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 転職勇者   作者: まずは深呼吸
第六章:ハイリスクハイリターンな職業
230/346

裏表

 [ちょっと、話は終わっていないわよ?]

 「なんだ、ルナじゃ不満なのか?」

 宝物庫への道を阻む魔術錠の解錠にせっせと取り組んでくれているケイの後ろ、彼のために無色魔素を片手間でひたすら集めながら、俺はユイの言葉に首を傾げた。

 ルナ大好きっ子にとってこれ以上ない提案だろうに、一体何が不満なのかね?

 [そんなこと無いわよ。ルナさんがいれば怖いものなんてないわ。]

 あ、はい、そーですか。

 「そうかい、そりゃ良かったな。じゃ、くれぐれも仲良くやってくれ。」

 [だからまだ話があるって言ってるでしょう!]

 「はぁ……なんだよ。」

 まぁ正直、何を言いたいのか察しはついてる。

 [あなたも来て。]

 そら来た。

 「断る。」

 [私のためじゃないわ。これを機会にルナさんと……]

 「分かってるよ、その上で嫌だって言ってるんだ。」

 [ッ!どうして。]

 「どうしても何も、せっかく奇跡的に丸く事を収められたんだから、波風立てたくないだけだ。」

 [……それじゃあ、ルナさんが可哀想じゃない。]

 「可哀想?」

 何がどうしてそうなる?

 [そうよ、本人はあなたの出自を知っていて、あなたの失言が本当にただ知らなかっただけだって事も理解しているのよ?]

 「はあ……?」

 [ルナさんはあなたに責任が無いことを分かっているのよ?それなのに、あんな結果になってしまって……。]

 「えーと、つまりなんだ、俺に対して申し訳ないって?」

 [ええ。]

 「本人が?」

 もしかしてこの念話、ユイを介したルナとの会話なのか?

 [ええ、そんな風よ。]

 「風?」

 じゃあ伝言って訳じゃないのか。

 [そうよ、あれからずっと俯きがちで見てられないわ。たぶん、あなたがパーティから抜けたこと、ルナさん自身が責任を感じているのよ。]

 「責任、ねぇ。」

 ったく、これが本人相手だったら馬鹿野郎って一蹴してやるのに。

 「はぁ……そんなもの感じる必要は無いって伝えておいてくれ。俺は平気だから、別に何も気にしちゃいないから。ってな。」

 [嫌よ。]

 ほ?

 [あなたが自分で直接言いに来て。私とルナさんは二人で王城にいるわ。]

 「はぁ……そういう狙いか。まぁ何にせよ、少なくとも今日は無理だ。別件で忙しい。」

 [別件?]

 「おう。」

 「そう……。」

 「ああ。」

 [……はっ!まさかとは思うけれどあなた、その別件って、聖武具のことじゃないでしょうね!?]

 かーっ!鋭いなぁおい!?

 「……何の話だ?」

 [あなたが教えてくれたんじゃない。盗むつもりだって。]

 そうだな、確かに教えた。

 「いや……まぁ、確かにそう言いはしたけどな、王都に着いたのはついこの間だろ?そんな短時間で準備が整うと思うか?」

 [そう、ね……それならあなたは何を……[ユイ様、到着しました。これより我々と共に凱旋をしていただきます。お降りください。]え?あ、はい。]

 知らない男の畏まった声と、それに対するユイの返事を皮切りに、急に聞こえてくる雑音が増え始める。

 「着いたのか?」

 [え、ええ、そうみたい。……ルナさん、着きましたよ。[んぅ?……くぅー。]あ、もう起きてください。]

 「くはは、ユイ、たぶんルナはニット帽を被ってるだろ?それを取ってやればすぐに起きるぞ。」

 笑い、困っているらしいユイにアドバイス。

 つい自分の頬が緩むのが分かる。

 [え?まさかそんな事で……あ、本当に起きた……。えっとおはようございますルナさん。[はい、おはようございます。ん?ユイ、その手に持っている物は?]……そ、そんな事より、着きましたよ。早く降りましょう。ね?]

