく眠かっただけだから!」……あ、そうだったんですか!」

 こらこらアリシア、あっさり納得するんじゃない。今のネルは絶対に何か誤魔化しただろうが。

 と、苦笑する俺の目の前にネルが歩いて移動、向いていた明後日の方向から、意を決するようにしてやっとこちらに目を向けた。

 「そ、それで、さ。……これ、どうかな?」

 そしてネルは、どうやらこの1年で生やしたらしいサイドテールを、指先でクルクルさせつつ、摘んだり引っ張ったりしながら聞いてきた。

 何が恥ずかしいのか、その顔は真っ赤っか。

 その宝石のような瞳を俺の目から逃げるようにあっちこっち動かすが、しかし俺の反応が気になるのか、時たまチラリとこちらに視線を移す。

 ……そして俺と目が合えば、サッとそれを逸らしてしまう。

 まず言っておくが、新しい髪型は当然似合っている。

 なので堂々としていれば良いものを、ここまで羞恥を顕にされると逆にこっちが恥ずかしくなるから困る。

 「……元がいいと何でも似合うな。」

 だから頰を掻き、意識して素っ気無く言ってやった。

 「そ、そう?……良かった。」

 そんな俺の葛藤も知らず、ネルは嬉しそうに口の端を僅かに上げ、体が前後にゆさゆさ揺れ始める。

 「ふふふ、私の言う通りにして間違いなかったですね!」

 「うん……そだね。」

 そしてアリシアの言葉にはにかみ、揺れたまま、自身の紅い尻尾を弄リ出した。

 「へぇ、アリシアが変えるように勧めたのか?」

 見下ろして聞けば、アリシアはバッとこちらを見上げ、元気よく頷く。

 「はい!ネルさんの髪は綺麗なので、切ってしまうのは勿体無いですから。」

 「はは、そうだな。でもそういうアリシアはあんまり変わってないんだな?可愛いまんまだ。」

 言って、長い金髪に手を乗せる。

 「あぅ……子供扱いしないでください。」

 しかし本人はそれが不服だったらしく、そうきっぱりと言って俺の手から逃げてしまった。

 数歩離れてからクルッとこちらに向き直り、

 「これでも私も大きくなったんですよ!ネルさんとももうほんの少ししか変わりません。」

 と抗議。

 ……背丈をまだ気にしてるのも、子供らしくて微笑ましい。

 「ボク、いつの間にか比べられてたんだ……。」

 聞いていたネルもこれには苦笑。

 「……ネルさん、少し良いですか?」

 「え?なに?……え?」

 と、アリシアが急に声を落とし、ネルの手を引っ張って俺の前に連れてきた。

 ネルと目が合ったものの、互いにこの状況を把握できていない事が分かっただけ。

 「……後ろを向いてください。」

 「え、後ろ?」

 かと思うと指示が飛び、ネルは訳も分からずその場でターン。

 「はい、そうしたらピシッと立ってくれますか?」

 「えっと、こうかな?」

 「完璧です。」

 そうしてネルに気を付けの姿勢をさせたアリシアは、こっそり動いて彼女と背中をそっと合わせる。そしてフンス、と鼻息荒く、いつも以上に胸を張らせた。

 「ど、どうですか、コテツさん?」

 なるほど、背比べか。

 ネルも何をされているのか分かったのだろう、ニヤニヤ笑っている。

 「まぁ確かに、あとほんの少しで追い付くな。」

 まさにどんぐりの背比べ。

 「ふふ、あともう少しでネルさんを抜いて見せますね!」

 しかしアリシアはすっかりご満悦のよう。

 「アハハ、まぁ頑張ってね。」

 「はい!」

 呆れの混じった笑みを浮かべてネルが言い、アリシアはハキハキとした返事をした。

 はたして女性の背が伸びるのは何歳までだったっけか。

 にしても背丈だけでここまで一喜一憂できるほど単純、もとい純粋とは。

 「……こりゃフェリルに近付かせる訳にはいかんな。」

 あの外面にコロッと騙されそうだ。

 「フェリル?確か新しいパーティーメンバーの人だったよね?弓矢の名手って。その人がどうかしたの?」

 独り言のつもりが、ネルにはしっかり聞き取られた。

 一方でアリシアは頭に乗せられたネルの手にそのまま撫でられ、くすぐったそうに笑っている。

 ……子供扱いは嫌なんじゃないのか?

