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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第六章:ハイリスクハイリターンな職業
235/346

結果

 エルフ流の仲直り。それはなんの変哲もない、握手と軽いハグだった。

 「……じゃ、後でルナとニーナを迎えに来るよ。元気でな。」

 フェリルに引き続き、シーラの肩に回した腕を下ろし、彼女と握手していた手を離し、後顧の憂いを解消した俺は、笑顔で部屋を……

 「「「「「え?」」」」」

 「へ?」

 ……出ようとしたところで足を止めさせられた。

 「ど、どうした?」

 ドアノブに手を掛けたまま、首だけで元パーティーメンバー+αを振り返る。

 ……何か不味かったか?

 「ど、どうしたも何も、仲直りしたんでしょう?これであなたはパーティーに戻れるのよ?」

 ユイが少しつっかえながら、ぎこちない笑みを浮かべてそう言うと、同調するように周りも一様に頷く。

 「え、パーティーに戻る?」

 その言葉は完全に俺の意表を突き、俺は間抜けにもそのまま聞き返した。

 何をどうしたらそうなるのか分からない。が、しかしそれがここにいる皆の総意のよう。……ニーナは例外だ。あいつは常に何も考えてない。

 「だって貴方をパーティーから蹴った理由がただの勘違いだと分かったのよ?」

 「ああ、そうだな、俺も誤解が解けて嬉しいよ。」

 シーラの物言いに間違いはない。一体何が食い違ってるんだ?

 「……リーダー、パーティーの再結成が目的じゃないのなら、君はどうしてここに来たんだい?」

 「だから仲直りするためだろ?喧嘩別れってのはどうにも後腐れあり過ぎるしな。」

 何を当たり前のことを。

 馬鹿にしているのかと一瞬思うが、聞いてきたフェリルに嘲る気配は全くない。

 1対4で見つめ合い、そのまま沈黙。

 「……まさかとは思うけれど、このパーティーがもう用済みだと言いたいのかしら?」

 ドア枠に背を預け直し、頭を傾げ、俺が脳味噌をはてなで溢れ返らせていると、突如、ユイから不穏な声音が発された。

 その内容は――言い方に非常に難があるものの――まぁまぁ俺の考えていることに近い。

 「おいおい、用済みってのは言い過ぎ、というか言葉の選ばなさ過ぎだ。ったく、せっかく仲直りしたんだから、それをまた引き裂こうとするんじゃない。」

 やっと理解者が得られたと思って笑うが、しかしユイ以外は未だポカンとこちらを見たまま。

 「えっと……どういうことですか?」

 そっとルナが真下のユイに聞き、聞かれた彼女はビシッと俺を指差した。

 「要はあの人の説明不足です。」

 その言葉に元パーティーメンバー全員が異口同音に「あーなるほど。」と口にし、彼らの爛々と輝く目がこちらを睨んだ。

 ……え?


 Sランク昇格レイドでフェリル達とパーティーを結成した際に取り決めた約束は、俺達の神の武器集めに協力して貰う代わり、それらを俺が使い終わった後、故郷を奪還したいフェリル達に貸し与えること。

 「……そしてパーティー結成から約一年間の冒険者活動の末、俺達は神の武器を5つも手中に収めた訳だ。そうだろ?」

 「そうだね。じゃあつまり、君はもう目的を達したって言いたいのかい?」

 「いやいや、目的はこれから達成しにいくんだよ。」

 つい今さっきまでユイが縮こまっていた椅子に座らされ、目の前のが4対の厳しい目の主に向け、俺は――何を今更とは思うものの――自分の考えていることを、なるべく丁寧に、簡潔に説明している。

 ……当然、聖武具については伏せたまま。

 「……だから、用済みっていうよりは、第一段階突破って事だな。ちなみにこれから俺がファーレンに行って、ヴリトラの相手をするのが第二段階。そして最後、第三段階は、お前らの故郷の奪還だ。何か間違ってるか?」

 そして段階ごとに、指を一本ずつ立てて説明を終え、思い思いの姿勢で居並ぶ5人に同意を求めて聞き返した。

 「つまり、武器は集め終えたから、パーティーを組み直す必要がないってことかい?」

 「そう、その通り。」

 我が意を得たりとフェリルを指差し、未だ納得しきっていない周りへ続ける。

 「お前らだって目的も無しにファーレンまで連れ回されたくはないだろ?だからここからは俺の役回りだ。はは、ま、朗報を心待ちにしておいてくれ。ヴリトラ倒れたり!なんてのをな?」