 久方ぶりのルナの声が聞こえてきた。

 が、起きたことでユイの抱き付き拘束から抜けたのだろう、その声はすぐに聞こえなくなる。

 [あの、ルナさん、できれば王城付いてきて貰えませんか?…………は、はい、ありがとうございます……本当に。]

 と、俺の提案通りにユイはルナに護衛をして貰えるようになった模様。

 そして、ということはつまり、ルナは毒竜戦で大した負傷もしてない訳か。

 龍の塔で、子供とは言え、竜の大群を相手にした事があるためあまり心配はしていなかったが、それでも、無事な様で良かった。

 [……それで、どうしても王城には来てくれないのかしら?]

 「ま、危なくなったら呼んでくれ。そうだ、外の音が聞こえるようにして、このまま念話は繋いでおいてくれないか?……そうすればすぐに異変に対応してやれる。」

 聞こえてきたユイの問いに答えるついでに、外の様子を盗聴させて貰えるよう要請。

 [そこまでしてくれるのなら素直に来なさいよ……。]

 「はは、俺の出張る必要が無い事を祈ってるよ。」

 [あなたは[ユイ?まだですか?]……あ、今行きます!]

 ガサゴソとおそらく荷物を整えて、タタッとユイの走る音。

 少しして、これまた懐かしいフェリルの口説き文句とシーラの怒声が聞こえてきたところ、どうやら俺の要望通りに念話を繋げておいてくれたよう。

 よし……これである程度は外の様子が把握できるな。

 「ケイ、討伐隊が王都に着いた。」

 耳から右手を離し、左手を乗せているケイにそう伝える。

 「そうですか……大丈夫です、もう少し、ですから。」

 するとかなり辛そうな返事が返ってきた。

 「……なぁ、そんなに急ぐ必要はないぞ?何ならここで一泊してから外に出たって良いんだから、な?」

 「いいえ、それはできません。」

 「どうして?」

 「……この洞窟への入り口が、開いたままです。早々、バレはしないと思いますが、一泊する間には確実に、露見するでしょう。」

 「開けっ放しにして来たのか!?」

 嘘だろおい。

 「内側からだと、閉められないんです。」

 「ああ……なるほど。じゃあ仕方ないか。ごめんな、邪魔して。」

 「あは、これくらい、邪魔だなんてちっとも思いませんよ……くッ!?」

 なんでここでそんなに不安を煽るかね!?

 「お、おい……まさか……。」

 「いえ、失敗した訳じゃありませんよ?ただ……」

 「ただ?」

 先を続けるよう促す。

 「……この扉を開けると、大音量の音が鳴る仕掛けがありました。……この魔法陣による音なら、ほぼ間違いなく外に聞こえます。」

 「時間を掛けても避けられないのか?」

 「ええ……仕掛けというよりは、そういう仕組み、ですね。あは、困っちゃいましたね。」

 底抜けな笑みがケイの少女と見紛う顔に浮かべられるが、明らかに空元気によるもの。

 本人もそれは分かっているのだろう、笑顔はすぐに翳ってしまい、真剣な表情で頭を悩ませ始めた。

 「……何か、こういうときのための便利道具とか無いのか?」

 「あったら使います。」

 そりゃそうだ。

 くそ、もうすぐ目の前にあるってのに。

 「……ケイ、音の発生源は?」

 「この壁の中の魔法陣ですよ。」

 音源を黒魔法の膜で何重にも覆ってしまうのは無理、と。

 「隊長さん。」

 「ん?何か思い付いたか?」

 「実を言うとこの扉の魔法陣は、今の私達の悩みの種である物以外は、トラップも含めて全部解錠、ないし解除してあります。」

 「ほう。……えーと、凄いじゃないか!」

 急に言われ、理解が追い付かず、俺は取り敢えずケイ褒めた。

 「え!?あ、そうですか?……そうですか。ありがとうございます。……でも言いたい事はそうじゃありません。」

 するとあからさまに照れてみせ、しかしすぐに表情を引き締めるケイ。

 どうも今のは唐突な自慢って訳じゃなかったらしい。

 「……この扉、隊長さんなら壊せませんか?殴ったり蹴ったりで。」

 そして改めて相方の口飛び出てきたのはなんとびっくり脳筋手法。

 ただ、できるような気がしないでもない。黒銀とスケルトンで身体能力を限界まで増強して、手袋の硬度も上げた状態で連続で殴り続ければあるいは……

 「あ、もちろん静かにお願いします。」

 「アホか。」

 半ば吹き出しながら側頭部を突付くと、ケイが冗談ですよ、と言って力なく笑う。

 下手な冗談を交えないといけないぐらいにはこいつも精神的にやられているらしい。

 ……もう、いっそ音が鳴るのは承知でここを抜けて、目的の聖武具を手に入れたらほとぼりが覚めるまでこの洞窟で隠れ潜むか?