 「コテツ?」

 「ん?ああ、ていうかお前ならあいつの欠点、ていうか癖は分かるだろ。」

 「え、ボクの知り合い?」

 あれ、分からないか?

 「……俗称、たらしエルフ。」

 セシルに習ったフェリルの別名を口にしてみた途端、ネルが苦虫を噛み潰したような顔になった。

 「うげ、こほん……あ……あの、フェリル、ね……。」

 言いたい事はしっかりと伝わってくれたらしい。しかしあまりにも嫌そうな顔をするもんだからフェリルの方が可哀想になってくる。

 「一応、良い奴だぞ?」

 「……そうかもね。」

 俺のフォローに力ない笑顔で頷くネル。……答えは何故か疑問形。

 「そんなに嫌か。」

 「コテツ、いくら優秀だからって、その人となりも何も考えずに誰かを仲間に引き込むのはやめた方がいいよ。ボクみたいな例は珍しいんだよ?」

 さらに聞けばアドバイスまでしてくれた。自分を暗に優秀で、人となりが良いと言い添えて。

 まぁ、優秀なのはその通りだし、他人の人となりを判断できるほど俺のそれは良くはないので文句はない。

 ただ……

 「お前は引き込まれたんじゃなくて自分から入りたがってただろうが。」

 ……ネルの場合は状況が違う。

 「へ!?ち、違うよ!あれはほら、コテツ達がトロルだとかゴブリンキングだとか、変な成果を上げたから、約束だから、ボクも仕方なく……。」

 「あんな口約束、簡単に突っぱねられるだろ、冗談だとか何とか適当に言って誤魔化して。」

 ていうか今、“変な”成果、って言ったか?あの頃のまだ心技体全てが未熟な俺にしては結構頑張ったんだぞ!?

 「そ、そうかもだけど………………そ、そう!だって将来有望そうだったし。」

 無意識にアリシアを撫でる手を速めながら長考し、ネルは何とか言い訳を捻り出す。

 ……しかし何故か一周回って俺の問を肯定する形の言い訳になっていた。

 「つまり入りたかったんだな?」

 そう端的に返せば本人もそのことに気付き、誤魔化し笑いをしたまま固まる。

 そしてそっと俺から目を逸らし、

 「……受付嬢ってさ、ただニコニコしてるだけに見えて色々大変なんだよ?だから凄く楽しそうにしてる冒険者を見てるとね、たまには羨ましいと思ったりもするんだよ。うん。特にボクなんかは元冒険者だしさ、色々思い出してきて……ね?」

 そして開き直りやがった。

 「俺とアリシアはそんなに楽しそうだったか?」

 「うん、初めて依頼を終えたときはみんな、同じような表情になるんだよ?……コテツ達はやった内容がなんかおかしかったけどさ。」

 「ふふ、私、頑張りましたから!」

 その時を思い出したのか、ネルの手元でアリシアが輝くような笑顔になる。

 なるほど。

 「……こんな表情か。」

 「そ。なんか羨ましくならない?」

 たしかに。

 「そうだな、誘ったタイミングが良かった訳だ。」

 何とも嬉しい偶然だ。

 「まぁね……逆にさ、コテツがボクを誘ったのはどうして?ただ単に優秀だからってだけじゃないでしょ?元Aと言ってもかなりのブランクがあったし。」

 「……なんとなく。」

 少し迷った末にそう言って、俺は二人の荷物を半ば奪い取るように持って、スタスタと歩き出す。

 「ふーん、そうなん……え?なんとなく!?」

 「そーだ、なんとなーく、な。ほら行くぞ、ルナ達もお前らに会いたくて待ってるはずだ。何か食いたいものは?」

 もっと別の答えを期待していたらしいネルがオウム返しで聞き返すのを背中に聞き、間延びした声で応じる。

 なんとなくはなんとなくだ。大した理由は無いからこそ、追及されるとこっちが困る。

 何せ元Aランクで優秀だと思ったからという――ネル曰く最もらしい理由、もとい事実が、本人に封じられてしまったのだから。

 ブランクがあったかどうかなんて知ってた訳が無いだろうに。

 「あ、待ってよ!まだ……「置いてくぞー。」あーもう!」

 無関係なアリシアには悪いと思いながら、俺は足を少し早めた。

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