 最後は大袈裟に、場を明るくするのも兼ね、拳なんて振り上げて見せて笑うが、そこでシーラに掌で制された。

 「ちょっと待って。ヴリトラとはファーレンで戦うつもりなの?」

 「ん?ああ、だからそう言ってる。」

 「他の場所じゃいけないの?むしろあそこは街がかなり発展してるから、巻き添えの被害が大きくならない?」

 「あー、それはだな……」

 チラとニーナに目配せ。

 少し間をおいて目線に気が付いた彼女が思案顔の末に頷いたのを確認し、俺はシーラにファーレンに隠されたヴリトラの魂片の事を話した。

 「……だから、ヴリトラはその時が来れば、必ずファーレンを襲いにくる。そしてそこを叩き潰すって訳だ。」

 「じゃあニーナちゃんも?」

 「うん、コテツを巻き込んだのは私だからね。一応これでも理事長だし。」

 シーラの問いに、胸を張って答えるニーナ。どうやら俺のいない間に、敬語なしで先輩エルフ達と話せるようになった模様。

 するとフェリルとシーラが顔を見合わせ、何やら話し込み始めた。二人はわざわざ距離を取ったため、言葉の断片すら聞き取れない。

 ……って、そろそろ帰らないとな。ケイにはすぐ戻るって言ってしまったし。

 「さて、これで納得してくれたか?待たせてるし、そろそろ行かせて貰うぞ?」

 「待たせてる?誰をですか?」

 再び退出しようとするも、ルナが俺のセリフの端を聞き咎めた。

 ……しまった。

 「え、あ、えーと、お前らがいない間に別のパーティーを組んでてな?ほら、流石に日銭は稼がなきゃならなかったし……。」

 『数年遊んで暮らせる程の大金を持っておるくせに。』

 ……そうだな、今の嘘は失敗だった。

 当然、俺の懐事情を知ってるルナの目が厳しくなる。

 「その方はファーレンに連れて行かれるのですか?」

 「ああ、できれば。」

 考えるとは言ってくれた。

 「……女性ですか?」

 「いいや、男だ。」

 女装趣味の、な。

 ていうかそこって重要か?

 「ふぅ、そうですか。」

 何故か怒らせていた肩を下ろし、ルナが数回頷いてみせる。納得してくれたかな?

 「よーし、なら……「待って。」……まぁだ何かあるのか?」

 今度こそ部屋を出ようとして、またもや止められた。

 呼び止めたのはユイ。

 「これ、使うでしょう?私はこれからあなたに付いて行けないもの、返すわ。」

 そう言って彼女は壁に立て掛けていた刀を取り上げ、俺へぐいと差し出す。

 心から申し訳なさそうな顔の彼女に、俺は笑いながら刀を押し返した。

 「くはは、いいさ、こいつはお前が持っておけ。」

 「え、でも……。」

 「大丈夫だ、スレインはどうやらヴリトラと戦うつもりらしいしな。もしも共闘する事になったとき、あるいは俺が負けてしまったとき、そいつはかなり有用になる。それに、どうせお前よりそいつを上手く扱えないさ。そうだろ?」

 勿論ヴリトラに負けたくはないけどな、と続けて笑えば、ユイは吊られるように微笑を浮かべ、首肯し、刀を大事そうにかき抱いてベッドに腰を落とした。

 彼女自身、刀に愛着が湧いていたのかもしれん。

 「こほん、さて……「ちょっと待って、私達、決めたわ。」……あ?」

 咳払いし、ドアを振り向き、そこで案の定、またもやお呼びが掛かった。

 声の主は先程まで何やらゴニョゴニョやってたシーラ。その隣のフェリル共々、何やら得意顔でこちらを見ている。

 「私もフェルもファーレンに行くわ。ヴリトラの相手をするのに力を貸してあげる。感謝してもくれても良いのよ?」

 どうして急に恩着せがましいんだこいつは。

 「万一ヴリトラにやられたら、故郷奪還なんてできないぞ?」

 そうなれば元も子もない。

 「ああ、危険なことは分かっているさ、けど、僕達はどこかの誰かとは違って、仲間思いなんだよ。」

 ……もしもこれが即答であれば、フェリルの皮肉に俺も心から感心し、勝手に彼らを置いていこうとした己の至らなさを反省しただろう。が、しかし、如何せん、これは二人で熟考した上の意見だ。