 無茶だが、案外……あ、そうだ!

 おい爺さん、ルナの実家でヴリトラ勢が使っていた、外に音も光も漏らさない魔法陣を……

 『無理じゃな、あれは指定されたドーム状の内部から音を漏らさない魔法陣じゃ。』

 ……アリシアが開発した小型化は使えないのか?

 『ふむ、そういえばもう開発されておったんじゃったの。よし、良いじゃろう。』

 ん?開発されていたから何なんだ?

 『人の世に無い技術はなるべく使わない事がルールじゃからの。ヴリトラと直接関係する物は見逃されるが、他はそうも行かん。……まぁ要はあのアリシアのおかげでこれよりお主の要望通りの魔法陣を伝えられるというだけじゃ。……ではわしの指示通りにせい。』

 ふーん?了解、じゃ、爺さんへの感謝はアリシアに取っておくか。

 『取っておかんでええじゃろ!』

 はいはい、いつもありがとな。

 ケイの肩越しに、目の前の壁に掌を押し付ける。

 「え?隊長さん?何を?」

 「あー、できれば目を閉じていてくれないか?」

 「……ということは“魔剣”を使うんですね。分かりました。」

 「すまんな。」

 もう見られたって大して支障は無い気がするが、何にせよ、理解が早くて助かるのには違いない。

 「いえ、慣れてますから。」

 頭の中に響く司令に従い、魔法陣を形作っていく。

 まずは円を……[(ドゥゥンッ!)]……なんだぁ!?

 急に耳に飛び込んできた腹に響く重低音に、心臓が跳ね、黒い円は星型に……どうして寄りによってそうなったかは知らんが、とにかく、やり直しだ。

 [王国騎士隊第十師団隊長、ハラール・フォン・ルーラッハ![副団長、セイン・フォン・ルーラッハ!][同じく副団長、カアラ・フォン・ラーカーン!][勇者、アイ・ヒイラギ!][……あ、えと、Sランク冒険者、ユイ・サクラ!]以下第十師団総勢96名!毒竜の巣窟掃討の任を果たし、ただいま帰還したこと、報告いたします!!]

 [うむ、報告、しかと聞いた。諸君らの成功、余は心より喜ばしく思う。以後も存分に励め。]

 [[[[はっ!]]]][……は!]

 五者二様返事をすると、管弦による音楽が流れ始める。

 ユイの奴、明らかに慣れてないのに頑張ってるなぁ。

 「くく……。」

 含み笑いしながら、魔法陣の作成を、続けていく。

 「どうかしましたか?」

 「いやいや、何でもない何でもない。」

 さて、宝物庫はこの扉を開けてすぐそこか?それともこの先にまだ道が続いているのか?

 『すぐそこじゃよ。……ああ、言わずとも良い、安心せい、聖武具も真正面に置かれておる。』

 そりゃ良かった、探す手間が省ける。

 『そうじゃの、もう探し物は懲り懲りじゃ。』

 迷路と探し物は違うと思うぞ?

 『違わんわい。』

 そうかぁ?

 [ユイ!久し振りだね!]

 [アオバ君!?ご、ごめんなさい、こんな変な格好で……。]

 [そんなこと無いよ、凄く格好いいと思うよ。]

 [か、格好いい?そ、そう……ありがとう。]

 おいカイトォッ!そこは“それでも可愛いよ”とか、もうちょい他に言葉があるだろうが!

 『お主は魔法陣に集中せんかッ!』

 あ、はい。

 クラゲみたいになった魔法陣『それを魔法陣とは呼ばんわ!』……みたいな模様を、修正。

 魔法陣に意識は向けるが、どうしたって2割くらいは念話に向いてしまうのを誰が責められよう。

 [あれ、そういえばおじさんは?ユイはあの人と一緒のパーティーで冒険者をしてるって聞いたけど?]

 あの野郎……。

 「……俺はおじさんじゃない……。」

 「た、隊長さん、怖いですから後ろからいきなり殺気を発さないでください。」

 「不可抗力だ。」

 「えぇ……。」

 カイトの――俺に対して失礼極まりない――質問へ、ユイは歯に物が挟まったように返答。

 [……あの人は、ちょっと今は別行動中なのよ。たぶん……いいえ、きっと来てくれるわ。……ね?]

 最後の一言は俺へ言ったのだろう、声はギリギリ聞き取れるぐらいの大きさでしかなかった。

 まぁ、もう来てるな。うん。

 [あっカイト!ここに……いたんだ。]

 [あ、アイ、今回はごめんね、オレが勝手に途中でいなくなって……。]

 [え?う、ううん、全然気にしてないよ?それより何の話?]

 [ああほら、おじさんが来てないかなって思ってさ。]

 [ふーん?そうなんだ。へー。そんなことよりカイト、聞いて?あのね、聖武具のことなんだけど……。]

 “聖武具”それはあからさまにユイを弾いてしまう話題だ。これにカイトは気付いていないようだが、はてさて対するユイはどうするか。

 [あ!そうよアオバ君、私達が毒竜討伐に行っていたとき、あなたは何していたのかしら?もちろん教えてくれるわよね?まさかサボった訳じゃないでしょう?]

 ……くっ、よりによってその話題を使うか。ちょっと不味いぞ。

 『……うむ、そんなところで良かろう。完成じゃ。』

 と、壁面に、何が何やら分からない複雑怪奇な――当然ながら黒い――紋様が、俺の手の平を中心に出来上がった。

 ヴリトラの魂片を取り出す際に使った魔法陣を初めて作ったときとは違い、かなりスムーズに完成した気がする。魔素の扱いが上達してきた証かね?

 『そうじゃのう、あのときのようにわしの鬱憤が堪らぬから助かるわい。』

 ……お互い様だ。

 『なんじゃと!?』

 「ケイ、もう目を開けていいぞ。」

 「はい……これも、魔剣ですか?便利ですね。」

 目の前の幾何学模様に少しだけ目を見張り、こちらを見上げて聞いてきた。

 もうこれが魔剣でも黒魔法でも何ら違いが無い気がする。

 「ああ、重宝してるよ。で、この魔法陣はこの扉から出る音を全て遮断してくれる。つまり、分かるな?」

 「ええ、気兼ねなくやらせて貰います。」

 首肯して、ケイが俺の手の平のすぐ隣にみずからのそれを置き、俺は作った魔法陣に魔素を流し始めた。

 [嘘!?盗まれたの!?]

 [……だからアオバ君はこっちに来れなかったのね。あの……その人のせいで。]

 謁見の間方では、カイトが事のあらましをちょうど話し終えたところのよう。

 ユイの恨みがこっちに向いている気がするのは気のせいではあるまい。

 [そう、オレ達がいないところを見計らって教会を襲ったんだと思う。もし討伐隊に戻る途中でこの子を偶然見付けてなかったら、盗まれたのはたぶん聖矢だけじゃすまなかったよ。]

 [[この子?]]

 [あれ?今ここに……あ、ほら、後ろに隠れてないで出ておいで。]

 [……うん。……あの、こんにちは。]

 [こんにちは、私はアイだよ。]

 [こんにちは。ふふ、可愛いわね、お名前はなんて言うのかしら?]

 [ノーラ。]

 [そう、ノーラちゃんはその盗んだ犯人の顔は見たのかしら。]

 あのやろ、裏付けを取ろうしてるな!?