 「はぁ……どうせ裏があるんだろ?ほら聞かせろ、その心は?」

 「「ニナちゃんが心配だから。」」

 ドアに背中を預け直し、投げやりに二人に問いかけると、彼らは躊躇い一つ見せもせず、わざわざ声を揃えてそう言いやがった。

 「はは、だろうと思ったよ。ったく。」

 呆れ笑いをして頭を掻く。

 ニーナの方は「え?私!?」なんて驚いている。こいつらと言い、ラヴァルと言い、どうして皆してニーナを甘やかすかね……。

 「頼もしいでしょう?」

 「ああ、この上なく、な。……じゃ、また。」

 シーラのトドメの一言に対し、俺は手の平をひらひら振って見せ、別れを告げて……

 「そういえば、ファーレンに向かうってことは、君は僕達の知らない間にティファニアでの目標を達したんだよね?一体何を手に入れたんだい?」

 ……フェリルの声を聞こえないふりして部屋を飛び出し、走って逃げた。

 ま、どうせユイ、もしくはルナ辺りが、緘口令なんぞ知ったことかと聖武具盗難の件を懇切丁寧に説明してくれることだろう。

 『そうじゃの、そうして怒鳴られるのは分かっておるくせに何故逃げる?上手い言い逃れなんぞお主には無理じゃぞ?』

 ……何か考えつくさ、明日以降の俺が。

 

 「はぁ……何やってるんですか隊長さん。」

 「そりゃ俺のセリフだ、俺の。」

 宿屋を出、高級宿屋へ直線距離を移動しようと立ち並ぶ建物の間の細道に入ったところで、宿で休んでいる筈のケイが仕事服で待ち伏せていた。

 出会い頭でため息をつかれる理由が全く分からん。

 「お前、休んでるんじゃなかったのか?」

 「私もそのつもりでしたけど、暇だったので尾行させて貰いました。教会でもそうでしたけど、隊長さんは殺気が無い相手には鈍いですね?」

 「そうかい……ったく、迷惑な暇潰しだなおい。」

 呆れ半分に言い、そのまま目的の宿屋へ足を進める。……が、数歩歩いたところで、相方が付いて来ないことに気が付いた。

 「どうした?」

 振り返ればケイはさっきの位置から動いていない。

 もしや肩が痛むのか、と俺が近くへ歩いて行くと、彼はその場で首を横に振り、

 「私はファーレンには行きません。」

 そう、口にした。

 「……一応、理由を聞いていいか?」

 「隊長さんにこれ以上迷惑は掛けられません。」

 「俺は迷惑だなんて思っちゃいない。むしろ頼もしい仲間だよ、お前は。」

 「……ありがとう、ございます。……でも、隊長さんには彼らがいるじゃないですか。これからは彼らとも行動を共にしますよね?」

 目の前まで来た俺から隠れるようにフードを深く被り直しつつ、自身の背後、“ブレイブ”の泊まる宿がある方を指差してケイは続ける。

 「……そして私は彼らと隊長さんの仲違いの原因を作ったの張本人ですから。」

 「仲直りなら今さっき済ませてきた。そんなことは気にするなって。」

 ソフィアとしての姿を見せなければ早々バレる事はあるまい。

 「うっ……でも……正直、気まずいです。」

 少し詰まり、ケイはか細い声で呟く。

 俺があと一歩でも離れていれば、おそらくそれは聞き取れなかっただろう。

 何とか聞き取り、その理解に数秒。

 次第に笑いが込み上げ、ついに抑えきれなくなった。。

 「……くく、ははは!そうかそうか、それがお前の本音か。なぁるほど、くく……うん、そりゃあ仕方ないわな。」

 笑ってはいけないと分かってはいるが、彼の言い分は意外に過ぎる。まさかそんな事を気にしていたとは。

 「わ、笑うこと無いじゃないですか!」

 勢い良く顔を上げ、取り乱して強く言うケイ。

 その垣間見えたフードの中身はしかし、恥ずかしかったのだろう、少しだけ紅潮していた。

 「ははは、すまんすまん。」

 そう謝りつつ、サッと彼のフードを取り払えば、見開かれた緑の瞳の目と目が合う。

 「あ!ぅ……。」

 そこですかさず、顔を隠し直そうとするケイの頭に手を乗せ、彼がフードを被るのを断念させた俺は深呼吸して笑いを消した。

 つい笑ってしまったが、彼の言い分は無視できないし、解決も難しい。

 「……なぁ、どうしても気は変わらないか?」

 そのまま身を屈め、俺はケイと目を合わせ直し、聞き直した。

 「……ごめん、なさい。」

 そんな俺から目を逸らそうとしながらも出来ず、彼はかすれ声でそう答える。

 「そう、か……。肩はどうする?ずっと固めっ放しって訳にもいかないだろ?」

 「完治するまでギルドのあの治療部屋で療養させて貰うつもりです。」

 闇ギルドにいる、ファフニールの同好の士の元、か。ケイが面白半分に解剖されないことを祈っておこう。

 「……うん、よし、分かった。」

 「せっかく誘ってくれたのに、すみません。」

 「お前が気まずい思いをする事ぐらい、俺が察してやるべきだったんだ、謝る必要なんてないさ。……それよりケイ、何か食べたい物はあるか?」

 言って、口角を上げて見せる。

 「え?」

 「その姿からして、このまま立ち去るつもりだったんだろ?なに、引き留めようって訳じゃない。ただ、無事に仕事を終わらせたんだ、ちょっと楽しむぐらいはしても良いんじゃないか?せっかく良い宿屋を取ってくれたんだし。」

 「さっき、パーティーの二人と夕食を済ませてませんでしたか?」

 あのときからもう尾行してたのか……。

 「あの程度、軽く腹に入れたぐらいだ、まだまだ入る。で、この誘いなら受けてくれるのか?」

 「……はい、喜んで。」

 始終辛そうな表情だったケイは、そこでやっと、多少の照れはあったものの、心からの笑顔を見せてくれた。





 「宝玉の勇者ユイ、ただいまここに帰還致ししました!」

 片膝を付いて頭を垂れた姿勢、それでも周りに立つ貴族達全員に聞こえるくらい大きな声でユイがその台詞をはっきりと言って、

 「うむ、その身分を平民にやつしてまでの働き、私からも深く感謝しよう。長旅の疲れがあろう、他の勇者と積もる話もあるであろう、そなたの正式な勇者への復帰は明日となるが、今宵はこの城にて存分に休むが良い。部屋は前と変わっておらぬが、案内は必要か?」