 「隊長さん、できました。もう良いですよ。」

 「お、そうか。音はもう止んだのか?」

 「ええ、錠が完全に開くまで成り続ける物でしたから。」

 「そうかい、はは、やったな。お疲れさん。」

 右手を壁から離し、労いながらケイの頭を左手でくしゃくしゃに撫でてやる。

 「うあ……もう、まだですよ。ここから目的の物を取って、帰らないといけないんですから。」

 彼のたしなめる言葉に、そりゃそうだ、と笑いながら頷いたところで、目の前の壁の煉瓦がまるで生きているかのように凸凹と動き始めた。

 蠢き波打つあまりに激しいその変容に、ゴゴゴと重い音が洞窟全体を響き渡る。

 ……これ、外に聞こえないか?

 確認のため、イヤリングへと意識を向ける。

 [……な人達だった。]

 「片方は背の低い赤黒いマントで短剣使い、そしてもう片方は背の高い、真っ黒なフード付きの上着を着た、徒手空拳の男ね。」

 [ごめんなさい、顔はよく見えなかったの。でも、凄く、怖かったの。]

 [謝らなくていいわ。怖かったわね。今は目撃者としてアオバ君が護衛してあげているのかしら?]

 [うん、当たり。今日はノーラの護衛と、聖武具のパトロールのついでにお城の案内をしてあげてたんだ。]

 へぇ、そうなのか。

 [え?アオバ君、聖武具は教会にあるんじゃなかったかしら?]

 [一度盗まれたから、もっと安全な王城に移されたんだよ。[そう……そういうこと、ね……。]そういえばノーラ、背格好の似た人はいなかった?]

 確実に気付いたよな、俺が王城にいること、今完全にバレたよな!?

 「隊長さん、行きますよ。」

 「ん?ああ、今行く。」

 目の前、ポッカリと口を開けた穴に片足を踏み込み、そこにカーテンのように掛かったスレイン王国旗を持ち上げているケイに返し、その後を追って歩き出す。

 [……んむぅーーー、ううん。見てないよ?]

 [そっかぁ。]

 [でもま、カイトがいれば大丈夫っしょ!私も一緒に、“勇者二人で”守ってあげるね!]

 [ゆーしゃ様が二人?]

 [そ、よろしくね。]

 [わぁーい!ゆーしゃ様が二人!……んん?]

 [どうかしたのかしら?]

 [……ううん、床がちょっと揺れた気がしたの。]

 突如、浮遊感が俺を襲った。

 「どぶぁっ!?」

 穴の小さな段差に気付かず、転けてしまったのだ。

 ……ノーラの勘、というか感覚が鋭い、鋭すぎるよう。

 「はぁ……何してるんですか隊長さん。ほら、すぐそこですよ。」

 「イテテテ……すまんな、よいしょ。」

 立ち上がり見てみれば、そこにはファフニールの宝物庫を思わせる金銀財宝の山、ではなく、博物館の一室と思わせるショールーム。

 というより、博物館の展示室そのものと言った方が良いだろう。

 前と左右の綺麗に透き通ったガラスを挟んだ向こうには、細かな金細工があしらわれた、豪華かつ頑丈そうな低めの棚。

 そこには拳程の大きさといくらでも眺めていられそうな輝きを合わせ持った宝石が、それぞれを映えさせる銀の台座に一つずつ。

 また、壁には黒白の素朴なものから色彩豊かなものまで様々な絵画が並べられており、しかし残念ながらその良さは俺には伝わらない。強いて言うなら額縁が豪華だ。……うん、きっとお高い事だろう。

 俺にとってはむしろ宝石の合間に陳列された、笛や宝剣などの小物に好奇心が湧いてくる。棚の一番下に所狭しと敷き詰められた何十本もの巻物なんて、特に気になるところである。

 が、しかし、当然、俺が用があるのは上記のどれでもなく、教会にあったときと全く同じように聖水に浸された2種、3本の武器である。

 二つ一組の、純白の聖なる双剣、龍泉と太阿は、区別のためなのか、持ち手の先からそれぞれ青と赤の紐を垂らし、短めの柄から伸びる刀身は俺の愛用の二振りと違い、両刃で、反りがなく真っ直ぐなもの。

 片手で持つには少し大きめに見える、これまた真っ白な金槌、ウコンバサラは、天辺からはハルバードを思わせる小さな角が生やしている。

 欲しいのは双剣だけだが、この際だ、ウコンバサラもいただこう。

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