 ティファとアーノルドさんの間の玉座に座った王様が、前もって決められていた台詞を、台本があったとは思えないほど立派に話した。

 「いいえ、お構い無く。……お心遣い、感謝いたします。」

 「うむ、そうか。では宝玉の勇者ユイよ、真にご苦労であった。」

 王様が言葉を終えると、ユイはスッと立ち上がって顔を上げ、王様に一礼。ティファのすぐ隣に立つオレに優しく微笑み掛けてから踵を返して颯爽と歩いていった。

 その先の大扉が両脇に立つ騎士たちによってゆっくりと開かれて、ユイは大広間を退出した。

 これでユイは宝玉の勇者として王様の密かな命令の遂行するために城を追放されたってことになった。

 あのヴリトラの魂片っていうのが取り出されたことは秘密にしてあるから、貴族達もそこを追求しない。

 「ふぅぅ。」

 それにしてもやっぱり慣れないなぁ、公的な場って。

 今さっきのユイみたいに格好良く振る舞えるようになりたいな。

 「ふふ、カイト様、まだ気を抜くには早いですよ?」

 と、ホッとしたのが聞こえてたみたいで、ティファがこっちを振り返ってそう言った。

 「あ、ごめんティファ、ニー、オレ、つい。」

 いけないいけない、ティファ呼びは二人きりのときだけだった。

 「いいえ、勇者様に側で守って欲しいと言ったのは私の我儘ですもの。こうして手まで握って頂いて、とても心穏やかでいられました。」

 片手で握っていたオレの手を両手で包んで、ティファが嬉しそうに笑う。

 オレの今いる位置にいた筈の、彼女の許嫁だった護衛騎士は、少し前に、実は邪龍ヴリトラ傘下の密偵だと発覚して、オレに倒されて今は牢屋の中だ。

 そしてその後、臨時の代わりの護衛として、ティファがオレを指名したからオレはここに立っている。

 「あはは、最初はいきなりでびっくりしたよ。でも相手はユイなんだから、そんなに警戒しなくて良いんじゃない?」

 謁見の間にユイが入ってくるなり手を掴んでくるんだから何事かと緊張した。

 ついこの間強盗が侵入する大事件があったから、少しのことで怖がるのも無理はないと思うし、一応握り返してあげたけど。

 「いいえ、警戒はこれからは特にする必要があります。(……あそこまで見せ付けたのに軽くあしらわれましたし……。)」

 「え?見せつけ……?」

 最後は小声で良く聞こえなかった。

 「いえ、何でもありません。」

 「そう?……あ、そうだ。ティファニー、オレはこれからユイのところに行かないといけないんだ。」

 そういえばこれをティファに言っておかないといけないんだった。この所機会がなくて言うのを忘れてた。

 「え?」

 「ごめん。でもユイが帰ってきたら二人で一緒に街を見て回ろうって約束してたんだ。ほら、オレ達ってティファニアにいる時は大体王城に籠もりっきりだからさ。」

 毒竜討伐の祝勝会ではユイに念押しまでされたから、彼女も結構楽しみにしてたんだと思う。

 「でも、カイト様は今は私の護衛で……だからそんな約束は……」

 「大丈夫、今夜の役目はちゃんとジーンに引き受けて貰ってるから、だから安心していいよ。」

 「……ジーンが?」

 「うん、快諾してくれたよ。」

 これから先もティファの護衛役は全部自分に任せて良いとまで言われた。そこまでさせるのは悪いから断ったけど。

 「くっ、そうです、か。……は!アイは!?アイにその話はされましたか?」

 「え?アイ?アイにはユイの方から話してたよ。……ごめん、ティファにも早く言うべきだったよね。」

 「それはそうですが、でもこれから気を付けて頂けたら構いません。……いえ、そうではなく、それよりもアイはなんと?」

 「えっと……良いよって。」

 オレはそのときの光景を思い出しながら言った。

 「え……それだけ?」

 「見てた限り、それだけだったよ?」

 何か変だった?

 「……なるほど、カイト様の前で説明したのですね、ユイは。」

 「え?うん。」

 オレの前で話すと何か変わるのかな?

 「……随分と強かになって帰ってきましたね。……強敵です。が、その手法、私も見習わせて貰いましょう。」

 「えっと……?」

 なんの事だろう?

 「あ、何でもありません、こちらの話です。それよりカイト様、その見物周り、私も同行できませんか?」

 「え、それは……」

 どうだろう、でもユイは二人でって、割と強めに言ってたし……。

 「フッ、そのくらいにしておけ妹よ。負けは素直に認めぬと見苦しいぞ?そして勇者カイトよ、そなたは勇者ユイを追うがいい。」

 「え、アーノルドさん?」

 「兄上!?」

 さっきまで王様と何か言葉を交していたアーノルドさんが急に会話に入ってきた。

 ……負けるって何のことだろ?

 「見物程度、良いではないか。それに、己の守るものをその目で見る良い機会だ。むしろ私達の方からそういう機会を作るべきであった。父上もそう思いませんか?」

 「ふむ、アーノルドの言い分には一理あるな。くく……加えて、余はこの所愛娘と久しく会話しておらぬなぁ。」

 聞かれた王様は、アーノルドさんの鷹揚に頷き、顎髭を撫でながらティファの方を目を細くする笑顔で見やった。

 「愛息子ではご不満で?」

 そこでアーノルドさんが芝居ががった声で言うと、王様はそれを鼻で笑う。

 「ふん、お前は口を開けば戦や政ばかりで可愛げがない。もう一人の息子は顔を見せぬまま数年が経つ不幸者。しかし一方で、我が愛娘はいつみてもいじらしい。ふふ、比べるべくもない。」

 「フッ、そういう事だ。行け、勇者カイトよ。“上手くやったな”と私が褒めていたと、勇者ユイに伝えておいてくれ。」

 よく分からないけど、伝えるだけ伝えておこう。

 「は、はい、分かりました。……えっと、それじゃあまたね、ティファニー。」

 「……。」

 ティファが小さく頷いたのを確認して、オレはユイを走って追った。

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